タイトル未定結局その日はそのまま寝ることにし、次の日からビリーは例の彼と友だちになるべく、まずは面と向かって会話出来るようになろうと試みることにした。
ビリーの作戦は彼の好物を使ってクローゼットから出すというものだったが、話が出来ないため好物が分からないのだ。
そこで、毎日行うパトロールの中でビリーが気になったものを買っていくことにした。
「Hey〜!今日はドーナツを用意したんだけどどうカナ?でも早く食べないとジェイが全部食べちゃうヨ☆」
「遅くなっちゃってゴメンネ〜?今日はアッシュパイセンにねだったらフライドチキン奢って貰っちゃったからキミにもおすそ分け♡」
「甘いものの方がお好みみたいだから今日はガトーショコラを買ってきまシタ!ちなみに超モテ男DJビームスのお墨付き〜♪」
「うわぁ〜ん!DJ、助けてヨ〜!」
「もう、うるさいなぁ…何?俺そろそろ行きたいんだけど?」
「だって〜…なかなかあの子とお話出来ないんだもん!」
「あの子…あぁ、ビリーの部屋にいる幽霊だっけ?」
「ウン…毎日ご飯あげてるんだけど何が好きか分からないから結局話せないんだよネ」
「ふぅん…そんな風にビリーが固執するの珍しいね?」
数日後、ビリーは談話室で見かけたフェイスに泣きつくことになった。
そして、フェイスに言われた言葉に確かに、と納得する自分がいた。
基本的に利害の一致を第一に行動する自分が、このようにあまり関係のない特定の人物に固執することは少ない。
目の前のベスティでさえそうなのに。
だが、あの不安そうな様子や、悪いことをしてしまったという罪悪感…あとは少しの好奇心。
これらがビリーを動かすのだろう。
「まあ、のんびりやってけば仲良くなれるんじゃない?」
「ンー、あんまりアドバイスになってない…」
「アハ、俺に聞くのが間違いだよ?ちなみにタワーの下にカップケーキの移動販売が来てたな」
「!」
「今日のプレゼントは決まりだね?」
「にひひ、ありがとDJ♪」
じゃあネ、と足早に去る友人を見届けつつフェイスも飲み干したココア缶を捨て、今頃キャンキャン吠えているであろうルームメイトと合流したのだった。
「アイムホーム!帰ったヨ〜」
明るい声で彼に話しかけるようにそう伝えるビリーは、カラフルな装飾がされた箱を持っている。
そこには、もちろん悪友に教えてもらった移動販売していたカップケーキが入っている。店主と話が盛り上がってしまい、ビリーが購入した分の他にもキャラメル味のような定番の味から、ドーナツ味と言った変わり種のフレーバーを貰うことが出来た。
今日は出てきてくれるといいナ、と願いつつ今日もそのクローゼットに向かって語りかけた。
「今日はネ、タワーの下に移動販売のおじさんが来てたんだ〜☆なんの移動販売か分かるカナ?」
「……」
「アレレ〜?答えてくれないならオイラが独り占めしちゃおっかな、このカップケーキ♪」
「、カップケーキ…?」
「!」
「…あ、………」
「…んふふ、何味がイイ?プレーン味もあるし、ドーナツ味なんてのもあるヨ?」
「…いっしょに、食べてくれる……?」
「もちろん〜!ほら、出ておいで?」
久々に聞いたその声は、相変わらず甘いコットンキャンディのような声音でビリーの心をゆっくりと溶かすようだった。
そして暗闇から出てきた彼の姿は、明かりに照らされるも薄ら透けていた。
(やっぱり幽霊なのカナ…?)
それでも蜂蜜のようなら美味しそうな瞳や、スっと通った鼻筋、形のいいくちびるで彼の容姿に生気を与えていた。
「あ、あの……」
「ン〜?ごめんネ、キミのことちゃんと見れたのはじめてだから」
「そうだよね…ごめんなさい……」
「なんで謝るノ〜!なにも悪いことしてないヨ?あ、俺っちはビリー・ワイズ☆ビリーって呼んでほしいナ♪」
「ビ、ビリーくん……?」
「ウン、それじゃあキミのお名前も教えて?」
「グ、グレイです…グレイ・リヴァース…」
「じゃあグレイって呼んじゃお♡よろしくね、グレイ!」
そう言いながら手を差し出すと、グレイは少し困ったように眉を下げた。
「あの…僕のこと、怖くない……?」
「最初はちょっぴりびっくりしちゃっただけ、今は平気だヨ」
「そ、っか……驚かせちゃって、ごめんなさい……よろしくお願いします…」
グレイは白くて細い腕を伸ばし、ビリーの手をぎゅっと握った。
そこで、ビリーはとあることに気づいた。
「アレ?」
「ど、どうかした…?」
「俺っち、グレイのこと触れなかったから幽霊だと思ってたんだケド…」
「あ……僕からだと触れるんだ」
「へぇ、そうなんだ!お得な情報ゲット〜♡」
あの時、はじめてグレイに会った時はストリングスをすり抜けたのにも関わらず、今は自身の手に触れていることに疑問を感じたが、すぐにそれは解決した。
グレイはまた、驚かせてごめんね…としゅんとした顔で言ってきた。
どうやら、相当ネガティブらしい。
ビリーはその事も脳内のメモ帳に記録しながら、カップケーキを食べる用意をし始めた。
その間グレイはソワソワしつつビリーが来るのを待っていた。
「じゃ、いただきマース♪」
「い、いただきます…」
ぱくりと、2人で少し大きめのカップケーキにかぶりつく。ちなみに、2人で話し合ってグレイはプレーン、ビリーはドーナツ味を手に取り口にしている。
グレイはそのカップケーキを口に入れた瞬間、小さな子どものように目をきらきらさせた。小さな頬にカップケーキを詰め込む様子は、まるでお腹を済ませたハムスターのようだった。
「んふ、そんなに急がなくても大丈夫だヨ」
「んっむ…お、おいしい……!おいしいね、ビリーくん…!」
「!…うん、こっちもおいしいヨ!わざわざドーナツ味にする必要ある?って思っちゃったけどこれはこれでアリ♪」
ほわほわとした空気をまとっているようなグレイの満面の笑みに少しドキッとしながら、ビリーはいつもの自分の調子に戻った。
(今の、何だったのカナ…)
自分の気持ちに無頓着なビリーは、芽生え始めたそれに気付くことなく、ドーナツ味を再び味わい始めた。