安室さんのかわいい彼女「くしゅん」
自分のくしゃみで志保が目を覚ますと、薄暗いベッドの上で、恋人の腕枕で布団もかけずに寝ていたようだ、全裸で。
体温の高い降谷も表面は汗を冷房で飛ばされて冷えてしまっている。
事の最中は暑くて冷房をガンガンに効かせていたが、終わると一気に冷えてしまったようだ。
志保はこういうことをする時、限界まで絶頂し続けた後に気を失うように眠ってしまうことが多いのだが、今までは降谷が責任をとって志保の体を清めて服を着せるところまでやってくれていた(志保の限界を超えて嬲って楽しんでいるのだから当然だ)。
しかし今日は、降谷もかなり疲労が溜まっていたようだったから、寝落ちしてしまったのだろう。
(だから、大人しく休みましょうって言ったのに…)
志保はエアコンを消すために、ヘッドボードに置いてあるリモコンを探そうと身を起こした。
時計を見ると夜11時。してる最中は時間の感覚がないので何時間眠ってしまっていたのかわからないが、このベッドに押し倒されてからおよそ二時間なので、そう長い時間寝ていたわけではなさそうだ。
そこで、もう一度、くしゅん、とくしゃみをすると、降谷も目を覚ました。
「ん……、寝てた…」
「冷えすぎてるから、エアコン一旦消すわね」
「…うん…」
冷房をオフにすると、部屋はまだ涼しいものの、じきに過ごしやすい温度になってくるだろう。
降谷がこのまま寝るようなら、ひとまず下に敷いてしまっている布団の中になんとか潜り込ませよう、などと考えながら、志保はベッドサイドに腰掛けた。
「私、シャワー浴びてく、く、くしゅん。……こんな間抜けな夏風邪ひきたくないわ」
志保のくしゃみのかわいらしさに降谷が微笑んだ。
「噂話でもされてるんじゃないか」
「別に噂されるようなことは何もないわよ」
「一昨日、ポアロで大学生たちと恋バナになってさ。今頃酒の肴にされてる頃かも」
「は?私がこの街の人たちと話すときに困るから『安室』のときは恋人については黙ってるっていうことになってたはずよね?」
志保が米花町の人たちに話す恋人の像と安室のキャラにズレがあるためだ。
降谷の事情を多少知っている世良はいいのだが、蘭や園子、ポアロで会話に入ってくる梓と言った面々は、降谷が安室であるということを知らない。
「梓さんは誰なのか詮索してきてたけど、名前まで言ったわけじゃないよ。すごくかわいい美人の年下恋人がいるって惚気てきただけ」
「私のことかわいいと思う人もいないだろうし、仕事一辺倒の生真面目な社会人大人彼氏と言われて、”安室サン”と結びつける人もいなさそうだし、大丈夫かしら…」
今心配しても仕方ないわね、シャワーを浴びてくるわ、と志保が立ち上がる。
「あ、僕も行く」
「あなた疲れてるんだから、えっちなことは厳禁よ!」
「今のところ4勝2敗、だったかな…」
二人で風呂に入った時にそういうことに至った回数を「勝敗」というなんて、と、降谷のやる気を感じ取った志保がムッとする。
「わかってる、僕の体のこと心配してくれてるんだよな。はぁぁ、志保、優しい…好き…。惚気話したかった僕の気持ちわかるかい?」
志保の隣にきた降谷が志保を覗き込もうとするので、全裸の志保は体を隠そうと腕を自分の体に巻き付ける。
さっきまで舐めるように見ていて(降谷は夜目が効くのでベッドルームの薄明かりでも十分に堪能できる)(というか文字通り舐めていた)、これからシャワールームでじっくり戯れるというのに、ささやかに恥じらう姿も降谷にとってはとても愛おしい。いずれ恋人の正体を突き止められたらちょっと志保が困るかなとは思ったのだが、もう少しで安室の仮面も不要になるという気の緩みもあって、年甲斐もなくかわいい恋人に骨抜きにされて浮かれてしまっているのだから仕方ない。
本日の1勝を確信した降谷だった。