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    まこつ

    文字書き。たま〜に絵。主にすけべを載せる予定。
    男女カプ、BLごちゃまぜ。
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    まこつ

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    ジュンくんおたおめでジュン要でお祝いデートする話。要くん元気時空。
    あらすじ
    水族館の招待券をもらったジュンは要と水族館に行くことに。いつもと違いやけに甲斐甲斐しい要に戸惑うジュンだがそれには理由があるらしく…。

    要→←←→→←←←←ジュンみたいな感じで好きが溢れている甘々です。
    付き合ってしばらく経っていて一通り経験済み。
    追憶オブリガートのネタバレ有り。おまけにクレビメンツ出ます

    #ジュン要
    junShaku
    ##ジュン要

    【ジュン誕】要くんは祝いたい/ジュン要今日はオフの日のお出かけ。という名のデートの日。
    日和は個人の仕事だし、寮を出る時に色々言われる心配もない。
    いつもより服装に悩んでいたらこはくに冷やかされて思わず赤面したが、結局どっちの服がいいかと女子みたいな相談をしてしまった。

    寮を出て街路樹の蝉が忙しなく鳴く中、病院近くのマンションへ向かう。つい足が逸って、暑いというのに気づいたら小走りにしまっていた。
    マンションのエントランスに着き、空調が効いていて涼しい空気で呼吸を整える。馴染みの部屋番号を呼び出すと、聞きたかった声がスピーカーから聞こえてきた。

    『さざなみ!早かったですね。もう少ししたら行くので待っていてください』
    「いや、いいよ。しばらくかかるんだったら部屋まで行く」
    『そうですか?では開けますね』

    あまり認めたくはないが、早く顔が見たいと気持ちが焦る。
    開いたエントランスを抜けて、エレベーターに乗る。目的の階について呼び鈴を鳴らすと、程なくしてガチャリと扉が開いた。

    「とうじょ…」
    「ようこそ漣。要は準備中なので。…とりあえず上がってください」
    「…っす」

    想像していたより大人びた顔と少し不機嫌そうな表情に出迎えられ、よく似ているが兄の方だと気づいて緩んでいた顔を隠すために被ってきたキャップのつばを引っ張った。

    「要。漣が来たぞ」
    「もう少し待ってください!帽子が決まらなくて…。お兄ちゃんはどれがいいと思いますか?」
    「暑いからな…これとかどうだ?」
    「とても良いと思います!さすがお兄ちゃんなのです」

    玄関で待っている中、奥から聞こえてくる声にまたそわそわしてしまう。
    パタンとドアの閉まる音が聞こえ、パタパタと軽快な足音が響いてきた。

    「さざなみ!お待たせしました」
    「いいよ、俺が早く着いちまっただけだし」

    麻のストローハットに白シャツと白で揃えたハーフパンツ。空色の髪も相まってとても涼しそうな印象を受けた。それにしてもハーフパンツって。可愛すぎだろ。そっくりではあるが絶対HiMERUは着ないんだろうなと思うと少し面白い。

    「今日は水族館に行くんだって?」
    「はい!えっと確か…なんとかというアイドルの…」
    「流星隊の深海先輩の実家が経営してるらしいっすよ。おひいさん伝手に招待券もらったんで、それで」

    あおうみ水族館で夏の特別展示をしているらしく、沢山あるらしいからとその招待券をもらったのだ。
    ちなみに日和は「ジュンくんが浮気するならぼくは凪沙くんと行くね!」と少し拗ねたように言っていた。浮気って。鞄持ちがいないだけだろうと思いながら、日和の他に誘う人なんて一人しかいないと、その顔を思い浮かべながらありがたく受け取った。

    「あまり無理はするなよ。漣も、ちゃんと見ておいてやってください」
    「わかりましたよ、迷子になられても困りますしね〜」
    「なっ!ぼくは子どもではないので迷子になんてなりません!」
    「はいはい、わかったわかった」
    「…お兄ちゃんは今日は遅くなるんでしたよね」
    「撮影があって、それが夕方からなんだ。だから要たちと入れ違いになるかもな」
    「…あの、お兄ちゃんが帰るまでさざなみにいてもらってもいいですか…?」
    「え」

    思わず声が出て、要の後ろのHiMERUに目をやるとバチっと目が合った。
    眉間に皺を寄せてものすごくこちらを睨んでいる。絶対に手を出すなという無言の牽制。頭を僅かに動かしてわかったと合図を送る。

