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    totorotomoro

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    POIPOI 39

    totorotomoro

    ☆quiet follow

    暗いです。閲覧注意。ドクターが倒れてます。
    忙しくて前が見えないのと、今の落ち込み気味な気持ちを外に向けるとこうなります。
    これ読んで引きずられそうな人は、温かいもの飲んで休んだ方がいいです。ひとつのバロメータ。

    #鯉博
    leiBo

    「もっと頑張らなければ、私は」 流れ弾に脇腹をかすめとられ、意識を失ってかつぎこまれたドクターの病室へ交代でみんなで詰めている。どうしたってどうにもならないのだが、誰もが何かをせずにはいられないのだ。
     手を握り、声をかけ、起きてと願い、快復を祈る。
     花を枕元に飾り、おまじないのアイテムを置き、色々と毎日の様子を話しかける。そして話している人物は段々と口を引き結び、背中を丸めて俯き、ドクターに聞かれないように嗚咽をこぼす。リーは戸口でその気配を感じ取り、持ってきた花束の外側を見つめてただ俯いていた。
     そうしてたまらなくなったのか、中にいる誰かが外に出ようとする気配を察して、リーはそっと空いている隣の部屋へ体を移した。野暮なことはしたくない。
     扉が閉まって、足音が去ってからそっとドクターの部屋にうつる。ドクターの病室に来るまでのセキュリティがとても厳しいのと、検査の人間が入れ替わりで頻繁に出入りする合理性のためかで入り口は鍵がかからない。持ち込みも検査を受けて通過しているので、この花も問題ないと見なされた。
     満杯になっている花瓶の隣にとりあえず置いておく。
     誰かが入りきれなかったこの花を見つけたら、新しい花瓶に相席させてくれるかもしれない。
     立ち位置に困り、とりあえずでたぶん先程いた誰かの席に座り、点滴を打たれている手にそっと触れた。
     腕はひどく冷たくて、手のひらだけが暖かい。先ほどの誰かがずうっと握っていたのだろう。
     リーもそっと手を握り、心の臓に向けて針をよけながらそっと手首から腕をさすってやった。
    「ねえドクター」
     返事はない。リーと柔らかく呼びかけてくれる声も、にこにことした笑顔も、冴え冴えとした喋り方も、それでいて目を離すと危なっかしいことしかしない、無邪気なあの人も今は何もない。
    「起きてくださいよ。でないとおれ、龍門に帰っちゃいますよ」
     実際龍門に帰る日が迫っていた。リーとロドスは契約で繋がってはいるものの、ずっとここで働いているわけにはいかない。リーにも龍門でやるべき仕事があるのだ。
    「帰るまでには、元気な顔見せて、何か喋って、一緒にメシ食って、それで……」
     それで、とリーの口が止まった。ふるふると口が震え、ぐっと舌を歯の裏に押し付ける。
    「それで、ほら、なんでしたっけ……ああ、ダメですね。歳くうと、何言って、いいんだかってやつで……」
     ただ寝て起きて、リーの顔を見て、仕事をしないリーに呆れて、「リー」と呼んでくれたらそれで。
    「それで、充分、なんですけどね」
     頑張らなくたって、いいんですよと言いかけて、リーはその言葉に秘めた無責任さと自分の言葉を呪う。
     その言葉を聞いて、ドクターは半端に笑うだろう。
     そして、その言葉で、もっと頑張ってしまうのだろう。
     以前、本当に戯れで口にした、未来への言葉にドクターが言葉に詰まって、ふと遠くを見てそのまま何も言わなかったことがある。
     リーはあの時、知らない間にこれはドクターに言ってはならない言葉だったと気づき、深く、深く傷ついたのだ。
     ドクターは窓の外をしばらく見て、首を傾げ、そしてゆるゆるとこちらを向いて笑ってくれた。
    「そうなれるように、がんばらないと」
     あれ以上の、返事があるだろうか。
    「頑張らなくたって、いいんですよ」
     そうリーが返せればどれだけ良かったのだろうか。
     だが、ドクターはその慰めだけの言葉を泰然とした微笑みで拒絶していた。そしてリーが拒絶されたことを察したことを、ドクターは察していた。
     二人でそのままお茶を飲み、どちらともなく退室した。
     そしてドクターはその言葉通り頑張りすぎて、少しの隙間に入り込んで索敵してしまったオペレーターを守ろうと、前に出て凶弾に倒れたのだ。
     だから、ドクターが今こうなっているのは、自分のせいなのだ。
     リーはドクターの手を自分の額に当ててただ祈った。
    「おれは……ばかだ……」




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    はるち

    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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    はるち

    DONEやり方は三つしかない。正しいやり方。間違ったやり方。俺のやり方だ。――引用 カジノ
    健康で文化的な最低限度の退廃「抱いてくれないか」

     その人が、ソファに座る自分の膝の上に跨る。スプリングの軋む音は、二人きりの静寂の中では雷鳴のように鮮烈だった。こうしていると、この人の方が自分よりも視線が上にある。天井からぶら下がる白熱灯のせいで逆光となり、この人の表情を見失う。
     どうしてか、この世界の生物は良いものだけを、光の差す方だけを目指して生きていくことができない。酒がもたらす酩酊で理性を溶かし、紫煙が血液に乗せる毒で緩やかに自死するように、自らを損なうことには危険な快楽があった。例えばこの人が、自らの身体をただの物質として、肉の塊として扱われることを望むように。この人が自分に初めてそれを求めた日のことを、今でも良く覚えている。酔いの覚めぬドクターを、自室まで送り届けた時のこと。あの時に、ベッドに仰向けに横たわり、そうすることを自分に求めたのだ。まるで奈落の底から手招くようだった。嫌だと言って手を離せば、その人は冗談だと言って、きっともう自分の手を引くことはないのだろう。そうして奈落の底へと引き込まれた人間が自分の他にどれほどいるのかはわからない。知りたくもない。自分がロドスにいない間に、この人がどうしているのかも。
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