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    an____wL

    @an____wL

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    第42回/ジュン茨ワンドロワンライ
    お題:盗み見る🫣👁‍🗨
    @juniba_1h

    +2hほどです。
    全体的にご都合主義です。

    #ジュン茨
    junThorn

    『盗み見る』「メアリの世話……ですか?」
     
     そうなんですと答えながら、副所長室の中央、大きなソファに座る茨に向かって、ジュンはもう一度パンッと手を合わせた。
     茨の背に見える窓の外はもう暗く、コズプロが入っている18階に人気はほとんど感じられない。
     
    「明日のEveの仕事中、本当は春川くん……というかあそび部のみんながドッグランとかもある大きめの公園に遊びに行くからってメアリを預かってくれる予定だったんすけど、急な仕事が入っちまったらしくて……」
    「なるほど、それでこんな時間に今日明日で預かってくれる人も見つからず……というわけですか」
    「そういうことです……」
     
     ジュンは頼むといった気持ちで頭を下げつつ、茨を薄目で伺う。合わせた手はぺこりと下げた頭の上で握り直して今度は懇願の姿勢だ。
     
    「まぁ、一度預かったこともありますし、明日は事務仕事ばかりですしね。構いませんよ」
     
     その言葉にジュンはガバリと顔を上げると、勢いよく目の前に座る茨の手を取り、半ば伸し掛かるようにして詰め寄った。
     
    「マジすか!いばらぁ、ほんと助かります……!」
    「ジュ、ジュン!近い!重い!」
    「俺!もう現場にメアリ連れて行くわけにもいかねぇし、かといって1人置いていくわけにもだし、おひいさんに相談しようにもナギ先輩と出掛けちまってるしで〜!」
    「わかりました!わかりましたから!あ〜〜もう近い!!」
     
     茨はジュンの手を勢いよく振り払い、未だうるうると目を向けてくるジュンを押しやると、ハァとため息を吐きつつ座り直す。
     
    「それで、世話に必要なものなどの用意は?」
    「元々は外に連れて行ってもらう予定だったんで、今回は全部まとめてリュックに入れてあります!それをそのまま俺の部屋に置いとくんで、必要なものはそこから出してください」
    「なるほど。確か、桜河氏は早朝からロケでしたね」
    「そうなんですよ、だからサクラくんにも頼めなくて……。茨ならおひいさんも安心だろうし、ほんっと〜〜に!ありがとうございます、茨!!」
    「はいはい、もうわかりましたから。何度も言わなくていい!」
     
     ありがとう、ありがとうとまた身を乗り出してくるジュンを、茨もまたぐいぐいと押し返し、今度はそのままドアまで引っ張って行くと廊下へと放り出す。
      
    「自分、まだ仕事があるので!用が済んだならジュンも明日に備えて帰ってください」
    「う、お邪魔しちまってすんません。そうだ、これ」
     
     ジュンはじゃらとポケットから何かを出すと、そのうちの一つを茨の手にぐいと握らせる。
     
    「俺の部屋の鍵」
     
     テニスボールのキーホルダーが付いたそれが、茨の手に乗ったことを確認すると、ジュンはパッと手を離して残りをポケットへと戻した。
     
    「たし、かに受け取りました」
    「へへ、ホントありがとうございます。じゃ、あんま遅くまで仕事しないで、ちゃんと帰って寝てくださいよ〜!」
     
     余計なお世話だという茨の声は、心配事が解消され、軽やかな足取りで去って行くジュンの耳には聞こえておらず。
     キーホルダーの分少し嵩張るその鍵を、茨がぎゅっと握りしめた姿も、ジュンが見ることは最後までなかった。
     
     
     
     翌る日。ジュンは夜明けと共に日和を連れて寮を出た。
     朝早くからジュンの部屋へとメアリを連れて訪れ、愛を囁いては離れ難いねと嘆く日和を、宥め連れ出すという大変な仕事であった。
     さらに、仕事へと向かえば恐ろしいほどのスピードで着々と仕事をこなす日和である。必死に食らいついてお昼もとうに過ぎた今、ジュンはもうクタクタだった。ロケバスに揺られながら、次の目的地へと向かう少しの時間を休息に充てようと、思い切り座席を倒す。
     
    「あっ!ちょっとジュンくん!狭いね!!」
    「なんすかおひいさん。ちょ〜っと横の席に動いてくれればいいでしょ」
    「なんで僕がジュンくんのために動かないといけないんだね!それにここだと、ちょうどスマートフォンを置けるの!」
    「スマホ?」
     
