Jeff
DOODLEお題:「火傷」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/12/16
Stigma「本当にいいのか」
ラーハルトが三たび、相棒に尋ねる。
「いいから。やってくれ」
汚れた枕に顔を埋めて、ヒュンケルがけだるく答える。
汗の伝う白いうなじには、真新しい痣と噛み痕が残る。
狂おしい情事の後、本来なら幸福な眠りに落ちているはずだったのに。
明らかに、こんな重大な決断を下すタイミングではないのに。
……いや、違うか。むしろ今を逃せば、一生こんな機会はないだろう。
「早く」
ヒュンケルが自分で確認できない位置だ。
首の後ろ。
銀髪の生え際に残って消えない不思議な火傷の痕のことを、うっかり口に出したのは軽率だった。
即座に、ヒュンケルの瞳が燃えた。
跳ね起きるなり素早く荷物を漁って、ロン・ベルクが餞別にくれた短剣を引っ張り出した。
1584ラーハルトが三たび、相棒に尋ねる。
「いいから。やってくれ」
汚れた枕に顔を埋めて、ヒュンケルがけだるく答える。
汗の伝う白いうなじには、真新しい痣と噛み痕が残る。
狂おしい情事の後、本来なら幸福な眠りに落ちているはずだったのに。
明らかに、こんな重大な決断を下すタイミングではないのに。
……いや、違うか。むしろ今を逃せば、一生こんな機会はないだろう。
「早く」
ヒュンケルが自分で確認できない位置だ。
首の後ろ。
銀髪の生え際に残って消えない不思議な火傷の痕のことを、うっかり口に出したのは軽率だった。
即座に、ヒュンケルの瞳が燃えた。
跳ね起きるなり素早く荷物を漁って、ロン・ベルクが餞別にくれた短剣を引っ張り出した。
Jeff
DOODLEお題:「間違い」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/11/27
Buddy「ラーハルト、見てくれ」
呼ばれた男は、ダイニングに向かって「今行く」と呟いた。
最後のクロケットにパン粉をまぶし、鍋の火加減を調節する。
「女王、D6、僧正を取る。どう思う?」
ヒュンケルの弾んだ声に、ラーハルトは粉だらけの両手を振りつつキッチンから出てきた。
「相手のレベルは?」
エプロンで両手を拭い、魔法のチェス盤を覗き込む。
「階級はビギナー、妖魔系モンスター、対戦履歴は十五回」
と、ヒュンケルがステータスを読み上げる。
「嘘だな」
ざっと棋譜を見返して、ラーハルトが鼻を鳴らす。
「少なくともベテランだ」
地上から魔界までを接続する、チェスプレイヤーの通信魔法。
1359呼ばれた男は、ダイニングに向かって「今行く」と呟いた。
最後のクロケットにパン粉をまぶし、鍋の火加減を調節する。
「女王、D6、僧正を取る。どう思う?」
ヒュンケルの弾んだ声に、ラーハルトは粉だらけの両手を振りつつキッチンから出てきた。
「相手のレベルは?」
エプロンで両手を拭い、魔法のチェス盤を覗き込む。
「階級はビギナー、妖魔系モンスター、対戦履歴は十五回」
と、ヒュンケルがステータスを読み上げる。
「嘘だな」
ざっと棋譜を見返して、ラーハルトが鼻を鳴らす。
「少なくともベテランだ」
地上から魔界までを接続する、チェスプレイヤーの通信魔法。
きのこ
DONE #LH1dr1wr11/25「間違い」165分程
お題に沿っているのかももはやラーヒュンといっていいのかわからないですが当人はラーヒュンのつもりで描いています。
お題的には「見たものが見たままのものであるというのは間違いである」とかそういう感じってことで。 6
Jeff
DOODLEお題:「遅刻」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/11/04
Parade 祝祭に賑わう街道。
桃色のリボンとヴァニラの香り、透けるような上等な生地。
平和を享受するパプニカが生み出す最高峰の織物が、様々な形をとって街を埋めている。
ラーハルトは直立不動のまま、行き交う人々の笑顔をゆるく追っていた。
――先に行ってるわね。
仲間たちは一人、二人と彼を離れて、城を目指して駆けていった。
正午の鐘が鳴る。
十二時十五分の鐘。
十二時三十分の鐘。
勇者と王女の邂逅を記念した、年に一度の祝いの宴だ。国民は城下の広場に集い、美しく成長した二人がお出ましになる。
正義と融和の象徴たる若いカップルを見上げて、人々は歌い、キスを投げ、心からの愛慕を捧げるのだ。
そして、ダイの腹心の部下ことラーハルトは――彼らの背後に控えて怪しい動きに目を光らせながらも、養父バランの若き日を思って涙する、はずだったのだ。
1514桃色のリボンとヴァニラの香り、透けるような上等な生地。
平和を享受するパプニカが生み出す最高峰の織物が、様々な形をとって街を埋めている。
ラーハルトは直立不動のまま、行き交う人々の笑顔をゆるく追っていた。
――先に行ってるわね。
仲間たちは一人、二人と彼を離れて、城を目指して駆けていった。
正午の鐘が鳴る。
十二時十五分の鐘。
十二時三十分の鐘。
勇者と王女の邂逅を記念した、年に一度の祝いの宴だ。国民は城下の広場に集い、美しく成長した二人がお出ましになる。
正義と融和の象徴たる若いカップルを見上げて、人々は歌い、キスを投げ、心からの愛慕を捧げるのだ。
そして、ダイの腹心の部下ことラーハルトは――彼らの背後に控えて怪しい動きに目を光らせながらも、養父バランの若き日を思って涙する、はずだったのだ。
Jeff
DOODLEお題:「イタズラ」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/10/30
