薬膳りんごカルピス
PAST音楽科に転科したばかりの高咲が自分の才能に向き合う話『嵐珠ちゃんは許してくれない』ピアノの鍵盤を前にして、私はただ黙って座っていた。
譜面の上には、途中まで書きかけた音符がいくつか並んでいる。でも、どうしても次の一音が思いつかない。どれだけ手を動かしても、心に響くメロディにならない。
─────才能がないんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
もともと普通科にいた私が音楽科に転科したのは、みんなの夢を応援するうちに「音楽」というものに惹かれたからだった。
ピアノは昼休みに遊び半分で弾く程度だったけれど、本格的に学び始めたのは最近のこと。最初のうちは授業についていくのが精一杯で、それでも必死に食らいついてきた。
でも─────
「やっぱり、才能がある人には敵わないのかな……」
ポツリと呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。
1333譜面の上には、途中まで書きかけた音符がいくつか並んでいる。でも、どうしても次の一音が思いつかない。どれだけ手を動かしても、心に響くメロディにならない。
─────才能がないんじゃないか。
そんな考えが頭をよぎる。
もともと普通科にいた私が音楽科に転科したのは、みんなの夢を応援するうちに「音楽」というものに惹かれたからだった。
ピアノは昼休みに遊び半分で弾く程度だったけれど、本格的に学び始めたのは最近のこと。最初のうちは授業についていくのが精一杯で、それでも必死に食らいついてきた。
でも─────
「やっぱり、才能がある人には敵わないのかな……」
ポツリと呟いた言葉は、空気に溶けて消えていく。
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DOODLE後日談🔖💧🔖「そういえば吸血鬼は美しい女性ばかりを好んで血を吸うみたいですね……おや、しずくさん…」
💧「え、えっ、ちょっと栞子さん待っ──」
🔖「動かないで」
💧「…っ」
🔖「…取れました。襟元に糸くずが付いてましたよ」
💧「あ、そういうこと…」
🔖「ふふ、首筋抑えてどうしたんですか?」
153💧「え、えっ、ちょっと栞子さん待っ──」
🔖「動かないで」
💧「…っ」
🔖「…取れました。襟元に糸くずが付いてましたよ」
💧「あ、そういうこと…」
🔖「ふふ、首筋抑えてどうしたんですか?」
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PAST高咲と歩夢ちゃんが一緒に登下校する話『そういうの』冬の空気は頬に冷たく、吐く息が白く曇る。私たちは放課後の帰り道、人気の少ない公園のベンチで一息ついていた。マフラーをぐるぐる巻きにして、コートのポケットに手を突っ込んでいるけれど、それでもやっぱり寒い。
隣で侑ちゃんが空を見上げている。彼女の顔がほんのり赤いのは、寒さのせいだろうか。それとも夕焼けの光のせいだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、私はぎゅっと肩をすくめる。
「歩夢、こっちきて」
突然、侑ちゃんが私を呼ぶ。その声に顔を上げると、彼女はじっと私を見つめていた。
「え、なに?」
少し不安になりながらも、私は彼女の近くに寄る。すると、侑ちゃんは何も言わずに自分の首に巻いていたマフラーを外して、それを私の首に優しく巻きつけた。
1559隣で侑ちゃんが空を見上げている。彼女の顔がほんのり赤いのは、寒さのせいだろうか。それとも夕焼けの光のせいだろうか。そんなことをぼんやり考えながら、私はぎゅっと肩をすくめる。
「歩夢、こっちきて」
突然、侑ちゃんが私を呼ぶ。その声に顔を上げると、彼女はじっと私を見つめていた。
