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    クロヒル&ロレマリの話、ロレマリ後日談の話です。この話はこれでおしまいです。エドマンド辺境伯がらみの捏造が我ながら本当にヒッデェなと思います。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。

    #ロレマリ
    lloremali

    19.sequel:L&M 紋章を持つ貴族同士の婚姻は動物の品種改良と似ている。好ましい形質が確実に顕になるよう交配していくからだ。逆に好ましくない形質を持つものは間引かれる。マリアンヌの実父は"おこり"を恐れていた。モーリスの紋章を持つ子供はそれはそれは美しく生まれてくるのだという。両親は美しい乳児を愛さずにはいられない。子供は自分の一族にかかった呪いを知らずに育つが子供の成長と時を同じくして呪いはゆっくりと親を侵蝕していく。

     "おこり"、いや"興り"が訪れると最初はぼんやりする時間が増える。言動に異常をきたしてしまえばもう死ぬまで止まらない。人格が崩れ獣性が剥き出しになっていく。人格が崩れ社会的に破綻し最後はヒトの形を保てなくなる。ヒトのまま尊厳を保ち周囲から愛されて生涯を終えたいなら早く死ぬしかない。モーリスの紋章を持つ一族は前線で武器を持たず治療に専念する修道士や消火隊など危険な仕事に従事するようになった。その結果かつて社会から根絶やしにされかけた一族は信頼を回復し地方で領主を務めるまでになった。それでもモーリスの紋章を持つ一族の生存戦略は変わらない。

     聡い子供だったマリアンヌは父方の一族が他者からの愛や情けを人質に生き延び子をなしているのだと気づいた時、女神に独身のまま死なせて欲しいと祈った。しかしその祈りは聞き入れられず父は"おこり"を迎え母は実家の力を使ってでも生き延びるよう娘に伝え父と共に姿を消している。その全てを悟った上でマリアンヌを引き取ったエドマンド辺境伯は多忙な身でありながら死に取り憑かれた養女から目を離さなかった。

     彼は周り中からやり手だと恐れられていたがマリアンヌの両親について語ると感情が処理しきれず泣いてしまうことが多い。それを本人も自覚しているのか近頃は召使いや家臣たちに見られぬよう出先で話すようになった。血が繋がっているせいかマリアンヌもエドマンド辺境伯も馬が大好きで今日も子馬が生まれたという馬場まで二人で赴いている。そして不思議なことに普通なら子馬を守るために気が立っている時期の母馬に近寄っても二人とも嫌がられることがない。血統管理を徹底して行った周囲の期待通り見事な子馬を産んだ母馬は牧場で誇らしげにしている。

    「お義父さま、私の計算があっていればこの子は芦毛です」

     芦毛は馬の毛色の中で最も興味深いかもしれない。成長や老化に伴って色味が変わっていくからだ。そして芦毛同士で掛け合わせても子馬が芦毛になるとは限らない。

    「そうか、マリアンヌがいうならきっとそうなのだろう。お前の結婚相手も馬が好きだといいな」
    「私は結婚しません……お義父さまも結婚していないではありませんか」

     エドマンド辺境伯は周囲から結婚を勧められても自分に正直であるためだ、と嘯きずっと独身を貫いていた。女遊びが激しいという訳でもない。マリアンヌを引き取ったことは次善の策として家臣たちから歓迎されたがマリアンヌ本人は自分と実父がエドマンド家に入り込んだ異物だと認識している。

    「お義父さま、私のことが邪魔になったらいつでも養子縁組を解消してください」

     マリアンヌはエドマンド辺境伯の血が繋がった姪だが義父が結婚し子を成したら絶対に実子を優先して欲しいと思っている。だが結婚せずとも満たされているから、と言って頑なに妻を娶ろうとしない。

    「私は自分の愛が報われた証をそんな風に手放しても平然も生きていられるほど強い男ではないよ」

     子供を託されるほどの愛や信頼を手に入れた証がマリアンヌなのだ、とエドマンド辺境伯は繰り返す。だがそこには大きな謎があった。

    「では何故私を士官学校へやるのですか?」
    「ああ!マリアンヌ見てご覧!もう歯が生えている!」

     エドマンド辺境伯は鼻を擦り寄せてきた子馬の咥内が一瞬見えたのが嬉しかったのか養女であるマリアンヌの声を遮ってしまった。だが同じ動物好きとしてマリアンヌにもその気持ちは分かる。