    「…………構わないが」
    「ありがとうございます、お兄ちゃん!」

    要がはしゃぐ後ろでほっと息をつく。悪いことをしているわけではない(はず)なのにHiMERUに睨まれると肩が竦む。

    「ほら、そろそろ出ないといけないだろ。気をつけて行ってくるんだぞ」
    「はい!行ってきます」
    「弟さん、お預かりします」

    弟を見送るHiMERUの表情は凄く優しいのに、ふと振り返るとまたギロリと睨み返されて、慌てて前を行く背中に追いついた。



    水族館に着くと、夏休みということもあって結構な人で賑わっていた。一時は経営も危ういと聞いていたがそんなことは微塵も感じられない。
    家族連れはもちろん男女のカップルで賑わう中、男だけで来ているグループはほとんどいない。少し引け目を感じながら受付を済ませると、すでにエントランスの展示に夢中になっている要に声をかける。

    「オイ、行くぞ」
    「あっ、ぼくより先に行くのは禁止です!待ちなさいさざなみ!」

    水槽から顔を上げてパタパタと駆け寄ってくる姿はなんとも愛らしくて顔が緩む。

    「じゃ、ついていくんでお好きにどーぞ」
    「…あの」
    「? なんだよ」
    「…はぐれてはいけないので、手をつないであげます」
    「は…」
    「と、とにかく行くのです!」

    言葉の意味を理解する前に強引に手を取られ引っ張られる。揺れる髪から覗く肌が心なしか赤い。それにふっと笑みが溢れて、線の細いその手を握り返した。

    特別展は色んなクラゲの展示だった。華やかな照明と相まってなんとも「映える」空間に、来ている客もみんなカメラを構えている。
    夢中になっている要を隠し撮りしてから、撮ってやると声をかけて水槽と一緒に写真を撮る。

    「さざなみも一緒に撮るのです」
    「二人も画面に入ったら背景潰れるだろ」
    「き、記念、なのです。だから水槽が見えてなくてもいいのです。ほら、ぼくが撮ってあげますから」
    「お前、自撮りとかすんの?」
    「結構お兄ちゃんとしているのです」
    「ふ〜〜ん…」
    「ほら、さざなみ!笑ってください」

    カシャリとシャッターが切られる音がする。なんだか気恥ずかしくてまともな笑顔が作れなかった。

    「あ、さざなみが変な顔をしていますね」
    「いいだろ別に…」
    「ふふ、今日のぼくは機嫌がいいので、特別に許してあげます」
    「へーへー、ほら、あんまり同じとこ立ってたら他のお客さんの邪魔になるから、次行くぞ」
    「はい!さざなみ、あと10分でペンギンショーが始まるそうですよ!」
    「イルカショー見るんじゃなかったのか?」
    「イルカショーはそのあとでも間に合うのです!」

    言われるがままペンギンショーを見て、続け様にイルカショーを見て、その度に嬉しそうに笑う顔を脳裏に焼き付ける。来てよかった。あとで奏汰と日和にお礼を言っておこう。もとより日和には十倍返しのお礼を要求されそうではあるが。
    ショーを見るために座ったら忘れていた疲労感が襲ってきて、少し休憩するかと館内のカフェに入る。メニューを見ていると、要がぱっと目を輝かせた。

    「ぼくはこれにします!」

    濃紺のシロップの、イルカの砂糖菓子が乗ったソーダ。上にはバニラアイスが乗っている。

    「へー、洒落てんなあ」
    「さざなみはこれのタコさんバージョンにするのです」
    「あんたが決めるのかよ」
    「さざなみ、イチゴが好きでしょう?」

    そう言われて改めてメニューを見ると、ピンク色のシロップにソーダ、その上にタコを模した砂糖菓子が乗っているそれにはイチゴ味と書いてある。

    「覚えてたのか」
    「もちろんなのです。ぼくは記憶力が良いので!それからここはぼくが奢ります」
    「え、なんで」
    「チケットはさざなみが用意してくれたでしょう?そのお礼なのです」

    もちろんチケットは招待券だったので無料なわけだが。心遣いを無碍にも出来ず頷いた。

    「じゃ、ありがたくいただきます」

    会計を済ませて商品を受け取り、空いている席に着く。
    ピンクというところに少し気後れしたが、選んでくれたことが嬉しくてそんなことはどうでもよくなった。

    「写真を撮るのでまだ飲まないでください」
    「アイスが溶ける前に撮れよ〜」

    角度を変えて何回かシャッターを切ったところで、要は満足そうにスマホを仕舞った。

    「もういいですよ。さざなみは撮らないのですか?」
    「あ〜…いい。あんたから写真もらえばいいし」
    「そうですか。では、いただきます」
    「ありがたく頂戴します」

