偲ぶ煙 太宰さんから時々、煙草の匂いがする。特に天気の良い日。
けれど吸っているところを見たことがない。別に隠れて吸うこともないだろうし、なんでだろうと思っていた。
ある日。僕は国木田さんから、太宰さんを連れ戻してくるように云われた。異能を使って嗅覚を強化すると、息を吸い込んだ。匂いを辿って街を駆け抜ける。
たどり着くのは街外れの、海が見える墓地。
「……やあ、敦君」
振り返らずに答える太宰さんは、まだ新しい墓の前で煙草を吸っていた。嗚呼、こういうことだったのか、と僕は合点がいった。太宰さんが煙草を吸うのは、故人を偲んでのことだったのだと。
今の太宰さんは近づきがたい雰囲気をしている。僕はその背後からおそるおそる足を踏み出した。
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