Bumblebees 生い茂る広葉樹が、昼下がりの太陽をちらつかせる。
光の差さない紫の森に、石臼に似た轟音が響いている。
息をひそめ、一歩、また一歩と距離を詰めるラーハルト。
後方で岩の陰に隠れ、固唾をのんで見守るヒュンケル。
ぶぅん。
二人の視線の先には、小鹿サイズの巨大蜂、キラービーのてらてらした尻がある。
仕掛けた花束に夢中になっていて、背後の男たちには気づいていない。
短剣ほどもある針の根元にそろそろと手を伸ばし――。
「……やったぞ!」
雷のような唸りとともに、キラービーが舞い上がった。
だいぶ怒っている。
一撃必殺の針攻撃を辛うじて避けたラーハルトが、ヒュンケルの隣に転がり込んだ。
標的を見失ったキラービーは、木々を縫ってジグザグと飛び始める。パニック状態のまま、一目散に逃げ始めた。
2521光の差さない紫の森に、石臼に似た轟音が響いている。
息をひそめ、一歩、また一歩と距離を詰めるラーハルト。
後方で岩の陰に隠れ、固唾をのんで見守るヒュンケル。
ぶぅん。
二人の視線の先には、小鹿サイズの巨大蜂、キラービーのてらてらした尻がある。
仕掛けた花束に夢中になっていて、背後の男たちには気づいていない。
短剣ほどもある針の根元にそろそろと手を伸ばし――。
「……やったぞ!」
雷のような唸りとともに、キラービーが舞い上がった。
だいぶ怒っている。
一撃必殺の針攻撃を辛うじて避けたラーハルトが、ヒュンケルの隣に転がり込んだ。
標的を見失ったキラービーは、木々を縫ってジグザグと飛び始める。パニック状態のまま、一目散に逃げ始めた。
Jeff
DOODLEお題:「二回目」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/10/15
Southern Cross「な。言ったとおりだったろ」
浅瀬で海水を跳ね上げる、裸足の指先。
膝までまくった白い足は、以前より目に見えて細い。
ああ、まあな。
ラーハルトはしぶしぶ認めて、夕暮れの浜辺に腰を下ろす。
乱気流のため気球でも到達困難な、断崖絶壁の孤島。
小型の帆船で丸一日格闘し、やっと唯一の入江に潜り込む。
命がけの航海をやり遂げて、島に隠された清い泉ではしゃぎ、遮るもののない絶景で朝日を浴び、割れずに無事だった蒸留酒で乾杯して。
若さを持て余し、意味のない無謀な冒険を繰り返したあの頃は、もう何年前になるのか。
「二回目はないな、などとほざいていたな、ラーハルト」
「貴様。少しは自覚しろ。病で先が短い身で、またこんな無茶を繰り返せると誰が思う」
1279浅瀬で海水を跳ね上げる、裸足の指先。
膝までまくった白い足は、以前より目に見えて細い。
ああ、まあな。
ラーハルトはしぶしぶ認めて、夕暮れの浜辺に腰を下ろす。
乱気流のため気球でも到達困難な、断崖絶壁の孤島。
小型の帆船で丸一日格闘し、やっと唯一の入江に潜り込む。
命がけの航海をやり遂げて、島に隠された清い泉ではしゃぎ、遮るもののない絶景で朝日を浴び、割れずに無事だった蒸留酒で乾杯して。
若さを持て余し、意味のない無謀な冒険を繰り返したあの頃は、もう何年前になるのか。
「二回目はないな、などとほざいていたな、ラーハルト」
「貴様。少しは自覚しろ。病で先が短い身で、またこんな無茶を繰り返せると誰が思う」
きのこ
DONE #LH1dr1wr10/14 「二回目」
二回目の人生では後悔はしたくないラー。
お題に沿ってない自覚があるのでやたらと「二回目」を言わせてしまってますw
キャラが尋常じゃないくらい崩壊しておりますので、かっこいいラーじゃないと無理という方はもうしわけありません。平気だよという方はよろしくおねがいします。 3
chokomoo
DOODLE #LH1dr1wr第69回 『拘束』
一時間以上かかってしまったのでタグ付けるのも迷ったんですが…賑やかしに参加したい気持ち💦
二枚目完全に間に合ってないのでおまけです💦力不足…
襲い受け気味です 2
Jeff
DOODLEお題:「喧嘩」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/09/17
Drinking Games「親に叱られたことは」
ラーハルトの投げやりな質問。
「あるさ」
と、ヒュンケル。
「ならば、喧嘩したことは?」
「もちろん」
ヒュンケルは咳払いして、喉を焼く蒸留酒を揺らめかせた。
「だが、命に関わる無茶をした時だけだ。父が本気で怒ったのは」
忘れもしない。
父バルトスの剣を、一本盗んだ時だ。
まだ勇者や人間たちの勢力は脆弱で、底冷えするような敗北の予感に晒されていなかった頃。
ただ子供でいられた頃。
幸せだった地底魔城、旧魔王軍の日々。
苦笑いして、ヒュンケルは小さなグラスを啜った。
「親は二人いるだろう」
と、ラーハルトが琥珀色の酒を注ぎ直す。
「アバンは父ではない」
意識したより強い口調になってしまって、ヒュンケルは唇を噛んだ。
1635ラーハルトの投げやりな質問。
「あるさ」
と、ヒュンケル。
「ならば、喧嘩したことは?」
「もちろん」
ヒュンケルは咳払いして、喉を焼く蒸留酒を揺らめかせた。
「だが、命に関わる無茶をした時だけだ。父が本気で怒ったのは」
忘れもしない。
父バルトスの剣を、一本盗んだ時だ。
まだ勇者や人間たちの勢力は脆弱で、底冷えするような敗北の予感に晒されていなかった頃。
ただ子供でいられた頃。
幸せだった地底魔城、旧魔王軍の日々。
苦笑いして、ヒュンケルは小さなグラスを啜った。