    少し大げさに頭を下げると、要は満足そうに笑った。
    二層に分かれたドリンクを、アイスを零さないように混ぜてから飲む。それでもシロップの部分が先に口に入ってきて甘く感じた。口を離そうとしたところで、紙のストローが乾燥した唇に貼り付く。エコとかなんとかで最近は紙のストローが増えてこんなことがよくあるなと思う。
    加えて日和に「アイドルなんだからリップケアもしないとダメだね!」と渡されていたリップクリームもなんだかバタバタしていて塗り忘れていたことに気付く。

    「さざなみ、美味しいですか?」
    「ん?ああ…美味いよ」
    「ふふ、さすがぼくが選んだ甲斐がありますね」

    要は習慣づいているのかいつもリップを欠かしていないなと思う。
    キスするたびにリップの香りが移って、しばらく経って唇を舐めると香るそれに、触れ合った瞬間を思い出してゾクリとする。
    最初はよくあるフレッシュ系の香りだったのに、いつからかイチゴの香りになったのを思い出す。そういえば、イチゴが好きだと言ったことがあったかと思案する。いつかHiMERUがケーキを買ってきた時にポロッと言ったのかもしれない。そこまで考えて、あることに思い至って要の顔を凝視する。

    (俺がイチゴ好きなの知って、リップをイチゴの香りにしたってことか…?それって…)

    「なんですかさざなみ、ぼくが可愛いからってじっと見過ぎです」
    「あ、いや…悪い。あんたはなんでそれにしたんだよ」
    「これ、ですか…イルカさんが可愛かったのもありますけど…さざなみの色、みたいだったので…」
    「…………」

    体の奥から熱が沸き上がって、肌が熱を帯びる。反則だろ、そんなの。赤くなった顔を見られたくなくて、手で口元を覆う。愛されてる。めちゃくちゃ愛されてる。それを今実感して、どうしようもなく嬉しくなる。

    「さざなみ?」
    「……アンタのせいだよ…」
    「なっ ぼくが何をしたっていうんですか!」

    今すぐ抱きしめたい。キスしたい。きっと今日もイチゴの香りのするその唇に、人がいなければ衝動のまま触れていただろう。頭を冷やそうともう一度自分のドリンクに口を付けるが、イチゴ味だったことを思い出して墓穴を掘った。
    悶々としていると、館内のBGMが耳馴染みのある曲に変わる。要もそれに気付いたようで、二人して「あ」と声を上げた。

    「さざなみの曲ですね」
    「俺ってか、Eveのな」

    季節感を意識しているのか、流れてきたのはEveの『Sunlit Smile』。そういえば、ESに所属しているアイドルの曲ばかり流れていた気がすると思い返す。奏汰の家が経営しているからなのだろう。

    「さざなみの歌、好きです。熱いのに、優しくて、似合わないですけど色っぽくて。普段のさざなみとは違う印象ですけど、その…二人きりの時のさざなみと、似ています」
    「……なんだよそれ…」

    不意に好きと言われて、治まりかけていた熱がまた上がる。自分の周りだけ空調が壊れているのではないかと思ってしまうくらいだ。

    「そんなこと、今まで言ったことなかったじゃねえかよ…」

    すぐにでも帰りたい。帰って、玄関に入った瞬間に口付けてめちゃくちゃにしたい。
    そんなことを思いながら休憩を終えると、この人だかりから抜け出して二人きりになりたい気持ちとは裏腹に「まだ見ていない場所がたくさんあるので見に行きましょう!」と要は意気揚々と席を立ったのだった。

    展示が見終わった後は売店で散々付き合わされ、やっと帰れると思ったら夕ご飯を買って帰ると言う。

    「さざなみは何が食べたいですか?」
    「俺よりあんたの方が好き嫌い多いんだから、あんたの好きなもんでいいよ」
    「…っでも」
    「今日、どうしたんだよ。やたらと俺の好きなもん選んでくれたりするけど」
    「…それは…」

    俯き加減でぴたりと歩みを止めてしまった要に合わせて立ち止まる。

    「どうした?」
    「…もうすぐ、誕生日じゃないですか」
    「誕生日…?」
    「さざなみの」
    「えっあ…俺か」

    プロデューサーからパーティーについて打診されて準備してきていたのに、今日はそれどころではなくて今の今まですっかり忘れてた、と苦笑いを零す。

    「当日はESでパーティーがあると聞いたので、少し早いですけどサプライズでお祝いしようと思っていたのです」
    「え…」
    「ほんとは、お兄ちゃんも、あまぎも、みんなを呼ぼうと思っていたんですけど、都合がつかなくて…お兄ちゃんが二人だけでもいいんじゃないかって言ってくれて」