     動いてくれそうもないな、と早々に諦めたジュンは、まずはリクライニングを元に戻し、自身が日和の横の席へと移動する。
     どうやらそれまでジュンが座っていた座席の背面には台が取り付けられており、日和はそこにスマホを置いていたようだった。
     
    「そういや、今日は休憩中も珍しくスマホばっか見てましたけど、何見てるんです?」
    「それはもちろん、メアリだね!」
    「メアリ?」
     
     台へと置き直された日和のスマホを横から覗き込むと、そこには見慣れた自室の一角が映っていた。中央にはお気に入りのボールのおもちゃで遊ぶメアリ。
     
    「な、なんですかこれ!」
    「え?今日の朝設置したペット用の見守りカメラだね!」
    「は?!いつの間にそんなもん置いたんすか!」
    「ジュンくんがお手洗いに行ってる間だけど?」
    「聞いてないんですけど!?」
     
     言ってないしね?と悪びれもなく画面をニコニコと眺める日和に、ジュンは呆気に取られる。
     
    「あんたねぇ……!そんな監視カメラみたいな、勝手につけないでくださいよぉ!」
    「こはくくんは留守中ならいいって言ってくれたよ?」
    「GODDAMN!俺は聞いてないんすよ!」
    「あ!メアリ、どこかに走って行っちゃったね!」
    「聞いてね〜〜〜〜」
     
     全くどうしようもない貴族様である。
     ジュンは頭を抱えるが、実際のところ留守中なら別にプライバシーの問題もなく、メアリの様子を見ることができるというのは便利に思える。サクラくんも許可してるみたいだし。
     
     あとで自分も見せてもらおうと座席にきちんと座り直したところで、隣に座る日和があ、とまた声を上げる。
     
    「喜んでいると思ったら、茨が帰ってきたんだね」
     
     そうだった!茨にお願いしてるんだった!!
     
    「アハハ、メアリったらもう茨にベッタリだね。ちょっと妬けちゃう」
    「あんた何を呑気に!茨にカメラのこと言ってます!?」
    「なんで?言う必要ある?」
    「あるわ!!!!!!」
    「わ、お口が悪いね。悪い日和!あっそれよりも見てジュンくん。茨、メアリのご飯を用意してくれていたみたいだね!」
     
     腕を引かれ思わず画面に目を向けると、茨がちょうど座り込んで、お座りするメアリの前に皿を置いたところであった。茨が手のひらを前に出していて、何か口にしながら手を引っ込めると、メアリは勢いよく皿へと顔をつける。画面の中の茨は満足そうに笑うと、がつがつとご飯を食べているメアリの背を撫でた。その顔つき、手つきはひどく優しげなものでジュンは息を呑む。
     
     当然だが、ジュンたちが見ていることなど知りもしない茨である。
     カメラに写っているのは正真正銘自室だが、今は茨とメアリのための空間で、それを自分は勝手に盗み見てしまっていて、そのうえ普段見ない表情を茨がしていて。
     なぜだか、どきりとして。
     
    「〜〜!いや、ダメです!これ、勝手に見ちゃダメだ!」
    「なぁにジュンくん、急に大声出さないで欲しいね!」
    「いやだって!これ、これはダメでしょう!」
    「な〜にがダメなんだね?それにしても、茨もメアリのお世話がすっかり板についていて安心したね!『待て』もしっかり出来ていて驚いちゃった♪」
     
     慌てるジュンのことなど気にも留めず、日和は満足気に笑うと耳元へと手をやる。
     
    「うんうん、僕はもう可愛いメアリをたくさん見られて満足したし、あとはジュンくんにあげるね!」
    「はい?!」
     
     そうして、勢いよくジュンの耳へとその手を伸ばした日和は、何かをぐいと押し込むと、台に置いていたスマートフォンもジュンへと放り投げる。
     危な気にキャッチしたスマホに触れた途端、ジュンの耳元から聞き馴染んだ声が聞こえる。
     
