かづき@FF14そうさく
PAST3章 エピローグ「おう、お疲れさん」
桜夜が天界に戻ると、一番最初に出迎えてくれたのは空希だった。
「……空希さん? どうしてここに」
「んーや、なんとなくな。にしたって、お前ちょっとお人好しが過ぎるんじゃないか?」
「……それを空希さんが言いますか」
桜夜が目を伏せて小さく笑うと、空希クックと笑い返す。
「魂の持ち主たちのことも、未来がどうにかよくなるように動いてくれていたんでしょう?」
「……バレてたか。まあな、色々と動いてたぜ」
「少し不自然さを感じるところはありましたけど、アズリカや梓が違和感を感じるほどではないと思います」
「……それより、あの呪いを受け継いだやつ」
「……」
少しだけ黙って、桜夜は天を仰いだ。
「……可哀想だ、って思ったんです。あの人と同じだから」
891桜夜が天界に戻ると、一番最初に出迎えてくれたのは空希だった。
「……空希さん? どうしてここに」
「んーや、なんとなくな。にしたって、お前ちょっとお人好しが過ぎるんじゃないか?」
「……それを空希さんが言いますか」
桜夜が目を伏せて小さく笑うと、空希クックと笑い返す。
「魂の持ち主たちのことも、未来がどうにかよくなるように動いてくれていたんでしょう?」
「……バレてたか。まあな、色々と動いてたぜ」
「少し不自然さを感じるところはありましたけど、アズリカや梓が違和感を感じるほどではないと思います」
「……それより、あの呪いを受け継いだやつ」
「……」
少しだけ黙って、桜夜は天を仰いだ。
「……可哀想だ、って思ったんです。あの人と同じだから」
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PAST3章 最終話 それから桜夜は二人に家事の仕方を教えつつ、料理では特にコツを教えたり味付けを教えたりと忙しい日々を送っていた。
たまに舞衣のいない日に、疲れた二人が桜夜の尻尾に埋もれてモフモフとくつろぐ日ができる。たまには甘やかすのもいいか、と思う桜夜はその日も尻尾をモフらせつつ夕飯を忙しなく作っていた。
「ふあ〜……幸せぇ……」
「ほんと……触り心地いいよなぁ……桜夜のしっぽぉ……」
「はいはい、そろそろ夕飯だよ」
苦笑いを浮かべる桜夜は、二人を食卓に座らせると夕飯をそれぞれの分をよそい前に置く。
途端に家のチャイムがなり、耳と尾を隠した彼はそっとインターホンを覗いた。
「……はい?」
『あ、の……金田……海と言います……その……桜夜さんは……』
4739たまに舞衣のいない日に、疲れた二人が桜夜の尻尾に埋もれてモフモフとくつろぐ日ができる。たまには甘やかすのもいいか、と思う桜夜はその日も尻尾をモフらせつつ夕飯を忙しなく作っていた。
「ふあ〜……幸せぇ……」
「ほんと……触り心地いいよなぁ……桜夜のしっぽぉ……」
「はいはい、そろそろ夕飯だよ」
苦笑いを浮かべる桜夜は、二人を食卓に座らせると夕飯をそれぞれの分をよそい前に置く。
途端に家のチャイムがなり、耳と尾を隠した彼はそっとインターホンを覗いた。
「……はい?」
『あ、の……金田……海と言います……その……桜夜さんは……』
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PAST3章 第五話 ふさわしい「さて……」
梓が落ち着いた頃、眠る金田に触れると桜夜は彼を何かのホールに入れ、一瞬で家に届ける。
それに、全員がビックリした。
「え、なにいまの!?」
「すごい! 魔法!?」
「魔法……と、言うよりは力を借りたぐらいだよ。とりあえず……」
桜夜が鞘に入った打刀をトンッ、と軽く鞘に地に叩くと全員が見知らぬ空間へ連れていかれる。
夜桜が舞い月の昇る美しい空間──。
「……迷い込む人とかはいたけど、ここに生きてる人間を連れてきたのは初めてだな……」
「すごい……きれい……」
そこには空間があり、桜夜たちが座るだけでも十分な広さがある。