    あの人、あんなに睨んできたくせにそんな提案をしていてくれたのかと出かける前のことを思い出す。

    「家の冷蔵庫にしいなが作ってくれたケーキもあるんですよ!…だから、今日はさざなみの好きなものを選んであげたいのです」

    今日やたらと甲斐甲斐しかったのはそういう事情だったらしい。ますます愛らしく思えてきて、つい心の声がそのまま言葉になって出てしまった。

    「…俺はアンタの方が食べたいんだけど」
    「え?」
    「あ」
    「…それ、って」
    「あ〜〜…なあ、食いたいもんは後で出前でも買いに出るでもいいから、とりあえず二人きりになりたい。ダメか?」
    「! …ダメ、じゃないのです…」
    「よし。じゃ、さっさと帰るか」

    食べられることが分かっている獲物の気分を味わっているだろう要の手を引いて、足速にマンションへと向かった。
    今日二回目のマンションエントランスの涼しい空気を吸い込んで、体を冷やす。一緒にこの煮え滾った頭の中も冷えてくれたらいいのに。エレベーターに乗ると、もういいかと被っていたキャップを取って頭を振る。

    「さざなみ、汗だくなのです」
    「アンタもそこそこな。先にシャワー浴びるか?」
    「ぁう…そ、そう、ですね」
    「一緒にって意味だけど」
    「へ!?」
    「あ、着いた」

    訳がわからない、と部屋の鍵を開ける手も覚束ない要に代わって鍵を開け、半ば強引に中へ押し込みドアを閉めると靴も脱がないまま壁際に追い込み逃げ場を失くす。

    「さざな…」
    「ワリ…限界」
    「んぅ…!?」

    貪るように唇を奪う。やっぱりリップはイチゴの味がした。その甘い味がする唇をペロリと舐めて、舌を差し入れる。歯の裏側、上顎を舌でなぞるとビクビクと震えるのが可愛い。

    「…なあ」
    「ん…?」
    「アンタ、俺のことめちゃくちゃ好きだよな」
    「なっ!?」
    「あー、文句は言わせねえよ」

    言葉を紡ごうとする唇をもう一度塞ぐ。唇が離れるか離れないかギリギリの位置で呟いた。

    「なんで、リップイチゴにしたんだよ」
    「なん、でって…さざなみがイチゴ好きだから、じゃないですか…」

    ああ、やっぱり自分のためだった。本人は気付いていないようでさらっと言ってのけるが、それはキスすることを前提でやっているところがもう愛しくてしょうがない。

    「…されるの、好きなんだな」
    「?」
    「…アンタほんとにバカだよなあ。俺とキスするからイチゴにしたんだろ。や〜、愛されすぎてて困っちまいますねえ」
    「……!!」
    「まだ、足んねえ」

    茹蛸のように真っ赤になった顔を引き寄せ口付けると、唸りながら胸板を叩かれる。ちっとも痛くないしいくら抵抗されても可愛いものに思えてくる。
    …熱い。外から帰ったばかりの太陽から与えられた熱もあるが、頭をクラクラさせるような、内側から湧き上がる官能的な熱も。キスをして段々と冷静になると、より体に纏う熱を感じて汗が伝う。そういえば、部屋の中は比較的涼しい。HiMERUは仕事に出たはずと思いながら、まだ家にいるという可能性に気付いて慌てて唇を離した。

    「…っハア…ハア…っさざ、なみ…!」
    「…お兄さん、もう仕事行ったよな?」
    「へ…?_お兄ちゃん、ですか…?あ、靴がないので、多分…」
    「ハア…良かった…」
    「よ、良かったじゃないです!あの、違うのです!別にさざなみにキスしてほしいからとかじゃなくて…!」
    「わかったわかった、でも、それやめないでくれよ。嬉しいから」
    「ぅえ…」
    「悪い。アンタが可愛いことばっか言うから、我慢出来なくて…。とりあえず、荷物置くか」

    こんなところをHiMERUに見られたら一発殴られる気がしてならない。一度冷静になれ、落ち着いて状況を整理しろ。
    リビングに行くと先ほどまでクーラーがついていたような涼しさがあった。本当に入れ違いくらいだったのだろう。

