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DONE※捏造難解ショコラミステリー ハッピーバースデー。今年もお祝いできて嬉しいよ。また近いうちに、一緒にご飯でもどう?
そんなような文面を、送りはしたのだけれど。
自分の手を離れて久しい後輩はますます多忙を極めており、元メンターのメッセージに返信する暇さえなさそうだった。部屋宛のプレゼントは本日中に受け取ってもらえるだろうか。何度もメッセージボックスの更新ボタンを押してしまう自分に呆れながら、ディノは携帯端末から目を離さないまま、ロッカールームの長椅子に上半身を横たえた。
二月十四日。フェイスの誕生日。ついでにバレンタインデー。数年前であればフェイスとは同じチームで、同じ部屋に帰り、日を跨ぐまで盛大なパーティーを催すことができたというのに、時の流れは寂しいものである。そうも言っていられないしがらみや責任というものが、自分や彼の目指す『ヒーロー』像とリンクしているのだから、不満は一切無い。仲間たちと同じ志を共有できていることは、誇らしくさえあった。
1890そんなような文面を、送りはしたのだけれど。
自分の手を離れて久しい後輩はますます多忙を極めており、元メンターのメッセージに返信する暇さえなさそうだった。部屋宛のプレゼントは本日中に受け取ってもらえるだろうか。何度もメッセージボックスの更新ボタンを押してしまう自分に呆れながら、ディノは携帯端末から目を離さないまま、ロッカールームの長椅子に上半身を横たえた。
二月十四日。フェイスの誕生日。ついでにバレンタインデー。数年前であればフェイスとは同じチームで、同じ部屋に帰り、日を跨ぐまで盛大なパーティーを催すことができたというのに、時の流れは寂しいものである。そうも言っていられないしがらみや責任というものが、自分や彼の目指す『ヒーロー』像とリンクしているのだから、不満は一切無い。仲間たちと同じ志を共有できていることは、誇らしくさえあった。
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DONE日曜日の番犬 イエローウエストの夜。多種多様な人工灯に煌々と照らされた通りは一晩中眠ることを知らない。歓楽街としては魅力的だが、昼間と比べ物騒で、どこか後ろ暗く、自分の身を自分で守る術を持たない人間が一人で出歩けるほど治安が良いわけでもなかった。ひとつ裏の通りに入れば剣呑な雰囲気は特に顕著であったが、フェイスは気にした様子もなく、胸の前に大きな箱を抱えて歩いていた。一年のうち、もしかしたら半分は通っている道だ。警戒はしても、怯えはしない。その上、今夜は一人ですらない。
「ごめんね、付き合わせちゃって」
「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
「アハ、ディノらしいね」
歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
4668「ごめんね、付き合わせちゃって」
「気にしてないよ。明日はオフだし、むしろ体力が余ってうずうずしてるくらい」
「アハ、ディノらしいね」
歩を緩めて箱を持ち直したフェイスの少し後ろを、フェイスより大きな箱を抱えたディノがそれでも身軽にスキップする勢いで歩いている。箱の中身は、フェイスが懇意にしているクラブオーナーが貸し出してくれた音響機材だった。大きなものは業者に任せたが、いくつかは精密機器も含まれるので直接運ぶための人手が欲しいのだと頼んだところ、ディノは快く引き受けてくれた。『ヒーロー』としての業務終了後、そしてディノの言う通り明日は休日なので、【HELIOS】の制服は身につけていない。一般的な服を着た、背丈のある男が爛々と目を輝かせて歩く様は、この界隈で言えば異常だった。目を引いても絡まれないというのは、見た目のおかげで人種性別問わずエンカウントの多いフェイスにとって非常にありがたいことだ。最初にディノをクラブへと誘ったときも、似たような理由があったことを懐かしく思う。
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DONE祖父の体調不良をきっかけに思い悩むディノと、あっけらかんとしているフェイスのお話です。終わりの庭 ディノが祖母からの報せを受けたのは、長袖でも肌寒い朝のことだった。陽の光は柔らかく、すぐそこに春の気配を感じるものの、緑の芽吹きはまだ、予感のみに留まっている。
