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    まどろみ

    @mdrmnmr00

    皆様の七灰作品が見たいので書いてます

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    まどろみ

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    七灰。恋シリーズ。迷走する恋より少し前の話

    #七灰

    紙の中の恋灰原雄は人がいい。人望も厚く、頼み事は余程のことがない限り断らない。
    「デッサンのモデルになってほしいの」
    普段接点のないクラスメイトからの提案にも灰原は即時に快諾した。
    「いつやるのかな?」
    「今日の放課後はどう?」
    「OK」

    ***

    「というわけだから、今日は一緒に帰れないんだ」
    「私も見学したいのですが」
    「集中力切れるから二人きりでしたいの」
    「!?」
    「別に灰原くん狙ってるわけじゃないからね!?安心してね!?」
    「………」
    「七海」
    「…わかりました」

    ***

    放課後。なんとか七海を説き伏せて教室で二人になった。
    「それじゃあ、今から始めるから、楽なポーズになって、動かないで」
    「うん」
    椅子に座り足を開き股の間に両手を置く。動かないで、と言われて安定できるイメージがこれだった。クラスメイトはあでやかな動きで鉛筆を走らせる。書き上げては破り、書き上げては破りを繰り返し、画用紙が教室の中を舞っていた。
    「あれ?そういえば、美術部じゃなかったよね」
    「うん。入ってたけど辞めちゃった」
    「そうなの?こんなに上手なのに」
    舞い散った後の画用紙に視線だけ移すと、自分では絶対に描けない立派な絵がそこにはあった。
    「私なんて全然ダメ。…灰原くんは知らないかもしれないけど、この学校、昔は普通科と美術科が分かれてたくらいには美術に力を入れてたんだよ。十組だけ校舎が違うのもその名残」
    「そうなんだ、知らなかった!」
    「だからさ、私もなんだけど、美術科に進みたいけど親の反対で普通科の学校しか行けないって子が結構いるんだ。それでレベル高いんだよね、美術部」
    話ながらもまったく緩まない手の動きに感心してしまう。
    「好きだけど、それが天職になるかとか、才能があるかってのは別の話じゃない?中学まではあった自信も、高校でポッキリ折れちゃって」
    自分もそうだ。人が好きで、人を救える呪術師は天職だと思っていた。だけど、呪術界で生き残るには才能も技量も…運もなかった。
    「だけどやっぱり描きたいなって衝動が来る時があって、今回は灰原くんだったんだよね」
    「諦めなくてもいいんじゃないかな」
    固くなった声に彼女の手が止まる。その隙を狙って畳みかけた。
    「仕事にできなくても、才能がなくても、好きなら諦めなくていいと思う。…ありきたりかもしれないけど」
    「そっか…」
    再開された手の動きは、下校時間の放送がかかるまで止まることはなかった。

    ***

    一番上手くいったのはこれ、とデッサンのうち一枚だけ手渡された。
    「灰原くんもさ、好きなら好きだってちゃんと言わなきゃ」
    「え?」
    「七海くんのこと。私知ってるよ。七海くんはしょっちゅう口に出してるけど、灰原くんは頷いたり話を逸らしたりではっきりと言葉で伝えてないってこと」
    意識していたわけではないが確かにそうだ。指摘されるまで気づかなかった。
    「私も絵が好きなことを隠さないからさ、灰原くんも気持ちをまっすぐ伝えてみなよ」

    ***
    美術部に画材を返しに行くから、と教室から出た所で彼女と別れ一人歩いていると、下駄箱で声をかけられた。
    「雄」
    「七海?」
    待っててくれたの?と聞くと静かに頷いた。
    「くれるんだろう?雄が描かれたデッサン」
    「…一枚しかないのに?」
    たくさん描いていたはずだが、他人にあげられるのは自信のあるものだけという彼女のこだわりで一枚しか貰えなかった。
    「邪魔しなかったんだから、それくらいのご褒美は貰ってもいいだろう?」
    手を広げたままの七海に仕方なしに鞄にしまっていた紙を渡す。両手で受け取りまじまじと眺めにっこりと笑うから何の文句もつけようがなかった。
    「好きだよ」
    思わずこぼれた言葉に七海がこちらを向く。彼女の言葉に背中を押され灰原は想いを口にした。
    「昔の七海ももちろんだけど、今の七海も。はっきりと好意を伝えてくれるとことか、欲を隠さないところとか、意外と子供っぽいところとか、そういうの含めて全部、大好き」
    それを聞いた七海の反応は予想通りのものだった。
    「…やっと、やっと言ってくれた」
    「待たせてごめんね」
    「いいんだ。ただ、これだけは約束してほしい」
    「なに?」
    「二度と、私の前からいなくならないで」
    本当に覚えていないの?というのはきっと愚問だろう。思い出したら教えてくれるはず。そういう人だ、彼は。
    「もちろん。だから、僕だけ見ててね?」
    力のない僕らと、呪霊のいない世界で。いつまでも幸せに暮らしました。そんな未来を夢見ながら七海の肩に頭をもたげた。


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