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    totorotomoro

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    totorotomoro

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    @Chickentabetai7」(とりさん)のツイートネタをお借りして書きました。ご本人にはアップロードの許可をいただきました。下げる必要があれば下げます。よかったらお楽しみください。

    #鯉博
    leiBo

    ドクターが風呂で溺れかけた話 研究にハマって寝ずに何かしていたアですら、もうちょっとはマシだった気がする。リーは後にそう独白した。

     ドクターの執務室のドアを開けると、椅子に腰掛けて上を向いてピクリともしない部屋主が居た。リーが近寄って見れば、どうも瞬間寝落ちていたらしい。声をかけるとびくりと体を揺らしてドクターは声がした方にフェイスシールドをしたままの顔を向けた。
    「ああ、おはよう」
    「おはようございます、ドクター」
    「……あ、リーか。そうか、リーが今日の秘書係だっけ。よろしくね」
     寝ぼけ声でそう言いつつ、机の上にあるクリップどめの資料に手を伸ばそうとするのでリーはそれを押しとどめた。
    「一体どれくらい寝てないんですか」
    「寝てたよ、今」
    「こういうのじゃなくて、いつからベッドで寝てないんですか」
    「んー? あー。んー……いつ……だっけ?」
     寝てないと言えばまだ説得しようもあるがフェイスシールドで顔が見えない上に寝ていたと素直に自己申告される。
     リーがそれは睡眠とは言わないという話を、どう言い含めようか考えていると、ドクターは「大丈夫大丈夫」と引き出しから何かを引き寄せて白衣を捲り上げるとパシュとためらいなく自分の腕に何かを投与した。
    「あっ、ちょっと!」
     合法だとは思いたいが確実に今打つべき薬剤ではないことだけはわかる。
    「お昼まで。お昼まではやらせて。そしたら休暇申請してあるから」
     誰に言い訳しているのか、ドクターは端末のスリープを解除してパチパチとキーボードを操作し始める。五分前とは打って変わっての手さばきにリーは抽出を失敗して渋いだけのお茶を飲んだ時のような心持ちになった。あれはおいしくなかった、と思い返しながら。
    「わかりました。そしたら追加の仕事がこないようにケルシーさんに休暇申請のこと念押ししときますね。ついでにその薬、補充もしてもらわないとですよねぇ」
    「ちょっ」
     やはり使用には制限があるやましい薬だったようで、リーがポケットから携帯端末を取り出した途端にドクターが立ちあがろうとするのを雑に尻尾で押し留める。
    「はいはーい。座っててください」
     携帯端末をドクターの手が届かないように自分の頭の上に掲げてたしたしとケルシーへメッセージを飛ばしてから十分もしないうちにケルシーたち医薬班が駆けつけてドクターの本日の業務は強制終了となったのであった。

