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    vi_mikiko

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    POIPOI 24

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    第4回目降志ワンドロワンライ参加作品です。
    お題:「桃の節句」「寿司」「顔だけはいいのよね」
    (気持ち、↓の続きですが単話で読めます)
    https://poipiku.com/3237265/8260579.html

    #降志ワンドロワンライ
    yuzhiWandolowanRai
    #降志
    would-be

    「桃の節句」「寿司」「顔だけはいいのよね」 春の訪れを感じる季節。ポアロのバイトを終えた降谷が米花町を歩いていると、目の前に小さな背中が見えた。
     背中の正体は、大きなビニール袋を手に提げた茶髪の少女、一人だ。
     今日は桃の節句。雛祭りという呼び名の方が一般的だろう。幼い女子のいる家庭では、健やかな成長を祈り雛人形を飾る日。

    「哀ちゃん」
     背後から声を掛ける。夕飯の買い物だろうか、大きな荷物のせいでいつも以上に彼女の身体が小さく見える気がした。
    「今日は、博士の家でパーティはしないのかな」
    「しないわ。うち、雛人形ないし」
    「……そっか」

     彼女の買い物袋を引き、奪い取るように持った。彼女は「いいのに」と言いつつ、降谷の横を大人しく歩く。
     先月の節分では博士の家で探偵団らと豆まきを楽しんでいたが、今日は一人なのだろうか。幼少期からアメリカに留学していた彼女は、雛人形を見たことがあるのだろうか。遠く離れた国で一人過ごす彼女に思いを馳せ、勝手に寂しい気持ちになる。

    「……去年の雛祭りは、吉田さんの知り合いの家に行ってね」
     ぽつりと話しをはじめた哀に、降谷はそっと視線を落とした。
    「みんなで七段飾りの、立派な雛人形を並べたの。全部間違えずに並べることが出来たら、吉田さんが雛人形をもらえるっていう約束だったから、みんなはりきちゃって」
     一段目は左からお内裏様とお雛様。二段目の三人官女は提子・三方・長柄銚子。その時歩美に教えられたという並び順を、彼女は懐かしそうに語る。そんな彼女を意外な気持ちで見つめていると、遠くで揺れ動く影が視界に入った。

    「哀ちゃーん!」
    「うな重買ってきたか?」
    「元太君! 灰原さんにはちらし寿司の具材をお願いしてたんですよ!」

     時計台の下で大手を振る探偵団に、彼女も手を上げて答える。会話の内容からすると、どうやら彼らは精肉店に行っていたらしい。
    「待ち合わせしてたのか」
     四人の輪に投げかけるように言えば、彼女は振り返って微笑んだ。

    「今日は、吉田さんの家で雛祭りするのよ」



     家までの荷物持ちを買って出た降谷は、探偵団の後ろをゆっくりと歩いた。
     先頭にいるのは哀と歩美。その後ろに元太、光彦。夕方の傾いた日に包み込まれる彼女達は、どこから見ても仲睦まじい小学生四人組だ。

     彼女は最近、めっきり孤独な顔を見せなくなった。
     周囲の人に聞けば、降谷と出会う前はもっと厭世的な女の子だったらしい。
     その時に出会っておきたかった。そんな彼女も知りたかった――なんて、思わないこともないけれど。

     歩美の住む家は高層マンションだった。エレベータで上階にあがり、じゃあここで、と家の前で立ち止まる。持っていたビニール袋二つを元太と光彦に渡そうとすると、彼らは目を丸くした。

    「ここまで来て帰るのかよ」
    「そうですよ……」
    「安室さんもいっしょにちらし寿司食べようよ!」
    「いきなり訪問したら親御さんに悪いから、また来るよ」
     誘ってくる子供達に戸惑いながら返す。三人を宥める降谷に、哀はフッと柔らかい笑みを見せた。

    「代わりに、また記念写真でも撮る?」
     そう言って彼女が指差したのは、マンションの共用廊下から伸びる階段だった。踊り場を大きく切り取った窓から夕日が真っすぐに差し込んでいる。

    「そうだね! お母さんに撮影係頼んでくる!」
     歩美は声を跳ねさせると、家の中へ入っていった。



     まるで辺り一面を焦がすような茜色。その情熱的な情景に、心の奥底に秘めている郷愁が揺さぶられる。
     哀と並んだ降谷は、窓の外を見下ろす子供達の後ろから美しい夕焼けを眺めていた。

    「太陽の断末魔……」
    「え?」
     ふいに零れた呟きに、思わず彼女へ視線を向ける。
    「以前は、あと何回出会えるかと思っていたけれど……この光景をあなたと一緒に見られるなんて思わなかったわ」
     そう言って、彼女も降谷を見つめた。夕日に照らされた彼女はあまりにも綺麗で、降谷の心臓が大きく跳ねる。

    「お母さん、お化粧するから待っててだって! そんなのいいのにー」
     頬を膨らませながら出てきた歩美が、階段を駆け下りる。

    「以前もって……どこかで同じ景色を見たことがあるのかな」
     太陽の血にせき立てられるように、体中の血がざわめく。哀は微笑むと、目下に並ぶ元太と光彦、歩美を見下ろした。
    「ほら。この子達、三人官女みたいじゃない?」
     その言葉に、彼女がこの場所で写真を撮ろうと言った意味がようやくわかる。赤く染まる階段に背景のエレベータの扉を合わせると、ここは、まるで……