    「まあ!なんて可愛らしいんでしょうか!」
    「だがどうやらまだ前歯だけだ」

     生まれたばかりの子馬は臼歯がないのでまだ飼い葉が食べられず母乳頼りだ。馬は歯が生え揃っても臼歯と前歯の間に大きな隙間がある。セイロス教ではこの馬銜を噛ませるのにおあつらえ向きのこの隙間こそが女神がヒトに馬を与えた証だと言われている。馬銜がなければヒトは馬を使役することができない。豚や鶏のように食糧として繁殖させるだけにとどまっただろう。モーリスの紋章は隙間なく歯が生えた馬のようだ。モーリスの紋章を持っている者は馬銜と手綱で操ることが出来ない馬に乗せられて死ぬまで下馬することが叶わない。エドマンド辺境伯は母馬の真似をして水桶に顔を突っ込んでいる子馬を眺めながら話を戻した。

    「先ほどの話だが……ガルグ=マクで友人を作ってほしいからだ。運が良ければ私のように愛と信頼を得られるかもしれない」

     愛も信頼もマリアンヌには縁遠く感じられた。あまり乗り気にはなれなかったが逆らう気力もない。新生活の支度に熱心なのはエドマンド辺境伯だけで身の回りの品をああでもないこうでもないと忙しいだろうに選んでいてなんだか現実感がなかった。

     そして今も全く現実感がない。薄明の中でローレンツがマリアンヌの前で膝をついている。場所は現在ではベレトが住み着いている旧リーガン邸の四阿屋だ。空の色は刻々と変わり太陽の赤と空を青を混ぜたような紫色になっている。晴れの日のデアドラは陽が落ちるたびに数分間、色を塗り替えられるのだ。

    「マリアンヌさん、僕と生涯を共に過ごしてほしい。僕はいかなる時も貴女の支えになる」

     戦後、雲隠れしたクロードの代わりにマリアンヌもローレンツも水の都と名高いデアドラに呼び出され戦後処理の手伝いをしていた。二人とも一度は地元に帰り親と会ったがその後はデアドラの上屋敷に来てもらっているだけで領地には戻れていない。季節が一巡し流石にきちんと領地に戻らねばという頃になってマリアンヌはローレンツと共にベレトから夕食に招かれた。その帰り道にこのような状態になっている。

     家格も釣り合っているし戦争も終わった。親に言えば全てがお膳立てされた筈だ。だがきっとローレンツはそれが嫌だったのだ。名家の者同士の結婚は事業と変わらない。マリアンヌの為だけの言葉をいつどこで告げるのかくらいは二人だけのものにしたかったのだろう。

     マリアンヌが黙って頷くとローレンツは左手の薬指に指輪をつけてくれた。いつの間にか陽は完全に落ちリーガンの紋章のような月と瞬く星が辺りを白く照らしている。

    「私、自分にこんな未来が待っているなんて想像もしませんでした。毎日笑顔でいられるのはローレンツさんのおかげです」
    「承諾してくれてありがとうマリアンヌさん。この手紙も無駄にならずに済んだ」

     ローレンツが胸元から取り出した封筒を月明かりの下で確認すると宛先はマリアンヌの義父であるエドマンド辺境伯になっている。

    「お気遣いありがとうございます」
    「速やかに直接ご挨拶に伺うつもりでいるから待っていて欲しい」
    「ところでローレンツさん、この指輪はもしかしてヒルダさんが?」
    「指の寸法を知らないかと手紙で問い合わせたらこれが届いてね。貴女がたの友情の証でもあるからこれを渡すべきと思ったのだ。だが結婚指輪は二人で選びたいな」

