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    Mogmogsmaka

    ハマったものを軽率に書いていきたいです。現在は真Vのフィン主メイン。

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    Mogmogsmaka

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    ハッピーバレンタインデーでした。主ちゃんからおフィンへ、チョコレートを渡すフィン主です。お料理(の、お手伝い)するアオガミさんが書けて楽しかったです。

    #フィン主
    finMaster

    トリュフチョコレート寮の自室に掛けられたカレンダーを見る。2月の日にちが書かれているそれの、14日。ご丁寧にも赤い文字で【St.バレンタインデー】という文字が印字されている。日本ではすっかり好きな人へチョコレートを渡して愛を告白する日、若しくは愛や感謝を伝える日、という認識が定着している。学生ならば前者を思い浮かべ尚更浮かれるのだ。

    かく言う自分もその一人。

    今までなら貰う側の人間だった。色めき立つ女の子達から甘いチョコレートと甘い告白の言葉を貰うのは悪い気はしなかったし(受け取るかどうかは別として)、奥手な日本人にとって切っ掛けとしては良い行事なのだと思う。
    だからこそ今、俺はその行事に託(かこつ)けて愛しい従者へのチョコレートを準備しようと画策している最中だ。
    とはいえ、勿論手作りチョコレートなんて作ったことはない。寮生活であるから食事は寮母さんが準備してくれるし、そもそも実家でも料理や自炊なんてのも此の方やったことはない。つまり料理経験が皆無である。

    「うーん…」
    共同キッチンで可愛らしいチョコレート菓子のレシピを写したデバイス、板チョコその他材料一式、ラッピングを並べて睨めっこをしている。かれこれ数分は経っていた。
    「少年」
    見かねたアオガミさんが俺の背中からひょこりと顔を覗かせた。デバイスと俺を見比べて、彼は言う。
    「そのレシピは行程を無意味に複雑にしたものと分析する。私が口頭で説明しよう」
    「え、そうなのか」
    料理経験皆無の俺には、このレシピがそんなにも難しい文字の羅列だとも思わなかったし(そもそも解らないし)もっと簡単に説明されているレシピがある事も知らなかった。それを一見して判断が出来るアオガミさんが凄い。いや、ベテルの技術が凄いのか?
    「彼に送る物なのだろう?手を出す事は禁忌であると認識した。口頭でしか手伝えないが、不手際を起こさないよう留意する」
    「…ありがと、助かる」
    このチョコレートが従者へ送る為の物であることも彼は知っている。知っていて手を出さずとも協力してくれるのだから、俺の半身は本当に優しい。共同キッチンに備品として置いてあるエプロンを二枚手に取る。大きい物はアオガミさんに、一つは俺が身に着けて、さてやるぞと袖を捲って手を洗った。

    「鍋に水を張って火に掛け、温まるまでの間にチョコレートを砕こう。包丁で細かく砕く事を推進」
    俺が渡したエプロンを疑問も持たず身に着けたアオガミさんが指示を出してくれる。その通りに動きながら、まな板の上に板チョコを乗せて包丁で砕いていく。ゴリゴリとした感触が面白い。普段手で細かく割っているのとは違う感触だ。細かく砕いたチョコレートをボウルに移す。その間に、お湯は適温になったようだ。火を止めて、チョコレートの入ったボウルをそれに浸ける。
    「湯煎にかけながらゴムベラで塊が無くなるまで混ぜる。その間に生クリームを温めよう」
    ある程度塊が無くなったところで一度チョコレートから離れ、生クリームを量りで計ってから耐熱の器に入れてレンジに掛けた。600Wで40秒。事細かな数字すらそのレシピから読み取ったのか。凄いなアオガミさん。再びチョコレートを混ぜつつ、レンジが鳴ったら中から温めた生クリームを取り出す。
    「生クリームは少しずつ足すことを推進。そうすることで綺麗に混ざるそうだ」
    言われた通りに少しずつ足していく。チョコレートの赤褐色に生クリームの乳白色が混ざっていく。最初は斑に、混ぜ続ければ赤褐色に飲み込まれ本当に綺麗に消えていった。その作業を生クリームが無くなるまで続け、次に冷蔵庫から氷を出しボウルに入れるとそこへ水を入れ、溶けたチョコレートの入ったボウルを今度はそちらに浸ける。
    「ゴムベラでなく泡立て器が良いそうだ」
    持ち替えて混ぜる。先程までとろとろに溶けていたチョコレートが徐々に固まり始め、油分が白くなる。やってると理科の実験みたいで面白いな。何より、アオガミさんが余計な部分を省いて簡潔に説明してくれるお陰でより解りやすい。