地面にあぐらをかいて桜夜が座ると、それにならって全員が座った。
「……あの、桜夜さん……」
3961梓が落ち着いた頃、眠る金田に触れると桜夜は彼を何かのホールに入れ、一瞬で家に届ける。
それに、全員がビックリした。
「え、なにいまの!?」
「すごい! 魔法!?」
「魔法……と、言うよりは力を借りたぐらいだよ。とりあえず……」
桜夜が鞘に入った打刀をトンッ、と軽く鞘に地に叩くと全員が見知らぬ空間へ連れていかれる。
夜桜が舞い月の昇る美しい空間──。
「……迷い込む人とかはいたけど、ここに生きてる人間を連れてきたのは初めてだな……」
「すごい……きれい……」
そこには空間があり、桜夜たちが座るだけでも十分な広さがある。
地面にあぐらをかいて桜夜が座ると、それにならって全員が座った。
「……あの、桜夜さん……」
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PAST3章 第四話 会いたかった「はっ、ほざいていろ!!」
途端に、カイガから放たれるどす黒いオーラがアズリカたちを襲う。
「うっ、くぅ……!?」
「さすが、神狐はくらわんか?」
「お前……!」
吹き飛ばされそうになるアズリカを、誰かが支えた。
「大丈夫か?」
「え……ソーヤ……?」
彼女の意思に釣られて来たのか、ソーヤの意思も眠りから覚めたらしい。
だが、ここにいる四人とも何の力も持たない普通の人間だ。
戦えるのは桜夜しかいない。ましてや、今のような攻撃を何度も繰り出されては守りきれるとは思えない彼は、一つだけ何かを呼ぶ。
梓の魂に刻まれた、もう一人の彼。
「アズリカ……いけない、その男は……早く私の元へ!!」
「きゃっ!?」
いっそう強い力を放つカイガ。先程はなんともなかった桜夜も吹き飛ばされそうになり、グッと堪える。
4242途端に、カイガから放たれるどす黒いオーラがアズリカたちを襲う。
「うっ、くぅ……!?」
「さすが、神狐はくらわんか?」
「お前……!」
吹き飛ばされそうになるアズリカを、誰かが支えた。
「大丈夫か?」
「え……ソーヤ……?」
彼女の意思に釣られて来たのか、ソーヤの意思も眠りから覚めたらしい。
だが、ここにいる四人とも何の力も持たない普通の人間だ。
戦えるのは桜夜しかいない。ましてや、今のような攻撃を何度も繰り出されては守りきれるとは思えない彼は、一つだけ何かを呼ぶ。
梓の魂に刻まれた、もう一人の彼。
「アズリカ……いけない、その男は……早く私の元へ!!」
「きゃっ!?」
いっそう強い力を放つカイガ。先程はなんともなかった桜夜も吹き飛ばされそうになり、グッと堪える。
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PAST3章 第三話 モノじゃない二日後、桜夜と梓、奏夜の姿はとある遊園地にあった。
「うっわー! 俺初めて来たー!!」
「すごい人……迷子にならないように桜夜さんについていかなきゃ……」
「ええ、俺基準? とりあえず、何から乗る?」
保護者の桜夜は二人がアレ乗りたい、コレ乗りたいと話しているのをウンウンと頷きながら聞く。
「じゃ、まず優先権を取って……」
「優先権?」
「その時間になったら並んでいる人たちよりも先に乗り物に載せてくれる券だよ」
「へえ〜!」
「……ここのファストパスを取って、次にこっち。で、これが終わったらこれに乗ってご飯を食べながら次の乗りたいとこ行って……」
「広いなぁ……でも楽しみ!」
「だな!」
ワクワクが止まらない高校生たちに、桜夜は笑った。
5871「うっわー! 俺初めて来たー!!」
「すごい人……迷子にならないように桜夜さんについていかなきゃ……」
「ええ、俺基準? とりあえず、何から乗る?」
保護者の桜夜は二人がアレ乗りたい、コレ乗りたいと話しているのをウンウンと頷きながら聞く。
「じゃ、まず優先権を取って……」
