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    raixxx_3am

    @raixxx_3am

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    raixxx_3am

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    おつきあいまもないきすひよ、おうちデートからの別れ際。(2022/10/23)

    #きすひよ

    そろそろいかなくちゃ「ほんとにいい? 送っていかなくって」
    「だいじょうぶだって」
     スリッパ姿で投げかけるこちらの問いかけを前に、いつものあの、やわらかく綻んだような笑顔できっぱりと首を横に振ってみせたのち、鴫野くんは答える。
     言ったでしょ、余計に寂しくなっちゃうからって。ささやくように落とされた声に、じわり、と胸の奥からは、あたたかなものがこみ上げてくるのを抑えきれなくなってしまう。
     背の高さがほとんど変わらない僕たちでも、こうして上がり框の数センチを借りてしまえばいつもとはすこしだけ視線の高さが変えられてしまう。見上げられることには、もうとっくに慣れているそのはずなのに――いつもとは打って変わって、上目遣いにこちらをじいっと見つめるまなざしに秘められた温度はしびれるようにあまい。
    「きょうね、ほんとに楽しかったよ。遠野くん、ほんとにありがとうね」
     子どもみたいにまっすぐにこちらを見つめるまなざしの奥では、おだやかに滲んだ光が乱反射する。
    「……そんなこと」
     反射的にそう口に出してしまえば、やわらかく瞼を細めた笑顔は、おだやかにそれを受け止めてくれる。
    「いいでしょ、ほんとのことなんだから」
     そういうとこあるよね、遠野くんって。すっかりお馴染みになってしまった、すこしだけこちらをからかうような口ぶりにさわりと心の奥を揺さぶられる。それでも、その奥に秘められた掛け値なしのぬくもりは手に取るように伝わるのだから、はねのけることなんて出来るはずもない。
    「僕もすごく楽しかったよ、ありがとう」
    「……そっかぁ」
     すこしだけいびつに震えた指先をぎゅっと握りしめながら答えれば、まっすぐに見つめるその先で、ぱっちりとしたアーモンド型の瞳をきゅっと細めたおだやかな笑顔が広がる。子どもみたいに無邪気で、何のてらいもないその笑いかけ方はきっととっくの昔に僕が失ってしまったもので――そのまぶしさがいま、こうして僕だけに向けられているだなんことにただどうしようもなく、心ごと沈み込んでしまいそうになるのをぐっと堪える。
    「――どうしよう、困ったなぁ。そろそろ帰らなきゃって言ったのだって僕のほうなのにね」
     やわらかそうな髪をくしゃりとかきあげ、困ったようにくすりとちいさく笑いながら、優しいささやき声がこぼれおちる。
    「遠野くんと別れる時ね、いつからかなぁ、なんだかすごく寂しくなって。もう会えないなんてわけじゃないのにね、おかしいよね? 遠野くんはいっつも『またね』って言ってくれるからさ。遠野くんが見えなくなると、その時の顔、いっしょうけんめい思い出して」
     どこか困ったように肩をすくめて笑ってみせるその笑顔はよくよく見知ったそれのはずなのに――どこか幼くて無防備な、いつもなら覆い隠されているはずのあやうげな色を宿しているかのように見える。
    「……言ってくれたらよかったのに」
    「言えるわけないでしょ」
     軽口めいた返答を返せば、そろりと差し伸ばされた指先は掠めるようなやわらかさで髪をなぞる。
    「我慢してたんだよ、これでも――ずっと」
     はにかんだように瞼を細めながら、まるで壊れものに触れるようなひどく繊細な手つきで髪をやさしく掬っては払う仕草を繰り返されると、ふつふつと心の奥からは沸き立つようなあたたかな感情がこみ上げてくるのを抑えきれなくなってしまう。
     ずっと不思議に思っていたことがあった――人よりもパーソナルスペースが狭い上に、何かとスキンシップも多い鴫野くんはそれでも極力、こちらには触れようとしなかったのだから。
    「ねえ、」
     首を傾げながら、どこかいたずらめいた響きで僕は尋ねてみる。
    「いまも我慢してるの? もしかして」
    「……そういうとこあるよね、遠野くんって」
     かすかに顔を赤らめたまま、力なく告げられる言葉にさわりと心地よく心を揺さぶられてしまうのにただ身を任せる。
     いつでもきゅっと口角をあげてやわらかな笑みを浮かべてみせる彼が、普段ならきっと滅多に見せないようなどこか弱気で無防備なその表情を前に、いとおしさとしか呼べない感情がぐっと募る。
    「それでもいいって言ったのは君のほうでしょ」
    「そうだけど」
     くすくすと笑いあいながら、あまい蜜を帯びたようにじっとりと潤んで次第にとろけていくかのようなまなざしをじいっと見つめる。
    「ごめんね、引き留めちゃって。また来てくれるよね?」
    「うん……ありがとう、また」
     瞼を細めたおだやかな笑顔をすこしでも長く、心に焼き付けておけるように――口をつぐんだまま、しずかなまばたきを数度こぼす。