「え、なに?」
少し不安になりながらも、私は彼女の近くに寄る。すると、侑ちゃんは何も言わずに自分の首に巻いていたマフラーを外して、それを私の首に優しく巻きつけた。
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PAST🎀「愛ちゃんってさ、美里さんと話すときの声ワントーン高いよね」🙌「…え?」
『特別な声』愛ちゃんと私は、放課後の道を並んで歩いていた。冬の空気が頬を刺すけれど、彼女と話しているとその冷たさもどこか心地よい。夕暮れに溶け込む彼女の横顔は、どこか暖かさを持った月明かりのようで、私の心を穏やかにしてくれる。
「ねぇ、愛ちゃん。」
「ん? どうしたの、歩夢?」
振り返った愛ちゃんの声は、いつものように軽やかで明るい。それが聞きたくて、私はいつも彼女に話しかけてしまう。
「この前、美里さんと話してるとき、愛ちゃんの声、少しワントーン上がってたよね。」
何気なく言った言葉だった。けれど、その瞬間、愛ちゃんの足が止まったのが分かった。振り向くと、彼女は目を大きく見開き、唇を少し開いている。
「……え?」
小さな声がこぼれる。夕焼けが、彼女の顔を薄紅色に染めていく。頬を彩るその色は、冬の冷たい風と対照的に、春先の花びらのように優しかった。
1343「ねぇ、愛ちゃん。」
「ん? どうしたの、歩夢?」
振り返った愛ちゃんの声は、いつものように軽やかで明るい。それが聞きたくて、私はいつも彼女に話しかけてしまう。
「この前、美里さんと話してるとき、愛ちゃんの声、少しワントーン上がってたよね。」
何気なく言った言葉だった。けれど、その瞬間、愛ちゃんの足が止まったのが分かった。振り向くと、彼女は目を大きく見開き、唇を少し開いている。
「……え?」
小さな声がこぼれる。夕焼けが、彼女の顔を薄紅色に染めていく。頬を彩るその色は、冬の冷たい風と対照的に、春先の花びらのように優しかった。
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PAST遥ちゃんの結婚前夜、卵焼きを作る彼方ちゃんの話。『お姉ちゃん直伝の卵焼き』結婚式の前夜って、どんな感じなんだろうね〜?
緊張するのか、それともワクワクが勝っちゃうのか─────そんなことを考えながら、キッチンで卵を割る音に集中してた。
「あれ、ちょっと焦げちゃったかも?」
形が少し不格好になった卵焼きを巻き直して、さらにもうひとつ。これで最後の仕上げ。お皿にふんわり盛り付けたら、完成だよ。
「遥ちゃん、ご飯できたよ〜!」
リビングで準備をしていた遥ちゃんを呼ぶと、小走りでこっちにやってきた。
「お姉ちゃん、ありがとう。卵焼きなんて久しぶりだね。」
笑顔でそう言う彼女の顔は、どこか浮かれていて、でも少し寂しそうにも見える。
「いつもみたいに彼方ちゃん特製だよ。さ、召し上がれ〜。」
そう言って、箸を差し出すと、遥ちゃんはふふっと笑ってひと口食べた。
1436緊張するのか、それともワクワクが勝っちゃうのか─────そんなことを考えながら、キッチンで卵を割る音に集中してた。
「あれ、ちょっと焦げちゃったかも?」
形が少し不格好になった卵焼きを巻き直して、さらにもうひとつ。これで最後の仕上げ。お皿にふんわり盛り付けたら、完成だよ。
「遥ちゃん、ご飯できたよ〜!」
リビングで準備をしていた遥ちゃんを呼ぶと、小走りでこっちにやってきた。
「お姉ちゃん、ありがとう。卵焼きなんて久しぶりだね。」
笑顔でそう言う彼女の顔は、どこか浮かれていて、でも少し寂しそうにも見える。
「いつもみたいに彼方ちゃん特製だよ。さ、召し上がれ〜。」
そう言って、箸を差し出すと、遥ちゃんはふふっと笑ってひと口食べた。