「優先権?」
「その時間になったら並んでいる人たちよりも先に乗り物に載せてくれる券だよ」
「へえ〜!」
「……ここのファストパスを取って、次にこっち。で、これが終わったらこれに乗ってご飯を食べながら次の乗りたいとこ行って……」
「広いなぁ……でも楽しみ!」
「だな!」
ワクワクが止まらない高校生たちに、桜夜は笑った。
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PAST3章 第一話 出会い「……確かにこの世界からだ」
小声で秋に色めく森と丘の上にある公園へと降り立つ九尾の狐は、街を見下ろした。
藍色の毛は銀にグラデーションし、綺麗な碧色の瞳も銀に変わっている。
彼は、その姿から神狐(しんこ)と呼ばれることが多かった。
唯一無二の、魂の救いを司る神狐。
彼の感じ取ったボロボロで今にも消え入りそうな魂、その信念の強さと想いに誘われた世界がここだ。
だが、もちろんこの姿では不審に思われる。最初はその魂の持ち主に接近する必要があった。
伝統の上に器用に座っていた彼は、地面にスタッと降り立つと人の姿へと変化する。
藍色と碧色の瞳──人の姿になるがグラデーションは完全になくなっている、普通の人間に化けた方の姿だ。
4541小声で秋に色めく森と丘の上にある公園へと降り立つ九尾の狐は、街を見下ろした。
藍色の毛は銀にグラデーションし、綺麗な碧色の瞳も銀に変わっている。
彼は、その姿から神狐(しんこ)と呼ばれることが多かった。
唯一無二の、魂の救いを司る神狐。
彼の感じ取ったボロボロで今にも消え入りそうな魂、その信念の強さと想いに誘われた世界がここだ。
だが、もちろんこの姿では不審に思われる。最初はその魂の持ち主に接近する必要があった。
伝統の上に器用に座っていた彼は、地面にスタッと降り立つと人の姿へと変化する。
藍色と碧色の瞳──人の姿になるがグラデーションは完全になくなっている、普通の人間に化けた方の姿だ。
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PAST音楽は君と共に 三話どこに向かっているのかも、分からない。
息が切れても、何があっても、足が止まることはなかった。
息を切らして、ようやく止まる。
ここはどこだろうか──小高い丘の上のようで、公園みたいなところまで来ていた。
雨宿りに子どもたちが遊ぶドームのような遊具の下に入り、足を抱える。
寒い。
気温もそうだが、心の方がもっと寒かった。
「……寒い……」
今までも、心が寒い時はあった。
だが、そんな時でも唯一心を温かくしてくれるものがあった。
四歳のころに出会った、一人の男の子。
優しい顔をしていて、綺麗な青色の瞳をしていた。
その子が奏でる、ピアノの音が好きだ。
今でも鮮明に、あの音色を思い出すことができる。
だと言うのに、その旋律は届かなかった。
2334息が切れても、何があっても、足が止まることはなかった。
息を切らして、ようやく止まる。
ここはどこだろうか──小高い丘の上のようで、公園みたいなところまで来ていた。
雨宿りに子どもたちが遊ぶドームのような遊具の下に入り、足を抱える。
寒い。
気温もそうだが、心の方がもっと寒かった。
「……寒い……」
今までも、心が寒い時はあった。
だが、そんな時でも唯一心を温かくしてくれるものがあった。
四歳のころに出会った、一人の男の子。
優しい顔をしていて、綺麗な青色の瞳をしていた。
その子が奏でる、ピアノの音が好きだ。
今でも鮮明に、あの音色を思い出すことができる。
だと言うのに、その旋律は届かなかった。
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PAST音楽は君と共に 二話それから数日が経ち、奏夜は梓と同じ学校に通うことになった。
同じクラスに編入して貰えたお陰で、二人は互いに退屈しない日々を過ごしている。