「そんなの、気にしなくていいのに」
『そうよ、だから連絡したの。あなたも忙しいのは知っているけれど、黙っているよりはと思って』
祖母の声は窓から差し込む陽光のように明るい。それほど深刻ではなさそうな様子に安堵して、ディノが答える。
「うん、一度みんなに相談してみるよ」
挨拶もそこそこに通話を切って、ディノはウエストセクター研修チーム、その生活圏であるリビングを振り返った。チームメイトは三人。うちルーキー二人は、早く行け、という指差しのジェスチャーが息ぴったりに揃っている。そしてディノと共にルーキーを受け持つ同期の友人は、「そういうことだから」と言って、ディノと同じように、他の誰かとの通話を切ったところであるようだった。
11022「そんなの、気にしなくていいのに」
『そうよ、だから連絡したの。あなたも忙しいのは知っているけれど、黙っているよりはと思って』
祖母の声は窓から差し込む陽光のように明るい。それほど深刻ではなさそうな様子に安堵して、ディノが答える。
「うん、一度みんなに相談してみるよ」
挨拶もそこそこに通話を切って、ディノはウエストセクター研修チーム、その生活圏であるリビングを振り返った。チームメイトは三人。うちルーキー二人は、早く行け、という指差しのジェスチャーが息ぴったりに揃っている。そしてディノと共にルーキーを受け持つ同期の友人は、「そういうことだから」と言って、ディノと同じように、他の誰かとの通話を切ったところであるようだった。
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DONEピュアすぎる🍕と振り回される🎧マリン・モールス・マーメイド コンセプトは海の底。地下二階にある店内はかなり薄暗い。陶器で出来た貝殻の中央に、真珠を模した球体が鎮座するテーブルライトへの既視感を振り切って、フェイスはメロウなBGMの方に意識を集中させた。時折混ざる波の音は本物を録音したもののようだ。雰囲気作りに力を入れているわりに、客の入りはまばらだ。それもそのはず、オープンしたばかりのカフェレストランは海沿いに位置するホテルのテナントで、シーズンにはまだ少し早い。いわゆる良いムードの店の中、フェイスとテーブルを挟んで向かい合うのは、海水浴や写真映えを目当てにするような人物ではなかった。
「シーフードピザ!」
「シーフード……ね」
ディノはその瞳をシェルランプよりも輝かせて、輪切りのイカ、ホイールのように丸まった海老など、大ぶりな具材盛り沢山のピザを愛おしそうに見つめている。海の中で海の生き物を食す残酷さについて問うのは野暮というものだろうか。食い気が百パーセントの恋人に対して残念な気持ちは微塵もないけれど、どこか気が抜けてしまう感覚はあった。
1866「シーフードピザ!」
「シーフード……ね」
ディノはその瞳をシェルランプよりも輝かせて、輪切りのイカ、ホイールのように丸まった海老など、大ぶりな具材盛り沢山のピザを愛おしそうに見つめている。海の中で海の生き物を食す残酷さについて問うのは野暮というものだろうか。食い気が百パーセントの恋人に対して残念な気持ちは微塵もないけれど、どこか気が抜けてしまう感覚はあった。
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TRAINING全部がうまくいきそうで、ちょっとした勇気に溢れる日のお話セルフワンライ+15m
春の匂い「春の匂いがする」
ベランダに向けて何とはなしに放ったディノの声を、フェイスはしっかり拾ってくれる。
「春の匂い?」
「うん、わかるかな……何っていうわけじゃないんだけど、ふわっとした空気の匂い」
けれど開け放った窓からリビングに流れる風は、どちらかといえば肌に冷たく感じる。そもそも部屋の空気を入れ替えようとしていたので問題はないが、フェイスに共感してもらうには心許ない返答だった。それでも天気は雲ひとつない快晴で、このあと街へ巡回に赴くのにもう分厚いアウターは必要ないだろうと付け加えてからやっと、フェイスはそうだねと頷いてくれた。
実際のところ、季節の移り変わりの際に感じるこの香りの正体をディノ自身もよくは知らない。春なので何がしかの植物の芽吹きだとか、陽光に照らされた土の匂いだとか――想像には難くないが、ニューミリオンは大部分がコンクリートと鉄筋でできている。ディノがエリオスタワーの上層階で嗅いだ、何とも言えないふとした予感を、的確な言葉で表現することは難しかった。
