「今宵、私の元へ来い」
里の子らと戯れていたモクマの元に訪れたフウガはそれだけを告げ、踵を返し城へと帰っていった。
「フウガ様、帰っちゃった」
「フウガ様、怖い顔してた」
蹴り駒を手に握ったまま、少年と少女がぽつりぽつりと呟く。
モクマは肩を落とし、深くため息をついた。
「あれは無いと思うぞ、フウガ。子供たちもお前が急に里に来て驚いてたぞ」
刺身に味噌汁、大盛りの飯。膳に並んだ豪華な食事に箸をつけながら、モクマはフウガへ非難めいた視線を送る。
「貴様が城に居付かず里にすぐ降りるからであろう」
「……」
味噌汁を啜りながら冷ややかに告げたフウガのその言葉にモクマは反論ができなかった。
本来城仕えの忍びとして城に詰めていなければいけないと分かっていながら、モクマは度々城を抜け出し里へ降り、子供たちと遊び女性との話に花を咲かせていた。任から大きく外れたその行動は、モクマの方に非がある自覚はあった。
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