診断メーカー七五 目が覚めた。わずかな光量のはずのベッドライトがやけに眩しい。静まり返った寝室、締め切った空気は、空調の可動音でかすかに振動している。
高層階は思ったよりも下界の音が上がってくる。窓の外、遠くから、車の走行音が響く。
ベッドの中はとても平和に、すうすうと呼吸音だ。全裸の恋人はリネンにくるまって、長い体を長々と横たえ伸ばしている。気持ちよさそうに眠る顔はまるで子供のように無邪気だ。目を閉じていても存在感の強い白いまつ毛は、だいだい色の薄あかりの中で、ほおの上に影を作っている。それも長い。
ほおの上、影をたどる。ほくろひとつ、しみひとつない新雪のような肌だ。子供のように柔らかそうな皮膚は、触ってみると、実際期待通りに柔らかい。
七海は触れていた手で、白い頭を抱き寄せる。乱れた髪を軽く手櫛ですいて整える。髪に顔を埋める。寝直そうと体の力を抜き、深く深く、深呼吸をする。吐いた息で、銀糸はそよそよと揺らぎ、七海の鼻をくすぐった。
すると、抱き寄せた腕の中からひそやかな笑い声が漏れ聞こえた。
「……すっげーためいき」
「起こしてしまいましたか」
もぞもぞと身じろぎし、頭を上げ、顔を上げ、七海の目を見つけるとにんまり笑う。焦点が合わないほど近くに顔を寄せてくる。じっと、まっすぐに見つめてくる青い瞳の中、照明が点々と星のように輝いている。
「なに考えてたの?」
「いえ、何も」
「あーんなでっかいため息、ついといて?」
「ほんとに、何も考えてませんでしたよ」
納得していない顔の、額に額をくっつける。瞳に映る七海の顔は、微笑んでいる。
「ただ、温かいなと。もう一度寝ようと。それだけです」
目の前の瞳がさっと閉じられた。そして、寝起きと思えぬ素早さで、七海の唇を唇で掠めていった。
「あっそ。じゃあ寝なおそ。僕、七海とくっついて寝るの好き。なんかいくらでも寝れちゃうんだよね。てことで、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
シーツの間に手をさまよわせて手を見つける。筋張って大きな、けれど指が長くまっすぐで綺麗な手は、爪の先までぬるく温まっている。温かい。
相変わらず呼吸のたびにくすぐってくる髪の毛は、そよそよと柔らかい。ほおを撫でてくる感触は、ふわふわととても優しい。
温かい、優しい。七海は胸の中がいっぱいに膨らむような気持ちで、幸せのうちに眠りに入る。
七海も、この人とくっついて眠るのが大好きだ。だってこんなにも暖かくて優しい。