1758ベランダに向けて何とはなしに放ったディノの声を、フェイスはしっかり拾ってくれる。
「春の匂い?」
「うん、わかるかな……何っていうわけじゃないんだけど、ふわっとした空気の匂い」
けれど開け放った窓からリビングに流れる風は、どちらかといえば肌に冷たく感じる。そもそも部屋の空気を入れ替えようとしていたので問題はないが、フェイスに共感してもらうには心許ない返答だった。それでも天気は雲ひとつない快晴で、このあと街へ巡回に赴くのにもう分厚いアウターは必要ないだろうと付け加えてからやっと、フェイスはそうだねと頷いてくれた。
実際のところ、季節の移り変わりの際に感じるこの香りの正体をディノ自身もよくは知らない。春なので何がしかの植物の芽吹きだとか、陽光に照らされた土の匂いだとか――想像には難くないが、ニューミリオンは大部分がコンクリートと鉄筋でできている。ディノがエリオスタワーの上層階で嗅いだ、何とも言えないふとした予感を、的確な言葉で表現することは難しかった。
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TRAINING二日酔いの🍺と青春全開の🎧 ときどき🍕is here リビングでは二日酔いのメンターだけがソファに横になっていた。イエローウエストの研修チームにとってはよくあること、風景の一種で、フェイスは黄色のソファと一体化しているキースの目の前を素通りし、Uターンしてメンター部屋を覗き込み、シャワールーム、洗面所、一応はキッチンカウンターの裏側にも回った。
ジュニアの不在は知っている。朝も早いうちから元気に部屋を出ていく音に目を覚ましながらも、フェイスはそのまま二度寝を決め込んだ。全員揃っての休日、各々の予定も特に聞き出してはいなかったけれど――
「あー……ディノなら下にいるぞ、下に」
酒に焼けて嗄れた声は弱々しくも呆れを含んでいた。確かに二日酔いではない方のメンターの姿が見えないことを不思議に思ってはいたが、急を要していれば最初からキースを叩き起こしている。フェイスは何でもないといった口調で問いを返した。
3534ジュニアの不在は知っている。朝も早いうちから元気に部屋を出ていく音に目を覚ましながらも、フェイスはそのまま二度寝を決め込んだ。全員揃っての休日、各々の予定も特に聞き出してはいなかったけれど――
「あー……ディノなら下にいるぞ、下に」
酒に焼けて嗄れた声は弱々しくも呆れを含んでいた。確かに二日酔いではない方のメンターの姿が見えないことを不思議に思ってはいたが、急を要していれば最初からキースを叩き起こしている。フェイスは何でもないといった口調で問いを返した。
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DONEフェイスのバースデーのお話※エリチャン・コメントバレを含みます。
たとえば明日のホットショコラが、未来永劫の愛になるように「あー、だから、もう好きにしろって」
頭痛が治まらないというような、何とも嫌そうな顔で、キースは投げやりな台詞を吐いた。ディノはそんな同僚に憤慨して、必要事項を入力中であったオンラインショップの受付画面から目を離す。
「そんな適当なこと言うなよ、フェイスの誕生日なんだぞ」
「それを考えた上での、オレたちの金色はねえわって意見に耳を貸さなかったのはお前だろ」
キースの指摘に、ソファの後ろ、カウンター側に背を向けて丸椅子に座っているジュニアが「そうだ、そうだ」と加勢してきた。
ウエストセクター研修チームの午後のミーティングは、ルーキーを一人欠いた状態で開かれている。議題はフェイスの誕生日について。サプライズの企画に、対象者を参加させるわけにはいかない。密会とも言えるそれはフェイスの留守を狙ってのことなので、三人の時間はそう長く取れない。迅速かつ円滑に進めたいところではあるが、構図は一対一対一になりつつあった。金箔でコーティングされたフェイスの等身大チョコレートに賛成派のディノ、もう好きにしろ派のキース、いやなんで金色にする必要があるんだよ派のジュニアだ。
3358頭痛が治まらないというような、何とも嫌そうな顔で、キースは投げやりな台詞を吐いた。ディノはそんな同僚に憤慨して、必要事項を入力中であったオンラインショップの受付画面から目を離す。