……が、やはり魔の手は差し迫っていた。
「お前、華月ん家の居候なんだってな」
「だからなんだよ」
学校に通って数ヶ月した日の放課後、梓が先生に呼ばれている間に屋上で暇を潰していた奏夜の元に梓をかつて苦しめてきたという男子たちが、わらわらとやって来る。
「聞いたぜぇ、お前ん家の事情」
「カワイソーになぁ! 兄貴と比べられてるんだって?」
「………………」
「お前の兄貴、めちゃくちゃ優秀だったらしいじゃん? でもよぉ……」
奏夜の一番聞きたくない言葉が、耳に届く。
「……黙れ」
「おっとぉ? トラウマですかぁ?」
2874同じクラスに編入して貰えたお陰で、二人は互いに退屈しない日々を過ごしている。
……が、やはり魔の手は差し迫っていた。
「お前、華月ん家の居候なんだってな」
「だからなんだよ」
学校に通って数ヶ月した日の放課後、梓が先生に呼ばれている間に屋上で暇を潰していた奏夜の元に梓をかつて苦しめてきたという男子たちが、わらわらとやって来る。
「聞いたぜぇ、お前ん家の事情」
「カワイソーになぁ! 兄貴と比べられてるんだって?」
「………………」
「お前の兄貴、めちゃくちゃ優秀だったらしいじゃん? でもよぉ……」
奏夜の一番聞きたくない言葉が、耳に届く。
「……黙れ」
「おっとぉ? トラウマですかぁ?」
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PAST音楽は君と共に 一話あの不思議な出会いから一年。
その日、華月 梓(かづき あず)はいつも通り学校から帰宅した。自身の部屋にも洗面所があるが、7月に入ったこともあって喉が乾いている。飲み物を持っていこうと思い、1階の洗面所で手を洗ってうがいをしてからキッチンへと顔を出した。
だが、そこで妙な人影を見かける。
「……え」
「む」
そこでは、同い年ぐらいの梓よりも身長の高い男子が冷蔵庫を漁り、口に物を突っ込んで食べていた。
「なっ、なっ……」
「んっ、むぐっ!? 」
梓の姿を見留めると彼は腕を前に突き出し、必死にブンブンと振って冤罪を主張する。
「ま、舞衣(まい)姉ーっ!! 不法侵入!! しかも勝手になんか食べてるー!!」
「んぐぅっ!? ゴホッ、ゲホッ!」
2836その日、華月 梓(かづき あず)はいつも通り学校から帰宅した。自身の部屋にも洗面所があるが、7月に入ったこともあって喉が乾いている。飲み物を持っていこうと思い、1階の洗面所で手を洗ってうがいをしてからキッチンへと顔を出した。
だが、そこで妙な人影を見かける。
「……え」
「む」
そこでは、同い年ぐらいの梓よりも身長の高い男子が冷蔵庫を漁り、口に物を突っ込んで食べていた。
「なっ、なっ……」
「んっ、むぐっ!? 」
梓の姿を見留めると彼は腕を前に突き出し、必死にブンブンと振って冤罪を主張する。
「ま、舞衣(まい)姉ーっ!! 不法侵入!! しかも勝手になんか食べてるー!!」
「んぐぅっ!? ゴホッ、ゲホッ!」
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PAST最終話 変わらない、これからも二人が夕飯を食べ終えれば、お風呂に入る。見たことの無いシャンプーやリンスのせいで、アズイルが一人でてんやわんやしていたため仕方なく梓が手伝った。完全に猫のお風呂である。
それからは、テレビを物珍しそうにじーっと見ていたり、梓の持つ『すまーとふぉん』とやらを見たりと文明の違いに彼が飽きることはなかった。
「不思議だな……」
「うん、僕たちは魔法が使えないから……こうやって発展や発明をして行くんだ」
「なるほどな……」
小さく笑って、梓は濡れた髪をドライヤーで乾かす。猫のような耳としっぽなのに、髪の毛はサラサラしている。自分でしっかりとお手入れしているのが良く分かった。
「アズって、意外とオシャレ好きだよね」
「……そうか?」
