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    あんこ

    @koshian__ankoro

    書きかけを投げる倉庫/すべて未完/20↑

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    あんこ

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    片想いしてるクズな五条と身体の関係を始めてしまう伊の話

    #五伊地
    goiji

    屑の弁解 誠実な人が好きだ。相手の気持ちに真摯に向き合い、思いやりのある行いをしてくれる人が。


     五条さんは複数の女性とお付き合いをしている。その事を知ったのは、補助監督の職に就き五条さんを送迎する機会が増えた時だった。車での帰宅途中、時折黒い目隠しからサングラスへ変える日がある。そんな日は必ず、五条さんは高専や自宅には帰らずに私へ指定した場所を伝え、そこに向かうのだ。場所は様々だが、到着すれば高確率で女性がいる。女性が見当たらない日もあったが、きっと別の所で待ち合わせをしているのだろう。車から降りる時の五条さんは「じゃ、お疲れ」とおざなりに私へ挨拶した後、颯爽とした足取りで去っていくのだ――――私がどんな思いで、見送っているかも知らずに。
     始まりは確か半年くらい前か。祓除の任務を終えた後、次の案件現場へ五条さんを送っていた時だ。突然、後部座席から「次の祓除は何時から」と訊ねられた。発生条件の一つに時間の指定がある呪霊で、その時間を五条さんへ伝えた。するとすぐ「ここに寄って」と言葉を投げられると共に、長い腕が伸びてきてスマホの画面を見せられた。両手でしっかりとハンドルを握り、安全運転を心掛けながら視線をスマホの画面へ落とせば、映されていたのは地図だった。だが、場所が問題で、私の眉間に皺が寄る。
    「勤務中ですよ」
    「野暮だな〜。僕くらい忙しいと、合間に遊ぶんだよ」
     ラブホテルへ向かおうとする事を咎めた私に、五条さんは飄々とした態度で返した。
    「ですが、認められません」
     しかし、頑なに咎め続ける私に五条さんの態度が一変した。
    「オマエが認めるかどうかの話じゃないんだよ。出せ」
     ドン、と背凭れを軽く蹴られる。座席が振動し、肝を冷やした。
    「できません」
    「出せ」
    「せめて勤務後に……」
    「する時間がねぇから今ヤるんだろ。何、じゃあオマエがどうにかしてくれんの?」
     私がどうにかする? 何を言っているんですか。そう言葉にしようとしたが、咄嗟に開いた口はまったく別の言葉を吐いていた。
    「はい。私がどうにかしてみせます」
     自分の発した言葉が、信じられなかった。
    「……マジで?」
    「はい」
    「僕に男とヤれって?」
    「……はい」
     シン――と静まり返る車内に、私は冷や汗を流した。しまった、間違えた。何を言っているんだ、は私じゃないか。どうにかできるわけがない。身体中の血液が足元まで下り頭がズキズキと痛み、頭を抱えたくなる。
    「停めて」
     と突然、五条さんが駐車するように指示してきた。山間の道路で他に走行している車はなかった為すぐ路肩に駐車しハザードランプを点滅させる。
    「後ろにきて」
     ――――これは……怒られるか。恐々とした気持ちで、私は運転席から後部座席へ移動した。
    「さっきの話だけど、オマエがやってくれるならホテル行かないよ」
    「え?」
    「仕事中にホテルに行くのがダメなんでしょ? ならここでしようか」
     スマホを弄りながら話す五条さんへ、私は訳もわからず顔を向けた。
    「ハイ。今女に断りの連絡したから、僕の相手をするのはオマエしかいないワケだ」
     口角を上げながら放たれたその言葉に、私はやっと今の状況を理解した。
    「何言って……、本気ですか?」
    「僕ウソつかないよ。あとオマエが座るのは、ここ」
     五条さんが指した場所は、彼の足元にあるフロアマットだ。あまりに現実味のない急な展開に、私はそこから視線を外せなくなる。と同時、心臓が早鐘を打ち始めた。
    「舐めろ」
     温度を感じられない低い声の要求に――恐怖からか、それとも五条さんへ向けている感情からか――私は逆らう事をせず、彼が求めるままに応じた行為をした。
     彼がどんな目で私を見ていたかも知らずに。


    「意外とうまいじゃん」
     事が終わった後、私をそう褒めた五条さんは唇をつり上げて笑った。
    「ご褒美やらないとね」
     ぐっと顔を近づけてきた五条さんに、私は戸惑いをあらわにしてぎゅっと目を瞑った。
    「(いや、嘘でしょう? まさか――)」
     はっ、と小馬鹿にしたような、鼻で笑う声が聞こえた。
    「ウケる。されると思った?」
    「……は?」
    「僕はさ、キスは遊びじゃないとしないんだよね。本気のヤツにすると、後が面倒だから」
     いまだフロアマットに尻をつけて座り込む私を見下ろした五条さんは、ことさら明るい声で言った。
    「オマエ、本当に僕が好きなんだね。何でも言う事聞いちゃってさ……始めは男なんかキショッて思ったけど、意外と悪くなかったよ。つーわけで、これからよろしくね」
     ポン、と軽く頭を撫でられた私は、この時になってやっと気付いたのだ――――黒い布で覆われている碧い目が、冷たい色を帯びているだろう事に。

