うれし涙 休日。敦と太宰は二人で海の見える公園へ来ていた。辺りを吹く潮風はもう夏のように涼やかではなく、少し肌寒いくらいである。
公園の入口近く。自販機を見つけた敦は笑うと、指で示した。
「太宰さん、喉渇きません? 何か飲みます?」
「ああ、私は珈琲がいいな。温かいやつ」
敦は「はい!」と満面の笑顔で頷いて、自販機へと駆け寄っていく。それを横目で見ながら、太宰は近くのベンチへ腰を下ろす。背もたれに寄りかかると、周囲を見渡した。公園は恋人たちや家族連れの姿で賑わっている。奥の方にはクレープのキッチンカーも来ていて、年若い女性たちの黄色い声が響いている。
――たまにはこういうのもいいなぁ。
太宰の頭に去来するのは過去に関係を持ったことがある女性たち。彼女らとデートでこんな処に来る、なんて無かったことだ。
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