    「アオガミさんがお母さんなら良いのに…」

    それなら料理にだって興味が沸きそうだ。小さな呟きは彼には聞こえていなかったのだろう、チョコレートの様子を見て次の行程の説明を始める。
    「よし。少年、バットの準備を…運動の為の物ではなく銀色のトレーだ。そこにスプーンを使い一口大程度に取り分けて並べ、冷蔵庫で冷やし固めてから形を整える」
    スプーンで固くなったチョコを掬い並べる。初めてにしては様になってきているのは、偏にアオガミさんのお陰だろう。

    これを手渡した時、彼は一体どんな顔をするのだろう?楽しみで仕方がないし、その顔を思い浮かべれば料理をするのは案外面倒ではないのかもしれない。

    ラップをかけて冷蔵庫に入れ、タイマーを冷蔵時間に設定し成形しやすくなる程度に固くなるのを待つ。その間に使った器材を片付けに入る。俺が洗うのを、隣でアオガミさんが布巾で拭いて所定の位置へ片付ける。
    「そうだ、アオガミさんにはこれ」
    鞄から蒼い小箱を取り出した。いつもいつも不甲斐ない俺を助け、共に戦ってくれる半身への贈り物だ。手作りは彼にだけ贈るつもりであるから既製品で申し訳ないけれど、バレンタインのコーナーで見つけたこの蒼い小箱がアオガミさんの綺麗な髪の色に似ていて思わず手に取ったのだ。…うん、やっぱり似てる。
    唐突な贈り物にアオガミさんは目を丸くしていたが、次いで慈愛に溢れる笑みを浮かべると「有り難う」と礼を述べて受け取ってくれた。
    「いつも有り難う、今後とも宜しくね」
    「私こそ今後とも宜しく頼みたい。君を護る神造魔人として生まれたが、君のお陰で日々が楽しい」
    …ああ、本当にお母さんみたいだなあ。
    朗らかな遣り取りをしていると冷蔵庫にくっつけているタイマーが鳴った。冷蔵時間の30分が来たらしい。アオガミさんは蒼い小箱を大切そうにテーブルに置いてから再び説明を開始した。
    「掌にパウダーを付けてからチョコレートを取り、成形しよう」
    完成した物を乗せる為の皿を準備し、ココアパウダーと粉砂糖、マンゴーパウダーをそれぞれお皿の上に出す。手にパウダーを付けてから固まったチョコを掌にに乗せて丸める。ころころと転がして開けば、掌の上にはデバイスに写っていた可愛らしいチョコトリュフが出来上がっていた。

    「で、出来た…!」

    簡単なものであったとはいえ、完成すればとても嬉しい。次々と丸めては完成品を皿に乗せていく。ココアパウダーの茶色、粉砂糖の白、マンゴーパウダーの黄色。マンゴーパウダーを選んだのは、鮮やかな黄色が彼の金糸に見えたからだ。
    成形し終えた三色のトリュフを可愛らしい胡粉色の小箱に丁寧に詰め込んで、蓋をして紅緋色に金の縁取りが施されたリボンを掛ける。このリボンも先の小箱と同じくラッピングのコーナーを見ている時に見つけ、彼のマントに似ているから買ったものだ。鮮やかな色がよく映えている。我ながら良いセンスだ。エプロンを外すと蝶々結びを施された小箱を崩れぬようそっと手に取る。