2773それからは、テレビを物珍しそうにじーっと見ていたり、梓の持つ『すまーとふぉん』とやらを見たりと文明の違いに彼が飽きることはなかった。
「不思議だな……」
「うん、僕たちは魔法が使えないから……こうやって発展や発明をして行くんだ」
「なるほどな……」
小さく笑って、梓は濡れた髪をドライヤーで乾かす。猫のような耳としっぽなのに、髪の毛はサラサラしている。自分でしっかりとお手入れしているのが良く分かった。
「アズって、意外とオシャレ好きだよね」
「……そうか?」
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PAST第六話 温もり街に繰り出せば、楽しい時間の始まりだった。
「これがスカイツリー、上まで登れるんだ」
「敵は出ないのか?」
「何も出ないよ……」
相変わらずのアズイルに、梓は苦笑いを浮かべる。
中に入り上へと昇るエレベーターに載ると、予想以上の反応を見せた。
「すっっっげぇ、高い……!! 街並みも……全然、見たことないぞ……!!」
「はは、気に入ってくれたようで何よりだよ」
こうやって見ると、物珍しいものや初めて見る物には興味津々になるようだ。
大人っぽいなとは思っていたが、やはりなんだかんだで同い年なだけあるなぁと梓は思いつつエレベーターから降り、アズイルを連れて双眼鏡を指さす。
「これで東京の街並みがぱーっと見れるよ」
「とーきょー……よくは分からないが、この街の名前か? どこまでがとーきょーの領土なんだ?」
4580「これがスカイツリー、上まで登れるんだ」
「敵は出ないのか?」
「何も出ないよ……」
相変わらずのアズイルに、梓は苦笑いを浮かべる。
中に入り上へと昇るエレベーターに載ると、予想以上の反応を見せた。
「すっっっげぇ、高い……!! 街並みも……全然、見たことないぞ……!!」
「はは、気に入ってくれたようで何よりだよ」
こうやって見ると、物珍しいものや初めて見る物には興味津々になるようだ。
大人っぽいなとは思っていたが、やはりなんだかんだで同い年なだけあるなぁと梓は思いつつエレベーターから降り、アズイルを連れて双眼鏡を指さす。
「これで東京の街並みがぱーっと見れるよ」
「とーきょー……よくは分からないが、この街の名前か? どこまでがとーきょーの領土なんだ?」
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PAST第五話 友だち色の褪せた世界は続いた、鏡に彼は写らないし弱まっていた雨は強まっていく。
ピアノを弾いても楽しくなかった。音楽がこんなにもつまらないと感じたのは初めてだった。
褪せた世界が色を失って、白と黒だけの世界になっていって……。
馬鹿だ。
僕は愚かだ。
話を聞いてくれた人を、嫌いだと突き放した。
決して親身ではなかったけど、それでも彼は話をしっかりと聞いてくれていた。
それだけで、良かったじゃないか。
欲を張って、彼を知ろうとしたのがいけなかったんだ。
『だって、それじゃあ不公平じゃない?』
不公平だよ。
僕だって、知りたいよ。
友だちになってくれた人を知りたいよ。
もっと、仲良くなりたいんだよ。
それの何がいけなかったの?
数日写らない鏡は僕の抱く虚無感を増幅させて行く……。
3627ピアノを弾いても楽しくなかった。音楽がこんなにもつまらないと感じたのは初めてだった。
褪せた世界が色を失って、白と黒だけの世界になっていって……。
馬鹿だ。
僕は愚かだ。
話を聞いてくれた人を、嫌いだと突き放した。
決して親身ではなかったけど、それでも彼は話をしっかりと聞いてくれていた。
それだけで、良かったじゃないか。
欲を張って、彼を知ろうとしたのがいけなかったんだ。
『だって、それじゃあ不公平じゃない?』
不公平だよ。
僕だって、知りたいよ。
友だちになってくれた人を知りたいよ。
もっと、仲良くなりたいんだよ。
それの何がいけなかったの?
