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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    主肥だけど主肥未満のような。
    https://poipiku.com/594323/6821639.html
    ↑これの二人。まだデキてない。
    元ツイ⇒https://twitter.com/mob__178/status/1530166495048654848?s=20&t=UJpK7xz1Hwh4phyVPzoD8g

    #主肥
    mainFat
    #さにひぜ

    気付いたら背負い投げされてた審神者と肥前君の主肥刀剣男士は主を傷つけない。
    刀剣男士は人間より強い。
    けれども主には逆らわない。
    逆らえないのではなく、逆らわない。
    殺せないのではなく、殺さない。(主本人が命じればまた話は別だが、この本丸には関係のない話だ)

    刀剣男士が本気になればただの人間である審神者は手も足も出ない。
    押し倒すことも、肌に触れることも、それ以上をすることもできない。
    刀剣男士はその力を行使して拒むことが出来る。
    ほとんどの場合そうしないのは、主であるから、というのが大きい。
    それほどまでに、刀剣男士にとっての”主”は深い意味を持っている。


     つまり、肥前が審神者を背負い投げで襖に投げつけてしまったのは不幸な事故だった。

    「ッ、あ……!」
     やっちまった、と思う。いつも、思った時には手遅れだった。ただ、そのまま床に叩きつけそうになったところを、背負った時点でどうにか方向転換したので、それほど痛みを与える結果にはならなかったはずだ。ならなかったと思いたいが、審神者が吹っ飛んでいった先の襖は、当然その重みと勢いに耐えきれず審神者の体と一緒に廊下に倒れてしまったし、物音を聞き付けて数振りが「なんだなんだ」と駆けつけたので手遅れという事実は変わらなかった。

     廊下にひっくりかえった審神者は目を丸くしていた。おまえがわるい、と肥前は思う。
     何かと言うと構われるのも、頭を撫でられるのも肥前は落ち着かなくて、くすぐったいような、肌が粟立つような感覚と折り合いがつかずに乱暴な態度をとるにの、審神者は懲りずに度々肥前を呼んだり、構ったり、頭を撫でたりした。いい加減にしろという意思表示で伸びてくる手を振り払えば「つれないなあ」と笑いながら一旦は引くので、それで慣れていたはずだった。ただ今回は、審神者も悪いと思ったし、多分、タイミングも悪かった。審神者は少し、ほんの少しいつもよりしつこく肥前をからかって、構って、跳ねた髪をぐしゃぐしゃといつもより長く撫でたし、肥前は面倒な任務だとか空腹だとかが重なっていつもより少し、虫の居所が悪かった。だから、

    『肥前? どうした? 大人しいね』
     そう言って髪を撫でていた手が、そのままするりと顔に下り、への字にまがった肥前の唇をちょんと指先でつついた。反射的にびくりと肩が揺れ、思わず審神者を見上げた。
    『ふ、顔はいつも通りか』
     何がおかしいのか、審神者は笑って、優しく目を細める。どうしてか、かっと顔や、腹の奥が熱くなり―――
    『い、っいい加減にしろ!』
     思わず、触れている腕を掴み、背負い投げたというわけだった。

     どうにか勢いを殺したとはいえ、人間の、主の体を投げ飛ばしてしまったという事実に変わりはないので、肥前は渋々審神者に近付き、未だひっくり返ったままの体に手を伸ばした。その場に駆け付けた初期刀の歌仙と、通りがかりらしい陸奥守は顔をふたりして顔を見合わせたが、審神者が肥前を構うのも、肥前がいつもそれを跳ね除けていたのもよく知るふたりでもあったので、『ついにやったか』みたいな顔をしていた。肥前にはそう見えた。
    「……怪我は」
     未だに驚いた表情のままだった審神者は、伸ばされた手を掴み、そろそろと立ち上がると「大丈夫だけど」と言いながらも首を傾げる。
    「お前……今投げ飛ばした? 俺を?」
     責める口調ではなかった。心底不思議そうに訊ねられて、肥前は謝るタイミングも、肯定するタイミングも逃して、ただ掴んだままの手に視線を落とすしかない。
    「……おまえが、わるいだろ」
     やっと絞り出した声は、自分でもわかるくらいに震えている。何の感情なのかはわからなかった。
    「おれに、かまうから。おれみたいな、人斬りの刀……」
    「あ、」
     振り払うように手を離し、何か言いたげだった審神者を残してその場を立ち去る。顔も、腹の奥も、触れられた唇も痺れるように熱く感じた。あいつがわるい、と肥前はまだ思っている。刀剣男士が主である審神者を傷つけないからといって、誰にでもそうするように、きやすく優しく触れるからわるい。人斬りの刀である肥前は、それ以外の振舞い方をもうできないしするつもりもない。人の身を得てはいるものの、やることは変わらないと思っているのに、審神者の扱い方といったら、それはまるで。


