トントンと優しく肩を叩かれ、俺は画面に向けていた顔を上げて後ろを振り向いた。ぷにっと頬をつつく指先に、今日は華やかな加工はされていないようだ。
「お疲れ様。そろそろ休憩したほうがいいと思うよ」
「……いつのまに来てたんだ、浮奇」
「二、三時間前? あの子のお散歩はさっきしてきたから、ふーふーちゃんのお仕事が終わったら一緒にゆっくりお風呂に入りたいな」
「……ありがとう。来た時に声をかけてくれれば良かったのに」
「集中してるみたいだったし、俺もやりたいことあったから」
ニコッと笑った浮奇は、それで?と俺の返事を求めるような瞳で見つめてきた。手を伸ばし、さっきの仕返しで彼の頬をつついて笑う。
「ふーふーちゃん?」
「あはは、うん、わかったよ、そうしよう。あと少しだけ待っててくれるか?」
「はぁい。……あ、ね、そうだ」
「うん?」
「ただいま」
「……? おかえり?」
「うん、えへへ、それが欲しかっただけ」
「……こっち、ちょっとおいで」
「ん?」
無邪気に笑う浮奇の後頭部を引き寄せて、近づいた唇に触れるだけのキスをする。まあるく広がった星空の瞳と見つめ合い、もう一度「おかえり」と囁いた。好きだろう、こういうの。
「……ただいま」
「ああ。よし、じゃあさっさと仕事を片付けるよ」
「……ふーふーちゃん」
「なんだ?」
「ただいまのキスもしたい」
「……もちろん、大歓迎だ」
真面目な顔をする浮奇に笑みを向け、どうぞ?と言うように小首を傾げる。まっすぐ下りてきた唇が俺のそれと重なり、数秒経ってからゆっくりと離れた。ただいま、と、浮奇のやわらかな声で伝えられるのがとても好きだ。
無意識のうちに口角が緩み、浮奇は嬉しそうに俺の頬に触れた。締まりのない顔をしている自覚はあるよ。仕方ないだろう、好きな子の前なんだから。
「もういっかい」
「ただいまとおかえりは済ませただろう?」
「愛してるのキスだよ」
浮奇は恥ずかしげもなくそう言って、俺が言葉を返す前に唇を重ねた。今度は触れるだけで終わらずに唇の合間を浮奇の舌がなぞってくる。愛してるのキスなら、それに応えない理由はないだろう。
優しく熱く絡めた舌は、メッセージの通知音でパッと離し、俺たちは目を見合わせてくすくす笑った。
「お仕事、早く終わらせちゃって?」
「ああ、すぐに」
今日やらなければいけないものは本当にあと少しだから、さっさと終わらせて、浮奇と一緒にお風呂とごはんと、それから「おやすみ」と「おはよう」も。もちろん、オマケでキスをつけて。