    「さざなみ、汗を拭いてください」
    「ああ…サンキュ」

    クーラーで大分おさまっていたが、手渡されたタオルで汗を拭う。
    大体いつもアイドル活動をしている時も汗をかきすぎだと頻繁にタオルをもらう。日和にはエレガントさに欠けるね!などと言われるがかくものはかくのだからしょうがない。

    「…シャワー、先に使ってください。着替えはぼくのものを用意しておきます」
    「でも、アンタも汗が冷えると風邪ひくかもしれねえし。アンタが先に入れよ。それかやっぱ一緒に入るかだな」
    「な…っ何も、しないなら…構いませんが…」
    「自信はない」
    「だっ、だったらやっぱりさざなみが先に使ってください!」
    「あー、ごちゃごちゃうるせえ〜行きますよお〜」

    無理矢理脱衣所に押し込んで、ポイポイと服を脱がせ浴室にぶち込み、続けて服を脱ぎ浴室に入る。
    結果、何事もなくはなかったが最後までは我慢したのでめちゃくちゃ偉いと思うし、風邪を引くこともなくなった。


    風呂上がり、要の服を借りて空調の効いたリビングのソファで寛ぐ。顔を服に近づけると要の匂いがしてまた背徳感を覚える。

    「…散々なのです」
    「俺の誕生日祝いなんだよな?ありがたく頂戴しましたよ」

    ペロリと唇を舐める。そんなに酷いことをした覚えはないがソファの片隅で膝を折っている要は、機嫌が悪いというわけではなく主に羞恥心でそうしているのだと思う。

    「まだ全然お祝い出来てません。ごはんも、ケーキもまだなのです」
    「俺はアンタの祝いたいって気持ちで充分なんですけどねえ」

    とは言っても最後に何か口に入れてから数時間が経ってお腹も空いてきた。
    シャワーも浴びてまた熱い屋外を歩くのが嫌で結局出前アプリで注文することにした。想像通り自分の好きなものを言うとアレがダメこれが嫌いというので結局要の好みのものにした。
    あまり沢山食べない要の分も食べて、ニキが作ったというイチゴが沢山乗ったケーキも食べて。満腹になったところで要はすっと席を立った。

    「…さざなみ、少し待っていてください」
    「? ああ…」

    自室へ向かう要を見送って、何かと少しソワソワしてしまう。一分もしないうちに戻ってきた要の手には紙袋があった。

    「誕生日プレゼント、なのです。ありがたく受け取りなさい」
    「え、プレゼント…用意してくれたのか」
    「誕生日祝いですからね」
    「開けていいっすか」
    「いいですよ」

    紙袋を開くとすぐ中が見えて、あ、と声を上げる。
    優しく中身を取り出すと、紺と水色と差し色の黄色で纏められたアレンジフラワーだった。

    「なんだっけ、これ。生花じゃないけど生花っぽくてずっと飾れるやつ」
    「プ…プリ、プリン…ん〜まあ、名前は忘れましたけどそんな感じなのです」
    「適当だな」
    「…病院にいる時、お花を持ってきてくれていたでしょう。いつかの時は、これと同じようなお花もくれましたよね」
    「あ〜、あったな。あの洒落た入れ物に入ったやつ」

    いつも寄る花屋で勧められて、断るのが申し訳なくてその時は生花ではなく勧められたアレンジを買って持っていったことがある。

    「お花は綺麗ですけど、やっぱり枯れてしまうのが寂しくて。でも、これはずっと綺麗なままいつでもさざなみのことを思い出せたので嬉しくて。今も部屋に飾っているのですよ」

    もう随分前のことで、渡した本人も忘れていたくらいだったのに。

    「だから、その時の嬉しい気持ちも込めてお返しなのです。これなら、ずっと置いておけるでしょう?」

    もう一度、まるで生花のように輝いているその花と、誕生日祝いのメッセージカードをまじまじと目に焼き付ける。

    「…それから」

    おずおずと伸ばされた手は、プレゼントを持つ手に重ねられて。

    「いつも、ありがとうございます。ぼくのわがままに付き合ってくれて。…こんなぼくを、好きでいてくれて」
    「!」

    一時は玲明学園の憎しみの対象にされて、その身を追われて学園にも業界にも味方がいなかった要にとって、人からの好意はとても嬉しいものなのだろう。
    詳しいことは聞いていないが、『漣と似たような境遇なのですよ』とHiMERUが言っていたので両親絡みで何かあるんだろう。そんなところも親近感が湧いて、惹かれていった理由のひとつでもあった。

