月と小鳥 鶺鴒が領主邸にやってきてから四度目の春。十四になった月の君は元服し、奥原月衡の名を授かり、正式に四代目領主となった。
鶺鴒も侍女としての生活がすっかり板についた。基本的に全ての仕事は、他の侍女達と分担しあって行っていたが、ただ一人、どの侍女も寄り付きたがらない人物がいた。そのため、その人物の身の回りの世話が鶺鴒の主な仕事になっていた。鶺鴒はその日も、いつものようにその人物の部屋へ洗濯物を届けに行った。
「宵衡さま。洗濯物をお持ち致しました。」
部屋の前で鶺鴒が言うと、中で衣擦れの音がして、その人物は軽く咳き込みながら言った。
「……鶺鴒か。入れ。」
鶺鴒は頭を低くしながら襖を開けて中に入った。その人物、領主の長子で月衡の腹違いの兄である宵衡は、薄暗い部屋の隅にある褥の中で書を読んでいた。月衡より九つ年上の宵衡は生まれつき身体が弱く、いつも部屋に篭もりきりだった。領主邸の中で宵衡は忌み者として遠ざけられていたため、その身の回りの世話をする鶺鴒も鶯姫に気に入られてはいるものの、近頃は少しばかり遠巻きにされることが多かった。
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