     ◆◇◆

     リーが予想していたのは半分くらい当たっており、やってきたケルシーにドクターが隠そうとしていた使用済みの注射器とそれが入っていた包みを見せたところ、ドクターは薬剤の中和剤とやらをケルシーから問答無用で打ち込まれた。
     なけなしの理性がまだ残っていたのかで、幸いにして違法な薬剤ではないらしい。ただケルシーの見立てでは薬剤が抜けるのを待つよりも中和剤を打ち込む方が正しい処方ということだろう。なぜこれがドクターの手元にとブツブツ聞こえる中で、『私がやりました』みたいなアの顔がリーの脳裏によぎったが今はドクターと意識を切り替えた。
     本格的な説教は後日とのことではあったが、ケルシーは中和剤を打たれて沈没中のドクターに言い含めるように脈拍や血圧などを測りながらお説教の真っ最中だ。それが一通り終わったかと思えば、女史は中和剤が効くまでそこいらに転がしておけとあっさりと言う。
     一応周囲にも公認の恋人の立場としてはさすがに可哀想に思って、リーが背負ってドクターの私室まで連れて行くことを申し出てこれを認められる。
     ひとりでまともにも座れないドクターをケルシーについてきた医療班に頼んで抱え上げてもらい、尾を跨ぐようにして背中に乗せてもらった。担架を使うかと言われたが、これはリーが固辞する。幸いドクターの体は筋肉が少ないためかで、見た目通りに軽いのと、ドクターは恐らく自室を見られるのを嫌がりそうだなと思ったためだった。
    「何か異変があれば呼んでくれ」
    「はい、そいじゃお先に失礼します」
     リーはケルシーに手を振って部屋へと戻っていく。
     たまたまというか、ケルシーたちが駆けつける際に人払いがされていたのかもしれない。ドクターの部屋へたどり着くまで誰ともすれ違わず、説明が省けて良かったとリーは思いながら拝借したIDカードをかざした。続いてリーの首から前へ回されたドクターの手を屈んで指紋を読み取らせる。開いた入口から中に入れば、見慣れた部屋があり、ずり落ちそうなドクターを揺すり上げると寝室へと入り込んだ。
    「ドクター、着きましたよ」
    「ん…」
     ベッドに文字通りそっと落とすと、ごろりとドクターが横になる。
    「はぁ、もう。しゃんとしてくださいね?」
     靴をとってフェイスシールドを外し、首元を緩める。ケルシーから説明は受けていたが、副作用で発汗作用が働いているらしく、額は汗の玉で肌が光っていた。タオルを濡らしてきて額と首を拭いてやると、気持ちよさそうなため息が口からこぼれた。
    「ねえ、リー……」
    「はい」
    「お風呂入りたい……」
    「起きてから入ればいいでしょう」
    「眠くはないけど汗で気持ち悪い。あと、動きたくない……」
    「副作用らしいですね。せめて上着を脱ぎましょうか」
     上体を起こして、コートと白衣を剥ぎ取る。この厚みのありそうな上着を羽織っていてなお、腕に注射が打てるほどにか細いドクターの腕をリーは切なそうに見つめて袖を緩めてタオルで腕を拭う。
     後ろ側の裾をまくり上げて背中も拭こうかと体を寄せようとすると、ドクターが身じろぎをして嫌だという風な素振りを見せた。
    「お風呂、入ってないから……近寄らないで」
    「おんぶしたから関係ないでしょうに」
    「それは、いや、背中だし、離れてたし……」
    「じゃあ寝て、風呂は起きてから入ってください」
    「それも嫌だ」
     イヤイヤと身じろぎするドクターにリーは根負けする。
    「わーかりましたよ。とりあえずお湯ためてくるんで、眠かったら寝ちまいなさいな」
    「んう」
     こくこくと頷くドクターを横たえて、リーはバスルームへと移動した。

     少し温いだろうかと思う程度の湯をはって戻ると、寝ていて欲しかったドクターは残念ながらまだ起きていた。少し体が動かせるようになったようで、右手を持ち上げてグーパーして様子を確かめている。
    「風呂いれましたけど、入れますか」
    「はいる」
    「ああ、そういうのいいですから」
     体を無理やりに起こそうとするのを押しとどめてリーは横抱きに抱え上げる。
    「ごめん」
    「まったくですよ。ちったあ反省してくださいね」
     バスルームへとたどりついて床に下ろすと自立したドクターに中和剤は一応効いてはいるのかとリーは感心した。
     ドクターも同様に思ったのか、一人で入れると介助を固辞する。
    「わかりました。ドアの外に居るんで、出る時は呼んでください」
    「ん……」
     リーはこうなると聞かないだろうと、ハイハイと返事をしてバスルームの扉を閉めて耳をすませた。ややあってからガサガサと布擦れがした後、奥の扉を開いて水音がした辺りで、髪をかいて部屋に戻る。
     ベッド脇に放ったドクターの上着をハンガーにかけて吊るし、白衣はたたみ直してサイドボードに置く。そうしていると、耳にかすかにボチャンと音がした。風呂に入る時のような音ではなく、何かそこそこの重量があるものが水に叩きつけられたような。
    「ドクター?」
     バスルームへと向かって声をかけたが返事がない。リーは無言で足早に部屋からバスルームに続く扉を開けて、乱雑に脱ぎ散らかされた服を踏み越えてバスルームの扉を開ける。
     これで十秒程度。
     そこにはリーの予想とあやまたず顔面から湯船に顔を突っ込んだドクターがいた。あの水音を聴き逃したらと思うと心臓に悪すぎる。
    「ちょっともぉ。勘弁してくださいよ」
     慌てて頭を引き上げて息をしているのを確認してぺちぺちと頬を手の甲で打ったが寝息がするだけで、どうやらドクターは完全に寝落ちたらしかった。
    「あーーーーー、ドクターが悪いんですからね!」
     とりあえず沈まないように腕を外に出して間にタオルを挟み、リーはバスルームの外に出るとタオルを大量に持ち出し、袖をまくりあげてドクターを回収するために戻った。

