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    zeppei27

    @zeppei27

    カダツ(@zeppei27)のポイポイ!そのとき好きなものを思うままに書いた小説を載せています。
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    zeppei27

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    企画4本目、加糖さんよりご指名頂いた黒田で、『分け合いっこ』です。豪快さと可愛さの合わせ技、黒田君はいろんなものを何の気なしに分け合ってくれるような気がします。多分他意はないんだ……あるって言って!
     リクエストありがとうございました!

    #RONIN
    #小説
    novel
    #隠し刀
    #黒主黒

    太陽の共食い 薩摩藩上屋敷は夏真っ盛りだった。縁側をみっしりと埋め、前庭に敷いた筵一面に広がる夏の成果に、黒田清隆は目を疑った。江戸に来てから久しいが、このような異様な光景に出くわすのは初めてである。
    「西瓜……だと?」
    「その通りだ、黒田」
    朋輩たちがわらわらと興味本位で群がる様に呆然としていると、のっそりと大きな影がさした。いついかなる時も沈着冷静な人は誰であろう、大久保利通である。流石に彼ならば事情を知っているに違いない。こちらの困惑を見て取ったのだろう、利通は淡々と続けた。
    「篤姫様が、暑気払いにと御下賜されたのだ。京の都から取り寄せたらしい。……一人一つだ!欲張るでないぞ!」
    「承知しもした!」
    すかさずちょろまかそうとした輩がいたのだろう、利通の一喝ですぐさま場の空気が引き締まる。確かに、薩摩の暑さに比べれば江戸の夏など可愛らしいものだが、暑いには変わりない。西瓜のみずみずしい甘さは極上に感じられるだろう。篤姫も小粋な計らいをしてくれたものだ。
    「して、黒田。篤姫様より、届け物を申し付けられておる。隠し刀にも一つ参らせよとのことだ。お主は親しいだろう、届けて参れ」
    「わかりもした」
    神妙にうなずきつつも、清隆は心中ひそかに冷や汗をかいていた。自分とかの隠し刀は、出会いこそ凶悪なものだったが、手合わせから伝わったからりとした心意気と芯の強さに惹かれ、親しみ、ついで一線を越えた仲である。ごくごく自然な流れなのだが、どうにも面映ゆくて誰にも打ち明けてはいない。利通の目から見て――自分たちはただ『親しい』だけに見えているのかどうか。ささやかな秘密を見抜かれたような心地を抱えて、清隆は粛々と西瓜と旅に出た。
    「おおい、いるか」
    「いるとも」
    道行く人々に好奇の目を向けられつつ(それはそうだ、二つも西瓜を抱えているのだから)辿り着いた隠し刀の長屋には、幸いにして主が一人で時間を過ごしていたらしい。
    隠し刀の長屋は一種のたまり場で、年中誰かが入り浸っている。逢瀬など数えるほどしかない原因の一つが、情人の人柄の良さなのだから泣くに泣けない。清隆もまた、その人柄に惚れた人間なのである。有象無象を差し置いて、恐らく自分が最も親密な相手になれたのは数奇な運命としか言いようがない。
    「両手が埋まっているからな、悪いけど、開けてくれないか」
    「ほう」
    がらりと開いた戸の向こうの景色に、清隆は本日二度目の驚きで頭を埋め尽くされた。
    「な、なななんち格好をしちょっんだ、破廉恥じゃねか!」
    隠し刀の出で立ちは、信じられないほどに簡素だった。暑さからなのか下着の上から薄い羽織をかけただけという姿で、賭場くらいでしかお目にかかれぬ姿である。
    「暑いからなあ。それに、黒田なら構わんだろう」
    「そげな問題じゃね!早よ中に入らんか!」
    「おいおい、お前が開けてくれと言ったんじゃないか」
    くすくすと笑う隠し刀は無邪気そのもので、清隆は育ての親の顔が見てみたいと低く唸った。少しは恥じらいというものを教えてくれはすまいか。危うく取り落しそうになる西瓜を抱えなおすと、清隆は家主を追い込むようにずんずんと中に入った。
     暑い。むわりとした空気に、清隆は隠し刀の言い分を理解するに至った。立地が悪いのか、風通しが今一つで、雨戸が全て開け放たれているにも拘らず屋内はひどく蒸し暑い。自分一人ならば褌一丁になるだろう。
    「ほら、篤姫様からあんたに届け物だ。暑気払いにどうぞ、ってな」
    「嬉しいな。後で礼を述べに行こう。黒田も、わざわざ届けてくれてありがとう」
    ちょうど水気が欲しかった、と破顔されるとどうにも弱い。己の器の小ささに呆れる前に気を紛らわすとしよう。隠し刀に包丁を貸してくれるよう頼むと、情人はゆるりと首を振った。
    「どうせ食べるならば、場所を変えよう。前々から行きたいところがあったんだ。一緒に来てくれないか?」
    「ああ、いいぜ」
    勝てないな、と思う。まるで自分と行きたかったかのような物言いではないか。隠し刀がくれた網に一つずつ西瓜を入れると、ぐんぐんと気分が高まってくる。身なりを整えて長屋を出かける頃には、清隆の頭から一片の曇りもなくなっていた。

