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    totorotomoro

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💴 🍵 🐉 🍙
    POIPOI 39

    totorotomoro

    ☆quiet follow

    ふわっとしたデート話(?)

    白玉のメニューに既視感をもったあなた。
    はい、正解です。某三月の獅子こと将棋漫画の大事なシーンに出てくる白玉です👍

    #鯉博
    leiBo

    日常という平静 リーと一緒に龍門の露店をひやかすのは中々に楽しい。ドクターは戦場で感じる高揚感とは別の感情を体験して実地調査についてレポートを頭の中で組み立てながらニコニコと微笑んでいた。
     実地調査と言うなら他のオペレーターに、それこそこの土地をよく知る隣に立っている男に任せればいい。
     (大人しく期限までに出すかは別として。)
     さらに言えばわざわざ来なくてもいい某製薬会社のトップの一人であるドクターがやる仕事ではない。それでもここへ来ているのはあまり会う機会がない恋人への、職権濫用を使ったドクターからのささやかな誠意だった。
    「あれはなんだ?」
    「乾燥させた果物に飴をつけたお菓子ですね。食べながら歩けるってんで人気ですよ」
    「へぇ……」
     大通りで賑わう道のあちこちには厚くてごわついた布の上に無造作に並べられたアクセサリーや、車を改造したらしい簡易キッチンの中から軽食を売る露店が並んでいる。
     なんでみんな似たような布を品物の下敷きにしているのかとドクターがリーに問えば、近衛局が来たら荷物を包んで逃げられるようにだと余りほめられた理由ではないらしいことを教えてもらった。きょろきょろと珍しそうに露店の品物のひとつひとつを見るドクターをリーはやわらかく眺めつつ、小さな手鏡を指して「触っても?」といかつい目をした禿頭の男に問うた。
     深みのある飴色の外装で、彫られた意匠は鳥だろうか。
     面倒くさそうに頷く男に「どーも」と言いながらそれをひっくり返す。
    「ねえ、見てくださいよ。×××」
     今日は調査も兼ねて、ドクターはリーによって目立たない娘風に姿を変えられている。よって呼ばれる名前も仮の名前だが、ドクターはリーが龍門を歩くなら気をつけることと何度も教え込まれた話の共にしっかりとその名前を覚えていた。
    「おや」
    「よく映ってるでしょう。───まあ、これならいいか。ほい、これ」
     リーが懐から龍門弊を手渡すと、禿頭の男は少し意外そうな顔をしてポケットから小銭を取り出すとリーの龍門弊を受け取って彼の掌に釣りをぽんぽんと乗せていく。
    「どーも」
     リーは割れないようにとコートのどこからか布を取り出して包むと再び仕舞い込んだ。
     ドクターはその間に二つ先にある白玉売りの屋台に目を向けていた。シロップの中に白玉と茹でた豆を浸けて冷やしたものを提供する屋台だ。あそこはさらに珍しく、生の果物も少し入れているらしい。集まる人の質から大体の味が察せられる。人の賑わいからあの店はずいぶんと繁盛していそうだった。
     リーは経験からそれを識っているが、ドクターは好奇心からだろう。そもそも人が口にしているから食べ物という認識はあるだろうが、はたしてロドスにはああいうものを提供しているものはいるのだろうか。
    「食べたいですか?」
    「いいの?」
    「おれは食いませんけど、まあ、あれなら火を通してあるし、変なものも入ってなさそうなんでいいでしょう」
     そっと背中に手を回すと、リーが歩くのに合わせて抵抗なくドクターも歩き出す。
     それをじろりと見て、「毎度あり」と禿頭の男が呟いた。