数日写らない鏡は僕の抱く虚無感を増幅させて行く……。
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PAST第四話 変わらない梓が変わろうと動き始めれば、少しずつ変化は訪れた。
件の彼には金輪際関わってくるなと伝え、脅迫めいたことを言われ怖気付きそうになるがポケットに入れていたボイスレコーダーを見せれば、すぐに走って帰って行った。
両親にも、自分のことで言い争いをしないでくれと伝えつつ変わりたい旨を話す。もちろん、焦らずゆっくりでいいと言われ順調に事は進んでいた。
アズイルとの会話は日に日に短くなっていったが、それでも『できたこと』や『変われたこと』を伝えるには十分だ。
楽しい毎日が続けばいいのに──だが、それは叶わないことだと心の内では分かっている。
それでも、心から信用できる友を失いたくはなかった。
『ああ、そうだ』
「どうしたの?」
3141件の彼には金輪際関わってくるなと伝え、脅迫めいたことを言われ怖気付きそうになるがポケットに入れていたボイスレコーダーを見せれば、すぐに走って帰って行った。
両親にも、自分のことで言い争いをしないでくれと伝えつつ変わりたい旨を話す。もちろん、焦らずゆっくりでいいと言われ順調に事は進んでいた。
アズイルとの会話は日に日に短くなっていったが、それでも『できたこと』や『変われたこと』を伝えるには十分だ。
楽しい毎日が続けばいいのに──だが、それは叶わないことだと心の内では分かっている。
それでも、心から信用できる友を失いたくはなかった。
『ああ、そうだ』
「どうしたの?」
かづき@FF14そうさく
PAST第三話 愛されたいその日、梓にとっていらぬ来客があった。
中学の時に、いじめられていた男子がズカズカと部屋まで押し入ってくる。
「……っ」
「久しぶりだなぁ、梓! 元気にしてたかよ!」
「なんで……」
「懐かしいなあ! お前が来なくなって二年だぞ!? いやぁ、会いたかったぜ!」
ガッと胸元をつかまれると顔を寄せられ、そいつは笑う。
「逃げるために引越ししやがってよ……これからたっぷり搾ってやる」
「ひっ……」
思わず声が出た。それに、何も変わってないんだと分かったのかニタァとした気味の悪い笑みを浮かべる。
「んじゃ、分かってるよなぁ?」
「……僕、は……お金……持っ……てない……」
「はぁ? マジのニートかよ。じゃあ部屋にあるちょっと高そうなモンでも……」
2050中学の時に、いじめられていた男子がズカズカと部屋まで押し入ってくる。
「……っ」
「久しぶりだなぁ、梓! 元気にしてたかよ!」
「なんで……」
「懐かしいなあ! お前が来なくなって二年だぞ!? いやぁ、会いたかったぜ!」
ガッと胸元をつかまれると顔を寄せられ、そいつは笑う。
「逃げるために引越ししやがってよ……これからたっぷり搾ってやる」
「ひっ……」
思わず声が出た。それに、何も変わってないんだと分かったのかニタァとした気味の悪い笑みを浮かべる。
「んじゃ、分かってるよなぁ?」
「……僕、は……お金……持っ……てない……」
「はぁ? マジのニートかよ。じゃあ部屋にあるちょっと高そうなモンでも……」
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PAST第二話 興味鬱陶しい雨が気にならないほどに、梓は鏡の中の彼に興味を持った。
鏡は決まって部屋に誰もいない夜の19時に繋がるようだ。アズイルも、その時間は大体は野宿をして過ごしているようで森の中であれど、場所は毎度変わっている。
今日は、穏やかな川のせせらぎが聞こえて来て梓は欠伸をした。
「静かでいいとこだね」
『まぁ……僕も気に入ってるとこ』
そんなたわいない会話しかしなかったが、梓には楽しい日々が続いている。
「そういえば、なんでアズは野宿してるの? 宿とかないの?」
『あることにはある……けど、今は帰りづらい』
今日は動物の心配がないのか、琴は脇に置いてアズイルは頬をポリポリとかく。
「帰りづらい……誰かと喧嘩した?」
『……まあ、そんな感じ……』
