愛染春布 ふと意識が上昇した。
閉じたままだが、まぶたの裏側に白い光を感じて朝が来たことを知る。寝室の扉の向こう側からはパタパタと往復する軽い足音。いつの間にやら隣から抜け出た暁人だろう。起き抜けにアイツが開けたのか窓から入る柔らかい風が頬にあたり、それが爽やかで清潔な香りも運んできた。
そう言えば昨日寝る前に「明日は晴れるみたいだね」と嬉しそうに笑っていたなと思い出す。暁人は晴れると嬉々として洗濯機を回しては物干し竿に並べていくのだ。「オマエは洗濯狐か」とつっこんだオレに、暁人は「なにそれ」と言うもんだから説明してやったのも懐かしい。
そんなことをつらつら考えていると、また意識がぬるま湯に沈んでいくような感覚に陥る。ここ数年感じることのなかったそれは、『安らぎ』というやつなんだろう。
1606