「親は二人いるだろう」
と、ラーハルトが琥珀色の酒を注ぎ直す。
「アバンは父ではない」
意識したより強い口調になってしまって、ヒュンケルは唇を噛んだ。
Jeff
DOODLEお題:「おそろい」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/09/10
Redmusc こてん。
人差し指ほどのガラスびんを倒して、少し転がしてみる。
香りを纏うなんて、考えたこともなかった。と、ヒュンケルは嘆息する。
死臭が染み込んだ体ごと、香木で燻されたことはあったけれど。ミストバーンの投げやりな育児のなかでも、あれは結構気持ちよかった。
ラーハルトの身体から漂うのは、血と肉と草原が混じり合ったような、不思議な香りだ。
彼が愛用しているこの香水瓶に気づいた時は、柄にもなくワクワクした。
初めての知識は、いつでも刺激的だ。
――どうせ気づかないだろう。自分の匂いなのだから。
頬杖をついたまま、ヒュンケルは口角を上げる。
「少しくらい」
素早く蓋を開け、銀色の一滴を耳の後ろに染み込ませて、ぱふっとベッドに腰かけた。
920人差し指ほどのガラスびんを倒して、少し転がしてみる。
香りを纏うなんて、考えたこともなかった。と、ヒュンケルは嘆息する。
死臭が染み込んだ体ごと、香木で燻されたことはあったけれど。ミストバーンの投げやりな育児のなかでも、あれは結構気持ちよかった。
ラーハルトの身体から漂うのは、血と肉と草原が混じり合ったような、不思議な香りだ。
彼が愛用しているこの香水瓶に気づいた時は、柄にもなくワクワクした。
初めての知識は、いつでも刺激的だ。
――どうせ気づかないだろう。自分の匂いなのだから。
頬杖をついたまま、ヒュンケルは口角を上げる。
「少しくらい」
素早く蓋を開け、銀色の一滴を耳の後ろに染み込ませて、ぱふっとベッドに腰かけた。
きのこ
DONE #LH1dr1wr9/2 「ガンガンいこうぜ」
作成時間は150分くらいですかね。
姫はいつだってムードメーカーでトラブルメーカー。絶対にヒュンを焚き付けると思われ。若干の下ネタっぽい感じなので一応ワンクッション入れときます。 4
chihomuuran
DONE #LH1dr1wr第62回お題「墓参り」
ラーの故郷が残ってるのであれば、ラーのルーツもそこにまだあるのだなあと
オリジナル設定盛ってる注意
飛び飛びで書いて3時間以上はかかっています…
20230829
小さな村だった。
戦後の復興調査の旅をしている旨を告げ、大国の紋章入り封筒を見せると旅人はすぐに村の中心部に通された。
「大魔王は倒れたが、長く続いた魔の脅威が完全に去ったわけではない。各地の被害とその復興状況に加えて、何か不穏な動きがないかも聞き取っている。必要なら中央からの後援をつなげる縁にもなろう」
村長をはじめ集まった村の重役や年寄り達を前に、旅の身なりを解くこともなく、銀髪の青年は語りかけた。若いが、よく通る落ち着いた声。
最初、村人達はこれといって被害など何も、と顔を見合わせた。なにせ辺鄙な場所の小さな村である。大戦での直接的な被害はなく、どちらかというと戦時下の流通や物価の乱れの方がまだ生活に影響があるくらいだ。そういう話題に傾きかけた。
1801戦後の復興調査の旅をしている旨を告げ、大国の紋章入り封筒を見せると旅人はすぐに村の中心部に通された。
「大魔王は倒れたが、長く続いた魔の脅威が完全に去ったわけではない。各地の被害とその復興状況に加えて、何か不穏な動きがないかも聞き取っている。必要なら中央からの後援をつなげる縁にもなろう」
村長をはじめ集まった村の重役や年寄り達を前に、旅の身なりを解くこともなく、銀髪の青年は語りかけた。若いが、よく通る落ち着いた声。
最初、村人達はこれといって被害など何も、と顔を見合わせた。なにせ辺鄙な場所の小さな村である。大戦での直接的な被害はなく、どちらかというと戦時下の流通や物価の乱れの方がまだ生活に影響があるくらいだ。そういう話題に傾きかけた。
Jeff
DOODLEお題:「裏切り」tmkz時空です。ゲスト:Leo
もろもろすみません…
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/06/03
traitorそれは、降って湧いたような災厄だった。
プリンセスの要求はいつも唐突だ。
レオ「だから。デパートに行きたいから二人で私を護衛して頂戴」
ヒュ「…お言葉ですが、姫。俺よりもラーが適任かと」
ラー「(何を言い出すんだこいつは、 の目)」
ヒュ「元軍団長の俺よりも格下だから、要人護衛に慣れている」
ラー「(なんかムカつくけれど間違ってはいない、 のふくれっ面)」
ヒュ「誰より速く、リーチも長い。ラーがいれば安全だ」
ラー「…その点は同意だ。だが、人間どもの街で魔族の俺は目立つだけだ。ヒュンひとりの方が」
ヒュ「いや、純粋に能力で判断すべきだ。うんのよさの数値を見るが良い。俺が行けば馬車は渋滞し、突然消費税率が上がり、安全なデパートの床も抜ける。危険すぎる」
1136プリンセスの要求はいつも唐突だ。
レオ「だから。デパートに行きたいから二人で私を護衛して頂戴」
ヒュ「…お言葉ですが、姫。俺よりもラーが適任かと」
ラー「(何を言い出すんだこいつは、 の目)」
ヒュ「元軍団長の俺よりも格下だから、要人護衛に慣れている」
ラー「(なんかムカつくけれど間違ってはいない、 のふくれっ面)」
ヒュ「誰より速く、リーチも長い。ラーがいれば安全だ」
