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    とうこ

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    とうこ

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    さとるが教員免許持ってないっぽいことを知る前に書いた、教育実習する七五。

    #七五
    seventy-five

    .

     悟は、オイオイオイオイオーイ、といつもの調子で喚いた。柄の悪いサングラスのまま、いつもの制服のままで、しかし立っている場所は教卓だ。
     教室には椅子と机は一組だけだ。三年生の教室は、現在は七海しかいない。だからそこに座っているのはもちろん七海だ。
     教室の後ろで腕を組み偉そうに立っているのは夜蛾だ。資料の挟まったバインダーを脇に挟み、胡乱に教室を監視している。
    「このメンツで教育実習? ありえねー!」
     四年になればほとんど学校にも通わず各々が適した任務に着く。実践実習、いわゆるオンザジョブだ。
     悟は、高専の教員を希望した。高専とはいえ高校教師の資格を取得しなくてはならない上に通常の大学よりも短期間にならざるを得ないため、なかなかハードな単位取得スケジュールだったが着々とこなし、現在は教育実習という大詰め。特殊な高等専門学校の教師になるのだからと教育実習に配属される高校はもちろん、呪術高専。
     そして現在、実習一日目だ。
    「何これ、どういう状況? 生徒が七海一人で、夜蛾センが採点すんの? これが一週間? やーってらんねー! ナニゴッコだっつーの!」
     悟は大声を上げた。夜蛾は黙ってファイルに何かを書き込んだ。
     七海は後ろを振り返り、それから前を向いた。
    「……やりましょう、五条『先生』」
     悟はビックリして目を瞠った。先生と呼ばれたのは今が初めてだけれども、七海が嫌がらず、シニカルな発言もせず、やろうとペンを持ったことに驚いた。
     七海はどちらかと言うと、現状を悲観的に分析するほうだ。悲観的というのは正しくないかもしれない。人間の認知能力は実に都合よくできているもので、誰しもが多少自分の都合の良いように現実を解釈して生きている。事実そのままを認識できる能力と、その個人の鬱傾向は、相関関係が見られるとの研究報告もある。つまり事実そのままを認識してしまうというのは、一種病的でもあるわけだ。こうなってくると、歪んだ認識で正常とされている人間と、正しい認識で鬱とされている人間の、どちらが真に正常なのかは不明になってくるわけだが、とにかく七海は「事実を事実のままに認識しようとする」リアリストである上にペシミストでもある。
     悟は、どちらかと言えば自分より七海のほうが嫌がると思っていた。実際のところ、相手が七海じゃなければ悟はふざけておバカなノリで押し通したり、逆に全く知らない相手なら一から十を卒なく演じることもできた。七海だから、率先して嫌がった。
    「五条先生、先生になりたいんでしょう? やりましょう」
     七海は真剣な顔で、教卓の悟の顔を見上げる。悟は、頷いた。
    「……実習でやる授業内容って決まってるんだけどさ、オマエもうわかってるやつだし、巻きでやる。時間後半使って、オマエの就活対策やろっか」
    「……それは助かります」
     悟は授業を始める。
     勉強を教えるのは初めてじゃない。特に苦労もせず高校、大学学部程度の内容なら頭に入るから、同級生や後輩に個人的に教えることは度々あった。
     けれど、教卓に立って、声を張り上げて、シナリオ通りに授業を進めるのは初めてだ。普段の悟ならシナリオなど無視するようなところだけれども、それで減点され実習の単位を落とすのは、七海の本意ではないことは、もう悟にもよくわかっている。
     数学は特に得意だ。得意なだけに、感覚で解いてしまうことも多く、説明をハショリ過ぎとクレームがつくことがよくあった。だからなるべく丁寧に講釈する。回りくどいか冗長かと時に気にしつつ、七海を相手に、初めての教師としての授業をする。
    「……ここまでで、何か質問は?」
     悟がそう、教師ぶって尋ねてみたら、どうせ反応なんてしないだろうとみていた七海が手を挙げた。
    「はい、七海クン」
    「先生、声が震えてませんか?」
    「……ウッセーバカ」
     七海は少し、おかしそうに、口元をゆるめている。それで悟は、授業を始めてからやっとまともに七海の顔を見たことに自分で気づいた。いつの間にか緊張していた肩の力を解いて、
    「じゃあ続き、はじめるけど」
     と、授業を再開する。一週間、乗り切っていけそうだと思う。
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