トビがタカを生む 中 辺りに響く蝉の声。風に吹かれてざわめく木々。頭上でリンと鳴る風鈴の音。はしゃぐ子供達の声。縁側に腰を下ろした男に、女は盆に乗った冷たい麦茶を差し出し微笑んだ。
「あなた、麦茶はいかが?」
男はありがとうと言って麦茶の入ったグラスを受け取ると一口飲んで、中庭で遊び回る子供達を眺めながら女に尋ねた。
「なあ、俺はお前を幸せにしてやれてるか?」
ざあと音を立てて風が吹き、風鈴がチリンと鳴った。女は目を閉じて微笑んだ。
「ええもちろん。あなたと娘達のおかげでとても幸せだわ。」
「そうか…」
男は中庭に視線を向けたまま麦茶をまた一口飲んだ。
「あなたは…?あなたは今、幸せ?」
女は男に尋ねた。しかし男は何も言わずに、ただ子供達を見ていた。
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