     クロードが会えない間のご機嫌取りにパルミラから宝石や研磨用の道具を寄越してくる、とヒルダが言っていた。大ぶりの金剛石は何かの牽制や誇示のつもりなのかもしれないがそれが流れ流れてマリアンヌの元へ辿り着いている。その思い切りの良さが実にヒルダらしくマリアンヌとローレンツは笑いを堪えることができなかった。

     エドマンド辺境伯は養女が持参したローレンツからの手紙を受け取り中身を確認するとマリアンヌの両親を偲ぶ祭壇にそっと置き深い深いため息をつくと右手で瞼を押さえた。この手紙を受け取るべきだった二人はもうこの世にいない。

    「何か嫌なことがあればすぐにこちらに戻って来なさい。いつでも歓迎する」
    「その……宜しいのでしょうか?」

     将来のエドマンド辺境伯としてマリアンヌは引き取られている。共同で双方の領地を統治している夫妻もいるがやはり今までのようにはいかない。

    「そうだな、寂しくないと言えば嘘になる。だが円卓会議で婿殿をいびる楽しみができたから差し引きで損はしていない」

     義父がローレンツを婿殿と呼んだのでこの話は本決まりなのだとマリアンヌは察した。自然と笑みが溢れだす。

    「あの……!ありがとうございます!」
    「仕立て屋を呼ぼう。未来の婿殿を迎えるにあたってマリアンヌも私も美しく装わねば」

     一年間も帰宅できなかったせいかローレンツがエドマンド領を訪問出来たのはデアドラで婚約指輪を受け取って貰えた日から数えて二ヶ月後だった。レスター諸侯同盟の南西部にあるグロスタール領と北東部にあるエドマンド領はかなり離れておりそもそも移動にも日数を要する。

     将来の舅からデアドラで何度もきつい物言いをされたのでローレンツはそれなりに緊張していたがそれも二ヶ月ぶりに小間使いの手を借りて美しく装ったマリアンヌの顔を目にすればそれも旅の疲れも消え失せた。儀礼を完璧にこなすのが得意なローレンツは今のところエドマンド辺境伯から突飛なことを言われていない。この後は食事を共にしローレンツが日帰りできない遠方から訪れているためこの屋敷に一泊して帰る。当然泊まるのは客室だ。

     将来の花嫁の父は途中二年間の抜けがあるとはいえ十一年間大切に育ててきた娘を手放すのが寂しいのか気がつくと食事の手を止めてマリアンヌの顔を見つめている。正式な養女になっているがマリアンヌはエドマンド辺境伯の妹の娘、つまり姪だ。森の奥深くで人語を話す魔獣を倒した晩にマリアンヌが全くの他人ではないのだと話してくれた。二人の佇まいが似ているのは血縁者だからかもしれない。ローレンツがエドマンド領の名物である固い麺麭の上に香草のソースと魚介と野菜を何層にも重ねたサラダを褒めると二人とも満足そうに微笑んだ。

    「モーリスの紋章はマリアンヌの実父やマリアンヌの本質ではないのだ」

     そういうとマリアンヌの養父は一気に葡萄酒の杯を空けた。本来なら召使いがお代わりを注ぐべきだが人払いをしているので料理は一度に出てきたし皆、手酌で呑んでいる。例外中の例外だが繊細な話題を扱うので仕方なかった。

     ローレンツはマリアンヌから縁を切られるのが嫌で一度は聞くことを拒絶したモーリスの紋章に関する話もあの晩に聞いている。

     モーリスの紋章を宿す一族のうち社会に尽くそうとしなかった者は身を持ち崩しても誰も助けてくれなかった。"おこり"がいずれ来ると分かっていても見捨てられなかったのは献身的に社会に尽くした者たちだ。人懐こい犬だけが社会に受け入れられ愛されたように彼らは生き残りを賭けて自制心を強く持ち献身的に社会に尽くしてきた。

    「狂おしいまでの生への渇望やそれを後押しする自制心や献身的な態度こそが本質だと私は考えている」

     そういうとエドマンド辺境伯は自領の名物である栗の粉で作ったパスタを口に運んだ。ローレンツは生まれて初めて食べたが絡めてある胡桃から作ったソースと実によく合う。

    「僕も同意見です。モーリスの紋章はマリアンヌさんが愛されない理由にはならない」
    「その通りだ。ローレンツくん。だから私も妹もあいつが……マリアンヌの実父がとても好きだった。我々は領地と門地に尽くし守るために生きろと言われて育ったがそれを破ってしまうほどに」