     ◇ ◇ ◇

     半年前のあの日から、私と五条さんの関係が始まった。しかし、不特定多数の女性とお付き合いをしていた五条さんでもさすがに男の身体には興奮はしないのか、私自身を求められる事はなく、ひたすら私が五条さんへ奉仕する日が続いた。
     送迎中に五条さんが目隠しからサングラスへ替える時が合図だ。その合図を送られた日が五条さんの性欲処理をする日となる。
     五条さんと不健全な関係をもつ自分に軽蔑する日々。けれど、どんな形であろうと五条さんに必要とされていると実感してしまうこの行為を、私はやめる事ができなかった。辛い、やめたい、嬉しい、やめたくない――そんなちくはぐな心に精神が削られていくのに、なぜ五条さんと身体の関係を続けているのか――――答えは簡単だ。
     私は、不誠実な五条さんに恋をしている。
     きっかけは覚えていないが、最初は純粋に男として五条さんに惹かれたことは鮮明に記憶している。恵まれた体躯と明晰な頭脳をもって、相伝された難解な術式を駆使する抜群なポテンシャルの高さに憧れた。軽薄でいい加減な物言いをするが、物事の真髄を見極める判断力をもっていることに気付いた時は素直に尊敬した。
     時には人を揶揄い、敵と見做した相手には人間離れした容赦の無さを見せる。しかし、決して情が無い人ではない。五条さんが学生の頃から付き合いのある人達や、生徒達へ向ける情は様々だ。友愛、親愛、敬愛、慈愛――そう、五条さんは愛情を知っている人だ。
     それを知った時、私は五条さんへますます惹かれた。その惹かれ続けた気持ちが、いつの間にか恋になっていたのだ。そして、五条さんに恋をしてから五条さんについて知った事が二つある。一つは、仲間や生徒へ向けていないある愛情を女性へ抱えている事だ。
     性愛だ。五条さんが唯一、女性へ向けている情である。その事を知った時私は酷く傷付いたものだが、五条さんが女性へその情を向けている事に耐える事はできた。なぜなら、五条さんは一人の女性ではなく不特定多数の女性へその愛情を抱えているからだ。
     五条さんを見送る時に、時折見かける女性は毎回異なる為、五条さんは同じ女性とは何度も付き合わないらしい。が、女性側はそう思っていないと、彼女達を見ていたらわかる。私が抱えているものと同じ情を――――恋情を秘めている目を五条さんへ向けているからだ。けれど、五条さんは向けられている情に気付いていながら、性愛以外の愛情を彼女達へ向ける事は一切無い。
     なんて誠実さに欠けた人なのだろうか――それがもう一つの、五条さんに恋をしてから知った事だ。
     そんな五条さんと関係を続けていたある日、思いもよらない提案をされた。
    「今日は最後までしてみない?」
     普段通り五条さんを送っていた時に後ろから投げられた唐突な誘いに、私は初め意味を理解できずに疑問を返した。
    「? 最後とは?」
    「カマトトぶんなよ。僕とオマエの事なんだから、アレしかないじゃん」
     五条さんと私の事で〝アレ〟――――瞬時に理解した私は驚きのあまり急ブレーキを踏みそうになったが、なんとか耐えてバックミラー越しに五条さんを見やった。
    〝サングラスをかけていない〟五条さんが、目隠しを通り越して私をじっと見つめている。たらり、と汗がこめかみを流れた。瞳の色が見えないことが、どうしようもなく不安で、怖かった。
    「……本気ですか?」
    「僕ウソつかないよ」
     口角を上げたまま軽く放たれた言葉をすぐに信じる事はできなかった。あの日からずっと、ひたすら奉仕する私を上から眺めるだけで触れることをしてこなかった五条さんが、今日は〝最後まで〟? それはつまり、私へ〝触れる〟という事だ。
    「確認なのですが……〝最後まで〟とは、つまり……」
    「え? 言わなきゃわかんない? 伊地知のケツ穴に僕のちんこ突っ込むって事」
    「ケ……ッ」
     その赤裸々な物言いに顔を赤くした私を見て、五条さんは、はっと鼻で笑うと上体を前へ屈めて私の耳元に唇を近づける。吐息から感じる熱に心が乱されないよう、ギュッとハンドルを強く握った。
    「で? どうする?」
     彼の低い声に、鼓膜と心が震えた。
    「わ、たしは……男、ですよ?」
    「な〜に当たり前のこと言ってんだよ、知ってるけど。…………ちなみに、伊地知の舌が、他の子達と比べると長いことも知ってる」
    「……ッ!?」
     スリ、と。気付かないうちに後ろから伸びてきた太くも滑らかな長さをもつ指で唇を摩られる。その意味ありげな触れ方になんとも言えない感情が芽生え、言葉を失っていれば、五条さんが畳み掛けるように続けた。
    「する? しない?……まぁ、伊地知が決めていいよって言いたいところだけど、オマエの返事待ってたら日が暮れそうだし〝する〟に決まりね。じゃ、はいそこ。二つ目の交差点を右に曲がって」
     私の唇を撫でた指が前方にある交差点を指した後、今度は右斜めの方向を指した。整えられた丸く形のいい艶のある爪先に、視線が吸い寄せられそうになる。あの指が、私の唇に触れたのだ。指の腹を押し付けてくるようにして優しく触れてきた。
     女性を抱く時、あの指でどのように肌へ触れてくるのだろう。美しい青い瞳と形の良い唇はどのように見つめ、そして言葉を囁くのか。そんな好奇心が思考を埋め尽くすと同時、私の頭の中で思い浮かぶのはある光景だ。
     送迎中の車内でバックミラーに映る、女性と会う為にサングラスをかける五条さん。待ち合わせ場所で私を置いて、私の知らない女性の元へ向かう五条さんの背中。
     五条さんは女性を抱くのと同じように、私を抱いてくれるだろうか。
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