    ***


    「……可愛いものを可愛がるのって、そんなにわるいことかなあ」
     取り残された審神者は、居合わせた歌仙と陸奥守の方を見て首を傾げる。
    「あー……肥前のは、慣れちょらんきのう。勘弁しとうせ」
    「慣れてないかあ……むつ、歌仙、ちょっとこっち来てみて」
    「おん?」
    「何だい」
     手招きされ、陸奥守と歌仙が怪訝な顔で近寄れば、審神者はたまにそうするように、わしわしと柔らかな髪の二人の頭をかき混ぜるように撫でた。
    「おお? なんじゃ急に、く、くすぐった、」
    「こ、こら! ほどける……!」
     陸奥守は笑いながら、歌仙は前髪を留めた紐がとれそうなのを気にしながらもそれぞれ身を捩ったが、ほとんど審神者にされるがままだ。ぶわ、と審神者にのみ可視化される花びらが舞い散り、視界を埋めた。一通りもみくちゃにしてから、ふう、と満足げに手を離す。「もうええがか?」とにこにこと笑っている陸奥守も、僅かに赤くなった顔を隠しながら「全く君という人は」と小声で文句を零す歌仙も、審神者には他の刀と同じように愛おしく大事な刀である。情をかける前から、彼らは審神者が主であるというだけで慕ってくれているし、より情を注げば注ぐだけ、どんな形であれ気持ちを返してくれた。滅多に言葉を交わしてくれない大俱利伽羅だって、言葉に出さないだけで、花びらは雄弁だ。
    「……やっぱ、撫でるとみんな喜んでくれるよな」
     喜んではいない、と歌仙が憮然とした表情で言うが、審神者には彼の周りで舞い散ることをやめない花びらたちがよく見えている。審神者が情をかけて、触れて、優しく言葉を交わして、喜ばないものはこの本丸にはいないのだ。一振りを除いては。
    「ふふ、おもしろい刀!」
     抑えきれない笑みが口角に浮かび、審神者は緩んだ頬を押さえようともしない。歌仙と陸奥守は再び顔を見合わせ、古くから本丸にある刀同士の気安さで目配せした。この場から立ち去って、逃げたつもりになっている刀が、きっとこれからしつこく構われることになるのだろうと想像しながらも、(しかし、主は楽しそうだし放っておくことにしよう)と決めた二人の穏やかな心中を、審神者も、逃げ出した肥前も当分知ることはないのだった。


    おわり
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    おじさん審神者がうさぎのぬいぐるみに向かって好きっていってるのを目撃した肥前
    とうとう買ってしまった。刀剣男士をイメージして作られているといううさぎのぬいぐるみの、恋仲と同じ濃茶色に鮮やかな赤色が入った毛並みのものが手の中にある。
    「ううん、この年で買うにはいささか可愛すぎるが……」
    どうして手にしたかというと、恋仲になってからきちんと好意を伝えることが気恥ずかしくておろそかになっていやしないか不安になったのだ。親子ほども年が離れて見える彼に好きだというのがどうしてもためらわれてしまって、それではいけないとその練習のために買った。
    「いつまでもうだうだしてても仕方ない」
    意を決してうさぎに向かって好きだよという傍から見れば恥ずかしい練習をしていると、がたんと背後で音がした。振り返ると目を見開いた肥前くんがいた。
    「……邪魔したな」
    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
    「なんだよ。人斬りの刀には飽きたんだろ。その畜生とよろしくやってれば良い」
    「うっ……いや、でもこれはちがうんだよ」
    「何が違うってん 1061

