Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    vi_mikiko

    @vi_mikiko

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 23

    vi_mikiko

    ☆quiet follow

    第4回目降志ワンドロワンライ参加作品です。
    お題:「桃の節句」「寿司」「顔だけはいいのよね」
    (気持ち、↓の続きですが単話で読めます)
    https://poipiku.com/3237265/8260579.html

    #降志ワンドロワンライ
    yuzhiWandolowanRai
    #降志
    would-be

    「桃の節句」「寿司」「顔だけはいいのよね」 春の訪れを感じる季節。ポアロのバイトを終えた降谷が米花町を歩いていると、目の前に小さな背中が見えた。
     背中の正体は、大きなビニール袋を手に提げた茶髪の少女、一人だ。
     今日は桃の節句。雛祭りという呼び名の方が一般的だろう。幼い女子のいる家庭では、健やかな成長を祈り雛人形を飾る日。

    「哀ちゃん」
     背後から声を掛ける。夕飯の買い物だろうか、大きな荷物のせいでいつも以上に彼女の身体が小さく見える気がした。
    「今日は、博士の家でパーティはしないのかな」
    「しないわ。うち、雛人形ないし」
    「……そっか」

     彼女の買い物袋を引き、奪い取るように持った。彼女は「いいのに」と言いつつ、降谷の横を大人しく歩く。
     先月の節分では博士の家で探偵団らと豆まきを楽しんでいたが、今日は一人なのだろうか。幼少期からアメリカに留学していた彼女は、雛人形を見たことがあるのだろうか。遠く離れた国で一人過ごす彼女に思いを馳せ、勝手に寂しい気持ちになる。

    「……去年の雛祭りは、吉田さんの知り合いの家に行ってね」
     ぽつりと話しをはじめた哀に、降谷はそっと視線を落とした。
    「みんなで七段飾りの、立派な雛人形を並べたの。全部間違えずに並べることが出来たら、吉田さんが雛人形をもらえるっていう約束だったから、みんなはりきちゃって」
     一段目は左からお内裏様とお雛様。二段目の三人官女は提子・三方・長柄銚子。その時歩美に教えられたという並び順を、彼女は懐かしそうに語る。そんな彼女を意外な気持ちで見つめていると、遠くで揺れ動く影が視界に入った。

    「哀ちゃーん!」
    「うな重買ってきたか?」
    「元太君! 灰原さんにはちらし寿司の具材をお願いしてたんですよ!」

     時計台の下で大手を振る探偵団に、彼女も手を上げて答える。会話の内容からすると、どうやら彼らは精肉店に行っていたらしい。
    「待ち合わせしてたのか」
     四人の輪に投げかけるように言えば、彼女は振り返って微笑んだ。

    「今日は、吉田さんの家で雛祭りするのよ」



     家までの荷物持ちを買って出た降谷は、探偵団の後ろをゆっくりと歩いた。
     先頭にいるのは哀と歩美。その後ろに元太、光彦。夕方の傾いた日に包み込まれる彼女達は、どこから見ても仲睦まじい小学生四人組だ。

     彼女は最近、めっきり孤独な顔を見せなくなった。
     周囲の人に聞けば、降谷と出会う前はもっと厭世的な女の子だったらしい。
     その時に出会っておきたかった。そんな彼女も知りたかった――なんて、思わないこともないけれど。

     歩美の住む家は高層マンションだった。エレベータで上階にあがり、じゃあここで、と家の前で立ち止まる。持っていたビニール袋二つを元太と光彦に渡そうとすると、彼らは目を丸くした。

    「ここまで来て帰るのかよ」
    「そうですよ……」
    「安室さんもいっしょにちらし寿司食べようよ!」
    「いきなり訪問したら親御さんに悪いから、また来るよ」
     誘ってくる子供達に戸惑いながら返す。三人を宥める降谷に、哀はフッと柔らかい笑みを見せた。

    「代わりに、また記念写真でも撮る?」
     そう言って彼女が指差したのは、マンションの共用廊下から伸びる階段だった。踊り場を大きく切り取った窓から夕日が真っすぐに差し込んでいる。

    「そうだね! お母さんに撮影係頼んでくる!」
     歩美は声を跳ねさせると、家の中へ入っていった。



     まるで辺り一面を焦がすような茜色。その情熱的な情景に、心の奥底に秘めている郷愁が揺さぶられる。
     哀と並んだ降谷は、窓の外を見下ろす子供達の後ろから美しい夕焼けを眺めていた。

    「太陽の断末魔……」
    「え?」
     ふいに零れた呟きに、思わず彼女へ視線を向ける。
    「以前は、あと何回出会えるかと思っていたけれど……この光景をあなたと一緒に見られるなんて思わなかったわ」
     そう言って、彼女も降谷を見つめた。夕日に照らされた彼女はあまりにも綺麗で、降谷の心臓が大きく跳ねる。

    「お母さん、お化粧するから待っててだって! そんなのいいのにー」
     頬を膨らませながら出てきた歩美が、階段を駆け下りる。

    「以前もって……どこかで同じ景色を見たことがあるのかな」
     太陽の血にせき立てられるように、体中の血がざわめく。哀は微笑むと、目下に並ぶ元太と光彦、歩美を見下ろした。
    「ほら。この子達、三人官女みたいじゃない?」
     その言葉に、彼女がこの場所で写真を撮ろうと言った意味がようやくわかる。赤く染まる階段に背景のエレベータの扉を合わせると、ここは、まるで……

    「それを言うなら、僕がお内裏様で、君がお雛様ってことになるけど」

     歩美の家のドアが開き、子供達が一斉に振り返る。お待たせ、と言う歩美の母に、遅いー! と怒る歩美。元太と光彦は元気よく挨拶する。一方哀は、降谷の言葉に固まったままで。

    「……そ、そんな意味で言ったんじゃないわ!」

     歩美の母は、降谷に会釈すると踊り場に降りた。あら、あなたたちお雛様みたいね、と笑いながらカメラを構える。

    「哀ちゃんは、この並び順のままでいいのかな」
    「……まあ、あなた、顔だけはいいんだし、今日だけはお内裏様ってことにしてあげる」

     踊り場に軽快なシャッター音が響く。この日の思い出の写真には、頬を緩めた降谷と夕日に照らされ紅くなった哀が二人並んで映っていた。




    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💘💘💘💘🙏👏👏👏👏👏👏👏👏👏👏💖☺👏👏👏💖💖💖😭❤❤👏💖🌆💑👏👏💓🎎👏👏❤
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works