    ***

     夏がやって来た。真っすぐに突き抜ける陽の光のような声に、隠し刀は手にした着流しを羽織に替えた。何も飾らず、気が置けない仲の訪れは身も心も軽くする。清隆は驚くだろうか。
     戸を開けたらば、図に当たったように狼狽する相手が可愛らしい。懇ろになってそれなりの時間が経っているにも関わらず、彼の性根は変わらず初心なままだ。妙な駆け引きも小細工も要しない清隆に、隠し刀は心底憧れていた。例えて言うならば、彼は夏の太陽だ。その熱と光で、こちらの影すら消し飛んでしまう。
     篤姫の厚意に感謝し、ついで清隆が使いに選ばれた己の幸運に笑みを深める。こうも暑いと人助けも人探しもやっていられない。自分にだってたまには休みが必要だ。それも好いた人とであれば、何倍にも癒されることだろう。
     各々西瓜を携えて、目黒はこりとり川の上流に向かう。緑が多く、清涼な水が涼しい風を吹かせていた。両岸には百姓たちが設えた水車がごとんごとんと豪快に回る。子供たちが振り回しているのは、恐らく糸を結わえたトンボだろう。誠にのどかな風景だった。
    「涼むには穴場だと聞いていたが、想像以上だ。お前と来れて嬉しいよ」
    「そげなことばっかい言て。おいだって嬉しよ」
    ふざけ合いながら適当に石を積んで西瓜を川に漬け、ついで自分たちも腰掛を作って脚を冷やす。濡らさぬようにと着流しだけになってうんと伸びをすると、体の隅々まで爽やかな風が吹き込んで清々しかった。清隆もすっかり寛いだ様子で、着物を大胆にたくし上げて脚を泳がせている。
     赤銅色の、良く日に焼けた色合いは夏がそこに留まっているからだ。剥き出しになった太ももに触れると、びくりと震える。何やら豊かに想像を働かせているのだろう、涼をとっているはずがだんだんと清隆の顔が朱に染まる。
    「……どげなつもいだ」
    「こうも色が違うと面白いと思ってな。同じ日の本でも、北と南で太陽に愛される度合いが違うらしい。本当に、綺麗な色だよ」
    おまけに手触りも良い。半ば叫び声を上げそうになる清隆に免じて解放するも、惜しくてならなかった。逢瀬は、陽が沈んでから薄暗がりで楽しむことが多い。故に悲しくも、日の名残りをはっきりと目にすることは叶わないのである。意図せずして得た眼福を脳裏に刻み込み、隠し刀は水と戯れる西瓜を確かめた。どうやら出来は上々で、頬にぴたりと充てると気持ちが良い。
    「食べよう」
    「おう」
    まだ頬が赤い清隆に包丁を渡すと、すっすと迷いなく赤が広がる。太陽の色を詰め込んだ香りはほんのりと甘い。まずは半分を半分ずつ。またぞろ脚を冷やしながらかぶりつけば、しゃりりとした歯触りと共に甘酸っぱさが広がった。喉を通る夏の雫が、存外干上がっていた体を潤してゆく。ごくりと飲み込んで西瓜から顔を上げると、何故だかこちらを見つめる清隆と目が合った。
    「あんた、子供みたいな食べ方をするんだな」
    「うん?」
    もったいない、と言った男の体が近づく。さながら示現流の如き素早さと苛烈さで唇の端が捉われた、と思うとそのままぬるりと舌が口の周りを舐め、顎をくすぐり去ってゆく。永遠とも思われる一瞬にくらりとし、隠し刀はぼうとして西瓜を握る手に力を込めた。そうでもしなければ取り落していただろう。
    「……次はもう少し気を付ける」
    「そうか?俺はどっちでもいいけどな」
    敵わない。にっと笑う清隆の眩しさに、隠し刀は目を細めた。涼みに来たというのに、全くこれでは暑さが増すばかりではないか。太陽が隣にいるのだから、致し方ない話である。
    「早く食べろよ!子供たちが気づいちまう」
    分けてやっても良いが、と言いながら清隆が次の一切れを手に取る。天真爛漫さに苦笑して、隠し刀はぷっ、と種を天に吐いた。