     ローレンツは自分が見ているものが信じられなかった。あのエドマンド辺境伯が人前でしかも重要な食事中に手巾で目元をぬぐっている。エドマンド辺境伯の弱さに触れたのは初めてだ。

    「世間から見れば正しくない愛なのだろうがそんなことはどうでもよくなるほど私も妹もマリアンヌの実父のことが好きだった」
    「そのお気持ちは……僕にもわかるつもりです。痛いほどに」
    「マリアンヌは私にとって妹とあいつからの愛と信頼の証なのだ。だがモーリスの紋章にまつわる悪評は根強い。この子は見違えるほど強くなったがそれでも守ってやってほしい」

     エドマンド辺境伯はマリアンヌを守るためにあのハンネマンに検査を諦めさせるほどの大金を積んだ。市井の紋章学者が押しかけたこともあったが小物だったから金を握らせておくべき学者に入らなかったのだろう。

    「お義父さま……今まで本当にお世話になりました」

     それまで二人の会話を妨げないために黙って食事と葡萄酒に口をつけていたマリアンヌが口を開いた。あからさまに飲みすぎている養父を心配して差し伸べた左手の薬指では指輪が光っている。

    「めでたいことがあったから今晩は呑みすぎたな。私は先に休ませてもらう」

     既に皆の皿は空になっていたのでマリアンヌが鈴を鳴らし召使いたちに皿を片付けさせた。瞼が上がらなくなりつつある主人の姿を見て執事が肩を貸している。マリアンヌはローレンツを連れてそっとその場を離れ客間に通してくれた。到着した時に玄関で渡した旅行鞄が既に運び込まれている。

     マリアンヌが後ろ手で鍵を閉めてくれたのでローレンツはずっと疑問に思っていた、本来ならば口にするべきではないことをようやく口に出来た。確かめておかねば今後、舅相手に失言する可能性もある。

    「ところで……その……どうしても気になってしまうのだが」

     ローレンツには三人の相関関係が全く分からない。妹なのか妹の夫なのかすら分からない。

    「お義父さまに確認したことはありません。学生時代は道に外れた愛に身を捧げたとしか言いようのない三人のことが全く理解できませんでした」

     確かに学生時代のマリアンヌは死によって救われることを望んでいた。だが今は見違えるように明るくなっている。

    「でもローレンツさんを好きになってからは三人のことが少しは理解できたような気がします」

     それは光栄だ、と言葉で伝えようとしたがつま先立ちになったマリアンヌの唇で口を塞がれてしまったのでそれは叶わなかった。
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    MAIKINGロレマリに続きようやくクロヒルの方もちょっとそれっぽくなってきたかもしれません。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    7.B(side:L) ローレンツが厩舎の管理をマリアンヌと共に担当していた時に上空警備を担当していたクロードとヒルダが戻ってきた。金鹿の学級で軽業師の真似事が流行ったことがある。ナイフ投げも軽業もレオニーが飛び抜けて上手いのだがクロードも負けていない。下馬の際に左足を鎧から抜き忘れた人の真似、というのがクロードの得意技だ。羽ばたきやペガサスの嗎に混ざってヒルダが楽しそうに笑っている声が聞こえる。

    「また同じことを繰り返して……ヒルダさんも飽きたと言ってやれば良いのに寛容なことだ」
    「最初拝見した時は心臓が止まりそうになりました……」

     それはそうだろう。普通の馬であったとしても肝が冷える光景だがクロードはなんとそれを上空でやっているのだ。何かひとつでも間違いがあれば死にかねない。好きな人に良いところを見せたいと言う気持ちは分からなくもないがレスター諸侯同盟の次期盟主として相応しくない振る舞いなのは言うまでもなかった。
    2092