    「……えっ、もう食べ終わったんです?すごいなこの犬……。あ、いえ、メアリ。もうおかわりはありませんよ」
     
     茨の声だ。
     
    「ちょ、おひいさん、これ音声までーー」
     
     ジュンはそう話掛けようとしたが、日和は既にアイマスクを装着し寝息を立てていた。もうずっとだが、隣でジュンが動揺していることなど全く気に留めていない。
     
    「ワン!ワンワン!」
    「いくらねだっても、もうダメです!」
    「クゥ〜ン……」
     
     そうこうしている間も、耳元では茨とメアリの会話が続く。
     まさかリアルタイムで声まで聞けてしまうなど思いもしなかった。これでは本当に茨のプライベートを覗いているみたいでどうにも罪悪感が募る。
     しかし、先程と言いメアリと二人、己の部屋で過ごす茨は普段の様子と違い、穏やかな雰囲気を纏っていた。ジュンにとって見慣れないその姿に、興味を惹かれてしまうのもまた事実。
     
    「ちょ、ちょっとだけ……」
     
     別に悪いことはしていないし、と誰にともなく言い訳をし、さらにジュンは意味もないのに薄目で画面を覗いた。
     茨はもう皿は片付け終えたのか、テレビの前にあるソファに座ろうとしていた。テーブルにはノートパソコンが置いてあり、ジュンの部屋で仕事をしてくれていたようだった。
     そんな茨の姿をカメラは横から映している。メアリは茨の足元で、またボール遊びをしていた。
     暫しの間、機嫌良く遊ぶメアリと、時折目をやる茨という映像が流れていたが、ふとメアリがどこかへと歩いて行く。
     それはジュンのベッドがある方向だった。
     
    「……あれ、メアリ?どうしたんです?」
     
     茨は不思議そうな表情でメアリのあとを追った。仕事をしながらも、いちいちメアリを気にかけてくれていることがわかり無性に嬉しくなる。
     
    「メアリ、それは……」
     
     茨の声が画面外から聞こえると、ばふんと布の弾む音が聞こえた。
     そして次に映ったのは大きな毛布を引きずるメアリの姿。それはジュンが普段寝る時に使っているものであった。
     メアリは先程まで茨が座っていたソファに辿りつくと、ぴょんとそこへ飛び乗り茨の方を見やる。茨はなるほどと小さく呟くと、毛布を持ち上げてソファの上に乗せ、自身はラグへと座った。
     しかし、メアリはソファの上から茨の肩を器用に前足で押し始める。
     
    「?どうしました?」
    「ワンワン!」
     
     茨がメアリの方を見ると、今度はソファをたしたしと叩く。
     
    「ソファに座れ、ということでしょうか」
     
     そうしてメアリの横のスペースに茨が座ると、メアリは毛布を引きずりつつ満足気にその膝へと乗り上げた。
     どうやらメアリは寝床を欲していたらしい。茨は驚くそぶりを見せるも、仕方ないですねと言いながら、メアリを毛布ごと自らの膝へと引き上げ、その背をまた先ほどのような優しい手つきで撫で始める。
     
    「クゥ……」
    「ふふ、間抜けな顔ですねぇ」 
     
     クスクスと穏やかに笑う茨に対し、それを画面越しに眺めるジュンの心中は穏やかどころかもはやパニックだった。ドキドキするし、なんだか胸が痛い。
     茨って、そんな優しい顔で笑うんですか……?
     
    「寝ましたかね?」 
     
     そして、あいも変わらずジュンが盗み見ていることなど露ほども知らない茨である。膝の上の毛布に蹲り、寝息を立て始めたメアリをそっと撫でると、徐に余った部分の毛布をぐしゃりとかき混ぜる。
     
    「メアリは殿下と、……ジュンの愛娘ですもんね。やはり、ジュンの匂いは落ち着くのでしょうか」
     
     片手はメアリの背を撫でたまま、見知った濃紺の毛布をぐしゃりともう片方の手で遊ぶ茨を、ジュンは息を潜めて見つめる。
     茨がメアリを撫でる手を止めたかと思うと、ジッと毛布を見つめた。
     
     そして、メアリが寝ているのを覗き込んで確認すると、今度は両手で毛布をかき抱き、胸元に集めたそれに茨は軽く顔を埋めた。
     えっ、と思う暇もなく、少しだけ毛布から顔を上げた茨が口を開く。
     
    「まぁ……落ち着く匂いだとは、俺も思いますけど」
     
     ぼふん。
     
     そのまま、茨はまた毛布に顔を埋めてしまった。
     しかし、横からの画角だったから、ジュンにはよく見えてしまっていた。
     
     濃紺の毛布と対照的に、茨の耳が、ほんのりと赤く染まっているのが。
     
     
     2023.04.01
     ジュン茨ワンドロワンライ
     お題:『盗み見る』
     
     
     
     
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