     鏡を買った位置からは見えなかったが、白玉売りはそこそこの列の長さが出来ていた。ただ、回転は早そうではある。
    「どうします?」
    「せっかくだから、ちょっと食べてみたい」
     ドクターの視線は先に買い求めてほおを膨らませて食べている子どもに注がれていた。父親らしい男が壁際に寄るように促しているのも見える。日常の、本当に何気ない風景だった。
    「夕飯は食べられるようにしておいてくださいね? 久しぶりの外食ってんでガキどもも待ってるんで」
    「……がんばる」
     妙な間に、リーは苦笑した。
     そうこうしている間に二人の前はどんどんと短くなり、順番が回ってくる。
    「ちいさいほうを、ひとつ」
     前の注文を聴きながら真似たドクターの声に「あいよ」と景気の良い声で年嵩の女がさぷさぷと器に果実と豆を注ぎ、別の鍋にシロップと共に浸かった白玉を点々と入れて、きりのよいところまでお玉でちょんとシロップを追加する。
     なるほどこれなら白玉が崩れることはないし、煮炊きの必要はないのだろう。
     その手早さにドクターは目を瞬かせた。
    「ああ、×××。ここはおれが」
     ドクターが財布を開けようとするのを押しとどめて、リーが店員へ龍門弊をそのまま手渡す。
    「ありがと。おねえさん、デート? じゃあ特別にひとつ白玉おまけしてあげるから、二人で食べな」
    「ありがとう」
     奇数だった白玉を偶数に変えて使い捨てらしい木のへらを二本突っ込んで手渡ししてくる。その分シロップの嵩が増えたので、ドクターはこぼれないように慎重に両手で受け取った。
    「なるほど、今の私は君とデート中に見えるんだな。得をした」
    「あそこが空いてますよ」
     立って食べている人の隙間をリーが見つけてドクターをそっとその中に立たせて壁となる。
     こぼさず持ってこられた器を見てドクターがリーを見れば、彼はちょんと首を傾げる。どうぞという顔にドクターはさっそく匙を差し込んで白玉を口にした。
    「あ、む……」
     ドクターの小さい口には大きすぎたらしくて、頬を膨らませてむぐむぐと咀嚼しているのをリーはただ黙って見ている。もごもごとして、そしてやっとこくりと喉が動くまでじっとリーは見ていた。
    「いかがです?」
    「甘い、あと、おいしい」
    「それはよかったですね」
     化粧が崩れかけたのか、リーは少し微笑むとドクターの喉から頬に向けてそっと指先を滑らせ、耳の後ろを数度揉むような素振りを見せた。されるがまま目を閉じて、離れていく手の感触が遠のいてから目を開けると、リーはドクターを見下ろしてにっこりと微笑んだ。
    「うん。以前食べた『餅』? とはまた違うんだな。はい、リーもどうぞ」
     へらに白玉を乗せて上に向けて突き出すと、リーは一瞬目を見開いて、体をかがめて口を薄く開けた。ドクターは白玉をへらごと差し込み、ねじってぽとりと口の中に入れる
    「うん、これは美味いですね」
     ドクターよりも明らかに早いスピードで咀嚼して飲み込み、その手の中にある器に視線を移す。
    「入ってるものも結構代用できそうなんで、あなたが食べたいならまた暇な時があったら作ってあげますよ」
    「本当か?」
    「ええ。なんならレシピと材料書いてあげますから、それをキッチン組に渡せばいいと思いますよ。まあ出来れば最初の一杯目はおれが作ってあげたいんで、待ってて欲しいところですけど」
    「じゃあ待つよ。これは君と食べた思い出になるからね」
     二つ目の白玉を口にしつつドクターは答える。そのために器を見ていたドクターは、その下に落ちる尻尾の影が揺れたのを見て心の中だけで小さく笑った。
    「リーももう一つどうだ?」
    「いや、おれはもう。甘ったるくなっちまうんで」
    「確かにだいぶ甘いな」
     ゆっくりとした咀嚼もあって、まだ半分以上も残っている。
    「まあ時間はありますから。おれは待ちますよ」
    「ありがとう」
     では三匙目とドクターが器からシロップを掬い上げようとしたところで叫び声がする。リーは刹那の速さで背後を振り返り、ドクターを背後にかばうと腰の装備に手を当てた。

    ───ひったくりだ!
    ───誰か!
    ───〜!! 〜!

     雑踏が割れて、一人の男が場に合わない早足で走り抜けていく。
    「わぁ」
     人の林にいたため野次馬が動いたせいか、リーが即座にドクターを安全な隅に押しやったせいかでドクターの手から器が逆さまに落ちて地面にシロップが食べられていく。
    「あ〜……」
    「ありゃ」
     ドクターの残念そうな声で我に返ったリーは器を見たが、落ちたものはさすがに食べさせるわけにもいかない。
     残念そうに見下ろしながら器にシロップ以外の豆などを入れて片付けにいくドクターに付き合い、ひったくられて呆然とした女性を見たリーは小さく唸った。その声に引き寄せられるようにそちらを見たドクターもまた唸る。
    「あの人が被害者?」
    「そうみたいですね」
    「なるほど」
     呆然とした女性に対して、気の毒そうな顔をしても誰も近寄れない理由。

     彼女の巻かれた包帯からのぞくそれは、鉱石だった。

    ◆◇◆

     ドクターは汚れた手を拭いて女性に手を伸ばす。びくりと顔をあげた女性に手を貸して立ち上がらせると、割れた人垣から路地へと入っていった。
     ややあってから、覗き込むものもいたが、リーの睨みによって人の流れはそのまま何事もなかったように元の流れに戻っていく。
     ドクターは何を取られたのかを聞き、代わりに近衛局に必ず知らせるからと約束して名前と場所を聞いて涙をこぼす彼女と別れた。
    「リー。急で悪いけど、大至急人探しを頼みたいんだけども」
    「承りましょう。───何をお探しですか?」
    「さっきのひったくり。君は顔を見たか?」
    「おれはちゃんとは見てませんけど、お前らは見ただろ?」
     言いながらリーは先ほど通ってきた通路を振り返った。
    「もうわかってるから出てこい。時間が惜しい」
     リーの声に、二人の男が現れる。
     アとウン。リーの養い子たちだった。
    「気づいてたのかよ」と、アが肩をすくめた。
    「リーが露店で鏡を見せて教えてくれたよ」
     そうドクターが答えた。