    いなばリチウム

    DONE主肥だけど主肥未満のような。
    https://poipiku.com/594323/6821639.html
    ↑これの二人。まだデキてない。
    元ツイ⇒https://twitter.com/mob__178/status/1530166495048654848?s=20&t=UJpK7xz1Hwh4phyVPzoD8g
    気付いたら背負い投げされてた審神者と肥前君の主肥刀剣男士は主を傷つけない。
    刀剣男士は人間より強い。
    けれども主には逆らわない。
    逆らえないのではなく、逆らわない。
    殺せないのではなく、殺さない。(主本人が命じればまた話は別だが、この本丸には関係のない話だ)

    刀剣男士が本気になればただの人間である審神者は手も足も出ない。
    押し倒すことも、肌に触れることも、それ以上をすることもできない。
    刀剣男士はその力を行使して拒むことが出来る。
    ほとんどの場合そうしないのは、主であるから、というのが大きい。
    それほどまでに、刀剣男士にとっての”主”は深い意味を持っている。


     つまり、肥前が審神者を背負い投げで襖に投げつけてしまったのは不幸な事故だった。

    「ッ、あ……!」
     やっちまった、と思う。いつも、思った時には手遅れだった。ただ、そのまま床に叩きつけそうになったところを、背負った時点でどうにか方向転換したので、それほど痛みを与える結果にはならなかったはずだ。ならなかったと思いたいが、審神者が吹っ飛んでいった先の襖は、当然その重みと勢いに耐えきれず審神者の体と一緒に廊下に倒れてしまったし、物音を聞き付けて数振りが「なんだなんだ」と駆けつけたので手遅れという事実は変わらなかった。
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    いなばリチウム

    DONEhttps://poipiku.com/594323/6821639.html
    この二人。くっついた後。
    https://twitter.com/inaba_hondego/status/1535233451342696448?s=20&t=iXXV6Tj16FvelFbYmuw40A
    ↑要約
    いなばさんとこの肥前くんはミュ肥前にどういう反応しますか?って聞かれた時のやつです!
    歌って踊れる肥前忠広なんていませんが? 広報活動の一環で行われている、刀剣男士たちによるライブ活動がある。他所の、それもやや特殊な本丸事情とはいえ、収益だとか、それによる審神者数の増加などはある程度まとめられ、データは広報活動による成果として全審神者に共有される。その中には、実際のライブ映像もあった。
     話を聞いた当初は、そんな広報活動ってあり? という空気だったものの、効果はあるようで、確かにライブを定期的に行うようになった年から新たに就任した審神者の数は右肩上がりだ。とは言え、故意なのか集計不足なのか、引退数については明記されてないので、効果というのはどこまで信じたものやら、という声もある。ただ、自分の本丸にもいる刀剣男士達と全く同じ姿形をした刀達が、アイドルのような衣装を着て歌ったり踊ったりする姿は不思議な感覚がありつつも、見ていて楽しいものだった。刀剣男士本人たちにも好評だと聞いたので、最近では他の本丸でそうしているように、ライブ映像は各自が至急されている自分の端末から見られるように設定してある。今日も、最近行われたライブ映像データを審神者が使用している薄型電子端末に保存し、刀剣男士達の端末からアクセス可能にしたところだった。全員へ簡単に連絡を済ませ、いそいそとデータを開く。今までも本丸にいる男士と同じ刀がライブ映像に出てくることはあったし、それを本人と見たりもしたが、今回は恋仲である一振りの別個体が出ているのでいつもよりも緊張した。後ろめたいわけではないが、そっとイヤホンを耳にさして音漏れしていないかどうかを確認してから、そっと再生ボタンを押す。
    4924

