fog 煙のような人だ、と思った。そこにいるはずなのに掴めなくて、どんな姿にも見えて、その実何もない。
「……あれ、ふわっち、煙草吸うんだ」
事務所の中にある喫煙室に、見知った銀髪を見かけたから扉を開けた。煙草特有の顔を顰めたくなるような匂いが肺を満たす。
「あきな、わ、ちょっと待って」
ふわっちは少し慌てたように右手に持っていた吸いかけの煙草の火を消そうとする。
「あ、いいよ別に。最後まで吸ってもろて」
「いやなんか、明那吸わんのに申し訳ないやん」
そうは言いつつも火を消そうとしていた手は止まり、とん、と灰を落とした。あからさまに残ってる分がもったいないとか、そういう表情だ。
「いいって。ふわっちの煙草吸ってるのレアだから見させてよ」
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