    「さて、ダアトに行くぞ」
    集落で待たせている、愛しいフィンの元へ。



    「今日は一日こっちにいて欲しい、また迎えに行くから」
    そう言われ、ダアトから東京へ去る際にストックから放出された王の仲魔達は今、妖精の集落に預けられている。当たり前だがそもそもダアトには季節や日付の概念が無い。その様なもの何の意味も持たないし、昔に破壊されてしまっているからだ。しかし王が忘れまいと東京から暦を持ち込み、それをこの集落の龍穴近くに設置してから彼と志を共にする仲魔や集落の悪魔達にそういった概念が生まれ始めている。何故持ってきたのかと王に訊けば「現代には面白い季節の行事なんかがあるからな、皆が知らないのは勿体無いだろう?」との事だ。

    その【面白い行事】が今日らしい。

    此処に居る悪魔達が色めき立っているのは見ているだけで分かった。手元に可愛らしい小袋を持って彼方此方を行き交っている。
    「余裕ねぇ」
    その様子を瓦礫に腰掛けて面白可笑しく眺めながら得物の手入れをしていた俺に話しかけてきたのは女神イズンだ。隣に腰を降ろして篭の中に詰め込んでいた林檎の一つを丁寧に布で磨き始める。
    「余裕、とは?」
    物言いた気な彼女に問いかける。
    「今日は東京に住むヒトにとって特別な日だって聞いているわ」
    白魚のような指がすいと暦を示す。特別な日は赤い色で示されているのだと教えられた今日の日付はその赤色になっている。
    「お菓子と一緒に愛しい相手へ愛を伝える日なんですって。ヒトって素敵ね、そんな事を思いつくのだもの」
    「愛…」
    彼女の言葉を反芻して理解する。つまり王はその準備をする為に仲魔達をこの集落へと預けたのだ。彼女の言う「余裕」とは、自分と王が恋仲である事を知っていての言葉なのだろう。俺が、俺だけは確実に王の手ずから貰えるのだろうと。

    「…!」

    その事実を認識し、俺も他の悪魔達と同じ様に色めき立ってしまう。王と共に在れる事が至上の悦びであったから、俺個人ではあまり暦や季節を明確に認識していなかった事が悔やまれる。その様な日であったとは。早く王にお会いしたい。いっそのこと此方から王の元へ向かってしまおうか…いや、迎えに行くと言われた手前迷惑だろうか。
    すっかり得物を手入れする手が止まった俺を、今度は女神が面白可笑しく見つめていた。くすくすと控えめに笑う彼女の笑い声を気に留めず王の事だけを考えてしまう。
    と、龍脈が光り輝きそこから我が愛しの王とその半身が現れるのが見えた。

    「フィン!」
    思わず声を掛けようとする前に、俺の姿を捉えた王がぱ、と目を光らせて足早に此方へと駆けてくる。ああ、いけませんその様に駆けては。貴方は今はナホビノの状態ではないのですから。その固そうな革靴では転んでしまう。得物を投げて慌てて向かう俺の前で少し転びそうになりながらも到達した王が嬉しそうに笑みを浮かべている。少しの距離であったが息の上がっている体を支えて背中を擦り、息を整えるようにと進言する。
    「はは、お待たせ…少しいいか?」
    「勿論」
    断る事などあり得ない。落とした得物を拾い上げて鞘に収めると、仲魔達に背を向け二人だけで歩き始めた。ふと彼の半身を見れば群がる仲魔と集落の悪魔達へ揃いの可愛らしい小箱を配っているのが見える。目が合えば静かに頷いた。どうやら皆を寄せ付けておいてくれるようだ。気遣いに感謝せねばならない。

    手を絡め合って歩く。瓦礫で躓かないように護衛しながらこの集落で休む時に使っている廃屋の一室へと辿り着く。周りには鳥の鳴き声と川のせせらぎ、木々が風に揺れる音、少し息の上がった王の呼吸音しか聞こえない。

