Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    pk_3630

    @pk_3630

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 41

    pk_3630

    ☆quiet follow

    平安時代AUの曦×澄♀ ⑤
    曦臣の元を離れようと画策する江澄とそれを知ってしまった曦臣
    すれ違いが加速してます

    #曦澄

    平安時代AU 第5話江澄は朝の光がさす部屋で文机に向かい、さらさらと返歌をしたためていた。
    「姫様、そろそろ宮殿に向かいませんと」
    「今行く」
    侍女に呼ばれ部屋を出ようとして、ふと振り返る。曦臣から贈られた部屋、逢瀬の思い出に満ちた場所がきらきらと光を取り込んでいた。
    (この部屋で暮らすのも、蓮花の香を纏うのも後少しになるだろう。宮中を去ることをいつ曦臣に切り出そうか。)
    女官の職を辞し宮中を去ることを告げた時、曦臣はどんな反応をするだろうか。引き留められるのも辛いし、実父のように無関心に振舞われるのも辛い。では快く送り出されれば辛くないのだろうか、きっとそれも違う。
    結局どんな反応にせよ江澄の心は乱れ、生涯乱れた心が凪ぐことはないのかもしれない。それ程に曦臣のことを想っている。本当は曦臣の反応を目にするのが怖くて、何も言わずにひっそりと宮中を去ってしまいたい。けれど今日まで情けをかけてくれた曦臣に何も告げないという不義理を働き、その元を辞する真似はしたくなかった。
    (どうであれ私の選ぶ道は決まっている。ならばせめて、最後に曦臣の目に映る自分は凛とした姿でありたい。)
    文机の上の返歌を切なげに眺めながら、そう何度も自分に言い聞かせていた。


    「主上、最近の女官達の噂をご存じでいらっしゃいますか?」
    髪結いをしてくれる女官が背後で楽しそうに話しかけてくる。
    彼女は情報通でおしゃべりな女官のため、こうして髪結いの時に宮中の噂話や貴族の流行等を色々と教えてくれる。
    「今回は何が話題になっているの」
    「今は江家の末の姫君のことが女官達の間で持ち切りですのよ」
    鏡に映った自分の顔が一瞬強張った。
    左大臣家から帰ってきて以来、江澄はどこか逢瀬を控えようとしているように見えた。月のものや夢見が悪かったことで物忌みをしたいと言われてしまえば、こちらも無理に逢ってほしいとは言えなかった。
    江澄に何かあったのだろうか、悪い予感に心臓の音がだんだんと大きくなる。
    しかし、こちらの心など知る由もない女官は楽し気な口調で話を続けた。
    「あれほど男っ気がなかった姫君でいらっしゃったし、ご自分も宮中を出て結婚をするつもりはないと断言していらっしゃったのに、最近殿方と文のやり取りを頻繁にされているので、皆驚いているのですよ」
    外れてほしい予感程あたってしまうものだが、これ程ひどい話はあって欲しくなかった。
    「どういうこと?何があったのかな」
    何とか平静を保って声を絞り出すも掠れた声色になる。
    「何がそうさせたのかは存じません。けれどもともとが美しい姫ですし、宮中に入ってからより和歌も洗練されたからでしょうか、姫が文のやり取りをしていると噂が広まったらあっという間に我も我もと殿方から文が届くようになったのです。和歌だけでなく長歌や漢詩も嗜むとあって名家の貴公子方も競って文を送ってくるので、今や女官達の間で末の姫君の話が出ない日はないくらいですのよ。」
    確かに逢瀬の数は減っていたが、夜に部屋を訪れることを許してもらえば、今まで通りに身を委ねてくれていたから、まさかそんなことになっているとは夢にも思わなかった。
    「どうやら末の姫君は結婚するおつもりのようなので、どのような方と結婚したいのか本人に聞いてみたのですけれど、可笑しなことを言っていたのですよ。都から離れて遠くへ行きたいのだと。名家の貴公子方に求められているというのに、受領の妻になりたいなどと、江家の末の姫君はやはり変わっていらっしゃいますよね。」
    髪結いの女官が話をする度に地面が揺れて崩れていくような心地を味わった。
    何故そんなことになっているのか。確かに江澄とは体の関係こそ持ってはいなかったが、慈しみ守りたいのだと告げればいつも泣きそうな顔をして幸せそうに笑ってくれていたではないか。ずっと仕えていたいとも言ってくれたのに、何故都から遠く離れた地で受領の妻になりたいなどと言い出したのか、何一つ理解できなかった。
    ただ一つわかっていることは、どうあっても江澄を他の男に取られたくないということだ。他の男が江澄と文のやり取りをしていただけでも許しがたいのに、このままにしておけばいつ勘違いした男が女官に頼んで手引きさせ、江澄の寝所に夜這いするかわかったものではない。