    「少し早いですけど。改めて、お誕生日おめでとうございます」
    「…ん、ありがとな」
    「…っあの、あまぎが…もうひとつのプレゼントはぼくですって言うと喜ぶと言っていたのですが…その…嬉しい、ですか?」
    「なんだよその入れ知恵…。もちろん嬉しいし、もらえなくても強引にもらうつもりだったけど」

    また、息が詰まるほどの口づけを交わす。Tシャツの袖をぎゅっと握ってきたのがわかって、その手を取って握り返す。鼓動が伝わってしまうほどぎゅっと抱きしめてお互いの体温を感じ合う。
    これだけでも幸せなのに、もっとと求めてしまうのは罪だろうか。
    途中でHiMERUが帰ってくるかもしれないと思ったが、帰ってきても空気を読んでくれるに違いない。後で散々なじられても良い。ここでやめるなんて、とても出来そうにない。
    ベッドまで運ぶ余裕がなくて、そのままソファに押し倒す。整わない呼吸で赤い顔の要を見下ろすと獲物を捕まえた肉食動物の気分になる。愛おしそうに細められる涙目と、濡れた唇にそそられない訳がない。

    「…好きだよ。何やってもアホで可愛いし、すぐ泣くし、でもその度に頼ってくれて。今日改めてアンタが俺のことめちゃくちゃ好きなのがわかったけど、俺も同じくらい、アンタのことが好きだ」
    「さざなみ…」
    「花も嬉しいけど、アンタの全部、俺にくれよ」

    もっと、その口で紡がれる好きの言葉が聞きたい。強がる言葉も、快楽に溺れた瞳も、すべてが欲しい。
    こくりと頷いた首筋に唇を寄せて、夜が更けるまで、ただ欲しいままに愛し合った。


    .


    微かに聞こえる物音と、少し明るい室内にゆっくりと覚醒する。
    顔の少し下に空色の髪が見えて、昨夜そのまま寝てしまったのだと気付く。
    それと同時に部屋の外、リビングから聞こえる物音にハッとして上半身を起こす。
    要が起きないようそっとベッドから抜け出してリビングに出ると、予想していた通りキッチンにはベッドで見た顔とよく似た顔のHiMERUが立っていた。

    「おはようございます、漣。よく眠れましたか?」

    涼しい表情で手元から目を離さず挨拶をしてくるHiMERUにどう応えて良いかわからず、とりあえず当たり障りのないよう挨拶を返す。
    手を出すなと暗に言われていたのに思いっきり手を出したし、結局泊まり込んで要の部屋から出てきてしまった時点で言い訳のしようがない。殴られる覚悟で言葉を紡いだ。

    「…っすみませんでした。その、机の上色々投げっぱなしだったのに片付けてもらったみたいだし、その…泊まっちまって…」
    「俺も帰りが遅かったので、要も寂しがらずにすんで良かったです。それから今洗濯機を回しているので、乾燥まで終わったら着替えてください」
    「えっ、そんなことまで…何から何まですんません」

    加えてカウンターに三つ分の皿が並んでいるのを見るに、どうやら朝食も作ってくれているらしい。

    「…あの、いつ帰って」
    「…実のところ、昨夜は寮で寝て先ほど帰りました。邪魔をしては悪いと思ったので」
    「なんだ…良かったァ…」
    「何がです」
    「え!?ああ、いやなんでも」

    昨夜は結局夢中になっていたせいで、終わったら結構遅い時間になっていたため、聞かれていたらどうしようかと思っていたところだった。

    「あ〜…その、怒んないんすか」
    「……」
    「…いや、その…手出すなって言われたのに…」

    その言葉にハア、とひとつ溜息をついて、HiMERUは動かしていた手を止めた。

    「今更でしょう。もう既に手を出しているのは知っていますし…。お互いに好意を持っているんでしょう。要が良いと言って、傷付いていなければ俺は何も言いません」
    「…そう、っすか…」
    「というか、何もなければ逆に引いています」
    「え?」
    「いえ、なんでも」
    「あー…それから、誕生日祝い、ありがとうございます。あんたも色々手伝ってくれたんすよね」
    「まあ、手伝いはしましたが。俺は要がしたいことに手を貸しただけですので」