    「これ、フィンに」

    二人きりの空間で、王は照れくさそうに頬を染めて笑みながら大切に持っていた胡粉色に紅緋色の飾りが施された小箱を渡してきた。
    それを受け取り、可愛らしい箱から仄かに香る甘い香りに先刻女神が言っていた事を思い出す。お菓子と一緒に愛しい相手へ愛を伝える日。今日は、その日。
    「…開けても?」
    「どうぞ」
    情けなくも緊張で震える指先でリボンを解く。蓋を開ければ、中には俺の見たことがない甘い芳香をさせる菓子が詰め込まれていた。茶色に白、そして黄色。
    「お前だけに、俺が作ったんだ。皆には内緒だからな」
    確かに、彼の半身が配っていたのは揃いの小袋だった。この色の小箱は、俺だけに王が手ずから準備した物。中身の菓子も俺に渡す為だけに作ってくれたのか。何とも可愛らしい事をしてくれる。
    「有り難く戴こう」
    今この場において俺達は主従であり、それ以前に愛を交わして将来を誓い合った伴侶である。
    彼が好み、彼の前だけで見せるようにしている砕けた言葉遣いに改めて、丸い菓子を一つ摘まみ上げた。その菓子越しに、俺の様子を緊張の面もちで彼が見つめているのが見える。指先の熱が伝わり触れた部分から溶けるそれを口の中に入れれば、濃厚な甘さととろける口触りが何とも言えず美味い。これを自ら作ってくれたのか、俺の為だけに。
    「美味い」
    そう言って唇に付いた粉を舌で舐め取れば、彼は強張っていた肩から力を抜いた。お前さんが俺を想って作ってくれた物が美味くない訳無いだろうに。そういった所も初々しくて愛らしい。
    「俺の為とは云えお前さんが作ったんだ、一緒に食べようぜ」
    設置されている長椅子に座り隣を叩けば、一つ頷いて俺の隣へと座った。ナホビノの状態と違い、ヒトの姿では俺よりも華奢で小さな体が更に小さい。
    「戴きます」

    黄色い菓子を摘んで口に運ぶ。柔らかな唇でそれを挟んだ瞬間、身を屈めて彼の唇に己の唇を寄せた。正確に言うならば菓子に。

    「んぅっ」
    驚きに見開かれる銀色の瞳が間近に見える。それを見据えながら舌を進めた。菓子ごと彼の唇を舐めて、甘くほんのりと果物の香りのする菓子を舐め溶かしていく。俺の動きに彼も同調して動き始めた。同じ様に舌を出し、菓子を溶かし始める。俺と彼の舌の間に挟まれて溶かされた菓子は徐々に小さくなっていく。ねっとりとした感触の菓子と舌が絡んで耳に付く水音を立てているが気には留めない。菓子が溶けて小さくなっていけばいく程に互いの舌が触れるのが焦れったく、けれど楽しい。
    「っは」
    直に互いの舌が触れ始める。菓子の形は跡形も無くなって、残った甘い味しか感じることは出来ないが彼の唇を味わう事はできる。互いの舌を絡め合って、角度を付けて食らいつくように深く口付ける。上顎を舐めて甘い唾液を送ればそれを飲み干して、瞳を蕩けさせながら必死に応えてくれた。
    何時にも増して粘度の強い唾液を引きながら唇を離せば、彼の形の良い唇は溶けた菓子で濡れていた。勿体ないと舐め取ってやれば擽ったそうに笑い、お返しとばかりに俺の唇を舐めてくれる。お互いを舐め清めた所で彼が愛しげな、俺にしか聴かせない声色で感謝と愛の言葉を告げた。

    「いつも有り難う、愛しい愛しい俺のフィン・マックール…愛してるよ」
    「俺の方こそいつも感謝してるぜ。愛しているよ、お前さんただ一人を」

    同じ様に彼にだけ聴かせる声色で感謝と愛の言葉を返すと、長椅子の肘掛けに小箱を置き一粒摘んで唇に挟む。すいと顔を突き出せば彼は照れくさそうに笑みながらも俺と同じ様に舌を這わせてくれる。
    彼の手作りの菓子がなくなるまで二人でたっぷりと味わった。



    おしまい
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