    「それを言うなら、僕がお内裏様で、君がお雛様ってことになるけど」

     歩美の家のドアが開き、子供達が一斉に振り返る。お待たせ、と言う歩美の母に、遅いー! と怒る歩美。元太と光彦は元気よく挨拶する。一方哀は、降谷の言葉に固まったままで。

    「……そ、そんな意味で言ったんじゃないわ!」

     歩美の母は、降谷に会釈すると踊り場に降りた。あら、あなたたちお雛様みたいね、と笑いながらカメラを構える。

    「哀ちゃんは、この並び順のままでいいのかな」
    「……まあ、あなた、顔だけはいいんだし、今日だけはお内裏様ってことにしてあげる」

     踊り場に軽快なシャッター音が響く。この日の思い出の写真には、頬を緩めた降谷と夕日に照らされ紅くなった哀が二人並んで映っていた。




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    あんちゅ

    MAIKINGそしかい後、元の姿・宮野志保へと戻った灰原と、そんな彼女の隣りにいる降谷の話
    「君は、虹の素が何か知っているか?」


    タイトルは某アイドルのカップリング曲からお借りしてます。デビュー時から見守ってきたアイドルのユニット曲が宮野志保にしか聞こえなかったもので…。
    灰原哀には大切なものができたけれど、宮野志保は明美さんとの時間以外は空っぽの状態だろうなと。降志になる前の冒頭を少しだけ😌
    虹の素知らされた時にはすべてが終わっていた。

    「…そう。」

    小さく呟いたその一言が私が唯一抱いた感想だった。


    気づいてはいた。
    あの強大な組織を相手に、最終局面を迎えんとしていること。
    ずっと試作を続けてきた解毒剤の効果が3、4日は維持出来るようになったことに1人の少年が勘づいていること。
    そして、それを私に黙って持ち出していたこと。


    わかってはいた。
    彼らは例えその最後であろうと、私には何もしらせないこと。
    知らせないことで私を危険から遠ざけようとしていること。
    そうすることで私を守ろうとしていること。

    そして、
    それが彼らのやり方であること。





    組織との大規模な抗争が終わったことを告げたのは工藤だった。
    いつものように博士の家に我が物顔でやってきた彼はなんてことの無いようにさらりと告げたのだった。
    1529

    dc_eureka

    MOURNING灰原さんの日オンリー「口づけ」のワンライお題で書かせて頂いたけれど、
    コレジャナイ感がすごすぎて没にして、加筆修正して、持て余していたものを今更、供養致します。
    降谷さんのふの字も出てきませんが、降谷さん目線の降志です。
    n は、ここでは実験参加者数のことです。  Ω\ζ°)チーン
    n=2のささやかな実験計画 この歳になると、いや、何より職業上、他人のキスシーンを見ても、そうそう動揺することはない。実際、張り込み中に、濃厚な口付けを交わす対象者であったり、路地裏でキスどころでない行為をやらかしている対象者であったりを、幾らでも見てきた。最初こそどぎまぎしたりもしたけれど、最近では最早、日常茶飯事。どうということもない。――はず、だった。

     偶然目にしたカップルのキス。首に腕を回して、彼らは随分と夢中になっていた。思わずドキリとしてしまい、そんな自分に、驚いた。そうか、付き合い始めの彼女が隣にいる状況では、さすがの自分でも、気恥ずかしさを感じるのか。新しい自分を発見して、一人、心のうちで感心する。

     隣を歩くのは、赤毛頭の天才科学者。職場での彼女の評判は、クール、博識、毒舌、ヤバい…。畏敬を込めた、そんな言葉。案外かわいかったり、動物好きで優しかったりする一面もあるのだが、それは、自分が〔灰原哀〕だった頃を知っているからこそ思えること。確かに、科学者・宮野志保は、はっきり言って、時々怖い。
    3750

    lin_co10ri

    DOODLE12/10降志webオンリーイベント「Not First Love,2ND」展示作品です。ほぼポエム。
    来年の映画のタイトル穴あきヒントが出た時に、一番に思い浮かんだのがこのタイトルでした。
    これは降志…!と思っていて、今回のティザー、特報に情緒揺さぶられているうちに、つい書いてしまったものです。
    いずれひとつの話にしたい、とは思っています。
    そうなると、きっと黒塗りにされる部分ですね、これ。
    黒塗りのラブレター拝啓


    君があんな風に泣くなんて、知らなかった。

    いや、僕は君のことなんて、何も知らないんだ。
    どんな風に笑うのかも。何を思っているのかも。どうやって生きてきたのかさえ。
    ずっと僕の心の中に君という存在が、何かしらの形で居たということは。紛れもない事実だと言い切りたいが、これまで君のために何もできなかったことを思えば、近づくことさえできない。

    何故そんな風に泣いているのか、胸が引きちぎられるほど苦しくて、気になって目に焼き付いて離れないけれど。
    泣いている姿に、生きているという鼓動と躍動を感じて、崩れ落ちそうなほど安堵している自分もいる。
    君がそんなに素顔を晒せているのが。誰がいるからなのか、誰の前なのか、誰のためなのか。そんなことさえ気になってしまうけれど。
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