ゆめうつつ体が揺れたような気がして目が覚めた。
(あれ……)
まだ半分眠りの世界に意識を残したままキースは瞼を開く。どこかぼやりとしたままの視界で真っ先に目に入ったのは夜空――ではなく。
(ああ、ブラッドの頭か……)
夜を共にし隣で眠っていたブラッドが、今はキースに背中を向けた姿勢になっている。そのせいでキースの視界を占める大半は藍鉄色の後頭部越しの、まだ薄暗い部屋。先程の揺れはおそらくブラッドが寝返りを打ったせいで、そのせいで目が覚めて――思う間にとろりと眠気が忍び入ってくる。その前に。
室内にライムグリーンの光が揺れる。ほぼ無意識の、ブラッドに意識があったなら確実に叱られる横着さでブラッドの体を反転させて腕に閉じ込める。
(――これで、よし)
オレのだ。充足感とともにキースはすう、と眠りに落ちた。
体が浮いたような気がして目が覚めた。
(なんだ……?)
ばちりと開けた視界に入って来たのは間近にあったキースの顔。コンタクトを外していても問題ないほどの至近距離、どこか幸せそうにすやすやと眠っている。室内の様子からするとまだ夜明け前だ。
先ほどの感覚は何だったのだろうか。思いながらブラッドは身じろぎをしようとして。
「うん?」
かすかに声を漏らす。――動けない。
認識してブラッドは眉根を寄せた。昨夜の情交の後、互いに何も身に着けずに寝ているせいで触れた部分の素肌が暑い。せめて少し距離を取りたいのだが、肩にも腰にもがっちりとキースの腕が回っている。何とか体をずらそうとしても、眠ったままのキースの腕に引き戻されてしまう。
なるほど、体が揺れたような感覚はこれか。思いながらもう一度距離を取ろうとしたが。
「んん〜〜」
子供がむずがるような声を上げながら、キースが逆にのしかかってくる。起こすのも悪いという遠慮もあり――なんせ本当に幸せそうな寝顔だったから――結果、下敷きにされた状態にブラッドは重く息を吐いた。
頬のあたりにキースの髪が触れてくる。癖毛の感触や耳元にかかる寝息がくすぐったい。どうしたものかと思いながら、けれど起こすのは忍びなく。
(……まあ、いいか……)
暑くなったらいずれキースの方が退くだろう。結論付けて目を閉じる。小さな頃のフェイス相手のように、癖毛を撫でてやりながら。
そうしてしまえば規則正しく響いてくるキースの心音も呼吸も心地よく、いつしかブラッドもゆるゆると再び眠りに落ちていった。
アラームが鳴って再び目覚めるまでの、互いが知らない互いの話だ。