嫌いの上塗り ぱっ、と夏の夜空に眩いばかりの大輪の花が咲く。
地が震えるような轟音と共にひとつ、またひとつと大きく花開くそれはその圧倒的な存在感を持って見る者の視線を惹き付けて止まない。
「………………」
チッ。
思わず口から零れそうになった舌打ちは、万が一にも隣にいる梅宮や他の誰の耳にも届かないようぎりぎりのところで心の内に閉じ込めた。
花火を見ると、どうしてもあの時のことを思い出す。
今からおよそ一ヶ月半程前。
深夜0時から始まり、日が昇り始めるより前に終着を迎えた、時間にしてたった数時間にしか満たない初夏の出来事。
それが未だ色濃く、そして薄れる兆しすらなく杉下の脳裏にこびりついたままでいる。
(…どうせ今、空を見上げながらマヌケ面でも晒してんだろ)
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