「白石。お前、曲のチョイス古いなぁ」
タバコを蒸かしながらオサムはケラケラと笑う。白石はそこでようやく自分が鼻歌を口ずさんでいたことに気がついた。
これは何の曲だっただろうか。曲名が思い出せない。
それもそのはずだった。これは、種ヶ島がよく口笛を吹いていた曲。ジャージの袖の片方をゆらゆらと垂らして、よくこの曲を口ずさんでいたのだ。流行りものを好んでいそうな彼が口ずさんでいたそれが、古いと言われるような曲だったとは思わなかった。もう会わなくなってしまってから知る彼の新たな一面に、白石は一抹の寂しさを覚える。
種ヶ島とは世界大会以来会っていない。時間をとって会うような機会はなく、連絡もそう頻繁に取り合っているわけでもなかった。彼が言っていた今度白石に似合う服を見繕ってやるという口約束も、覚えているのはきっと白石だけだろう。
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