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    vi_mikiko

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    10月のふるしほワンドロワンライ参加作品です。

    お題:ハロウィン、スーパーマーケット、低気圧、停電

    #04notflワンドロワンライ
    #04notfl
    #降志
    would-be

    お題:ハロウィン、スーパーマーケット、低気圧、停電 童話の世界で生きられればどんなにいいか、と思う。組織の追っ手から無事免れ、めでたしめでたしと終わる平穏な世界。無事オオカミから逃げることができた、赤ずきんのように。
     ただ、現実はそう上手くいかないのだ。
     これから始まるのは、オオカミに捕まった、赤ずきんの話。

     ずきずき、ずきずき。鈍痛が、頭の中を駆け巡る。ずっと、頭上に重いものがのしかかっているような、頭蓋骨に締め付けられているような、そんな痛み。

    ハロウィン当日。パーティもそこそこに、渋谷で事件解決に尽力した探偵団は、後日、ハロウィンパーティの仕切り直しをしたいと言い出した。
     そして十一月も半ばに差し掛かった今日、赤ずきんの仮装に身を包んだ灰原哀は、博士の家で子供達とお菓子を広げていた。
     哀と同じく仮装を楽しむ歩美、光彦、元太。いつもならそんな彼らを見ると、哀も自然と笑顔が浮かんだのに。この日の哀は、記録的な爆弾低気圧により、ずっと頭痛に襲われていた。
    今日、子供達は親から外泊の許可を得て集まっている。おしゃべりに花を咲かせた後は、疲れたのかぐっすりと眠りについた。

     ずきずき、ずきずき。頭の中が鐘を打ったように鳴る。哀は、痛みに耐えきれずに起き上がった。救急箱を探り、頭痛薬を取り出すと、中身は空。
     ずきずき、ずきずき。夜はとっぷりと暮れ、三日月が蒼い空に浮かんでいる。
     米花町を少し離れると、24時間営業の巨大なスーパーマーケットがある。そこには、薬も売っていたはずだ。だが、時間はもう夜更け。一介の大人であれば問題ないが、今の自分は、小さな赤ずきん。
     ずきずき、ずきずき。哀は悩んだ末、背に腹は代えられないという思いで家を出た。

     こんなとき、コナンがいれば着いてきてもらうことができたのに、彼は小五郎の事件の連れで急遽来られなくなっていたのだ。いびきをかいている博士を起こすのも忍びないし、子供達を連れて行くのは言語道断。
     一人で行くしかないの。怖くはない、中身は立派な大人だから。そう、呪文のように唱えながら、夜の通りを小走りで駆け抜けた。
    ――哀を見つめていた、オオカミの視線に気づかずに。

    ***

     深夜のスーパーマーケットは、しんと静まり返っていた。いつだったか、映画でゾンビに追いかけられた主人公が、巨大ショッピングモールに立てこもる場面を見たことがある。この場所にはそんな、この世の終末のような寂しさがあった。

     哀は薬のコーナーを確認すると、足早にその場所へと向かった。ゾンビ、もしくは、ハロウィンのお化け? いや、赤ずきんを狙うオオカミが自分のことを迎えにくるかもしれない、なんて馬鹿なことを考えていた瞬間、目の前が真っ暗になる。

    (何……?)
     見渡す限り、闇だった。すぐに、停電になったのだと思い至る。しばらくしても非常電源が復活しない様子に、ただ事ではない事態を感じた。

     瞬間、哀の心臓がどくりとなる。
     いつかのバスジャック事件の日。今日のように赤いフードを被っていた時に感じた、威圧感を思い出す。
    ――あの女が、ベルモットが、ここに、いる。

    「灰原、哀ちゃん……」
     続けて聞こえるのは、甘ったるいテノールの声。哀は、この声を正確に覚えている。
     なぜなら哀は、この声の持ち主の視界に入らないよう、彼といる時は帽子やフードを目深に被り、逃げ続けているからだ。

     組織の一員、バーボン。ベルツリー急行でシェリーを捉え、組織に連れ去ろうとした男。

     ベルモットの威圧感、バーボンの声。二つの恐怖から、哀は逃げる。森の中のオオカミから逃れるように。暗闇のショッピングモールを駆け抜ける。
     足がもつれ、息があがる。どんなに懸命に走っても、子供の脚力には限界がある。哀を追うコツコツとしたヒールの音が、徐々に近づいてくるのがわかった。

    「Hey! Sherry! 隠れても無駄よ?」
     しびれを切らし、ベルモットが声を上げた。ヒールが鳴る。そして、組織の嫌な臭いが、哀の感覚を刺激する。大きな影が、目の前に現れる。影が伸ばす手に捕まり、抱え上げられる……

     ……ぎゅっと目を瞑り、恐る恐る顔を上げると、もう組織の臭いはしなかった。
     段々と目が暗闇に慣れていく。哀を抱え上げたのは、名前を呼んだ、テノールの声の持ち主だった。

    「あなた、オオカミじゃないの……」
     彼から感じるのは、高潔な香りだった。その雰囲気に気圧され、彼をじっと見つめながら問う。
    「とんでもない。犬ですよ、僕は」
    「え……」
     驚きのあまり固まる哀に向かい、降谷零は耳元で囁いた。

    ――国家の、ね。

     それが、灰原哀が降谷零に捕まった、二人の出会いの話だった。

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