     ゆるやかに、ゆるやかに――僕たちは、恋をしていく。
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    raixxx_3am

    DOODLEひよちゃんは幼少期のコミュニケーションが足りていないことと「察する」能力の高さから本音を押し殺すのが常になってしまったんだろうし、郁弥くんとは真逆のタイプな貴澄くんに心地よさを感じる反面、甘えすぎていないか不安になるんじゃないかな、ふたりには沢山お話をしてお互いの気持ちを確かめ合って欲しいな、と思うあまりに話ばっかしてんな僕の小説。
    (2024/05/12)
    君のこと なんて曇りのひとつもない、おだやかな優しい顔で笑う人なんだろう。たぶんそれが、はじめて彼の存在を胸に焼き付けられたその瞬間からいままで、変わらずにあり続ける想いだった。


    「あのね、鴫野くん。聞きたいことがあるんだけど……すこしだけ」
    「ん、なあに?」
     二人掛けのごくこじんまりとしたソファのもう片側――いつしか定位置となった場所に腰を下ろした相手からは、ぱちぱち、とゆっくりのまばたきをこぼしながら、まばゆい光を放つような、あたたかなまなざしがまっすぐにこちらへと注がれる。
     些か慎重すぎたろうか――いや、大切なことを話すのには、最低限の礼儀作法は欠かせないことなはずだし。そっと胸に手を当て、ささやかな決意を込めるかのように僕は話を切り出す。
    3709

    raixxx_3am

    DOODLEDF8話エンディング後の個人的な妄想というか願望。あの後は貴澄くんがみんなの元へ一緒に案内してくれたことで打ち解けられたんじゃないかなぁと。正直あんなかかわり方になってしまったら罪悪感と気まずさで相当ぎくしゃくするだろうし、そんな中で水泳とは直接かかわりあいのない貴澄くんが人懐っこい笑顔で話しかけてくれることが日和くんにとっては随分と救いになったんじゃないかなと思っています。
    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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    raixxx_3am

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    ゆうがたフレンド「遠野くんってさ、郁弥と知り合ったのはいつからなの?」
     くるくるとよく動くまばゆく光り輝く瞳はじいっとこちらを捉えながら、興味深げにそう投げかけてくる。
     大丈夫、〝ほんとう〟のことを尋ねられてるわけじゃないことくらいはわかりきっているから――至極平静なふうを装いながら、お得意の愛想笑い混じりに僕は答える。
    「中学のころだよ。アメリカに居た時に、同じチームで泳ぐことになって、それで」
    「へえ、そうなんだぁ」
     途端に、対峙する相手の瞳にはぱぁっと瞬くような鮮やかで優しい光が灯される。
    「遠野くんも水泳留学してたんだね、さすがだよね」
    「いや、僕は両親の仕事の都合でアメリカに行くことになっただけで。それで――」
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    raixxx_3am

    DONEすごくいまさらな日和くんのお誕生日ネタ。ふたりで公園に寄り道して一緒に帰るお話。恋愛未満、×ではなく+の距離感。貴澄くんのバスケ部での戦績などいろいろ捏造があります。(2023/05/05)
    帰り道の途中 不慣れでいたはずのものを、いつの間にか当たり前のように穏やかに受け止められるようになっていたことに気づく瞬間がいくつもある。
     いつだってごく自然にこちらへと飛び込んで来るまぶしいほどにまばゆく光輝くまなざしだとか、名前を呼んでくれる時の、すこし鼻にかかった穏やかでやわらかい響きをたたえた声だとか。
    「ねえ、遠野くん。もうすぐだよね、遠野くんの誕生日って」
     いつものように、くるくるとよく動くあざやかな光を宿した瞳でじいっとこちらを捉えるように見つめながら、やわらかに耳朶をくすぐるようなささやき声が落とされる。
     身長のほぼ変わらない鴫野くんとはこうして隣を歩いていても歩幅を合わせる必要がないだなんてことや、ごく自然に目の高さが合うからこそ、いつもまっすぐにあたたかなまなざしが届いて、その度にどこか照れくさいような気持ちになるだなんてことも、ふたりで過ごす時間ができてからすぐに気づいた、いままでにはなかった小さな変化のひとつだ。
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