    ふう、とHiMERUは息を吐いてぽつりと呟いた。

    「……あなたには、感謝もしているのですよ」
    「え…」
    「要がまだ不安定だった時、飽きもせず病院に通い詰めて、少しずつ要の凍り付いた心を融かしてくれて。あの子が今笑えているのは、漣のおかげだと思っています」
    「…そんなこと、ねえっすよ。俺だって、学園のあの地獄であいつに救われてた瞬間があったから。だから…ぶっきらぼうで横暴な態度も、あの勝ち誇ったような満足げな笑顔も、もう一度見たかっただけで」
    「…だからこれからも、要が望む限りはあの子のわがままに付き合ってあげてください。あなたに愛されていることが、要の心の拠り所になっているんです」

    ふと細められた瞳が弟のそれとよく似ていてどきりとする。優しい表情も出来るんだから、いつもそうしていればいいのにと思う。

    「そりゃもちろんですけど。ちょっと意外でした。俺、あんたには嫌われてんのかなって思ってたから」
    「嫌いですが」
    「え!?」
    「俺は感謝しているとしか言っていません」
    「は〜…あんたのそういうとこほんと…」

    またいつもの仏頂面…を通り越して睨まれると思わず頭を抱えてしまった。
    その時、後ろでドアが開く音とあくびをするなんともまぬけた声が聞こえた。

    「ん、さざなみ…おはようございます…起きたらいないので心配しました…。起きるならぼくも起こしてください」

    顔を向けると目を擦りながら起きてきた要の姿があった。あくびをしながら目を擦る姿がまた可愛いなと思って、昨夜のことも思い出してニヤけそうになるのを必死に抑えて自然な笑みを作る。

    「ああ…悪い。おはよ」
    「おはよう要」
    「あ、お兄ちゃん!おはようございます!帰ってたんですね」
    「昨夜遅かったから、起こさないように何も言わなかったんだ。ごめんな」
    「いえ!僕も気付けたら良かったんですけど…ぐっすり寝てしまったのです」

    兄の姿を認めるとパッと表情が変わって側に駆け寄る弟と、優しく頭を撫でる兄の姿はいつ見てもいいなと思う。

    「ちゃんと寝れたなら良かったよ。二人とも顔を洗ってきてください。漣の分の朝食も用意しています」
    「はい!ぼくが先に行きますからね!ついてくるのです」
    「へーへー、わかりましたよ。朝食までほんと…ありがとうございます」

    要に続いて洗面所に連れて行かれ、顔を洗うと頭もスッキリした。隣でタオルで顔を拭いている要を鏡越しに覗き見る。
    昨日はなんだかんだで尽くしてくれて、一日中一緒にいられて、これ以上はないってくらいの誕生日祝いだったと思う。まだ目が覚めきってない間の抜けた愛しい人の顔に思わず愛しさが溢れて、空色の髪をわしゃわしゃと乱暴に撫でた。

    .


    おまけ

    ジュンと要が水族館に行った日の夜。Crazy:Bの撮影現場。撮影が半分終わって、チェックとセット替えのために休憩時間になった。
    こはくが用意された休憩スペースへ戻ると、あまりに死んだ顔をして座り込んでいるHiMERUにギョッとした。
    撮影中もいつもより気の入っていない感じで、何かあるのだろうとは思っていたけれど。

    「ひ、HiMERUはん、どないしたん?」
    「いえ…今日家に帰るか寮に帰るか悩んでいたところなのです」
    「? 今日、家なんかあるん?」
    「……考えたくありません」
    「きゃはは!こはくっち、聞くのは野暮ってモンだぜェ。ジュンジュンが来てるってコトで、邪魔するのも悪ィし寮に帰れよって言ったんだけどよ」
    「なんや、ジュンはん朝えらい張り切ってると思ったらHiMERUはん…の弟のとこに行っとったんか」
    「そーそー。デートだとよデート。だからこはくっちも、今夜はジュンジュン帰ってこねえと思うぜ」
    「…しかし、漣がいるのは俺が帰るまでということになっているんですよ」
    「だから帰んなかったらずっとジュンジュンがいてくれるからカナメルも嬉しいじゃんって話。てか、絶対盛ってる最中なんだから帰んねえほうがいいって」
    「天城」
    「やめろって、セットが崩れちまうだろ!」

    燐音の髪の毛を引っ張って殺傷能力があるほどの目力で睨み付ける。
    一応牽制はしておいたが、今日の要の様子からして手を出さないでおけるとはさすがに思えない。手を出していなかったら逆に引いてしまうくらい可愛いからだ。複雑な兄心を抱えてまたひとつため息を吐く。

