良いこと悪いこと 人一人分の重さが、僕の背中を床に縫い付けている。勿論、フローリングに直で、なんてことはなく、毛足の長いカーペットがしゃんと床との間に挟まっていた。
重さだって、やろうと思えば難なく跳ね除けられる。でもそれをしないのは、可愛い僕の恵が珍しく自分からくっついてきたからだ。我が物顔で僕の上に寝そべって、何やら心臓の音を聞いているようにも見えなくもない。
「恵。これ、僕でも分かるけどさ」
ふく、と思わず小さく笑った。眠気が勝っているのか表情の乏しい恵が、僅かに首を横に傾ける。僕の上で。
「悪いことだよね。キスも、セックスも」
僕の言葉に、少し遅れて恵が身じろいだ。ドライヤーで乾かしたばかりの髪は、流石の恵でも毛先が少し丸っこい。
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