2/23茶葉が踊る「いつもコーヒーを淹れてもらってばかりだから、今朝は俺が用意します」
ある朝、食事を終えて片付けているとメフィスト様が、そう宣言した。
「そうですか?」
「魔茶の方が好きだよね。そっちにしようか」
「ありがとうございます」
メフィスト様が食器を積んだワゴンを押して食堂を出て行くので、慌ててついて行く。
「茶葉ってどこ?」
「こちらに。んー、じゃあ、これでお願いします」
茶葉とポット、カップ、ヤカンを出してカウンターに並べる。
私は朝ごはんの片付けだ。
……道具だけ渡したけど、大丈夫かな。いやいや、元は歴代魔王の補佐をされていたのだから、魔茶くらい淹れられるでしょ。
そわそわしながら皿を洗い、クロスを洗って干して、食堂のテーブルを拭いて戻ってきたら、メフィスト様が満面の笑みで待ち構えていた。
「どうぞ!」
「ありがとうございます」
すごい、ちゃんと魔茶がはいってる!
そりゃ、それくらい出来るのだろうけど、普段自分が世話をしているから、気分的には息子が初めて魔茶を淹れてくれた母親である。
「いただきます。わ、おいしいです!」
「良かった」
メフィスト様はニコニコしながら、横で自分でも飲んでいる。
「メフィスト様の淹れる魔茶がこんなにもおいしいとは思いませんでした」
「歴代魔王にお出ししていたからね。それなりの腕前のつもりだよ」
「そうお聞きすると、贅沢ですねえ」
つまり、歴代魔王に提供されていた魔茶が、イルマくんが魔王になるまでは私が独り占めできる。
めちゃくちゃ贅沢だなあ。
「ご希望とあらば、一生君だけにお出しするけど」
「それは別にいいです」
「いいんだ?」
「ええ。それはそれ、これはこれ」
「そういう潔いところ好きだよ」
そう思って言った節もある。
私が独り占めしているメフィスト様は他にもいろいろあるから別にいいんだ。
「あ、でもおいしいから週一くらいで淹れてくれたら嬉しいです」
「よろこんで」
メフィスト様がニコーっとしてカップを傾けた。