ラー「…その点は同意だ。だが、人間どもの街で魔族の俺は目立つだけだ。ヒュンひとりの方が」
ヒュ「いや、純粋に能力で判断すべきだ。うんのよさの数値を見るが良い。俺が行けば馬車は渋滞し、突然消費税率が上がり、安全なデパートの床も抜ける。危険すぎる」
きのこ
DONE #LH1dr1wrラーヒュンワンドロワンライ
8/19「修行」
制作時間は100分ほど。
相変わらずラーVS先生風味。
麻様とガッツリとネタが被ってしまって申し訳ありません。
一応ラーとヒュンの会話なのでと開き直って上げちゃいます。 3
きのこ
DONE #LH1dr1wrラーヒュンワンドロワンライ
8/12お題「墓参り」
所要時間は100分程でした。
墓の話はしてますが墓参りしてなくて申し訳ないです。お題にそってるて言うんだろうかコレ。 4
Jeff
DOODLEお題:「変装」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/08/06
Metamorphose「いつもより楽だった」
宿にたどり着くなり、ヒュンケルが興奮気味に言った。
「すごいな、変化の術は」
少々上気したその横顔は、見慣れた白とはかけ離れている。
ラーハルトは、はしゃいでいる相棒を一瞥して荷物を下ろす。
「もってあと数十分だ。何が嬉しいのか分からんが、せいぜい楽しめ」
半魔と人間のコンビが魔界の街を通り抜けるのは、なかなかに難儀だ。
興味津々の地元民に尾行されたり、あからさまに悪意ある連中に取り囲まれたり。まったく逆に、人間を珍しがる気のいい連中に酒宴へと誘われたり。
世話好きの魔導士が分け与えてくれたへんげの杖とやらは、結構役に立った。
魔族の外見に化けたヒュンケルは、薄闇色の肌ととがった耳を愛おしそうに撫でている。
1265宿にたどり着くなり、ヒュンケルが興奮気味に言った。
「すごいな、変化の術は」
少々上気したその横顔は、見慣れた白とはかけ離れている。
ラーハルトは、はしゃいでいる相棒を一瞥して荷物を下ろす。
「もってあと数十分だ。何が嬉しいのか分からんが、せいぜい楽しめ」
半魔と人間のコンビが魔界の街を通り抜けるのは、なかなかに難儀だ。
興味津々の地元民に尾行されたり、あからさまに悪意ある連中に取り囲まれたり。まったく逆に、人間を珍しがる気のいい連中に酒宴へと誘われたり。
世話好きの魔導士が分け与えてくれたへんげの杖とやらは、結構役に立った。
魔族の外見に化けたヒュンケルは、薄闇色の肌ととがった耳を愛おしそうに撫でている。
Jeff
DOODLEお題:「毒」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/07/23
1up「どうする」
神妙に問うと、ヒュンケルも真剣な表情で、
「……網焼きかな」と首を傾げた。
そういうレベルの問題ではない、とラーハルトは思う。
某国、手付かずのままの山林の奥地にて。
焚火を前に鎮座しているのは、強烈な水玉模様。
ガルーダの卵より大きい、謎のキノコだった。
「いい匂いだ。伝承に偽りはなかったな」
と、ヒュンケルは大勇者から借りた「きのこ大全集」のページを繰った。
先の村で貰ったキノコが美味しすぎたせいだ。
以来、二人は採取にハマっている。
ついには究極の一株を求めて、古文書にまで手を出した。
『奇跡の珍味。百年に一度、テラン奥地の満月に光る。
神の滋養、この世のものならぬ美味』
「確かに、見た目はそっくりだが。どう見ても毒キノコだぞ」
2129神妙に問うと、ヒュンケルも真剣な表情で、
「……網焼きかな」と首を傾げた。
そういうレベルの問題ではない、とラーハルトは思う。
某国、手付かずのままの山林の奥地にて。
焚火を前に鎮座しているのは、強烈な水玉模様。
ガルーダの卵より大きい、謎のキノコだった。
「いい匂いだ。伝承に偽りはなかったな」
と、ヒュンケルは大勇者から借りた「きのこ大全集」のページを繰った。
先の村で貰ったキノコが美味しすぎたせいだ。
以来、二人は採取にハマっている。
ついには究極の一株を求めて、古文書にまで手を出した。
『奇跡の珍味。百年に一度、テラン奥地の満月に光る。
神の滋養、この世のものならぬ美味』
「確かに、見た目はそっくりだが。どう見ても毒キノコだぞ」
garuhyu
MEMO今太陽というと熱いしか思わないのでそれで始めてみた。締めがこれ以上思いつかなくてなんかぶつ切り
ヒュンが魔界知ってるか否かを確定させないと発展しなかったというか
ワンドロお題「太陽」暑い。
というか熱い。
ギラッという擬音がぴったりの太陽を遮る雲は一つもなく、マントを頭から被らなければ死すら脳裏によぎる。
「この太陽ならバーンにくれてやってもいいな…」
「おいヒュンケル、目が座ってるぞ…ところでどういう表現だそれは」
ラーハルトとしては当然の疑問なのだが、ヒュンケルはきょとんとした表情でまじまじと相方を見つめている。
時間としては10秒くらい経っただろうか―ヒュンケルはぽん、と手を打った。
「ああそうか、お前はバーンの地上破壊の目的を知らなかったな!!!」
ラーハルトとしては妙な顔をせざるを得ない。そもそもバーン本人に何か思う事は超竜軍団時代ですらない。
「太陽を欲しがったのか」
「本人はそう表現していた。地上破壊はそのための手段だと。」
626というか熱い。
ギラッという擬音がぴったりの太陽を遮る雲は一つもなく、マントを頭から被らなければ死すら脳裏によぎる。
「この太陽ならバーンにくれてやってもいいな…」
「おいヒュンケル、目が座ってるぞ…ところでどういう表現だそれは」
