こたつに入ってチョコレートケーキを食べながら暁人の七五三の写真を見ている。
「いや雑すぎるだろ」
「何が?」
「何がってわけじゃねえが……こう、雑だろ」
同じ言葉を繰り返すKKに暁人は首を傾けた。
こたつは高騰する電気代を少しでも節約するために安く入手したもので一人暮らしで暁人くらいしか来訪しないというかさせないKKの家にはちょうど良いサイズだ。
こたつ布団も安価なものですませているが、暁人が肌触りと洗濯できることを重視したので入ってみるとこれがなかなかいい。こたつ初体験だった暁人は時々コタツムリ(KKの命名だ)になって寝かけてKKにベッドにつれていかれるほど愛用している。
一度ここで事に及んだ時は暑さで死にかけたが。以降はKKが必ず電源を切るので逆にそれが合図になってしまった。
「こたつは日本の冬に必須だって言ってたのはKKだろ」
「まあそうなんだけどよ」
煮え切らない様子で口に運ぶチョコレートケーキはKKの誕生日の市販のものとは違う、暁人特製のブランデーケーキだ。
みんながKKを祝いたくてパーティーをしたのにケーキなんてガキの食うものだと憎まれ口をきくから(皆もう照れ隠しだとわかっている)大人向けのケーキたくさんあると絵梨佳が反論し、凛子がお酒のケーキの話をしたので試しに作ってみたのだ。
自炊はそれなりにできる暁人だが菓子作りはほぼ未経験で、しかし菓子こそレシピ通りピッタリに作るものだということは知っていたので案外簡単にできた。
特にKKは甘い生クリームよりビターなチョコレートのほうが好きで、そちらのほうが作りやすいらしいのも幸いした。
麻里はブランデーの代わりに生クリームを入れたKK曰く見ただけで胸焼けするケーキを持参して女子会だ。
つまり暁人は今夜KKの家に泊まりである。
「ケーキ気に入らなかった?」
「いや旨いぞこの酒びしゃびしゃケーキ」
「おじさんってカタカナを頑なに覚えようとしないよね」
完成後に更に浸しているのは事実だがあまりにもデリカシーがなさすぎると暁人はため息を吐いた。
そして目の前にあるのは暁人の七五三の五歳の写真だ。
父方の実家にあったもので、暁人は九月生まれなので五歳になってから撮ったらしい。もちろん記憶にはない。
「猫又が欲しがるものってよくわかんないな」
あの夜も令和の書やら招き猫やら集めさせられた。
この写真も現物は渡せないのでコピーしたが満足したようだった。
「別にオマエの写真じゃなくてもいいだろ」
「KKの写真はないんだろ」
猫又は『着物の男の子』を指定したので麻里と絵梨佳は除外である。エドとデイルが七五三をやっているはずもなく。
必然的に暁人が先方に頼んで送ってもらったのだった。
「収集するだけで悪用はしないって約束だし、さすがに今の僕と見た目が違いすぎてるから身代わりにもできないって言ってただろ」
「オマエはデリカシーがないな」
「酒びしゃびしゃケーキのKKにだけは言われたくない」
「だいたい面影あるだろ……目元とか、笑い方とか」
「親戚のおじさんみたい」
うるせえなと管を巻くKKが何を不満に思っているかわからないでもないが、かといってどうしたものか。
「僕の写真が欲しいならあげるし、撮ってもいいけど」
「別にいらねえよ」
こうである。わかってたけどねと内心嘆息してこたつの中央にあるクリスマスローズに目をやる。
KKの誕生花であるそれはあくまで暁人が自己満足で買ってきたものだけれど、押し入れから引っ張り出した古ぼけた花瓶にきちんと飾られている。花の名前は忘れられてしまったがケーキと同じで気にいってくれていることは伝わっている。それで十分だ。
暁人は最後の一口をすくいあげ、滴りそうなブランデーを軽く吸ってから口に入れる。つい先に舌が出てしまってはしたなかったかなと暁人は頬を赤らめた。
「ああ、でも」
とKKも最後の一口を飲み込んでコーヒーに手を伸ばす。
きっとろくなことを言わないな、という予感が暁人にはあった。
「ハメ撮りはしてもいいな」
「……何を嵌めるの?」
顔ハメパネル?と尋ねる暁人にKKははあ!?と信じられないものを見るような目で暁人を見る。しかし本当に知らないのだから仕方がない。
KKはオマエ、そりゃあアレだと黒くて苦い液体をすすった。
「千歳飴みてえな……いやもっと太いが」
「七五三にそんな儀式あった?」
「……それじゃあお暁人くん二十代の写真を撮ってみるか」
KKがこたつのスイッチに手を伸ばしたのでようやく暁人は勘づいたがもはや手遅れだった。