船の縁に手をついているヽ蔵に忍び寄り、いざ抱きつこうとしたところでかいは動きを止めた。ぴたりと首に当てられた刀。いつの間にか振り返ったヽ蔵が刀を抜いていた。
「何だ、かいか」
はあーとこれ見よがしに吐かれたため息と共に刀が引かれ、かいもほっと息を吐く。本気で斬られるとは思っていなかったが、それでもやはりいやなものだ。
「脅かすなよ」
「だからって抜かなくても良いだろ」
集落の中なんだし、と首を傾げるとヽ蔵が呆れたように肩を竦めた。
「そういうことじゃねえだろ」
「じゃ何だよ」
わかんねえ、と顔をしかめるかいをまじまじと見つめ、ヽ蔵はもう良いと吐き捨ててまたかいに背を向けて縁に肘を付いた。いそいそと近づいて今度こそ後ろから薄い背中に抱きつく。細い腰に腕を回し、ぎゅっと抱きしめながら肩に顎を載せる。頬擦りはさすがに怒られるかな、などと考えているかいの頭がわしわしと撫でられた。
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