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PAST彼方ちゃんと遥ちゃんと食卓を囲む近江母の話。『近江家の食卓』アルバムをめくるたびに、あの頃の記憶が鮮やかに蘇る。
彼方と遥が小さかった頃の写真は、どれも愛おしい。ちょっとした仕草や表情まで、今も鮮明に思い出せるから不思議だ。
ページをめくると、とある一枚が目に留まった。キッチンで撮った一枚だ。彼方が包丁を持ち、遥がその横で泣きじゃくっている。私は思わず微笑んだ。
「おねえちゃん…いたい…いやぁ…しんじゃいやぁ……」
遥がそう叫んだときのことが、頭の中によみがえる。
あの日、私はキッチンで夕食の支度をしていた。彼方は「お手伝いする!」と張り切って、包丁を使いたがった。
まだ5歳、包丁を持たせるには少し早いかなと思ったけれど、彼方の真剣な目を見て、つい許してしまった。
案の定、彼方は指先を軽く切ってしまった。ほんの小さな傷だったけれど、遥にはそうは見えなかったらしい。
1045彼方と遥が小さかった頃の写真は、どれも愛おしい。ちょっとした仕草や表情まで、今も鮮明に思い出せるから不思議だ。
ページをめくると、とある一枚が目に留まった。キッチンで撮った一枚だ。彼方が包丁を持ち、遥がその横で泣きじゃくっている。私は思わず微笑んだ。
「おねえちゃん…いたい…いやぁ…しんじゃいやぁ……」
遥がそう叫んだときのことが、頭の中によみがえる。
あの日、私はキッチンで夕食の支度をしていた。彼方は「お手伝いする!」と張り切って、包丁を使いたがった。
まだ5歳、包丁を持たせるには少し早いかなと思ったけれど、彼方の真剣な目を見て、つい許してしまった。
案の定、彼方は指先を軽く切ってしまった。ほんの小さな傷だったけれど、遥にはそうは見えなかったらしい。
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PASTかすみんのファンイベントのお手伝いをするコッペパン同好会のモブ(コペ子)の話『かすみん感謝祭』私の毎日は、コッペパンの香りと共にある。生地をこねているときの静かな時間や、焼き上がる香ばしい匂いが心を落ち着けてくれるからだ。私はこれを、ひっそりと、自分だけの喜びとして楽しんでいた。けれど、彼女に出会ってから、その平凡な時間は、少しずつ色を帯び始めた。
中須かすみ───同じ1年生で、同じ趣味を持ちながら、私とはまるで違う人。
彼女は舞台の上で輝く星みたいな存在だ。小さな体に大きな自信をまとい、周りを笑顔で照らすその姿。私にとってそれは、眩しくて、美しくて、触れることさえ憚られるものだった。けれど不思議なことに、彼女は私に「ありがとう」をくれる。ライブの応援をしただけの私にさえ、まるで私が何か特別な存在であるかのように微笑むのだ。
3145中須かすみ───同じ1年生で、同じ趣味を持ちながら、私とはまるで違う人。
彼女は舞台の上で輝く星みたいな存在だ。小さな体に大きな自信をまとい、周りを笑顔で照らすその姿。私にとってそれは、眩しくて、美しくて、触れることさえ憚られるものだった。けれど不思議なことに、彼女は私に「ありがとう」をくれる。ライブの応援をしただけの私にさえ、まるで私が何か特別な存在であるかのように微笑むのだ。
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PASTお互いの「特別」が羨ましい、桜坂と遥ちゃんの話『硝子越しの夕陽』一面に広がる砂浜は、オレンジとピンクの絵の具を溶かし込んだような空の下、静かに波の音を反射していた。沈みゆく太陽が海を照らし、波間には揺れる金箔が散らばる。私たちの影は細長く伸び、海風がそっと頬を撫でていく。
目の前には遥さんがいる。彼方さんの妹でありながら、その穏やかな物腰はどこか姉のような落ち着きを感じさせる。不思議な人だと思う。彼方さんの柔らかさを受け継ぎながらも、彼方さんとはまた違う芯の強さがある。