ラーハルトとしては当然の疑問なのだが、ヒュンケルはきょとんとした表情でまじまじと相方を見つめている。
時間としては10秒くらい経っただろうか―ヒュンケルはぽん、と手を打った。
「ああそうか、お前はバーンの地上破壊の目的を知らなかったな!!!」
ラーハルトとしては妙な顔をせざるを得ない。そもそもバーン本人に何か思う事は超竜軍団時代ですらない。
「太陽を欲しがったのか」
「本人はそう表現していた。地上破壊はそのための手段だと。」
garuhyu
MEMO現パロにしたのは普通の人間の身体能力じゃないと成立しない話だから。実は大学時代の私の体験談です。
ワンドロお題「びしょ濡れ」(現パロ・大学生)
それは実に突然だった。
ふっと暗くなったと思ったらどざーという擬音がぴったりの、まるで壁のような雨が降ったのだ。
何じゃこりゃ。
人は、わけのわからない事に出くわすと思考停止する。
「…こんな雨はそう長いこと降らないと思う。しばらく待とう、ラーハルト」
「そうだな…」
しかし、そうやって待っていると一向に止まないのは何故なのか。
「ええい、10分もない距離だ、もう走るぞ!」
「あっ…ちょっと待て…って聞いてない!!!」
そうして豪雨の中を走った二人は、無事下宿アパートにたどり着いたのだが。
「…何故たどり着いたら快晴になるのだ…」
「…だから待てと言ったのに…」
水も滴るいい男という表現があるが、それは滴らない程度に濡れた男の形容詞なのだとしみじみどうでもよく思ってしまうラーハルトだった。二人とも、なかなか酷い有様である。
526それは実に突然だった。
ふっと暗くなったと思ったらどざーという擬音がぴったりの、まるで壁のような雨が降ったのだ。
何じゃこりゃ。
人は、わけのわからない事に出くわすと思考停止する。
「…こんな雨はそう長いこと降らないと思う。しばらく待とう、ラーハルト」
「そうだな…」
しかし、そうやって待っていると一向に止まないのは何故なのか。
「ええい、10分もない距離だ、もう走るぞ!」
「あっ…ちょっと待て…って聞いてない!!!」
そうして豪雨の中を走った二人は、無事下宿アパートにたどり着いたのだが。
「…何故たどり着いたら快晴になるのだ…」
「…だから待てと言ったのに…」
水も滴るいい男という表現があるが、それは滴らない程度に濡れた男の形容詞なのだとしみじみどうでもよく思ってしまうラーハルトだった。二人とも、なかなか酷い有様である。
Jeff
DOODLEお題:「逃走」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/06/17
Fugue「解離性遁走、ですね」
ラーハルトは擦り切れそうな微笑みに憤怒を込めて、
「分かるように言え」と絞り出す。
「要するに、現実世界を越境して、安全な場所に逃げ込んでいるんです」
祈祷師は何気なく続ける。
「きっかけは様々ですし、何に擬態するかもわかりません。大丈夫、数日で戻ることがほとんどですから」
「数日だと?」
と、傍らの少年を――もとい、精神だけ子供に化したヒュンケルを抱きかかえる。
「ええ。まずは様子を見て、マズそうだったらまたおいでなさい」
「マズそうだったら?」
「ええ」
緊張感のないやりとりだった。
ヒュンケルの師が紹介した人物だ、信用できるはずだ。だが、こちらの心配をよそに拍子抜けするほど楽観的な診察だった。
1231ラーハルトは擦り切れそうな微笑みに憤怒を込めて、
「分かるように言え」と絞り出す。
「要するに、現実世界を越境して、安全な場所に逃げ込んでいるんです」
祈祷師は何気なく続ける。
「きっかけは様々ですし、何に擬態するかもわかりません。大丈夫、数日で戻ることがほとんどですから」
「数日だと?」
と、傍らの少年を――もとい、精神だけ子供に化したヒュンケルを抱きかかえる。
「ええ。まずは様子を見て、マズそうだったらまたおいでなさい」
「マズそうだったら?」
「ええ」
緊張感のないやりとりだった。
ヒュンケルの師が紹介した人物だ、信用できるはずだ。だが、こちらの心配をよそに拍子抜けするほど楽観的な診察だった。
garuhyu
DONEラーハルトよりダイの出番の方が強いのですが、ラーヒュンと言い張ってみるワンドロお題「逃走」「ヒュンケル!頼む!匿ってくれ!!!」
パプニカ城にあてがわれた私室に飛び込むように入ってきた半魔の友人は答えも聞かずクローゼットの中に飛び込んだ。
あっけに取られて固まってしまったが、ほどなく聞こえてきた足音に大体の事情を察する。
「ヒュンケル、ラーハルト見なかった?」
「見たぞ」
半魔の友人ことラーハルトの、現在唯一の主にして自分の弟弟子にあたる勇者ダイに嘘をつく理由はない。
「引き渡してもらえるかなあ」
「あいつは何かやらかしたのか?」
そんな粗相をするとは思えんが、と尋ねてみるとダイは笑って首を振る。
「いやそんなんじゃなくて、レオナとポップのゲームに巻き込まれてさ、ラーハルトが罰ゲームすることになったんだよ」
754パプニカ城にあてがわれた私室に飛び込むように入ってきた半魔の友人は答えも聞かずクローゼットの中に飛び込んだ。
あっけに取られて固まってしまったが、ほどなく聞こえてきた足音に大体の事情を察する。
「ヒュンケル、ラーハルト見なかった?」
「見たぞ」
半魔の友人ことラーハルトの、現在唯一の主にして自分の弟弟子にあたる勇者ダイに嘘をつく理由はない。
「引き渡してもらえるかなあ」
「あいつは何かやらかしたのか?」
そんな粗相をするとは思えんが、と尋ねてみるとダイは笑って首を振る。
