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    dorotkrb

    @dorotkrb 東リベ腐垢(ドライヌ・ばじふゆ・たいみつ)

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    dorotkrb

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    ドライヌでオメガバース。番になりたくないバイク屋二人。短編をぽちぽち書いてます。

    #ドライヌ
    dryne

    いばらのかんむり「あー……イヌピー?」

     ベッドの上がオレの洋服だらけだった。綺麗に並べて堆く丸くなってる。
    店に置いておいた私服のすべてをつぎ込んで、ついでにクッションやらタオルやらも巻き込んで。それは形作られていて、その真ん中で蹲るように寝転んだ乾はオレのツナギを抱いていた。
     目許が赤い。長い前髪の間からちらっとこちらを見て、泣きそうに眉を歪める。

    「……」
    「…これ、巣なのか?」

     問いかけても乾は答えない。
     ただ短い呼吸を繰り返しながら、オレのツナギに顔を埋めている。


    □ □ □ 


     
     その日、渋谷の実家から出勤したオレは真っ暗に静まりかえった店に首を捻った。
     いつもこの時間は店の二階を住処にしている乾が朝の開店準備を始めているのが常だったからだ。
     急病だろうかと心配になって二階へと続く階段から上を見上げる。

    「おい、イヌピー寝てるのか?」
     
     そう呼びかけるのと同時に、ふわりと鼻孔をくすぐったのは嗅ぎなれた乾のフェロモンの匂いだった。
     二階の部屋にいるだろう乾の元から漂ってきた花みたいな香りに急いで顔を覆う。吸い込みすぎるのは危険だ。本能を暴走させる前に、店のカウンターの引き出しに仕舞ってある薬を取りに戻る。
     まだ先の予定だった発情期に、なんらかの理由で急に入ったとしか思えない。Ωが巣を作るのは繁殖の本能だ。番を探し、子を成したいと乾の本能が訴えているのだろう。
    けれど急すぎる。

    ( まさか何かあったのか? )

     同じ店で働くにあたってΩの事はオレなりに調べて知識をつけた。オレもそれにαとしてどう対処すべきなのかをかかりつけの病院で教えてもらった。オレ達は番になりたいわけじゃない。ただ同僚として、気の合うバイク仲間として、東卍の頃のような関係がずっと続けばいいって、そう思っていた。
     知れば知るほどΩの心とフェロモンのバランスの複雑さはいっそ哀れなほどだった。どの病院に行っても『番のいないΩは極めて繊細で不安定だから、大切にしてほしい』と言い含められる。
     心ないαに捕らわれて、興味本位に番にされるΩもいるらしい。なぜならαは複数のΩと番になれる。けれど、Ωは一人のαとしか番になれないからだ。

    「イヌピー入るぞ」

     コンコンと強めにノックして乾が暮らすワンルームのドアを開く。途端に濃くなる香りに抑制剤を飲んでなけりゃグラグラきそうだった。
     甘くて、透き通っていて、腰の辺りに直接響くみたいな極上の香り。

    「あー……イヌピー?」

     見渡せるワンルームに置かれたベッドの上がオレの洋服だらけだった。綺麗に並べて堆く丸くなってる。
     店に置いておいたオレの私服のすべてをつぎ込んで、ついでにクッションやらタオルやらも巻き込んで。それは形作られていて、その真ん中で蹲るように寝転んだ乾はオレのツナギを抱いていた。
     目許が赤い。長い前髪の間からちらっとこちらを見て、泣きそうに眉を歪める。

    「……」
    「…これ、巣なのか?」

     問いかけても乾は答えない。
     ただ短い呼吸を繰り返しながら、オレのツナギに顔を埋めている。決して手放すまいと。

    「大丈夫か?」
     
     オレの、αのフェロモンの香りに飢えてたんだろう。その健気な姿が気まずくて・・・でも少しだけドキリとした。
     こんな風になった乾を見るのは初めてだった。元から表情が乏しい奴だったし、薬を上手く使ってフェロモンをコントロールしているんだとばかり思っていた。