2280鏡は決まって部屋に誰もいない夜の19時に繋がるようだ。アズイルも、その時間は大体は野宿をして過ごしているようで森の中であれど、場所は毎度変わっている。
今日は、穏やかな川のせせらぎが聞こえて来て梓は欠伸をした。
「静かでいいとこだね」
『まぁ……僕も気に入ってるとこ』
そんなたわいない会話しかしなかったが、梓には楽しい日々が続いている。
「そういえば、なんでアズは野宿してるの? 宿とかないの?」
『あることにはある……けど、今は帰りづらい』
今日は動物の心配がないのか、琴は脇に置いてアズイルは頬をポリポリとかく。
「帰りづらい……誰かと喧嘩した?」
『……まあ、そんな感じ……』
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PAST第一話 雨「……猫……?」
『猫? 僕の種族のことを言っているのか?』
「種族……?」
『僕はミコッテだ、お前は……見た感じヒューランみたいだな』
「ちょ、ちょっと待って……なに? ミコッテだのヒューランだの……」
話が食い違うのに動揺する梓は、目の前の少年を見つめる。
見れば見るほど似ている。鏡にただ写っているだけなのでは、と錯覚するほどに。それでも、頭にある可愛らしい耳を見れば違うのだろう。
それに、鏡の中は夜の森の中のようだ。時折、狼の遠吠えのようなものも聞こえるし火を焚べる音がリアルで、梓は更に混乱する。
『……お前、名前は?』
「え……梓……華月 梓」
『名前まで似てるな……僕はアズイル・カヅリエ。吟遊詩人だ』
「吟遊詩人……? えっと、英雄譚を歌にして旅をするっていう……」
2264『猫? 僕の種族のことを言っているのか?』
「種族……?」
『僕はミコッテだ、お前は……見た感じヒューランみたいだな』
「ちょ、ちょっと待って……なに? ミコッテだのヒューランだの……」
話が食い違うのに動揺する梓は、目の前の少年を見つめる。
見れば見るほど似ている。鏡にただ写っているだけなのでは、と錯覚するほどに。それでも、頭にある可愛らしい耳を見れば違うのだろう。
それに、鏡の中は夜の森の中のようだ。時折、狼の遠吠えのようなものも聞こえるし火を焚べる音がリアルで、梓は更に混乱する。
『……お前、名前は?』
「え……梓……華月 梓」
『名前まで似てるな……僕はアズイル・カヅリエ。吟遊詩人だ』
「吟遊詩人……? えっと、英雄譚を歌にして旅をするっていう……」
かづき@FF14そうさく
PAST前に書いたやつ。創作キャラ?である現代日本で生きている人間の梓と、FF14の自機であるアズイルがクロスオーバーする話。
プロローグ──やっぱり、弾けなかった。
あれ程までに大好きなピアノが、手が震えて弾けない。
椅子から立ち上が^ベットに乗り壁に背をつけ膝を抱えると、顔を俯かせる。
……ああ、まただ。
また、喧嘩している。
父の怒鳴る声と母の叫ぶ声。どちらもうるさい、僕の大好き『だった』音楽にはいらないものだ。
消えてしまえ、消えろ。
……違う。
消えてしまえばいいのは、僕の方だ。
「もう嫌だ……何もかも……」
居なくなってしまいたかった。
目尻に滲む涙を強引に擦って、必死に泣かないようにする。
誰も信じられない、誰も信じたくない。
外から聞こえる雨の音と共に、顔を上げた。
何の色もない、真っ白な世界だ。
つまらない、苦しい。
何より、寂しいと思うのはどうして──。
782あれ程までに大好きなピアノが、手が震えて弾けない。
椅子から立ち上が^ベットに乗り壁に背をつけ膝を抱えると、顔を俯かせる。
……ああ、まただ。
また、喧嘩している。
父の怒鳴る声と母の叫ぶ声。どちらもうるさい、僕の大好き『だった』音楽にはいらないものだ。
消えてしまえ、消えろ。
……違う。
消えてしまえばいいのは、僕の方だ。
「もう嫌だ……何もかも……」
居なくなってしまいたかった。
目尻に滲む涙を強引に擦って、必死に泣かないようにする。
誰も信じられない、誰も信じたくない。
外から聞こえる雨の音と共に、顔を上げた。
何の色もない、真っ白な世界だ。
つまらない、苦しい。
何より、寂しいと思うのはどうして──。