    「なんはあっははへんはふひはふっへ〜(何かあったら連絡来ますって〜)」
    「ニキは口の中のモン無くしてから喋ろって」
    「心配なんやったらこっそり帰ってみたらええんちゃう?」
    「…いえ、本当にその…要の世に聞かせてはいけない声が聞こえたらショックでこの先生きていける気がしません」
    「つまり家に帰ったら死ぬってことだから大人しく寮に帰っとけって」
    「ハア…この撮影が一晩終わらない方がマシです」
    「それか連絡してみたらええやん。今撮影終わったから帰るって」
    「そしたら証拠隠滅の時間も作れるしなァ」
    「天城は本当に黙っていてください」
    「HiMERUはん、なんやったらわしの部屋に来てもええで。一晩中そんな様子やと同室の人たちにも迷惑かかるやろ?ジュンはん帰ってこおへんのやったら部屋誰もおらんし」
    「桜河…」
    「おっ、こはくっちいい提案するじゃねェか」
    「ええ…そうですね。漣の枕の下に大量の押しピンを仕込むチャンスでもありますね…」
    「メルメル物騒なこと考えるのやめない?」

    結局、夜は寮に戻って早朝こっそり家に戻り、三人分の朝食を作ったらしい。



    →あとがき

    ジュンくんハッピーバースデー!
    書こうと思っていたネタが誕生日に使えるんじゃないかと思ってささやかな誕生日祝いにしました。
    書きたかったのは要くんがジュンくんがイチゴ好きだからイチゴのリップにしよ、と思って無自覚にやってると可愛い。というのが発端。
    映画館とス〇バの設定と迷いました。期間限定イチゴフ〇ペチーノ。でもあんまり夏にないかなと思って変えました。
    ジュン要は書いてるこっちが恥ずかしくなるくらい青春を謳歌していてとても可愛い。
    そして誕生日当日、要くんは0時ちょうどに電話する。



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    Replies from the creator

    まこつ

    DONEHiMERU誕のジュン要。大遅刻すみません。
    要の希望で誕生日にテーマパークに行くことになったジュンと要。兄の粋な計らいもあり、テーマパークデートを楽しむ二人の少しドタバタで甘い一日。
    要くん元気時空。付き合っていてキスは何回か。それ以上はまだ模索中。十条兄弟はES近くのマンションで同居中。
    オブリガート読了推奨です。
    precious/ジュン要「…これを」

    要の誕生日の1週間前。寮の談話室にいる時、瓜二つの兄からなにやら長細い封筒を手渡された。

    「何すか?」
    「まあ、紙で渡すようなものでもないのですが…開けてみてください」

    言われるがまま開封すると、出てきたのは三つ折りにされたコピー用紙。
    何かの書類かと折りを開き、書かれている内容を見てぎょっとした。

    「予約確認…7月7日◯◯ホテル……って、え!?な、なんすかこれ」

    誕生日当日、要の希望で某テーマパークへ行くことになっていた。
    行ったことがないというのはお互い様で、少し不安もあったがアプリもあるしなんとかなると経験者から聞いて安堵していたところだった。
    暑い時期。まだ病み上がりな要を長時間炎天下には置けないと出発は午後からのんびり行く予定になっている。要の体力を見て、もちろん当日中に帰る予定だった。
    11505

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    DONEサンタクロースを知らない要と、そんなことも知らねぇのか……と思いつつ自分にも来たことがないから「いい子にしてるといいらしいっすよ」と曖昧で語気が弱まっていくさざなみのクリスマス話。
     はいはい。あんたはいい子だよ。オレが保証する。
     未来軸。さざなみ、要両方とも19。退院してふたりで過ごしている。Merry Xmas
    過去も想い出も一緒に食っちまおうぜ「さざなみ、この赤いひとよく見るのですけどクリスマスと何か関係あるんですか」

     これを言われたとき、オレは古典的にずっこけそうになった。

     季節はすっかり冬で、気温は一桁台が日常化していき、吐いた息がすっかり白くなった12月。
     リハビリがてら散歩というか。気取った、少しの期待を込めた言い方を許してもらえるのなら、デートしていたときのことだった。
     
     街中はいつのまにか赤や白、または緑に彩られ、あたりには軽快なクリスマスソングのイントロが流れている。夢みたいに平和そのものの世界だった。
     
     そんななか、デフォルメされたサンタクロースを指しながら要は不思議そうな顔をしていた。
     
    「嘘だろ……」
    「今すごく失礼なこと考えましたね。さざなみの考えることくらいぼくにはお見通しなのですよ」
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