「私、遥さんが羨ましいです。毎日彼方さんと一緒にいられて。」
そう言った瞬間、自分の声が砂に染み込んでいくような儚さを覚えた。ほんの小さな嫉妬が混じっていたのかもしれない。でも、遥さんは驚くでもなく、静かに微笑んでくれた。
1366目の前には遥さんがいる。彼方さんの妹でありながら、その穏やかな物腰はどこか姉のような落ち着きを感じさせる。不思議な人だと思う。彼方さんの柔らかさを受け継ぎながらも、彼方さんとはまた違う芯の強さがある。
「私、遥さんが羨ましいです。毎日彼方さんと一緒にいられて。」
そう言った瞬間、自分の声が砂に染み込んでいくような儚さを覚えた。ほんの小さな嫉妬が混じっていたのかもしれない。でも、遥さんは驚くでもなく、静かに微笑んでくれた。
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PAST自分の1/7スケールフィギュアの試作品をまじまじと鑑賞される栞子さんの話『1/7の純情な感情』部室のドアを開けると、すでに歩夢さんと侑さんが中で談笑していた。穏やかな時間が流れるいつもの部室だが、今日は少しだけ空気が違う気がする。歩夢さんは私を見つけると、いつも以上に嬉しそうな笑顔を浮かべ、すぐに話しかけてきた。
「栞子ちゃん、聞いたよ!フィギュア化おめでとう!」
「ありがとうございます……」
やはりこの話題か。内心、嬉しい気持ちはある。けれど、この何とも言えない複雑な感情は何なのか。
自分のスケールフィギュアが発売されるなんて、普通の高校生では考えられないことだろう。でも、スクールアイドルとして活動している私にとっては、それが「普通」なのだと嫌でも思い知らされる。
「そういえば、なんで私たちのグッズって、知らない間に商品化されて売られてるんだろう?」
3461「栞子ちゃん、聞いたよ!フィギュア化おめでとう!」
「ありがとうございます……」
やはりこの話題か。内心、嬉しい気持ちはある。けれど、この何とも言えない複雑な感情は何なのか。
自分のスケールフィギュアが発売されるなんて、普通の高校生では考えられないことだろう。でも、スクールアイドルとして活動している私にとっては、それが「普通」なのだと嫌でも思い知らされる。
「そういえば、なんで私たちのグッズって、知らない間に商品化されて売られてるんだろう?」
薬膳りんごカルピス
PAST桜坂と栞子さんが観劇デートする話『水色と翡翠色』午後の日差しが柔らかく降り注ぐ中、いつものように私は少し早めに待ち合わせ場所に着いた。休日にしずくさんとふたりきりで遊ぶ約束をしたことは勿論、一緒に観劇をするのも今日が初めてだ。彼女が誘ってくれたことを嬉しく思う反面、何かが少しだけ胸に引っかかる感覚があった。だが、そんな気持ちを心の奥に押し込めて、私は約束の場所へと足を進めた。
そこには、既に白いワンピースを纏い、端正な佇まいを見せるしずくさんがいた。
彼女はまるで銀幕から抜け出してきた女優さんのようで、その姿を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。遠目からでも一目で美少女とわかる、その透明感溢れる容姿に、私は一瞬、現実感を失った。
「しずくさん、お待たせしました」
3383そこには、既に白いワンピースを纏い、端正な佇まいを見せるしずくさんがいた。
彼女はまるで銀幕から抜け出してきた女優さんのようで、その姿を見た瞬間、私は思わず息を呑んだ。遠目からでも一目で美少女とわかる、その透明感溢れる容姿に、私は一瞬、現実感を失った。
「しずくさん、お待たせしました」
薬膳りんごカルピス
