ヒカテメ腹を抉った魔物の爪は、鋭いものだったが回復魔法はなんとか間に合い傷は塞がった。しかし、傷と魔物の毒が原因による熱はテメノスを容赦なく襲った。
横たわらせた寝台でテメノスは真っ赤な顔をして魘されていた。
「あ……ぅ…う…はっ……」
焦点が合わない。息も苦しげで、震えている。なのに、ひどく熱い。
「テメノス、しっかりしろ」
ヒカリは、テメノスの半身を起こして、汗ばんだ身体を支えてやる。杯にあるのはキャスティが調合した薬である。それをテメノスの口元に持っていき、ゆっくりと傾ける。
「……っ……ぁッ…」
うまく飲み込めず、テメノスの口の端から液体がだらだらと零れ落ちていく。
返事がないと分かりつつもヒカリはテメノスに呼びかける。
ヒカリは薬を杯にもう一度入れ、それの半分ほどを自身の口に含む。
酷く苦い味が口の中に広がる。だがこれほど苦ければよく効きそうだと、そんなことを思いながら、親指でテメノスの口をこじ開ける。
「……っ…」
許せ、と心のなかで呟いてヒカリは開けたテメノスの口元へと、自身の唇を合わせる。
口内は熱く、そこに薬を流し込んでいく。テメノスの荒い息遣いが少し止む。
舌先を使って、熱い口内へと侵入し、喉奥へと。鼻から息が抜けた気配を感じ、息ができるよう口を離す。
こくりと飲み下すのを確認して、数度に分けて薬を流し込む。
「ん……いいこだ……」
薬を飲み込んだテメノスはくったりとその頭をヒカリに委ねるかのようにもたれかかった。その眉間には酷く皺が寄り、まだ息は荒かった。無理もない。苦い味だったから。
「……はっ、…んっ…」
「テメノス?」
「……ヒカ、リ…?」
荒い息の中、ようやく焦点が定まったテメノスがこちらを認識したようで名を呼ぶ。
「無理はするな。俺が分かるか?……息を吸って、吐いて……ゆっくり……そう、いいこだ……」
声に合わせて息を整えたテメノスを寝台へと横たわらせる。
「……あつい……水……」
水差しから水を杯に入れ、テメノスに飲ませようとしたが、少し考えて自身の口に含む。「……ん」
何度も悪いと思いながらも、テメノスの頭を抱えてもう一度口移しで水を飲ませる。あまり一気に流し込まないように慎重にゆっくりと水を流し込んでいく。
こくこくとテメノスの喉が上下する。口を離し、親指で唇から零れた水を拭ってやる。
「……もっと」
舌足らずの声で、テメノスはそう強請ってヒカリの口元を舐るのでヒカリは慌てて新たな水を用意するのであった。