    仕度が終わるや否や、つかつかと江澄の部屋へ向かう。焦りのあまり秘密の扉ではなく正面から部屋に入った。
    「阿澄、話がある」
    しかし江澄は儀式の準備で他の宮殿に行っているらしく、部屋には誰もいなかった。
    文箱を見ると何通もの文がある。意匠を凝らした極上の紙を見れば、いかに相手が本気であるかがわかり、その紙に書かれた江澄を求める和歌の数々には吐き気がした。
    そして文机の上にはまだ墨が乾ききっていない紙が置かれていた。かすかに蓮花の香がする薄紫色の紙に美しい字で返答の和歌が書かれている。宛先はここから遠く離れた地を任地とする受領の男だった。
    薄紫色の紙を手に曦臣はわなわなと震え首を小さく横に振った。この返歌が受領の男に届いてしまえば結婚に同意したようなものではないか。
    「そう、あなたがそのつもりなら…」
    薄紫色の紙を破り捨てながら、曦臣の心には暗い炎が灯った。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    💜😭😭😭😭😭😭😭🙏🙏😭👏👏💜😭🙏💜💜💜💜💜😭👏👏😢😢💞💜💜💗😭😭🙏😭🙏💜↩🇴📈🅰✝✝🌱🅰⛎📈😭💜💜💜🙏🙏🙏😭🙏🙏💜💜💜
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    takami180

    PROGRESS恋綴3-2(旧続々長編曦澄)
    転んでもただでは起きない兄上
     その日は各々の牀榻で休んだ。
     締め切った帳子の向こう、衝立のさらに向こう側で藍曦臣は眠っている。
     暗闇の中で江澄は何度も寝返りを打った。
     いつかの夜も、藍曦臣が隣にいてくれればいいのに、と思った。せっかく同じ部屋に泊まっているのに、今晩も同じことを思う。
     けれど彼を拒否した身で、一緒に寝てくれと願うことはできなかった。
     もう、一時は経っただろうか。
     藍曦臣は眠っただろうか。
     江澄はそろりと帳子を引いた。
    「藍渙」
     小声で呼ぶが返事はない。この分なら大丈夫そうだ。
     牀榻を抜け出して、衝立を越え、藍曦臣の休んでいる牀榻の前に立つ。さすがに帳子を開けることはできずに、その場に座り込む。
     行儀は悪いが誰かが見ているわけではない。
     牀榻の支柱に頭を預けて耳をすませば、藍曦臣の気配を感じ取れた。
     明日別れれば、清談会が終わるまで会うことは叶わないだろう。藍宗主は多忙を極めるだろうし、そこまでとはいかずとも江宗主としての自分も、常よりは忙しくなる。
     江澄は己の肩を両手で抱きしめた。
     夏の夜だ。寒いわけではない。
     藍渙、と声を出さずに呼ぶ。抱きしめられた感触を思い出す。 3050

    takami180

    PROGRESS恋綴3-5(旧続々長編曦澄)
    月はまだ出ない夜
     一度、二度、三度と、触れ合うたびに口付けは深くなった。
     江澄は藍曦臣の衣の背を握りしめた。
     差し込まれた舌に、自分の舌をからませる。
     いつも翻弄されてばかりだが、今日はそれでは足りない。自然に体が動いていた。
     藍曦臣の腕に力がこもる。
     口を吸いあいながら、江澄は押されるままに後退った。
     とん、と背中に壁が触れた。そういえばここは戸口であった。
    「んんっ」
     気を削ぐな、とでも言うように舌を吸われた。
     全身で壁に押し付けられて動けない。
    「ら、藍渙」
    「江澄、あなたに触れたい」
     藍曦臣は返事を待たずに江澄の耳に唇をつけた。耳殻の溝にそって舌が這う。
     江澄が身をすくませても、衣を引っ張っても、彼はやめようとはしない。
     そのうちに舌は首筋を下りて、鎖骨に至る。
     江澄は「待ってくれ」の一言が言えずに歯を食いしばった。
     止めれば止まってくれるだろう。しかし、二度目だ。落胆させるに決まっている。しかし、止めなければ胸を開かれる。そうしたら傷が明らかになる。
     選べなかった。どちらにしても悪い結果にしかならない。
     ところが、藍曦臣は喉元に顔をうめたまま、そこで止まった。
    1437