PASTせつ菜の私服センスを見かねた中須が本人をフルコーディネートしていく話『朱に交わればなんとやら』待ち合わせのカフェで待っていると、少し遅れてやってきたせつ菜先輩が見えた。正直、ちょっと驚いた。普段から時間に正確なせつ菜先輩が遅れて来たこともそうなんだけど、多分、今気にすべきはそんなことではない。
せつ菜先輩、毎度のことだけど、今日の服装もダサ……うん、独特すぎる。
「かすみさん、お待たせしてすいません!」
いつものように元気に駆け寄ってくるせつ菜先輩。しかし、その顔はどこか申し訳なさそう。
「もう、ほんとですよ。かすみん、待ちくたびれて帰っちゃうところでした」
嘘だ。遅れたとは言ってもせいぜい5分程度。正直、私も今来たばかりで時間的にそれほど待ってもいない。ただ、いつも真面目なせつ菜先輩をほんの少しだけ困らせたくなった。
2253せつ菜先輩、毎度のことだけど、今日の服装もダサ……うん、独特すぎる。
「かすみさん、お待たせしてすいません!」
いつものように元気に駆け寄ってくるせつ菜先輩。しかし、その顔はどこか申し訳なさそう。
「もう、ほんとですよ。かすみん、待ちくたびれて帰っちゃうところでした」
嘘だ。遅れたとは言ってもせいぜい5分程度。正直、私も今来たばかりで時間的にそれほど待ってもいない。ただ、いつも真面目なせつ菜先輩をほんの少しだけ困らせたくなった。
薬膳りんごカルピス
PASTせつ菜先輩に似た人魚の夢を見た中須の話『青の夢』夢を見ていた。人魚の夢。
水槽の中をゆっくりと泳ぐ人魚が一人。艶やかな黒髪が水に揺れるたび、鱗がきらめいて光を反射する。その姿はどこか神秘的で、美しかった。人魚は楽しげに水の中を舞いながら、時折こちらを見ては優しく微笑む。
「せつ菜先輩みたい……」
その笑顔が、どうしてもせつ菜先輩の姿と重なって見える。あどけなさの残る整った顔立ちも、艶やかな黒髪も、楽しそうな笑顔も、まるでせつ菜先輩そのものだ。
私に何かを伝えたいのだろうか。人魚の唇がゆっくりと動く。しかし、どれだけ耳を澄ませても、声は聞こえない。こちらの様子に気づいた彼女は、自身の喉にそっと手を当てる。何かを探るように震えるその手、何度も動く唇。まるで"大切な何か"を失ったかのような悲しみが、その表情には滲んでいた。その姿に胸が締め付けられるような痛みがこみ上げる。痛々しくも儚く、割れ物のガラスのように輝くその美しさに、私は心を奪われた。その美しさに惹かれることで、何かを補おうとするかのように。
879水槽の中をゆっくりと泳ぐ人魚が一人。艶やかな黒髪が水に揺れるたび、鱗がきらめいて光を反射する。その姿はどこか神秘的で、美しかった。人魚は楽しげに水の中を舞いながら、時折こちらを見ては優しく微笑む。
「せつ菜先輩みたい……」
その笑顔が、どうしてもせつ菜先輩の姿と重なって見える。あどけなさの残る整った顔立ちも、艶やかな黒髪も、楽しそうな笑顔も、まるでせつ菜先輩そのものだ。
私に何かを伝えたいのだろうか。人魚の唇がゆっくりと動く。しかし、どれだけ耳を澄ませても、声は聞こえない。こちらの様子に気づいた彼女は、自身の喉にそっと手を当てる。何かを探るように震えるその手、何度も動く唇。まるで"大切な何か"を失ったかのような悲しみが、その表情には滲んでいた。その姿に胸が締め付けられるような痛みがこみ上げる。痛々しくも儚く、割れ物のガラスのように輝くその美しさに、私は心を奪われた。その美しさに惹かれることで、何かを補おうとするかのように。
薬膳りんごカルピス
PAST旧同好会組がせつ菜のためにお披露目ライブのリベンジをする話『リベンジライブ』『今日の放課後集まれますか?』
気の抜けた通知音に促されるまま、寝ぼけ眼で画面を覗き込むと、同好会のグループチャットに新着のメッセージが入っていた。送信者はかすみちゃん。ユニットライブの打ち合わせかな?今日は同好会の活動もバイトもお休みなので予定は空いてたはず。
あれ?このグループってたしか──────