「そんな適当なこと言うなよ、フェイスの誕生日なんだぞ」
「それを考えた上での、オレたちの金色はねえわって意見に耳を貸さなかったのはお前だろ」
キースの指摘に、ソファの後ろ、カウンター側に背を向けて丸椅子に座っているジュニアが「そうだ、そうだ」と加勢してきた。
ウエストセクター研修チームの午後のミーティングは、ルーキーを一人欠いた状態で開かれている。議題はフェイスの誕生日について。サプライズの企画に、対象者を参加させるわけにはいかない。密会とも言えるそれはフェイスの留守を狙ってのことなので、三人の時間はそう長く取れない。迅速かつ円滑に進めたいところではあるが、構図は一対一対一になりつつあった。金箔でコーティングされたフェイスの等身大チョコレートに賛成派のディノ、もう好きにしろ派のキース、いやなんで金色にする必要があるんだよ派のジュニアだ。
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TRAININGセルフワンライ+15min
あまく、まどろむ イエローウエストの研修チーム、その生活圏である部屋には、主な家電製品はひと通り揃っている。そもそも掃除や洗濯といった、日常生活を送る上で欠かせない細かな作業は、大半が補助ロボットの役目でもある。テレビの画面の先、何百何千という客にモノを売ってきたであろう司会者の話術で紹介されているロボット掃除機は、ディノにとってもこの部屋にとっても明らかに不必要な品物だった。
「でも、二つでこの値段はお得すぎる……!」
独り言は深夜のリビングに溶け込んでいく。そろそろ切り上げて就寝しなければ明日の業務に差し支えるとわかっていても、ディノは司会者の流暢な喋り、そして魅力あふれる品々から目が離せない。通販番組とは、もしかしたら世界的なサッカーの試合よりもディノの心を踊らせるエンターテインメントかもしれない。
1869「でも、二つでこの値段はお得すぎる……!」
独り言は深夜のリビングに溶け込んでいく。そろそろ切り上げて就寝しなければ明日の業務に差し支えるとわかっていても、ディノは司会者の流暢な喋り、そして魅力あふれる品々から目が離せない。通販番組とは、もしかしたら世界的なサッカーの試合よりもディノの心を踊らせるエンターテインメントかもしれない。
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TRAININGお題箱より「🍕から攻められてたじろぐ🎧」です。ありがとうございました!
※ごつサブ有り
Gimme Gimme Gimme! なんだかんだで、ここの人間たちはそれなりにアクティブな方だと思う。フェイスは自室の扉の前で、ぼんやりと誰もいないリビングを見渡した。
オフといえば専らクラブへ通っている自分だって、客観的に見ればアクティブな人間に含まれるかもしれないが、今日は違った。贔屓のクラブはここ十日の間に内装工事と設備の点検があるとのことで、フェイスのDJとしての活動はやむなく休止中だった。それは何故か。クラブなら他にもあるが、他の施設は夜毎フェイスのファンが群れをなしてやってくることに慣れていない。つまりのやむなくである。特に予定もない休日、フェイスはゆっくりたっぷりと睡眠をとり、リビングに差し込むのは正午過ぎの光だった。ブランチを済ませたあとはレコードを整理しようかと考えつつ、フェイスが一歩を踏み出すか踏み出さないかという瞬間、玄関代わりに外へと続く扉が開く音がした。
3327オフといえば専らクラブへ通っている自分だって、客観的に見ればアクティブな人間に含まれるかもしれないが、今日は違った。贔屓のクラブはここ十日の間に内装工事と設備の点検があるとのことで、フェイスのDJとしての活動はやむなく休止中だった。それは何故か。クラブなら他にもあるが、他の施設は夜毎フェイスのファンが群れをなしてやってくることに慣れていない。つまりのやむなくである。特に予定もない休日、フェイスはゆっくりたっぷりと睡眠をとり、リビングに差し込むのは正午過ぎの光だった。ブランチを済ませたあとはレコードを整理しようかと考えつつ、フェイスが一歩を踏み出すか踏み出さないかという瞬間、玄関代わりに外へと続く扉が開く音がした。
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TRAININGお題箱より「待ち合わせをする🍕🎧」です。ありがとうございました!