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    DONE男審神者×五月雨江(主さみ)の12/24
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    「冬の季語ですね」
    「あっ、知ってるんだね」
    「はい、歳時記に記載がありましたので。もっとも、実際にこの目で見たことはありませんが」
    「そうだよね、日本で広まったのは二十世紀になったころだし」
     さすがに刀剣男士にとってはなじみのない行事らしい。本丸でも特にその日を祝う習慣はないから、何をするかもよくは知らないだろう。
     これならば、あいにくの日取りを気にすることなくイレギュラーな仕事を頼めそうだ。
    「えぇとね、五月雨くん。実はその24日と25日なんだけど、ちょっと泊まりがけで政府に顔を出さないといけなくなってしまったんだ。近侍のあなたにも、いっしょに来てもらうことになるのだけど」
     なぜこんな日に本丸を離れる用事が入るのかとこんのすけに文句を言ってみたものの、12月も下旬となれば年越しも間近、月末と年末が重なって忙しくなるのはしょうがないと押し切られてしまった。
     この日程で出張が入って、しかも現地に同行してくれだなんて、人間の恋びとが相手なら申し訳なくてとても切り出せないところなのだが。
    「わかりました。お上の御用となると、宿もあちらで手配されているのでしょうね」
     現代のイベント 1136

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/近侍のおしごと
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    主の部屋に茶色いうさぎが居座るようになった。
    「なんだこれは」
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    「なんでここにある」
    「いや、大倶利伽羅のもあるっていうからつい買っちゃった」
    照れくさそうに頬をかく主はまたうさぎに視線を落とした。その視線が、表情が、それに向けられるのが腹立たしい。
    「やっぱ変かな」
    変とかそういう問題ではない。ここは審神者の部屋ではなく主の私室。俺以外はほとんど入ることのない部屋で、俺がいない時にもこいつは主のそばにいることになる。
    そして、俺の以内間に愛おしげな顔をただの綿がはいった動きもしない、しゃべれもしない相手に向けているのかと考えると腹の奥がごうごうと燃えさかる気分だった。
    奥歯からぎり、と音がなって気づけばうさぎをひっ掴んで投げようとしていた。
    「こら! ものは大事に扱いなさい」
    「あんたは俺を蔑ろにするのにか!」
    あんたがそれを言うのかとそのまま問い詰めたかった。けれどこれ以上なにか不興をかって遠ざけられるのは嫌で唇を噛む。
    ぽかんと間抜けな表情をする主にやり場のない衝動が綿を握りしめさせた。
    俺が必要以上な会話を好まないのは主も知っているし無理に話そうと 1308

    Norskskogkatta

    PAST主くり編/支部連載シリーズのふたり
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    審神者視点で自己完結しようとする大倶利伽羅が可愛くて仕方ない話
    刺し違えんとばかりに本性と違わぬ鋭い視線で可愛らしいうさぎのぬいぐるみを睨みつけるのは側からみれば仇を目の前にした復讐者のようだと思った。
    ちょっとしたいたずら心でうさぎにキスするフリをすると一気に腹を立てた大倶利伽羅にむしりとられてしまった。
    「あんたは!」
    激昂してなにかを言いかけた大倶利伽羅はしかしそれ以上続けることはなく、押し黙ってしまう。
    それからじわ、と金色が滲んできて、嗚呼やっぱりと笑ってしまう。
    「なにがおかしい……いや、おかしいんだろうな、刀があんたが愛でようとしている物に突っかかるのは」
    またそうやって自己完結しようとする。
    手を引っ張って引き倒しても大倶利伽羅はまだうさぎを握りしめている。
    ゆらゆら揺れながら細く睨みつけてくる金色がたまらない。どれだけ俺のことが好きなんだと衝動のまま覆いかぶさって唇を押し付けても引きむすんだまま頑なだ。畳に押し付けた手でうさぎを掴んだままの大倶利伽羅の手首を引っ掻く。
    「ぅんっ! ん、んっ、ふ、ぅ…っ」
    小さく跳ねて力の抜けたところにうさぎと大倶利伽羅の手のひらの間に滑り込ませて指を絡めて握りしめる。
    それでもまだ唇は閉じたままだ 639