「いやそんなんじゃなくて、レオナとポップのゲームに巻き込まれてさ、ラーハルトが罰ゲームすることになったんだよ」
garuhyu
DONE暦を作ったのに使わないスタイル魔物に誕生日を祝う習慣があるかといえば多分なくてヒュンケルが来た日だねーって自然派生したらいいとか思ってる
ワンドロお題「誕生日」長く徒歩旅をしていると、日にちの感覚が怪しくなる。街に入って日付を確認して今日はこの日だったかということは、よくある。
だから宿のカレンダーを見てラーハルトがおっという反応をするのも、そこまで不思議はない。
「俺の誕生日だったか」
「は?」
目を丸くしたヒュンケルにラーハルトもビックリしたようで、無意識に出た独り言だったようだ。
「それは祝わないといけないのでは?」
「…お前にその習慣があったのか?」
「父さんが俺を拾った日が誕生日ということになっている。皆が色んなプレゼントをくれて歌ってくれて嬉しかったものだ」
蕩けるような笑顔でそう語ったヒュンケルだったが、ふっとその表情が曇る。
「まあ…よく考えたらそれは略奪品だったんだが…」
1220だから宿のカレンダーを見てラーハルトがおっという反応をするのも、そこまで不思議はない。
「俺の誕生日だったか」
「は?」
目を丸くしたヒュンケルにラーハルトもビックリしたようで、無意識に出た独り言だったようだ。
「それは祝わないといけないのでは?」
「…お前にその習慣があったのか?」
「父さんが俺を拾った日が誕生日ということになっている。皆が色んなプレゼントをくれて歌ってくれて嬉しかったものだ」
蕩けるような笑顔でそう語ったヒュンケルだったが、ふっとその表情が曇る。
「まあ…よく考えたらそれは略奪品だったんだが…」
Jeff
DOODLEお題:「挑発」#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/05/28
Merciless「……どうする」
ラーハルトは呆然と、眼前にそびえる巨大な石像をつついた。
魔槍の切っ先にびくともしない。
「石化の呪法を操る異界の魔物とは聞いていたが、これは厄介だぞ」
街道の要所、聖なるほこらに巣を作ってしまった怪鳥コカトリスを追い払うのが、今回の依頼だった。
話が通じる相手ではなかったが、しょせんラーハルトとヒュンケルの敵ではない。
なるべく穏便に山へ返そうとしたのだが、相手は予想外の行動に出た。
自分自身を巨岩に変えたのだ。
断固居座る態度だ。
「任せてくれ。考えがある」
ヒュンケルは細剣を収めて、相棒を制した。
「非常に心が痛むが。やるしかないだろう」
意図を掴めないまま、ラーハルトはとりあえず一歩下がる。
1781ラーハルトは呆然と、眼前にそびえる巨大な石像をつついた。
魔槍の切っ先にびくともしない。
「石化の呪法を操る異界の魔物とは聞いていたが、これは厄介だぞ」
街道の要所、聖なるほこらに巣を作ってしまった怪鳥コカトリスを追い払うのが、今回の依頼だった。
話が通じる相手ではなかったが、しょせんラーハルトとヒュンケルの敵ではない。
なるべく穏便に山へ返そうとしたのだが、相手は予想外の行動に出た。
自分自身を巨岩に変えたのだ。
断固居座る態度だ。
「任せてくれ。考えがある」
ヒュンケルは細剣を収めて、相棒を制した。
「非常に心が痛むが。やるしかないだろう」
意図を掴めないまま、ラーハルトはとりあえず一歩下がる。
garuhyu
DONEラー視点。魔族がひく風邪とはなんじゃろかと思いつつ。ワンドロお題「看病」俺は、外見から解るように魔族の血が濃い。
だから病気の類は一切しなかったし、するわけがないと思っていた。
そう、思って「いた」。
高熱の発熱という前代未聞の感覚。
行動は勿論、思考もままならない。さっさと意識を投げ出したい。
それができないのは何故かというと―
「…早くパプニカなりデルムリン島なり行けというのに…」
魔族に取りつく病気なのだ、人間で半死人のヒュンケルなど罹患すればひとたまりもない。そう何度も急かしているというのに。
「馬鹿。そんな状態を放っておけるわけないだろう。」
俺の心配なぞせんでもいいわと言い放ちたいのだが、流石に説得力がないのはわかっている。
熱のおかげで語彙力が低下しているのもあって、この頑固者にかける言葉がなかなか紡げない。
869だから病気の類は一切しなかったし、するわけがないと思っていた。
そう、思って「いた」。
高熱の発熱という前代未聞の感覚。
行動は勿論、思考もままならない。さっさと意識を投げ出したい。
それができないのは何故かというと―
「…早くパプニカなりデルムリン島なり行けというのに…」
魔族に取りつく病気なのだ、人間で半死人のヒュンケルなど罹患すればひとたまりもない。そう何度も急かしているというのに。
「馬鹿。そんな状態を放っておけるわけないだろう。」
俺の心配なぞせんでもいいわと言い放ちたいのだが、流石に説得力がないのはわかっている。
熱のおかげで語彙力が低下しているのもあって、この頑固者にかける言葉がなかなか紡げない。
garuhyu
MEMO短文~ラーヒュンハウス在住単身赴任陸戦騎の設定。
モンスターに捏造設定アリ(笑)
ワンドロお題「手紙」「これを頼む」
そう言われた差し出された封筒をドラキーがニッカリ笑って器用に尻尾を巻き付ける。
傍目には心もとない固定だが、ドラキーがそうやって運ぶものを落とすことは滅多にないとヒュンケルは知っている。
送り先は、定期的にパプニカの王城で陸戦騎の役割を果たしている伴侶ことラーハルト。
ところでドラキーの速度は速くない。というか遅い。山奥から海岸近くまでのほほんとえっちらおっちら飛んでくるのだ。軽く一週間は過ぎる。