お気に入りのあの店で あの日、いつにも増して強引さを感じさせるSNS上でのやり取りは、言うまでもなくフェイスの側が折れる結果となった。待ち合わせの場所や時間を周囲の人間――主にフェイスのファンだが――に悟られないよう、ディノからの個人的なメッセージは思ったよりも迅速にフェイスのアカウントまで届いた。末尾の「待ってる」というシンプルなひと言を確認しただけで、その日はひとり静かに過ごしたい気分であったことなど都合良く忘れたフェイスは目的地、件のイタリアンレストランへ向かう足を早めた。
「俺のこと、呼べば来るものだって思ってない?」
ピザには、正直飽きている。飽きていても美味しいのがピザらしい。毒されている自覚はあるけれど、その味はなるほど評判通りで、フェイスは悔しさを含めた文句を空に放り投げた。それでも今回は「まし」な方だった。行くか行かないか、来るか来ないかの意思を問われることもなく、自動的にフェイスの行き先や予定が決まっていることだってあるのだから。惚れた弱み、自己責任でも、小言くらいはぶつけたい。
1752「俺のこと、呼べば来るものだって思ってない?」
ピザには、正直飽きている。飽きていても美味しいのがピザらしい。毒されている自覚はあるけれど、その味はなるほど評判通りで、フェイスは悔しさを含めた文句を空に放り投げた。それでも今回は「まし」な方だった。行くか行かないか、来るか来ないかの意思を問われることもなく、自動的にフェイスの行き先や予定が決まっていることだってあるのだから。惚れた弱み、自己責任でも、小言くらいはぶつけたい。
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TRAINING🍕(無自覚)×🎧(片想い)求める温度 ネクタイを締めながら、ディノはとある感慨に浸っていた。洗面台の鏡越しに、少し背を曲げてディノの右肩に顎を乗せ、眠そうな顔で前髪を整えるフェイスの姿が確認できる。
ずいぶん、心を開いてくれたと思う。
ちいさな喜びは肩に感じるフェイスの重みからじわじわ染み込むようだった。ディノがヒーローとして【HELIOS】に復帰した頃のぎこちない関係を思えば、朝のワンシーンのなかで起こる何気ない触れ合いにさえ感動してしまうのも無理はない。かわいい後輩がせっかくセットしている髪を勢い任せに撫で回して台無しにしないよう、ディノは結び終えたネクタイを無意味に調整し続けた。慣れた手つきでいつも通りのヘアスタイルを作り上げたフェイスは小声で「よし」と呟き、ディノの背中から離れていく。肩から消えた重さに寂しさすら感じつつ、ディノもようやくネクタイに触れる手を下ろした。
3068ずいぶん、心を開いてくれたと思う。
ちいさな喜びは肩に感じるフェイスの重みからじわじわ染み込むようだった。ディノがヒーローとして【HELIOS】に復帰した頃のぎこちない関係を思えば、朝のワンシーンのなかで起こる何気ない触れ合いにさえ感動してしまうのも無理はない。かわいい後輩がせっかくセットしている髪を勢い任せに撫で回して台無しにしないよう、ディノは結び終えたネクタイを無意味に調整し続けた。慣れた手つきでいつも通りのヘアスタイルを作り上げたフェイスは小声で「よし」と呟き、ディノの背中から離れていく。肩から消えた重さに寂しさすら感じつつ、ディノもようやくネクタイに触れる手を下ろした。
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DONE🐺🍕×🐈⬛🎧で👿🍣と💀🍺も出てくる。やりたい放題のファンタジーパロです。何でも許せる方向け。
ラ リュミエール 息をひそめ、自らの気配を殺す。
カーテンは閉め切り、電気を消していても、フェイスの目には部屋の中の様子がよく見えた。窓から射し込むランタンの灯りは、リビングの床に二人分の影を伸ばしては縮めていく。尖りきって壁にまで届きそうな三角の影は全部で四つ。フェイスの猫のようにぴんと立てた耳と、隣で膝を抱え背を丸めるディノの、フェイスのものより大きくてふさふさの毛が目立つ耳。そのシルエットがひくひくと落ち着きなく動くのを、フェイスは身動きもせずただじっと見つめていた。
十月三十一日。外から子供たちの興奮した話し声や高い笑い声が聞こえる。きっと彼らは魔物や悪霊の姿を模して、通りの玄関の扉を順番に叩いては大人に菓子を要求している最中だろう。それではなぜ、そんな通りに面した部屋に住む自分たちはこうして身を隠すような真似をしているのか。フェイスはともかく、ディノは普段から街の人間と仲が良い。喜んで道行く子供たち皆に菓子を配りそうなものだが――明白な理由である三角形の影が、フェイスの見る前でまた一回ひくりと動いた。