    〆.
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    Replies from the creator

    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。数年間の別離を経て、江戸で再会する隠し刀と諭吉。以前とは異なってしまった互いが、もう一度一緒に前を向くお話です。遊郭の諭吉はなんで振り返れないんですか?

    >前作:ハレノヒ
    https://poipiku.com/271957/11274517.html
    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ror.html
    答え 今年も春は鬱陶しいほどに浮かれていた。だんだんと陽が熟していくのだが、見せかけばかりでちっとも中身が伴わない。自分の中での季節は死んでしまったのだ、と隠し刀は長屋の庭に咲く蒲公英に虚な瞳を向けた。季節を感じ取れるようになったのはつい数年前だと言うのに、人並みの感覚を理解した端から既に呪わしく感じている。いっそ人間ではなく木石であれば、どんなに気が楽だったろう。
     それもこれも、縁のもつれ、自分の思い通りにならぬ執着に端を発する。三年前、たったの三年前に、隠し刀は恋に落ちた。相手は自分のような血腥い人生からは丸切り程遠い、福沢諭吉である。幕府の官吏であり、西洋というまだ見ぬ世界への強い憧れを抱く、明るい未来を宿した人だった。身綺麗で清廉潔白なようで、酒と煙草が大好物だし、愚痴もこぼす、子供っぽい甘えや悪戯っけを浴びているうちに深みに嵌ったと言って良い。彼と過ごした時間に一切恥はなく、また彼と一緒に歩んでいきたいともがく自分自身は好きだった。
    18819