    Norskskogkatta

    PAST主村/さにむら(男審神者×千子村正)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀
    なんだかよくわからないけどうさぎのぬいぐるみが気に入らない無自覚むらまさ
    「顔こわいんだけど」
    「……huhuhu、さて、なんででしょうね?」
    近侍の村正がいつも通り隣に控えてるけどいつもより笑顔が怖い。
    手の中には村正と同じ髪色のうさぎのぬいぐるみがある。休憩中の今は最近販売されたそれを手慰みにいじっていたのだった。
    「尻尾ならワタシにもありマスよ」
    ふわふわの丸い尻尾をつついていると村正が身体を捻って自分の尻尾をちょいちょいと触る。普段からそうだけど思わせぶりな言動にため息が出る。
    「そういう無防備なことしないの」
    「可笑しなことを言いますね、妖刀のワタシに向かって」
    刀剣男士には縁遠い言葉に首を傾げつつも村正はいつもの妖しげな笑いのままだ。わかってないなぁとやり場のない思いをうさぎに構うことで消化していると隣が静かだ。
    ちらっと横目で見てみると赤い瞳がじっとうさぎのぬいぐるみを見つめている。その色が戦場にある時みたいに鋭い気がするのは気のせいだろうか。
    「なに、気になるの」
    「気になると言うよりは……胸のあたりがもやもやして落ち着きません」
    少しだけ意外だった。自分の感情だったり周りの評価だったりを客観的にみているから自分の感情がよくわかっていない村正 828

    Norskskogkatta

    PASTさにちょも

    審神者の疲労具合を察知して膝枕してくれるちょもさん
    飄々としてい人を食ったような言動をする。この本丸の審神者は言ってしまえば善人とは言えない性格だった。
    「小鳥、少しいいか」
    「なに」
     端末から目を離さず返事をする審神者に仕方が無いと肩をすくめ、山鳥毛は強硬手段に出ることにした。
    「うお!?」
     抱き寄せ、畳の上に投げ出した太股の上に審神者の頭をのせる。ポカリと口を開けて間抜け面をさらす様に珍しさを感じ、少しの優越感に浸る。
    「顔色が悪い。少し休んだ方がいいと思うぞ」
    「……今まで誰にも気づかれなかったんだが」
     そうだろうなと知らずうちにため息が出た。
     山鳥毛がこの本丸にやってくるまで近侍は持ち回りでこなし、新入りが来れば教育期間として一定期間近侍を務める。だからこそほとんどのものが端末の取り扱いなどに不自由はしていないのだが、そのかわりに審神者の体調の変化に気づけるものは少ない。
    「長く見ていれば小鳥の疲労具合なども見抜けるようにはなるさ」 
     サングラスを外しささやくと、観念したように長く息を吐き出した審神者がぐりぐりと後頭部を太股に押しつける。こそばゆい思いをしながらも動かずに観察すると、審神者の眉間に皺が寄っている。
    「や 1357

    Norskskogkatta

    MOURNINGさにちょも
    ちょもさんが女体化したけど動じない主と前例があると知ってちょっと勘ぐるちょもさん
    滅茶苦茶短い
    「おお、美人じゃん」
    「呑気だな、君は……」

     ある日、目覚めたら女の形になっていた。

    「まぁ、初めてじゃないしな。これまでも何振りか女になってるし、毎回ちゃんと戻ってるし」
    「ほう」

     気にすんな、といつものように書類に視線を落とした主に、地面を震わせるような声が出た。身体が変化して、それが戻ったことを実際に確認したのだろうかと考えが巡ってしまったのだ。

    「変な勘ぐりすんなよ」
    「変とは?」
    「いくら男所帯だからって女になった奴に手出したりなんかしてねーよ。だから殺気出して睨んでくんな」

     そこまで言われてしまえば渋々でも引き下がるしかない。以前初期刀からも山鳥毛が来るまでどの刀とも懇ろな関係になってはいないと聞いている。
     それにしても、やけにあっさりしていて面白くない。主が言ったように、人の美醜には詳しくはないがそこそこな見目だと思ったのだ。

    「あぁでも今回は別な」
    「何が別なんだ」
    「今晩はお前に手を出すってこと。隅々まで可愛がらせてくれよ」

     折角だからなと頬杖をつきながらにやりとこちらを見る主に、できたばかりの腹の奥が疼いた。たった一言で舞い上がってしまったこ 530

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117