3706カーテンは閉め切り、電気を消していても、フェイスの目には部屋の中の様子がよく見えた。窓から射し込むランタンの灯りは、リビングの床に二人分の影を伸ばしては縮めていく。尖りきって壁にまで届きそうな三角の影は全部で四つ。フェイスの猫のようにぴんと立てた耳と、隣で膝を抱え背を丸めるディノの、フェイスのものより大きくてふさふさの毛が目立つ耳。そのシルエットがひくひくと落ち着きなく動くのを、フェイスは身動きもせずただじっと見つめていた。
十月三十一日。外から子供たちの興奮した話し声や高い笑い声が聞こえる。きっと彼らは魔物や悪霊の姿を模して、通りの玄関の扉を順番に叩いては大人に菓子を要求している最中だろう。それではなぜ、そんな通りに面した部屋に住む自分たちはこうして身を隠すような真似をしているのか。フェイスはともかく、ディノは普段から街の人間と仲が良い。喜んで道行く子供たち皆に菓子を配りそうなものだが――明白な理由である三角形の影が、フェイスの見る前でまた一回ひくりと動いた。
pie_no_m
REHABILIお題「全部飲み込む」お借りしました。https://shindanmaker.com/590587?c=1
🍕←🎧
両手に掬った恋心 休憩室でココアを一杯。右手に持った紙コップに口をつけながら、左手は携帯端末の液晶の上を滑らせる。新着のメッセージ件数は、この短時間では開いても開いても減らない。「彼女」たちとの関係を絶ったところで、DJとしてのフェイスの交友関係が狭まったわけではない。急ぎでないものの返信は基本的に後回しにせざるを得ない量だった。
メールは一旦置いておいて、気になったのはSNSの通知である。フェイスは何気なく――とは言い切れないほどしっかりした予感を抱えつつ、数字の重なるアイコンをタップした。
新しい投稿に目を通して最初に出てきたものは鼻から抜けるような溜息だったが、それは呆れなどの負の感情が原因ではなくむしろその逆で、画面を見てひとり和んでしまったことに対する、誰にとも言えない弁解に近かった。
1001メールは一旦置いておいて、気になったのはSNSの通知である。フェイスは何気なく――とは言い切れないほどしっかりした予感を抱えつつ、数字の重なるアイコンをタップした。
新しい投稿に目を通して最初に出てきたものは鼻から抜けるような溜息だったが、それは呆れなどの負の感情が原因ではなくむしろその逆で、画面を見てひとり和んでしまったことに対する、誰にとも言えない弁解に近かった。
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DONE※名前有りのモブ娘が登場します※捏造表現過多
愛されたがりの愛し方「護衛?」
フェイスのおうむ返しに、キースが頷く。ウエストセクターの研修チーム四名、その日常生活の中心であるリビングルームには、食欲をそそるトマトとガーリックの香りが漂っていた。時刻は午後七時十分前。ちょうど夕飯時である。首肯の後に「あいつら、遅ぇな」とまだ帰宅していないチームメイトたちへの文句を挟ませてから、キースは話を続けた。
「ブラ……お前のオヤジさんの伝手というか何というか、オレにはそこまで詳しいことはわかんねぇけど……とにかく、大使の娘さん直々のご指名だと」
キースが不明だと言う「詳しいこと」の大半は、彼が聞き流したか忘れたかのどちらか、またはその両方であろうことがフェイスには容易に想像できた。夕食の準備がほぼ整ったカウンターテーブルの前でキースから聞いた話を要約すると、さる国の大使の娘が、数日に渡りニューミリオンに滞在予定である。その間の護衛を、警察ではなく【HELIOS】の『ヒーロー』に頼みたい――それも、ベテランであるメジャーヒーローではなく、入所したばかりのルーキー、フェイス・ビームスを名指しで希望している――らしい。
15276フェイスのおうむ返しに、キースが頷く。ウエストセクターの研修チーム四名、その日常生活の中心であるリビングルームには、食欲をそそるトマトとガーリックの香りが漂っていた。時刻は午後七時十分前。ちょうど夕飯時である。首肯の後に「あいつら、遅ぇな」とまだ帰宅していないチームメイトたちへの文句を挟ませてから、キースは話を続けた。
「ブラ……お前のオヤジさんの伝手というか何というか、オレにはそこまで詳しいことはわかんねぇけど……とにかく、大使の娘さん直々のご指名だと」
キースが不明だと言う「詳しいこと」の大半は、彼が聞き流したか忘れたかのどちらか、またはその両方であろうことがフェイスには容易に想像できた。夕食の準備がほぼ整ったカウンターテーブルの前でキースから聞いた話を要約すると、さる国の大使の娘が、数日に渡りニューミリオンに滞在予定である。その間の護衛を、警察ではなく【HELIOS】の『ヒーロー』に頼みたい――それも、ベテランであるメジャーヒーローではなく、入所したばかりのルーキー、フェイス・ビームスを名指しで希望している――らしい。