懐かしいな。まだ残ってたんだ。同好会が解散の危機に瀕していた際に、情報共有用としてかすみちゃんが作った4人だけのグループチャット。
『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』
グループ名こそ今と同じだが、招待されてるメンバーの数が明らかに少ない。メンバーはかすみちゃんにしずくちゃん、彼方ちゃんに、エマちゃんの4人。本来であればここにもうひとり、彼方ちゃん達もよく知る部員の名前があるはずなんだけど、あの時はその子の所在はおろか正体すらもわからなかったからなぁ。
3817気の抜けた通知音に促されるまま、寝ぼけ眼で画面を覗き込むと、同好会のグループチャットに新着のメッセージが入っていた。送信者はかすみちゃん。ユニットライブの打ち合わせかな?今日は同好会の活動もバイトもお休みなので予定は空いてたはず。
あれ?このグループってたしか──────
懐かしいな。まだ残ってたんだ。同好会が解散の危機に瀕していた際に、情報共有用としてかすみちゃんが作った4人だけのグループチャット。
『虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会』
グループ名こそ今と同じだが、招待されてるメンバーの数が明らかに少ない。メンバーはかすみちゃんにしずくちゃん、彼方ちゃんに、エマちゃんの4人。本来であればここにもうひとり、彼方ちゃん達もよく知る部員の名前があるはずなんだけど、あの時はその子の所在はおろか正体すらもわからなかったからなぁ。
薬膳りんごカルピス
PAST重めな中須の話『ぬくもり』昼休みが始まると、いつものように教室の片隅にある席に向かった。しかし、今日はいつもと違う。身体が鉛のように重く、胃のあたりに鈍い痛みが広がっている。最悪だ。よりにもよってこのタイミングで。
私は席に着くなり、そのまま机に突っ伏してしまった。
「かすみちゃん、大丈夫?」
廊下の窓際から声をかけられ、顔を上げるとそこには歩夢先輩が心配そうにこちらを見ていた。両手で抱えられた教科書やノートの類を見るに、どうやら移動教室の途中だろう。いつも笑顔の彼女が、今日は少し眉をひそめている。
「……大丈夫です あー、でもただ少し…疲れちゃって」
そう言ったものの、私の体調が悪いのは歩夢先輩の目から見ても一目瞭然なようで、無理に笑おうとする私に、歩夢先輩は優しく微笑んだ。
1022私は席に着くなり、そのまま机に突っ伏してしまった。
「かすみちゃん、大丈夫?」
廊下の窓際から声をかけられ、顔を上げるとそこには歩夢先輩が心配そうにこちらを見ていた。両手で抱えられた教科書やノートの類を見るに、どうやら移動教室の途中だろう。いつも笑顔の彼女が、今日は少し眉をひそめている。
「……大丈夫です あー、でもただ少し…疲れちゃって」
そう言ったものの、私の体調が悪いのは歩夢先輩の目から見ても一目瞭然なようで、無理に笑おうとする私に、歩夢先輩は優しく微笑んだ。
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DOODLE妄想です三船栞子さんの手紙歩夢さんへ
ご卒業おめでとうございます。長い間、私が胸に秘めてきた想いを、今こうして手紙に綴ります。
ずっと心の中で迷っていました。この秘密をあなたに伝えるべきか、それともこのまま黙っていようかと。でも、かつて「素直でもっといたい」とみなさんの前で歌った自分を思い出した時、気付きました。自分の気持ちを偽ることは、自分自身に嘘をつくことなのだと。だから話します。嘘偽りのない、私の本当の気持ちを。
歩夢さん、ずっとあなたのことが大好きでした
あなたの肩が触れるだけでその目を見つめられなくなり、指が触れるだけで何もできなくなってしまうほどに、あなたの一言に思いを巡らせ、浮き足立つ自分がいました。
優しいあなたが大好きでした。