    ───ねえ、見てくださいよ。×××

     あの時リーが見せた鏡には、こちらを伺っている彼の三人の養い子たちが映っていた。

    「ワイフーはどうした」
     リーは二人を見て聞く。
    「そいつを追いかけてるよ。連絡はまだない」
     これはウン。
    「上出来だ。場所はわかるか?」
    「移動はしてるっぽいぜ」
     アがロドスで使っている端末を見せた。
    「ならおれが追いかける。場所がわかったら知らせろ。お前らはドクターを頼んだ」
     リーもロドスから貸与されている端末を取り出すとアと交換する。
    「はい」「へーい」
     言いながらアが手を出す。
    「なんだ?」
    「どこかでなんか食べて待ってる」
     その言葉に、やれやれと言ったようすでリーは龍門弊をいくらか握らせた。
    「毎度〜」
    「ドクターのこと頼んだぞ。───じゃ、すみませんがドクター。こいつらをお願いします」
    「よろしく頼む」
    「はい」
     そう答えるとリーは端末を見て、ゆっくりと駆け出していったのをドクターは小さくなるまでじっとそれを見ていた。

    「さて、どこ行くよ。ワイフー姉と先生がいたらほぼ解決だろ。メシはさすがに速すぎるし」
    「旦那の安全確保が最優先だからな」
    「わーってるって」
     二人の会話を聞きながらドクターは事務所を出る前にリーたちから借りた肩にかけたカバンからごそごそと荷物を取り出し始めた。
    「何してんだ。旦那……え、なにこの機材」
    「これドローンの部品じゃないか?」
     ドクターは二人の会話を聞き流しながらケーブルを繋いでバッテリーを繋いでいく。
    「ウン、そのプロペラを、そこに取り付けといて」
    「わかった」
     ドクターから手渡された工具でウンも作業を手伝いだし、アはそこらへんにあった木箱に腰掛けると周りを見る作業に勤しむことにした。

    ◆◇◆

     残念ながら近くなればなるほど端末での精度は落ちる。
     恐らくここらへんだろうという辺りでリーは立ち止まり、辺りを見回した。
     ワイフーの姿や喧嘩の音などがあればそれを頼りに探せるが、まだ追いかけているのかもしれない。
     リーが端末に目をやると、そのタイミングを見計らったかのように自分自身からの───先ほどアの端末と交換したせいだ───連絡が届いた。
    「おれだ」
    『やぁ。お探しものは見つけられたかい? ハニー』
     耳に届いた声にリーは苦笑した。
    「それ、なんの探偵ドラマみたんです? ああ、いえ。言わなくても大丈夫ですよ。あててあげましょう」
     次に続く言葉にドクターからの忍び笑いが聞こえた。
    『さすがはリー先生。同業者について詳しいね』
    「おれはあんな気障な同業者はごめんですけどねえ」
    『では硬派なリー先生にアドバイスだ。今立っている四辻の正面、二ブロック先を君からみて右手の方角に駆けていくクランタがいる。こちらの二人にも聞いたけど、恐らくそいつがさっきの男だよ。その後ろをワイフーが追いかけている。何か持ったまま走っているようだから、荷物は彼女が持っている可能性が高い』
     リーが頭上をふり仰ぐと、いつか見た記憶があるドローンが一基、空を浮かんでいた。
    「貴重なアドバイスありがとうございます。───ああ、それと」
    『ん?』
    「ちなみになんですけど、この依頼料は後ほど今日のとは別会計で払っていただきますので、よろしくお願いします。特別会計になりますので、そこんとこはお願いしますねえ」
    『あ、あの』
     ピッ。
     値下げ交渉に入られないように通話を切ると、そのままドクターが行った方角に繋がる裏道へ向けて走り出す。ドクターはそのままゆらゆらとドローンを浮かせていたが、バッテリー切れが予想されたので自分の手元へと引き戻して電源をオフにした。

    「───簡易小型化で数を飛ばして視認性をあげるための試作品だったんだけど、龍門の街を上から撮れるかなと思って持ってきていたんだ。こういうことで役に立つこともあるね。細道に入るための操作性が悪いのと、バッテリーの減りが早いのも課題だというのがわかった」
     耳を真っ赤にしながら先ほどとは逆の手順でバラバラにしていくのを手伝いながら、ウンはアと顔を見合わせた。アが肩をすくめたので、ウンも苦笑しつつ作業に戻る。
    「なあ旦那」
    「うん? なに?」
    「夕飯はみんなでメシ屋行くけど、旦那は何食べたい?」
    「そうだなあ……。砂虫の脚の唐揚げとかあるかな」
    「ワイフー姉が嫌がりそうだから羽獣の唐揚げとかにしとこうぜ?」
     喋りながら、淡々とその作業は続けられた。


    (おしまい)
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