    takami180

    PROGRESS長編曦澄17
    兄上、頑丈(いったん終わり)
     江澄は目を剥いた。
     視線の先には牀榻に身を起こす、藍曦臣がいた。彼は背中を強打し、一昼夜寝たきりだったのに。
    「何をしている!」
     江澄は鋭い声を飛ばした。ずかずかと房室に入り、傍の小円卓に水差しを置いた。
    「晩吟……」
    「あなたは怪我人なんだぞ、勝手に動くな」
     かくいう江澄もまだ左手を吊ったままだ。負傷した者は他にもいたが、大怪我を負ったのは藍曦臣と江澄だけである。
     魏無羨と藍忘機は、二人を宿の二階から動かさないことを決めた。各世家の総意でもある。
     今も、江澄がただ水を取りに行っただけで、早く戻れと追い立てられた。
    「とりあえず、水を」
     藍曦臣の手が江澄の腕をつかんだ。なにごとかと振り返ると、藍曦臣は涙を浮かべていた。
    「ど、どうした」
    「怪我はありませんでしたか」
    「見ての通りだ。もう左腕も痛みはない」
     江澄は呆れた。どう見ても藍曦臣のほうがひどい怪我だというのに、真っ先に尋ねることがそれか。
    「よかった、あなたをお守りできて」
     藍曦臣は目を細めた。その拍子に目尻から涙が流れ落ちる。
     江澄は眉間にしわを寄せた。
    「おかげさまで、俺は無事だったが。しかし、あなたがそ 1337

    recommended works

    takami180

    PROGRESS恋綴3-1(旧続々長編曦澄)
    あのあとの話
    同じ轍を踏む兄上
     西瓜は口に入れた瞬間に甘い果汁があふれ出て、とてもおいしかった。
     食べ終わるのがもったいないほどだった。
     さて、食べ終えたからには顔を上げなければいけない。
     江澄はひとつ息を吐いて背筋を伸ばす。
     向かいには、ものすごく機嫌の良さそうな笑顔があった。
    「おいしかったですね」
    「そうだな」
    「今日は何時までいられるのですか」
    「いや、急なことだったから、もう帰ろうかと」
     途端に藍曦臣はうなだれた。彼のそんな顔は初めて見た。
    「それはしかたありませんね。どちらで宿を?」
    「ぎりぎりまで飛ぼうと思っていたから、決めていないが」
     江澄は腕を組んで、天井を見上げた。今からであれば、日が沈む頃には姑蘇を出られるだろう。
     明日には蓮花塢に戻らなければいけないが、それは夕刻でも問題ない。最悪、明後日の朝一番に戻れれば……
     そこまで考えて、江澄はうっすらと頬を染めた。そんなことを言えば無茶をするなと叱られるに決まっている。だが、考えてしまうくらいにはここを離れがたく思っている。
    「あー、あのな、曦臣」
    「はい」
    「今すぐに発たなければいけないわけではなくて」
    「そうなんですか」
    「もう少 3119

    newredwine

    REHABILI
    味覚を失った江澄が藍曦臣とリハビリする話(予定)②辿り着いた先は程々に栄えている様子の店構えで、藍曦臣の後について足を踏み入れた江澄は宿の主人に二階部分の人払いと口止めを命じた。階下は地元の者や商いで訪れた者が多いようで賑わっている。彼らの盛り上がりに水を刺さぬよう、せいぜい飲ませて正当な対価を得ろ、と口端を上げれば、宿の主人もからりと笑って心得たと頷いた。二家の師弟達にもそれぞれの部屋を用意し、酒や肴を並べ、一番奥の角の部屋を藍曦臣と江澄の為に素早く整え、深く一礼する。
    「御用がありましたらお声掛けください、それまでは控えさせていただきます」
    それだけ口にして戸を閉めた主人に、藍曦臣が微笑んだ。
    「物分かりの良い主人だね」
    江澄の吐いた血で汚れた衣を脱ぎ、常よりは軽装を纏っている藍曦臣が見慣れなくて、江澄は視線を逸らせた。卓に並んだ酒と肴は江澄にとって見慣れたものが多かったが、もとより藍氏の滞在を知らされていたからか、そのうちのいくつかは青菜を塩で炒めただけのものやあっさりと煮ただけの野菜が並べられていた。茶の瓶は素朴ではあるが手入れがされていて、配慮も行き届いている。確かに良い店だなと鼻を鳴らしながら江澄が卓の前に座ろうとすると、何故か藍曦臣にそれを制された。
    2924