1093ご卒業おめでとうございます。長い間、私が胸に秘めてきた想いを、今こうして手紙に綴ります。
ずっと心の中で迷っていました。この秘密をあなたに伝えるべきか、それともこのまま黙っていようかと。でも、かつて「素直でもっといたい」とみなさんの前で歌った自分を思い出した時、気付きました。自分の気持ちを偽ることは、自分自身に嘘をつくことなのだと。だから話します。嘘偽りのない、私の本当の気持ちを。
歩夢さん、ずっとあなたのことが大好きでした
あなたの肩が触れるだけでその目を見つめられなくなり、指が触れるだけで何もできなくなってしまうほどに、あなたの一言に思いを巡らせ、浮き足立つ自分がいました。
優しいあなたが大好きでした。
薬膳りんごカルピス
PAST同好会のみんなの夢を見た"あなたちゃん"の話『あなただけがいないまち』「どうしたの?すごくうなされてたよ?悪い夢でもみた?」
───夢を見ていた。同好会のみんなの夢。
私だけがいない部室で歩夢ちゃん達がマネージャーの女の子を囲んで、楽しそうに笑う夢。
『歩夢ちゃん…!私はここにいるよっ!歩夢ちゃん!』
近くで必死に叫んでも私の声はみんなには届かない。マネージャーの子と親しげに話す歩夢ちゃんは、心なしかいつもより楽しそうで、そんなみんなの姿を見ていると、まるで自分はこの世界に必要ないって言われてるみたいで、それが不安で、悲しくて───
「そっか。怖くなっちゃったんだね。大丈夫だよ。私はずっとそばにいるよ。」
そう言って私の頭を撫でる歩夢ちゃんの声は、いつもよりも優しい。
「ありがとう。歩夢ちゃん…」
488───夢を見ていた。同好会のみんなの夢。
私だけがいない部室で歩夢ちゃん達がマネージャーの女の子を囲んで、楽しそうに笑う夢。
『歩夢ちゃん…!私はここにいるよっ!歩夢ちゃん!』
近くで必死に叫んでも私の声はみんなには届かない。マネージャーの子と親しげに話す歩夢ちゃんは、心なしかいつもより楽しそうで、そんなみんなの姿を見ていると、まるで自分はこの世界に必要ないって言われてるみたいで、それが不安で、悲しくて───
「そっか。怖くなっちゃったんだね。大丈夫だよ。私はずっとそばにいるよ。」
そう言って私の頭を撫でる歩夢ちゃんの声は、いつもよりも優しい。
「ありがとう。歩夢ちゃん…」
薬膳りんごカルピス
PAST「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」「うん。知ってた」
幼馴染の花嫁姿を見送る、高咲の話
「福音」私は立ちすくんだまま、祭壇の前に佇む歩夢を見つめていた。彼女の笑顔は純粋で、どこか懐かしさを感じさせる。ほんと、小さい頃から何も変わってない。幼い頃から共に過ごしてきた記憶は、まるで昨日のことのように鮮明で、それらが心を埋め尽くすたびに、胸が締め付けられる。
披露宴が終わり、参加者が帰り支度を始める中、私はやっとの思いで歩夢に近づいた。彼女は振り向き、静かに微笑む。
「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」
歩夢の言葉は、まるで時が止まったかのように私の心に響いた。本当はずっと前から気づいていた。でも、私が知らないふりをし続けたせいで、ついぞ、名前さえつかなかった歩夢の感情。それが今、私の目の前にある。
946披露宴が終わり、参加者が帰り支度を始める中、私はやっとの思いで歩夢に近づいた。彼女は振り向き、静かに微笑む。
「ねえ、侑ちゃん。私、ずっと侑ちゃんのこと好きだったんだよ。友達として、じゃなくてひとりの女の子として」
歩夢の言葉は、まるで時が止まったかのように私の心に響いた。本当はずっと前から気づいていた。でも、私が知らないふりをし続けたせいで、ついぞ、名前さえつかなかった歩夢の感情。それが今、私の目の前にある。