    「放って・・・お・・・れ」
    「ん?」

     掠れた小さな声が聞き取れなくて、オレはもう一歩、距離をとっていた場所から近付いてみる。すると違うと訴えるように乾は首を振った。

    「……薬飲んだから、放っておいて…くれ」

     突き放すように言うのに、乾はそれからもっときつくオレのツナギに鼻先を埋める。月夜に開いたばかりの花みたいな香り。けっして甘ったるくない、でも、その香りの元を辿ってその香りの在り処を見つけてみたいと思わせる匂い。
     ごくっと、思わず鳴らした喉の音にオレは内心で自分を罵る。
     別に乾はオレが好きな訳じゃない。ただαのフェロモンに無条件に縋り付きたくなっているだけだ。

    『αはやがてΩに出逢います。βと添い遂げたαもΩも大勢いますが、互いに引き寄せあうフェロモンを持っているから、この二つの性別が番になる事は極自然な事。龍宮寺くん。あなたも若いαならΩの芳しいフェロモンに当てられる日がくるでしょう。でも決して間違えないで。心が無い行為は不幸しか招かない』

     クリニックでドクターに語りかけられた言葉を思い出す。

    「服使いたいなら、使っていいし。オレもなるべく部屋に入らねえから、ゆっくり休めよ」
    「…うん」

     頷いた乾の上に、オレは自分の着ていたカーディガンを脱いで被せてやった。
    ぴくっと体を跳ねさせた乾は恐る恐るとそれをたぐり寄せてオレのツナギと一緒に自分の腕に抱き込む。
     Ωがαの匂いに惹かれるのは本能だ。その匂いがあるだけで満たされて、不安定なフェロモンも落ち着く場合があるらしい。

    「わりぃ…」
    「気にすんなよ。店はオレに任せろ」

     そう告げると乾は心底安心したようにオレの匂いを吸い込んで、そのまま目を閉じて動かなくなった。
     抑制剤を飲むと眠くなると言っていた。けど、ここまで深く眠りに落ちるなんて一体何錠飲んだんだと心配になる。
     一階に降りて開店準備を始めながら、今夜はここに泊まろうかと思う。
     あんな状態の乾を放っては置けないし、万が一、オレじゃないαにあの状態で見つかってしまえば……何をされるか解らない。
     乾はΩの性も手伝ってか、見た目だけなら儚く美しい外見をしている。
    本人が一ミリもそれを自覚していないのがそもそも問題だけど。乾がそう言う事を気にするような性格ではないと、ここ数年で嫌と言うほど思い知らされた。
     オレといることがストレスになっているのなら、一緒に仕事を続けていくのは乾にとって良い事とは思えない。けど、守ってやれるなら。番にならなくても、意図せず遭遇する危険から、どうしようもない理不尽から、オレなら乾の楯になってやれる。
     バイク屋を続けながら、誰とも番になるつもりはない野郎同士、上手くやっていけたらいい。


     通りに面したガラス扉を全開にして店の床にモップをかけ始めると、気配を感じて視線をあげた。
     入り口に佇んでいる男が一人。
     客だろうかと思った。でも、違う。
     目が違うからだ。
     長身だった。暗い色のスーツを着て、髪を綺麗に整えている。それなりの身分のある出で立ちだった。
     おそらくαだろう。
     いや、間違いない。
     オレにαとして威圧をかけてきている。
     口では言い表せない独特の雰囲気。
     乾が発情期に急に入ったのはコイツの仕業だと直感で解った。
     
    「まだ開店の準備中ですが?」
    「君はあのΩの番かな?」

     柔らかそうな口調に微笑みをのせて、男はオレをのぞき込んでくる。品定めしているような目つきが不快だ。

    「…違います」
    「では、あの若いΩに。私のΩに逢いたいのだが、呼んでくれないか?」
    「は?」
    「美しい子だった。しかも希少な男性Ω。是非、私がもらい受けたい」

     何を言っているのか一瞬理解できなかった。

    「こんなバイク屋で苦労して働くよりも、私の元で美しく着飾って、温室でゆっくり微睡む方が彼も幸福になれるとは思わないかな?」
     
     嫌悪感に体中の毛穴がそそけ立つ。
     同族嫌悪なんて言葉は嫌すぎて使いたくない。α特有の威圧感と、人を見下す態度。吐き気がする。
     Ωを所有物か何かだと思い込んでいるのだろうか。

    「金は用意するよ。君があの子に夢中なのは良くわかる。諦めたくはないだろうが、君はαに産まれながら、あまりにもお粗末な暮らしぶりだ」
    「アンタ、アイツになんかしたのか?」
    「せいぜいどこかのαの落とし胤かな?下級のΩとの間に生まれたαだろう君は?」
    「無駄口きいてないで、答えろって言ってんだよ!!!」
     