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    DONEクロヒル&ロレマリの話、ロレマリ後日談の話です。この話はこれでおしまいです。エドマンド辺境伯がらみの捏造が我ながら本当にヒッデェなと思います。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    19.sequel:L&M 紋章を持つ貴族同士の婚姻は動物の品種改良と似ている。好ましい形質が確実に顕になるよう交配していくからだ。逆に好ましくない形質を持つものは間引かれる。マリアンヌの実父は"おこり"を恐れていた。モーリスの紋章を持つ子供はそれはそれは美しく生まれてくるのだという。両親は美しい乳児を愛さずにはいられない。子供は自分の一族にかかった呪いを知らずに育つが子供の成長と時を同じくして呪いはゆっくりと親を侵蝕していく。

     "おこり"、いや"興り"が訪れると最初はぼんやりする時間が増える。言動に異常をきたしてしまえばもう死ぬまで止まらない。人格が崩れ獣性が剥き出しになっていく。人格が崩れ社会的に破綻し最後はヒトの形を保てなくなる。ヒトのまま尊厳を保ち周囲から愛されて生涯を終えたいなら早く死ぬしかない。モーリスの紋章を持つ一族は前線で武器を持たず治療に専念する修道士や消火隊など危険な仕事に従事するようになった。その結果かつて社会から根絶やしにされかけた一族は信頼を回復し地方で領主を務めるまでになった。それでもモーリスの紋章を持つ一族の生存戦略は変わらない。
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    MAIKING何話か進めばクロヒルかつロレマリになる予定です。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    4.C(side:H) マリアンヌの鉄筆をすぐに拾ってやれたことからも分かる通りローレンツは気になることがあるとつい目で追ってしまう癖があるようだ。そして自分が見られていることには無頓着らしい。断りきれずに食事を共にした女子学生はさぞ居心地が悪かっただろう、とヒルダは思う。

    「マリアンヌちゃん、何か困っていることはない?」

     先日、マリアンヌに書庫整理の手伝いをしてもらった結果全て自分で作業をする羽目になったヒルダは本格的に彼女が心配になった。マリアンヌには何か根本的な欠落がある。

    「特にないつもりです……」

     養父であるエドマンド辺境伯はマリアンヌとの関係を良好たしたいと考えているのだろう。こまめに手紙や差し入れが届く。だがローレンツから託された手紙をヒルダが渡した時マリアンヌは戸惑っていた。きっと理由を聞いても教えてくれないのだろう。無駄なことはしないに限る。身内になれない他人が踏み込むべきではない領域があるのだ。そう思ってヒルダがマリアンヌに対して引いていた線を数日前、ローレンツはあっさり越えた。
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    MAIKING何話か進めばクロヒルかつロレマリになる予定です。

    書いてる人間はこの2年間クロロレのR18本しか出していないのでTwitterアカウントは閲覧注意かもしれません。タイトルはそのうち決めます。
    2.C-(side:H) クロードは他人の喉元に入り込むのが上手い。ヒルダ自身も楽をするために他人の喉元に入り込む自覚があるのですぐに分かった。それにしても十代の男子が女子の体調を気遣うなんて珍しい。ディミトリもメルセデス辺りに頼んでいるのだろうか。そんな訳で不本意ながらヒルダは女子学生の意見をまとめクロードに伝える係をやっている。レオニーは臆さないが盟主の嫡子と言うだけで萎縮してしまう学生もいるのだ。

     一度役割を任されてしまえば期待に応えないわけにいかない。だからこそヒルダは期待をかけられることを嫌い責任というものから逃げ回っていたのだがそうなってみるとどうしても気になる同級生がいた。マリアンヌだ。とにかく何も話さずすぐに一人で厩舎へ行ってしまうので噂話だけが流れている。ダフネル家の代わりに五大諸侯に加わったやり手のエドマンド辺境伯は注目度が高い。おそらくヒルダの兄ホルストの次くらいに学生たちから注目されている。マリアンヌは彼のお眼鏡に叶って養女になったとか目ぼしい若者が彼女しかいなかったから仕方なく彼女を養女にしたとかそんな噂だ。クロードの耳にも当然入っている。
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