「…行き違いになるとは思わんのだろうか…」
手紙を読みながら、何故かその辺が気になるラーハルトである。
手紙の内容は色気のかけらもない、パプニカで調達して欲しいものリストだ。
主に調味料香辛料、油紙や紙や布、インクなど。
517そう言われた差し出された封筒をドラキーがニッカリ笑って器用に尻尾を巻き付ける。
傍目には心もとない固定だが、ドラキーがそうやって運ぶものを落とすことは滅多にないとヒュンケルは知っている。
送り先は、定期的にパプニカの王城で陸戦騎の役割を果たしている伴侶ことラーハルト。
ところでドラキーの速度は速くない。というか遅い。山奥から海岸近くまでのほほんとえっちらおっちら飛んでくるのだ。軽く一週間は過ぎる。
「…行き違いになるとは思わんのだろうか…」
手紙を読みながら、何故かその辺が気になるラーハルトである。
手紙の内容は色気のかけらもない、パプニカで調達して欲しいものリストだ。
主に調味料香辛料、油紙や紙や布、インクなど。
Jeff
DOODLELettre à un otage.お題:「手紙」
#LH1dr1wr
ワンドロワンライよりお題をお借りしました
2023年4月29日
Emergency 空が少し黄色い。
耳鳴りの気配を誤魔化しながら、水を一杯飲み干す。
どさりとカウチに倒れ込んだ時、スマホが鳴った。
「……」
ラーハルトは眉間を摘まんで意識をはっきりさせてから、通話をタップする。
「ヒュンケル? ……おい」
がやがやとした雑音。
何度か呼びかけて、やっと応答があった。
「ラーハルト、いきなり電話してすまない」
はつらつとした恋人の声に、ラーハルトは思わず破顔する。
「今日、航空学校の試験だろ。そろそろ終わっているかと思って」
「ああ」
パイロットの卵ラーハルトは、カウチに溶けそうな態勢のまま投げやりに答える。
「どうだった?」
「まあまあだ」と、寝返りを打つ。
「良かった。合格だな」能天気なヒュンケルの歓声。
1985耳鳴りの気配を誤魔化しながら、水を一杯飲み干す。
どさりとカウチに倒れ込んだ時、スマホが鳴った。
「……」
ラーハルトは眉間を摘まんで意識をはっきりさせてから、通話をタップする。
「ヒュンケル? ……おい」
がやがやとした雑音。
何度か呼びかけて、やっと応答があった。
「ラーハルト、いきなり電話してすまない」
はつらつとした恋人の声に、ラーハルトは思わず破顔する。
「今日、航空学校の試験だろ。そろそろ終わっているかと思って」
「ああ」
パイロットの卵ラーハルトは、カウチに溶けそうな態勢のまま投げやりに答える。
「どうだった?」
「まあまあだ」と、寝返りを打つ。
「良かった。合格だな」能天気なヒュンケルの歓声。
Jeff
DOODLEアッテムトにて。お題:「レクイエム」
#LH1dr1wr
ワンドロワンライ参加作品
2023/04/23
Elegy「人間は、すごいな」
のんきに呟く相棒に、ラーハルトはくたびれた視線を投げる。
「……毒ガスで死に絶えた坑夫たちへの感想が、それか」
自分で言って、思わず息を詰める。
だが、どんなに感覚を研ぎ澄ませても、今漂っているのは馥郁たるカビくささだけだ。
「いえ、仰るとおりです。希少な鉱物は当時の街を活気づけ、坑道は恐るべき速度で拡がり続けたと伝えられます」
ガイドを務める初老の紳士が相づちを打つ。
「人間の強欲は、死に至る病が跋扈し始めてからも変わらなかった。彼らは掘って、掘って、掘りまくったのです」
ヒュンケルはよく整備された岩肌をそっと指でなぞってみた。
倒れ行く同業者に目もくれず先を急いだ、一攫千金を狙う若者たち。名誉欲や射幸心に、あるいはそれに類する怪物に支配され、瘴気の恐ろしさを忘れ去った、愚かな人々。
3155のんきに呟く相棒に、ラーハルトはくたびれた視線を投げる。
「……毒ガスで死に絶えた坑夫たちへの感想が、それか」
自分で言って、思わず息を詰める。
だが、どんなに感覚を研ぎ澄ませても、今漂っているのは馥郁たるカビくささだけだ。
「いえ、仰るとおりです。希少な鉱物は当時の街を活気づけ、坑道は恐るべき速度で拡がり続けたと伝えられます」
ガイドを務める初老の紳士が相づちを打つ。
「人間の強欲は、死に至る病が跋扈し始めてからも変わらなかった。彼らは掘って、掘って、掘りまくったのです」
ヒュンケルはよく整備された岩肌をそっと指でなぞってみた。
倒れ行く同業者に目もくれず先を急いだ、一攫千金を狙う若者たち。名誉欲や射幸心に、あるいはそれに類する怪物に支配され、瘴気の恐ろしさを忘れ去った、愚かな人々。
garuhyu
DONE父母の日か勇者の日かで後者またマイ設定を増やしてしまった…
ラーヒュンハウスこさえて二年目くらいのイメージ
ワンドロお題「レクイエム」年に一度、ヒュンケルが絶対にひとに会わない日がある。
「勇者の日」と呼ばれる祝祭の日。
旧魔王軍を打ち滅ぼした栄誉を称える鐘の音が鳴り響く。人里離れた山奥にも、その音がどこからか響く。人間にとっては祝祭の口実は何でもいいのだ。
ヒュンケルの生い立ちは、実はあまり知られていない。
本人も、本人から直接聞いたダイ・ポップ・マァムも、口外していないからだ。深い仲となったラーハルトは知っているが、勿論誰にも話していない。
だからこの日が彼にとってどういう意味を持つのか、レオナですら知らない。
この日になると、ヒュンケルはどこか一人きりになれる所に籠る。旅先であればどこかの穴倉か、樹々の中か。
街中であればどこかの倉庫か。
1073「勇者の日」と呼ばれる祝祭の日。
