九月七日◇◆──────────
今日も、昼飯は屋上で食べる。あいつと二人で。
授業終了のチャイムが鳴って数秒で教室を出たのは、気に入っている惣菜パンが買いたいからで、屋上へ上る階段を一段飛ばしで駆け上がったのは、腹が減っていて、早く昼飯を食べたいから。
「今日もオレの勝ちーっ!」
そう自分に言い訳しても、扉を開けた瞬間に陽の光と一緒に目に飛び込んでくるあいつの笑顔はどうしたって俺を惑わせる。
「別に勝負してねーし」
「えへへ。楽しみすぎて階段駆け上がったらちょっと先生に怒られちゃった」
「何やってんだよ」
教師に見つかるようなヘマはしなかったにせよ、自分も同じことをしていたのに、また素っ気なく応答してしまう。
しかし当の九門はちっともこたえていない様子で、なにやら上機嫌で地面に腰掛けた。
「やりたいことがあってさあ」
そう言うなり九門はポケットから何かを取り出した。
「ろうそく…?」
「そ! 火は点けらんないから、ついてるつもりってことで!」
俺は九門のやろうとしていることの意味がわからないまま、とりあえず隣に座った。九門の持った焼きそばパンに、ぷすぷすとろうそくが刺さっていく。はて、今日は何の記念日だったろうか。
「ナントカって選手の誕生日とか?」
「違うよ! 今日はオレと莇の真ん中バースデー!」
「真ん中…なんだそりゃ」
「オレの誕生日からの日数と、莇の誕生日までの日数が今日でちょうど同じになるってこと。昨日調べて気づいたんだ! これは祝うしかないじゃん? しかもつく高で祝えるのって今年だけだし!」
「そういやお前今、十八か」
「今さら⁉︎ そうだよ、オレ大人の男」
そうか、もうこいつは車の免許も取れるし、結婚だってできるのだ。
「……焼きそばパンにろうそくって…もっとケーキっぽいやつにすりゃよかったんじゃね」
「えー! だって、オレも莇も甘いもの苦手じゃん? オレらの記念日なんだし、オレらの好きなもので祝おうよ!」
九門は焼きそばパンを掲げて、大きな口で笑った。どう見ても「大人の男」の顔ではない。
「…恥ずかしい奴」
まあ、いいか。俺も惣菜パンを取り出し、九門のほうに差し出した。
「ん」
「莇のにも刺していいの? よーし…」
「アハハ、どんだけ持ってきてんだよ、ろうそく。ウニみてーになってんじゃねぇか」
「なんだとー!」
ろうそくの刺さった二つのパンを、九月の青空に掲げた。九門がスマホを取り出して、それを撮影する。
「ハッピーバースデートゥー…ウィー?」
「アスだろ、目的格なんだから」
「ハッピーバースデートゥーアース、なんか語呂悪っ!」
語呂が悪いまま、九門は楽しそうに歌い上げた。ろうそくに火が灯っているのを想像すると、バカみたいだけれど、それだけでなんだかフワフワした気分になった。
「莇、これからもよろしくっ!」
「おー」
乾杯するようにパンを軽くぶつけたあとは、せっかく刺したろうそくを外しながら、二人でパンを食べた。
焼きそばパンに齧り付く横顔は、やっぱり俺より三つも年齢が上の男には見えなかった。
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