チチは働き者だ。
家事に炊事に、農作業。悟空が二度目のあの世の住人になったときよりも今の方がやることはずっと多いのではないかと思う。
七年の離別中、あの世にて妻や我が子のことを想わない日はなかった悟空は自ら申し出てチチの農業を共にやりつつ、妻に自分でできることは他にもないかと問うてみたが、チチは少し驚いた表情の後に笑顔で十分だと答えてきた。
「やることは確かに多く見えてるかもだけんど、おらも前よりもっと容量がよくなったし、こう見えて意外と手も抜かせてもらってるんだべよ
悟飯や悟天ちゃんもお手伝いしてくれるし、今は農作業悟空さが手伝ってくれてるし。それらはチチの本心のようで、実際、今現在彼女はソファに座り傍らにお茶を置きながら自身のスマートフォンを手にしている。
「ほれ、こんな感じでゲームする時間があるくらいなんだべよ」
チチが見せてきた画面は、悟天がテレビでよくやっているゲームを思わせるものが映っている。
「チチがゲームしてるのなんか意外だな」
「結構楽しいだよ。ブルマさんと協力プレイとかできるし面白いだ」
「ふぅん」
「興味あるなら悟空さもやるといいだよ、おめぇさのスマホでもできるはずだべ」
「ああ」
チチの声に明らかな生返事を返す。彼女の隣に座り、彼女が自分のために用意していた茶を飲みほしてもチチはスマートフォンを操作している。
悟空が知る限り、チチがそうやってゲームを楽しんでいる光景は今日初めて見た。家事らの合間に少しだけ嗜む程度なのだろう。
楽し気に操作し、このゲームについて話してくれるチチは悟空を決してないがしろにはしていないが、狭量である自覚を持ちつつも悟空は面白くなかった。
本やテレビを見ているチチを前にしているときとは別の、面白くなさがじわりじわりと湧いている。
それら不満を口にはせず、じっとチチを見ていると、彼女がこちらを見た。
「もう、おらに穴があいちゃうだよ。おらがゲームしてるの、悟空さはいやけ?」
「嫌ってわけじゃあねぇんだけんどよぉ…」
「ん。じゃあ、おらがこっちに集中してるのが気にいらねぇんだな」
「…………」
「ほれ、悟空さ」
悟空との会話のやりとりで何か納得したらしいチチは一旦スマートフォンを片手で持つと、空いた手で己の膝をぽんぽんとたたき、悟空を招く仕草をした。
「ほれ、膝枕してあげるだよ」
その後、学校から帰宅した悟天はソファで母の膝枕でくつろぐ父を見ることになる。