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    onsen

    @invizm

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    onsen

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    クロラム
    ある冬の夜の短いクロラムの話
    初出2021/3/7 支部

    #クロラム
    chloroform
    ##怪ラム

    みてみて「クロー!」
     宿題を片付けていると、外の方から僕を呼ぶ声がする。呼ばれるままに戸を開ければ、六時半だと言うのに空はもう深い暗い青が降りていた。吐く息が白い。
    「どうしました?」
    「見ろ! 初雪降ってきたぞ!」
     相変わらず合わせ目の緩い着物姿ではしゃぐ姿は少し寒そうで心配になるけれど、弾むその声にひかれて出ていけば、確かに水気を含んだ大きな雪が、はらりと空から落ちてくる。それは手のひらに触れて、あっという間に解けて水になる。
     雪なんて毎年降るのに。それも、嫌になるくらい。雪を見て嬉しくなって僕を呼ぶ姿は、いつものような子供っぽい振る舞いであるはずなのに、温かい。
    「あっ、ほらクロ、こっちも見て!」
     先生の指差す方角を追う。
    「船の灯りで川と雪が光ってて、すげー綺麗」
     夕鶴川に浮かぶ船の左右の照明が、周囲を照らす。その光の中に雪が舞うのが見えて、温かな光を反射して揺れる水面に輝く。
    「綺麗ですね」
    「だろ? あっ、すげー星もよく見える!」
     今度は空を見上げる。次から次へと動く先生の目に映る世界を追いかければ、たくさんの綺麗なものが目に入る。星の瞬きさえ聞こえてきそうな冬の夜だ。
    「初雪だったからさ、お前に見せたかったんだ」
     一年に一回だぜ! と屈託なく笑うその顔は、僕と輝く景色を共有できた喜びに満ちているように見えた。まるで、『みてみて』と親の手を引く、幼い子どもみたいに。
     胸がずく、と重く痛んだ。自分の視ているものが、家族に共有できないと気づいた日のことを思い出してしまって。自分だけがみんなと違う世界を視ているのかもしれないと思ったあの日、単に頭がおかしいという可能性すら突きつけられたあの日。僕はひとりぼっちになった。自分の世界に、確信が持てなくなった。
     先生は、どうだったんだろう。先生の『みてみて』を聞いてくれた人は、いたんだろうか。見ようとしてくれただけでもいい。でも、いなかったんだろうなとは、なんとなく思っているけれど。でなきゃきっと、あの時、僕にあんな泣きそうな顔は見せていない。あれはきっと、先生の中に今もいる、ひとりぼっちの子どもの顔だ。
     先生の視ている世界を初めて認めてあげたのは、誰だったんだろう。やっぱり、あの人なんだろうか。感謝と、多少の嫉妬が入り混じる。けれど、過去に先生の視ているものを視てくれる人がいなかったら、今頃先生は、きっとこの世にいない。
     誰かが先生の視ているものを見てくれたから、僕もちゃんと、この世界にいるんだ。
    「先生」
    「お、なんだ?」
     呼びかけると、こちらを見てくれる。
    「雪も、川も、星も、綺麗ですね」
    「おう」
     嬉しそうに笑った。きっと先生は、自分の見ていたものを、僕にも見せたくなっただけなんだろう。それを僕は、ちゃんと見ただけ。
     それがどれだけ嬉しいことか、僕は知っている。
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    onsen

    DONEクラファ仲良し
    クラファの3人が無人島で遭難する夢を見る話です。
    夢オチです(超重要)。
    元ネタは中の人ラジオの選挙演説です。
    「最終的に食料にされると思った…」「生き延びるのは大切だからな」のやりとりが元ネタのシーンがあります(夢ですが)。なんでも許せる方向けで自己責任でお願いします。

    初出 2022/5/6 支部
    ひとりぼっちの夢の話と、僕らみんなのほんとの話 --これは、夢の話。

    「ねえ、鋭心先輩」
     ぼやけた視界に見えるのは、鋭心先輩の赤い髪。もう、手も足も動かない。ここは南の島のはずなのに、多分きっとひどく寒くて、お腹が空いて、赤黒くなった脚が痛い。声だけはしっかり出た。
    「なんだ、秀」
     ぎゅっと手を握ってくれたけれど、それを握り返すことができない。それができたらきっと、助かる気がするのに。これはもう、助かることのできない世界なんだなとわかった。
     鋭心先輩とふたり、無人島にいた。百々人先輩は東京にいる。ふたりで協力して生き延びようと誓った。
     俺はこの島に超能力を持ってきた。魚を獲り、木を切り倒し、知識を寄せ合って食べられる植物を集め、雨風を凌げる小屋を建てた。よくわからない海洋生物も食べた。頭部の発熱器官は鍋を温めるのに使えた。俺たちなら当然生き延びられると励ましあった。だけど。
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    onsen

    DONE百々秀

    百々秀未満の百々人と天峰の話です。自己解釈全開なのでご注意ください。
    トラブルでロケ先にふたりで泊まることになった百々人と天峰。

    初出2022/2/17 支部
    夜更けの旋律 大した力もないこの腕でさえ、今ならへし折ることができるんじゃないか。だらりと下がった猫のような口元。穏やかな呼吸。手のひらから伝わる、彼の音楽みたいに力強くリズムを刻む、脈。深い眠りの中にいる彼を見ていて、そんな衝動に襲われた。
     湧き上がるそれに、指先が震える。けれど、その震えが首筋に伝わってもなお、瞼一つ動かしもせず、それどころか他人の体温にか、ゆっくりと上がる口角。
     これから革命者になるはずの少年を、もしもこの手にかけたなら、「世界で一番」悪い子ぐらいにならなれるのだろうか。
     欲しいものを何ひとつ掴めたことのないこの指が、彼の喉元へと伸びていく。

     その日は珍しく、天峰とふたりきりの帰途だった。プロデューサーはもふもふえんの地方ライブに付き添い、眉見は地方ロケが終わるとすぐに新幹線に飛び乗り、今頃はどこかの番組のひな壇の上、爪痕を残すチャンスを窺っているはずだ。日頃の素行の賜物、22時におうちに帰れる時間の新幹線までならおふたりで遊んできても良いですよ! と言われた百々人と天峰は、高校生の胃袋でもって名物をいろいろと食べ歩き、いろんなアイドルが頻繁に行く場所だからもう持ってるかもしれないな、と思いながらも、プロデューサーのためにお土産を買った。きっと仕事柄、ボールペンならいくらあっても困らないはずだ。チャームがついているものは、捨てにくそうだし。隣で天峰は家族のためにだろうか、袋ごと温めれば食べられる煮物の類が入った紙袋を持ってほくほくした顔をしていた。
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