ゲラードは厳しくもあり優しくもある、本当の姉のような存在だ。金色の癖のある豊かな髪にすみれ色の大きな瞳。女の私から見ても文句なく美女だが、顔の半分に痛ましい傷跡がある。その傷を常に大きな帽子やストールで隠しているせいもあり、どこかミステリアスで、少し近寄りがたいな雰囲気が漂う女性だ。
実際私も、長く一緒にいる割にあまり彼女の過去を知らなかった。傷の存在を知ったのも事故のような偶然からだ。詳しい事は今も知らないが、若い頃に相当な災難にあったらしい。
けれどここ最近の彼女はかなり明るく前向きになり、雰囲気も柔らかくなった。若い頃に生き別れた大事な人と再会できたらしいのだ。(余談だが、どうやら例の傷と関係があるらしい)
私や兄の為だけに生きてきたような人なので、彼女が彼女自身の幸せを求めるようになったのは私としてもとても喜ばしい。もちろん兄もそう感じているだろう。
そしてこうして今、私はゲラードとショッピングに来ている。こんな他愛無い事ができるようになったのも、ほんの最近から。それが自然にできるようになったという事が、私はとても嬉しい。
しばらくお店をひやかしたあと、私達は頃合いのオープンカフェに入った。冷たいカフェモカのふくよかな香りとほろ苦い甘さが、疲れた身体に心地よい。ゲラードも珍しく、アイスティーにガムシロップを入れていた。
グラスの汗がコースターに垂れ始めた頃、私のスマホが震えてメッセージの着信を伝えた。
「バンからだわ。……ぷっ」
「どうしたエレイン?」
「迎えに来てくれるって話なんだけど、今ロウと一緒なんですって」
「また? まったく、一体いつの間にそんなに仲良くなったんだか」
ゲラードは苦笑するが、少し嬉しそうでもある。ゲラードの大事な人であるロウとバンは全くの他人のはずなのに兄弟みたいにそっくりで、最初は「俺はあんなにスカしてねぇし、団ちょに馴れ馴れしいのが気に食わねぇ」などと言っていたバンも今ではすっかり懐いている。
「もうすぐ二人でこっちに来るって……あ!」
カフェの向かいの交差点のあちら側から、長身の男二人が歩いてくるのが見える。金髪のロウと、銀髪のバン。顔つきの似ている二人だが醸し出す雰囲気は全く違う。ロウはバンよりも少し穏やかな顔つきで、知らない人が見ればバンのお兄さんと思うだろう。クレバーな雰囲気のロウと見るからにワイルドなバン。猛烈に目立つ二人組だ。周りの女性の視線が集中している。ちなみにここに兄さんが入ると、もっと凄いことになる。
するとふっとバンがこちらに視線をやった。はたと目が合う。まだ信号も渡ってないのに大声で私を呼んでブンブン手を振った。
「あ、見つけた〜♫ エレイン、エレイン〜!」
「ちょ、や、やめ、やめてぇ……」
私は顔を覆った。もちろんあちらには聞こえていないが、言わずにはおれない。ゲラードはくすくす笑いながら大きく手をふるバンの隣のロウに、控えめに手を振っている。すると見かねたロウがバンを小突いたらしい。バンもそれに応える。二人は小突き合いながら信号を渡ってきた。
「ロウも何をやっているんだか」
「もー、はずかしい!」
「全く。迷惑料として、ここの支払いは彼らに託しましょう」
「名案だわ、ゲラード。追加でトロピカルワッフルと、このパストラミオープンサンドも頼んじゃいましょ。ポテト大盛りで!」
私達は顔を見合わせ笑い合う。何も知らない男二人は、じゃれ合いながら店に入ってきた。