    zeppei27

    DONE何となく続いている主福の現パロです。本に書下ろしで書いていた現パロ時空ですが、アシスタント×大学教授という前提だけわかっていれば無問題!単品で読める、ホワイトデーに贈る『覚悟』のお話です。
    前作VD話の続きでもあります。
    >熱くて甘い(前作)
    https://poipiku.com/271957/11413399.html
    心尽くし 日々は変わりなく過ぎていた。大学と自宅を行き来し、時に仕事で遠方に足を伸ばし、また時に行楽に赴く。時代と場所が異なるだけで、隠し刀と福沢諭吉が交わす言葉も心もあの頃のままである。暮らし向きに関して強いて変化を言うならば、共に暮らすようになってからは、言葉なくして相通じる折々の楽しみが随分増えた。例えば、大学の研究室で黙って差し出されるコーヒーであるとか、少し肌寒いと感じられる日に棚の手前に置かれた冬用の肌着だとか、生活のちょっとした心配りである。雨の長い暗い日に、黙って隣に並んでくれることから得られる安心感はかけがえのないものだ。
     隠し刀にとって、元来言葉を操ることは難しい。教え込まれた技は無骨なものであったし、道具に口は不要だ。舌が短いため、ややもすると舌足らずな印象を与えてしまう。考え考え紡いだところで、心を表す気の利いた物言いはろくろく思いつきやしない。言葉を発することが不得手であっても別段、生きていくには困らなかった。だから良いんだ、と放っておいたというのに、人生は怠惰を良しとしないらしい。運命に放り出されて浪人となった、成り行き任せの行路では舌がくたくたに疲れるほどに使い、頭が茹だる程に回転させる必要があった。
    5037

    zeppei27

    DONEなんとなく続いている主福のお話で、単品でも読めます。前作を読んだ方がより楽しめるかもしれません。遅刻しましたが、明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう~!会えなくなってしまった隠し刀が、諭吉の誕生日を祝う短いお話です。

    >前作:岐路
    https://poipiku.com/271957/11198248.html

    まとめ
    https://formicam.ciao.jp/novel/ro
    ハレノヒ 正月を迎えた江戸は、今や一面雪景色である。銀白色が陽光を跳ね返して眩しく、子供らが面白がってザクザクと踏み、かつまた往来であることを気にもせず雪合戦に興じるものだからひどく喧しい。しかしそれがどんどんと降り積もる量が多くなってきたとなれば、正月を祝ってばかりもいられない。交通量の多い道道では、つるりと滑れば大事故に繋がる可能性が高い。
     自然、雪国ほどの大袈裟なものではないが、毎朝毎夕に雪かきをしては路肩にどんと積み上げるのが日課に組み込まれるというもので、木村芥舟の家に住み込んでいた福沢諭吉も免れることは不可能だ。寧ろ家中で一番の頼れる若手として期待され、庭に積もった雪をせっせと外に捨てる任務を命じられていた。これも米国に渡るため、芥舟の従者として咸臨丸に乗るためだと思えば安い。実際、快く引き受けた諭吉の態度は好意的に受け止められている。今日はもう雪よ降ってくれるなと願いながら庭の縁側で休んでいると、老女中がそっと茶を差し入れてくれた。
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    zeppei27

    DONE企画4本目、加糖さんよりご指名頂いた黒田で、『分け合いっこ』です。豪快さと可愛さの合わせ技、黒田君はいろんなものを何の気なしに分け合ってくれるような気がします。多分他意はないんだ……あるって言って!
     リクエストありがとうございました!
    太陽の共食い 薩摩藩上屋敷は夏真っ盛りだった。縁側をみっしりと埋め、前庭に敷いた筵一面に広がる夏の成果に、黒田清隆は目を疑った。江戸に来てから久しいが、このような異様な光景に出くわすのは初めてである。
    「西瓜……だと?」
    「その通りだ、黒田」
    朋輩たちがわらわらと興味本位で群がる様に呆然としていると、のっそりと大きな影がさした。いついかなる時も沈着冷静な人は誰であろう、大久保利通である。流石に彼ならば事情を知っているに違いない。こちらの困惑を見て取ったのだろう、利通は淡々と続けた。
    「篤姫様が、暑気払いにと御下賜されたのだ。京の都から取り寄せたらしい。……一人一つだ!欲張るでないぞ!」
    「承知しもした!」
    すかさずちょろまかそうとした輩がいたのだろう、利通の一喝ですぐさま場の空気が引き締まる。確かに、薩摩の暑さに比べれば江戸の夏など可愛らしいものだが、暑いには変わりない。西瓜のみずみずしい甘さは極上に感じられるだろう。篤姫も小粋な計らいをしてくれたものだ。
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