     ◆◇◆

    「───なんて頃もありましたね〜」
     湯船の縁にかかったドクターの手を取ると、リーはドクターの手の甲を指先でくるくると撫でて甦った思い出を口にした。
    「アリマシタネ……」
     湯船の脇に背もたれのない椅子を置いて座りながらドクターの様子を伺うリーを見て、ドクターはカタコトの言葉で返事をする。
    「あの後おれの服びしょ濡れで、ロドスの自部屋に戻るまでに人から何があったのか聞かれるし、ごまかすの大変だったし、一応連絡したケルシーさんには『寝そうな人間をひとりで風呂に入れたのか?』って怒られるしで大変だったんですよ」
     リーは落ちてきた袖を捲り上げつつ、ドクターの濡れた髪を撫で付ける。
    「で、もうあれ以来おれは徹夜明けのドクターが風呂に入るって時は、ひとりで入れるの絶対に止めようと心に決めたんですよ」
    「悪かったよ……。だからってさ、そうやって私の入浴につきっきりってのは、やり過ぎだと思わない?」
     しかも君は服着たままだし、と呟くとリーは肩をすくめた。
    「この部屋の風呂じゃ二人入るの無理でしょう。あとドクターが徹夜しなかったらおれもこんなことしなくて済むんですけどねえ」
     ちくちくとした視線と言葉に、ドクターはぶくぶくと風呂の中で泡を吹いて抗議するに止めた。
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    DOODLEロドスでダンスパーティーが開かれるのは公式というのが良いですね
    shall we dance「あなたには、ダンスはどのような行為に見えるかしら?手を相手の首元に添えて、視線を交わせば、無意識下の反応で、人の本心が現れるわ」

    踊ろうか、と差し出された手と、差し出した当人の顔を、リーは交互に見た。
    「ダンスパーティーの練習ですか?」
    「そんなところだよ」
    ロドスでは時折ダンスパーティーが開催されている。リーも参加したことがあり、あのアビサルハンター達も参加していることに少なからず驚かされた。聞けば彼女たちの隊長、グレイディーアは必ずあの催しに参加するのだという。ダンスが好きなんだよ、と耳打ちしてくれたのは通りがかりのオペレーターだ。ダンスパーティーでなくとも、例えばバーで独り、グラスを傾けているときであっても、彼女はダンスの誘いであれば断らずに受けるのだという。あれだけの高嶺の花、孤高の人を誘うのは、さぞかし勇気のいることだろう――と思っていたリーは、けれどもホールの中央で、緊張した様子のオペレーターの手を取ってリードするグレイディーアを見て考えを改めた。もし落花の情を解する流水があるのならば、奔流と潮汐に漂う花弁はあのように舞い踊るのだろう。グレイディーアからすれば、大抵の人間のダンスは彼女に及ばないはずだ。しかしそれを全く感じさせることのない、正しく完璧なエスコートだった。成程、そうであれば、高嶺の花を掴もうと断崖に身を乗り出す人間がいてもおかしくない。
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    DONE二人で飲茶を食べるお話
    いつだってあなたと晩餐を アルコールは舌を殺す。
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