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    azusa_n

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    モクルクとニンジャジャン 6
    ヒーローショーと、帰りの車。

    #モクルク

    金曜日。
    ミッションはスムーズに終わった。
    とある事務所を制圧し、要人を縛り上げた上で資料を片っ端からコピーした後、ボヤ騒ぎを起こして脱出する。
    建物を出てすぐ、警察のガサ入れがあったようだ。
    犯罪組織の制圧という貢献に、世界征服を企む悪の組織が関与しているはずもないし、事務所を制圧した人物については一部関係者の荒唐無稽な証言しか見当たらず、証拠不十分と判断されたと後に聞いた。

    土曜日。
    初回公演の1時間前に、今日は行けそうにない旨のメールが来た。文面だけでも泣き出しそうな心情が伝わってくる。
    金曜日に大型の案件が動いた関連で、後始末が大量に残っていると。関係者としては沈黙するしかなく、無理しないようにと労うしか出来なかった。

    日曜日。

    一通目、日付が変わってすぐ。
    『なんとか後処理完了しました。それから、今日から火曜までは休みが取れました。楽しみにしてますね。』

    二通目、朝。
    『今家を出るところです。今日は楽しみにしています』

    三通目、初回公演の30分前。
    『少しトラブルがありました。ごめんなさい、初回公演は見れなそうです。昼過ぎの公演はいけるかと思います』

    四通目、午後。
    『到着、最終公演ギリギリになるかもしれません。せっかくの機会なのにすみません』

    控え室に戻る度に届いているメールの到着予定時間が遅れている。ルークのトラブル誘引体質……いや、見つける度に巻き込まれに行ってしまうのは美徳なんだろうが、自分を蔑ろにしているようで少し辛い。


    さて、次が最終公演。
    司会による説明が始まってしまった。
    舞台袖からステージを確認しても、大人の姿は子供の保護者くらいしか見当たらない。
    ルークに渡した座席は空だ。

    ワルサムライが子供を客席から登場して大暴れしている。…無論、台本通りのものだが。
    そろそろ出番か。


    「光ある所に闇あり 栄華の影には忍びあり」
    お約束の登場台詞と共に、舞台へと上がる。
    子供達の期待に満ちた眼差し。
    子供専用エリアを中心に刺さるそれよりずっと強烈なのが一番後ろの通路際の席にあった。
    視線を向けなくても、誰のものか分かる。
    ああ、仮面で顔が全部隠れていて助かった。シリアスなシーンなのに絶対笑ってしまっている。

    「我こそは ニンジャジャン!」
    舞台を見渡せる位置で視線の元を見れば、思った通り、待ち望んでいた顔で。

    いつもより遠くに向けてのファンサービスが多くなってしまったのは致し方ないだろう。
    絶好調のニンジャジャンはいつもより長く彼岸花を咲かせて会場の歓声を勝ち取った。




    ショーが終わって、片付けを終えて。
    ルークの運転する車の助手席に座る。
    ニンジャジャンにビーストくん、ACEくんのぬいぐるみが揃ってこっちを見てくる賑やかな車内だ。
    当然ながらBGMはニンジャジャンのサントラだった。
    スイちゃんの歌も置いてあるけど、ショーの前からテンションをあげていたようだ。

    制限速度で安全運転。そんなところもルークらしい。



    「ふむ。ひったくりを捕まえて署に連行。迷子を見つけて、受付に届けて来たのに懐かれて離してくれなかった。溝にひっかかったベビーカーを取り出すお手伝いと、その騒ぎの最中にスリをしようとしたのを阻止して……、と。これで全部?」
    「……はい。」
    「ルークらしいねぇ。でもなにか大きな問題で来れなくなったとかじゃなくてよかったよ。」
    「せっかくチケットくれたのにほとんど無駄にしてしまって…。座席も入場間に合わなくて、案内されたのは別の席でしたし。」
    「謝ることじゃないさ。座席数は余裕あったし問題ないよ。 んっ、こほん。 『周囲の人を守る君もニンジャジャンだ。よくやった』。」
    「あ、ありがとう、ございます…。すごく嬉しいんですけど、その。運転中なので。」
    ニンジャジャンの演技の時の渋めの声を引き出し、ルークの頭を撫でた。途端に頬は赤いし、視線が泳ぐしでやりすぎた事に気付く。
    どうしようね、この可愛い子。ルークの家いかないで斜め前方に見えてる城みたいな建物にでも行けばいいんじゃなかろうか。
    「まあ、どうせルークのことだから見過ごしてたらショーを楽しむどころじゃなかっただろうし、なにより最後は見れたし。良いことしたんだから胸張っていいんだよ。」
    「やっぱり優しいですね、モクマさん。」
    「他人は自分を映す鏡らしいからなぁ。ルーク相手だとそうなるだろうね。」
    再び信号が変わって、車が動き出す。速度も顔色も落ち着いたようでなによりだ。

    「さて、明日からは俺もルークもお休みだもんね。お酒ちゃんも美味しいものも、いっぱい買ってこうね。」
    「はい! 品揃えがいいところ寄っていきましょう。」

    カーナビを見る限り、ショッピングセンターもルークの家もまだ遠い。

    「そういや、助手席はカノジョだけとか、そういうのルークは拘らんの? 普通に座っちゃったけど。」
    「そもそもこの車じゃ運転席以外に人を乗せる事が稀ですよ。」
    「きゃっ、もしかしてルークの初めて奪っちゃった?」
    「えーと…、アーロンとアラナさんが帰るときに乗せましたが、その時は2人とも後ろでしたから。たしかに、助手席に限るとモクマさんが初めてになりますね。
     …あ、もちろん仕事中は同僚と乗りますけどね。社用車ですが」
    「そりゃそうだ。気にしてたら仕事にならんもんなぁ。」

    ミカグラから帰ったらバッテリーが上がっていたとか、アーロンがシートベルトを締めないから基本徒歩で買い物に行ったとか、他愛ない話。運転中で前を向いたままでもルークの表情はコロコロ変わって飽きない。

    「あの、何かついてます?」
    「ん? ルークは可愛いなと思って。」
    「いきなりなんなんですか、もう。」
    はぐらかされたと思って拗ねているけど、本心なんだよなぁ。
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