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    片思い

    さばみこ

    TRAINING習作、パスタを作って食べるイチナンの話です。
    ※8の冒頭軸で、原作通り一番が片思いからの失恋をしている設定です。ナンバの片思いです。この後二人は両思いになりますがそういう設定の単発の短編です。
    絶望パスタ 料理が作られていく音を聞きながら、一番は自宅のソファで項垂れていた。はあ、ともう何度目になるか分からないため息が部屋に響く。
    「元気出せよ、もう聞き飽きたろうけど……」
     台所にいるナンバが振り返り声を掛けてくる。
    「だってよ、既読すらつかねえ……」
    「ああもう、ため息やめろ、幸せが逃げるって」
     同じくもう何度目になるか分からないやり取りを繰り返してから一番はソファに深く座り直す。そんな様子を見届けると、ナンバは肩をすくめてまた料理に取り掛かった。彼の立つ台所からは何やらおいしそうな香りが漂いだしていて、一番は久しぶりに腹が減るのを感じた。
     一世一代の大告白でヘマをやってから、一番はもう何週間も落ち込んでいた。食事が喉を通らなくなったことなんか滅多にないのに、この頃は食欲も落ちている。そんな姿を見かねたのか、ナンバが飯でもどうだと誘ってきたのが昨日の夜のことだった。親友相手に見栄を張ることもないので、正直にあまり外に出かける気にならないと打ち明けると、それなら家まで作りに行くと返事が返ってきた。持つべきものは世話好きの親友だと感謝しながら、一番は素直に甘えることにした。
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    さばみこ

    PAST七章前夜のイチナンが寝る前にお喋りする話
    両思いになる前、🌸→☂️の無自覚片思い
    場面的には五章の後編です。ぷらいべったーに載せていたものです。
    七章前夜 狭い部屋には寝息が響いている。湿気た平たい布団の上で一番は何度目かの寝返りを打った。今日はなかなか眠気がやってこない。それが気合なのか緊張なのか、何かの予感のせいなのか考えあぐねて一番は大きく息を吐いた。
     明日は大きな計画が待っている。潜りこんでいるバイト先、横濱貿易公司の倉庫で一仕事をする日だった。監視の目を盗んで偽札を一枚持ち帰る、決して悪くない作戦のはずだ。うまくいけば明日が最後のバイトになるだろう。『やっと肉体労働とおさらばだ』と嬉しげだった誰かを思い出し、一番は軽く笑う。少し肩の力が抜けた気がした。
     ぐう、と大きないびきが聞こえて一番は横を向く。部屋の隅では足立が気持ちよさそうに眠っていた。そういえば皆で夜食を食べたとき、紗栄子にずいぶん飲まされていたなと思い出す。飲ませた当人も今はすこやかな寝息を立てている。初めは二人暮らしの仮住まいのつもりだったこの部屋に、今はパズルのように布団を四つ敷き詰めている。窮屈だが居心地は悪くなかった。ずいぶん賑やかになったなと思うと、一番の胸は温もった。
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