旧魔王軍を打ち滅ぼした栄誉を称える鐘の音が鳴り響く。人里離れた山奥にも、その音がどこからか響く。人間にとっては祝祭の口実は何でもいいのだ。
ヒュンケルの生い立ちは、実はあまり知られていない。
本人も、本人から直接聞いたダイ・ポップ・マァムも、口外していないからだ。深い仲となったラーハルトは知っているが、勿論誰にも話していない。
だからこの日が彼にとってどういう意味を持つのか、レオナですら知らない。
この日になると、ヒュンケルはどこか一人きりになれる所に籠る。旅先であればどこかの穴倉か、樹々の中か。
街中であればどこかの倉庫か。
garuhyu
DONE色々想像力を鍛えられる感じになってしまった(笑)ワンドロお題「マッサージ」ヒュンケルは、時々寝込むようになった。
体中の古傷由来だと思われるが詳細はわからない。おそらく安心して寝込めるようになったから寝込んでいるのだとラーハルトは思っている。
勇者が帰り平和になった、二人暮らしも馴染んだ日々。
そしてヒュンケルが目を覚ませば恒例行事となっているのが、ラーハルトのマッサージである。
確かに一日単位で寝込んだ身体には大変心地よいのだが…
「もしかして、母御にもやっていたことなのか」
そうヒュンケルが聞くと、ラーハルトは少しだけ目を見開いて、フッと息を吐いた。
「解るか」
「まあ、なんとなく」
まだ村にいても石など投げられなかった比較的平和だったころ、寝たきりの者は時々動かさねばならないのだと、何かの機会に聞き知っていた。
552体中の古傷由来だと思われるが詳細はわからない。おそらく安心して寝込めるようになったから寝込んでいるのだとラーハルトは思っている。
勇者が帰り平和になった、二人暮らしも馴染んだ日々。
そしてヒュンケルが目を覚ませば恒例行事となっているのが、ラーハルトのマッサージである。
確かに一日単位で寝込んだ身体には大変心地よいのだが…
「もしかして、母御にもやっていたことなのか」
そうヒュンケルが聞くと、ラーハルトは少しだけ目を見開いて、フッと息を吐いた。
「解るか」
「まあ、なんとなく」
まだ村にいても石など投げられなかった比較的平和だったころ、寝たきりの者は時々動かさねばならないのだと、何かの機会に聞き知っていた。
garuhyu
DONE最初は現パロにするつもりだったんだけど、ぼけっと書く間に橙ワールドになってました。色々設定捏造。ワンドロお題「花吹雪」その村は、山あいの小さな村だった。
特徴的なのは、村の中央に桜の大樹があることだ。
「これは美しい」
そういう風情には疎いヒュンケルも、感嘆してそう呟いてしまうほど、その桜は咲き誇っていた。
時期的には満開を少し過ぎ、散りはじめていたわけだが。
「そうだな、とても美しい」
花びらの舞う中でそれに見惚れているお前が。
そう続けようとして、ラーハルトはヒュンケルの笑顔の質が何か違うことに気が付いた。
「………もしかして、これはただの木ではなかったりするのか…?」
「よくわかったな、これは桜んじゅだ。人面樹の亜種だな。高齢故かほとんど目覚めないようだが」
「そういう事もあるのか…?」
「昔人面樹の知り合いがいたのでな。仲間の事を教えてもらったことがある。」
787特徴的なのは、村の中央に桜の大樹があることだ。
「これは美しい」
そういう風情には疎いヒュンケルも、感嘆してそう呟いてしまうほど、その桜は咲き誇っていた。
時期的には満開を少し過ぎ、散りはじめていたわけだが。
「そうだな、とても美しい」
花びらの舞う中でそれに見惚れているお前が。
そう続けようとして、ラーハルトはヒュンケルの笑顔の質が何か違うことに気が付いた。
「………もしかして、これはただの木ではなかったりするのか…?」
「よくわかったな、これは桜んじゅだ。人面樹の亜種だな。高齢故かほとんど目覚めないようだが」
「そういう事もあるのか…?」
「昔人面樹の知り合いがいたのでな。仲間の事を教えてもらったことがある。」
garuhyu
DONE以前呟いた、「ヒュンの子供の頃の食生活を想像してみた」を旅の一場面で再生してみた、という形です。ワンドロお題「味覚」味覚とは、食物の可食か否かを判断する、生存に非常に影響する感覚である。筈である。
「貴様の味覚はどうなっているのだ」
共に旅に出て、最初に衝突した価値観がこれであった。
「どう、と言われても」
「焼いただけの肉は味などなかろう!せめて塩をかけろ塩を」
道すがら狩った兎の肉処理を任せたところ、ただ焼いた肉を出されたラーハルトは渋い顔だ。
「すまんな、味を知らないわけではないのだが、子供の頃はこういう肉しか食べてなくてつい…」
申し訳なさげにボソボソ言われると、口が悪いと自覚のあるラーハルトとしては黙るしかない。
「…旧魔王軍は食事のレベルが低かったのか?」
「周りの家族は大体生肉だったぞ」
そのレベルか、と顔を手で覆って天を仰いでしまうラーハルトである。
631「貴様の味覚はどうなっているのだ」
共に旅に出て、最初に衝突した価値観がこれであった。
「どう、と言われても」
「焼いただけの肉は味などなかろう!せめて塩をかけろ塩を」
道すがら狩った兎の肉処理を任せたところ、ただ焼いた肉を出されたラーハルトは渋い顔だ。
「すまんな、味を知らないわけではないのだが、子供の頃はこういう肉しか食べてなくてつい…」
申し訳なさげにボソボソ言われると、口が悪いと自覚のあるラーハルトとしては黙るしかない。
「…旧魔王軍は食事のレベルが低かったのか?」
「周りの家族は大体生肉だったぞ」
そのレベルか、と顔を手で覆って天を仰いでしまうラーハルトである。