     怒りに腹の奥からせり上がった猛烈な熱が、肌の表面を焦がすようだった。自分の奥から滲み出る感情が渦を巻いて、目の前のαを押しつぶそうとしている。

    「っ!!」
     
     息を呑み、顔を歪めたαはじりじりと後ずさった。

    「別に何もしていない。ただ、私のフェロモンで呼びかけただけだ。求愛のようなものだよ。そもそも君と彼は番じゃないのだろう?何をそんなに怒っているか解らないのだが」
    「それは求愛じゃねぇ、無理矢理Ωを発情させる【トリガー】の類いだ。犯罪だろーが」

     オレを【トリガー】の事も知らないガキだと思っていたのか、αは悔しそうに舌打ちした。
     【トリガー】は文字通り誘発だ。αが発する発情のフェロモンを故意にΩに浴びせて発情させる。
     コントロールに長けたアルファは自分自身で【トリガー】のフェロモンを発する事ができるし、できないαは注射針みたいなものに発情のフェロモンを仕込んでΩの肌に傷をつけるだけでいい。
     αがΩを同意なく発情させるのは犯罪行為にあたる。実際、この【トリガー】の手口で発情したΩをレイプする犯罪も多い。想いの通じないΩ相手に、αが番になるためにそれを利用する事件もあった。

    「二度と顔見せるな。今なら見逃してやる。もしもまたアイツになんかしたらオレがお前を潰す」
     
     間合いを詰めて胸ぐらを掴むと、オレは怒りの全てを込めて男に自分の攻撃的なフェロモンをぶつけてやった。α同士の争いなんてしたことはない。誰に教えられた訳でもないのに、感覚だけの重い圧力を注ぎ込むと男は見る見る顔色を失っていった。

    「失せろ」

     たらりとαの鼻から血が流れ出す。崩れるようにその場にしゃがみ込んだαの男は自分の顔を手で覆って這いずるようにして店から出て行った。
     何事かと通行人が店をのぞき込んでいく。けれどオレの顔を見てそそくさと逃げるように通り過ぎていった。
     よっぽど怒り狂った顔をしていたんだろう。男を追い出してもオレの腹の虫は収まらず、力一杯モップで床を磨き続けた。


    □ □ □


    「ドラケン・・・」

     夕方、閉店の準備をしていたオレの背中に乾の声が聞こえた。

    「無理すんなよ。もう大丈夫なのか?」
    「ああ。もう落ち着いた・・・」

     頷いた乾はオレの顔をじっと見つめる。そしてゆっくりと店を見回してもう一度オレを見た。

    「どうした?」

     怪訝に思って問いかけると乾は不安そうな声で言った。

    「怒ったのか?」
    「どうして?」
    「なんか、そんな匂いがする」

     ぽやぽやとまだ眠そうな顔のまま、乾はスンッと鼻を鳴らす。

    「キレたドラケンの匂い…」

     そんな事も解ってしまうのかとオレは内心驚く。昼間来たβの客達は何も言わなかった。
     やっぱりΩには特別な能力が備わっているものなんだ。

    「・・・・・・イヌピーに【トリガー】仕掛けたαを追っ払っただけ」
    「とりがー?」

     怪訝そうな顔をする乾に驚く。まさか。

    「え!?」
    「ん?」

     そんな馬鹿なと思いながら問いかける。

    「まさか、イヌピー【トリガー】知らねえの?」
    「拳銃かなんかか?」
    「マジかよ…」

     思わず呻いたオレは乾がオレのカーディガンを大事そうに腕に抱えている事に気が付いた。そんなにずっとオレの服を側に置いておいたら匂いが移っちまう。

    「イヌピー…」
    「ん?」
    「いや、なんでもねーよ。部品の発注済ませといたからな」
    「ああ…」

     そう言うとこだろーが!と言いたいのを押さえて、言ってもきっと乾には理解できないだろうし、まあ、俺自身がそんなに悪い気がしないから放ってく。
     オレのフェロモンを肌につけていればそうそう他のαは寄ってこないだろう。
     いつか、乾が本当に番になりたい相手に出会うまででいい。

     巣作りに使われてしまったオレのツナギや、着替え達をいつ返して貰おうかなんて考えながら手のかかる同僚をやっぱり放っては置けないオレはこうして乾とバイク屋を続けていくんだろうって思った。平凡でも、平坦でも。
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