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    60_chu

    @60_chu

    雑食で雑多の節操なし。

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    60_chu

    DOODLE過去作

    Pと諸星きらりちゃん

    THEムッシュビ♂トさん(@monsiurbeat_2)の「大人しゅがきらりあむ」に寄稿させていただいた一篇の再録です。佐藤心、諸星きらり、夢見りあむの三人のイメージソングのEPと三篇の小説が収録された一枚+一冊です。私は諸星きらりちゃんの小説を担当しました。配信に合わせた再録となっております。
    ハロウィンのハピハピなきらりちゃんとPのお話になっております!よろし
    ゴーストはかく語りき シーツを被った小さな幽霊たちがオレンジと紫に染められた部屋を駆け回っている。きゃっきゃっとさんざめく声がそこにいるみんなの頬をほころばせた。目線の下から聞こえる楽しくてたまらないという笑い声をBGMに幽霊よりは大きな女の子たちは、モールやお菓子を手にパーティーの準備を続けているみたい。
     こら、危ないよ。まだ準備終わってないよ。
     そんな風に口々に注意する台詞もどこか甘やかで、叱ると言うよりは鬼ごっこに熱中し過ぎないように呼びかけているって感じ。
     あ、申し遅れました。私、おばけです。シーツではなくてハロウィンの。私にとっては今日はお盆のようなものなので、こうして「この世」に帰ってきて楽しんでいる人を眺めているんです。ここには素敵な女の子がたくさんいてとても素晴らしいですね。
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    60_chu

    DOODLE過去作

    カヅヒロ
    シンデレラは12センチのナイキを履いて まるで二人にだけピストルの音が聞こえたみたいに、まるきり同じタイミングでカヅキとヒロは青信号が点滅し始めたスクランブル交差点に向かって走っていった。二人はガードレールを飛び越えてあっという間に人ごみに消えていく。さっき撮り終わった映像のラッシュを見ていた僕は一瞬何が起こったかわからなくてたじろいだ。
    「速水くん達どうしちゃったのかな?」
     僕の隣で一緒にラッシュを確かめていた監督もさっぱりだという風に頭を振って尋ねてくる。
    「シンデレラに靴を返しに行ったんですよ。ほら」
    はじめは何がなんだかわからなかったけれど、僕はすぐに二人が何をしに行ったのか理解した。
     赤信号に変わった後の大通りにはさっきまであった人ごみが嘘のように誰もおらず、車だけがひっきりなしに行き交っている。車の向こう側から切れ切れに見える二人はベビーカーと若い夫婦を囲んで楽しそうに話していた。ぺこぺこと頭を下げて恐縮しきっている夫婦を宥めるようにヒロが手を振った。その右手には赤いスニーカーが握られている。手のひらにすっぽりと収まるぐらい小さなサイズだ。カヅキがヒロの背を軽く押す。ヒロは照れたように微笑んで肩をすくめるとベビーカーの前に跪いた。赤ちゃんは落とした靴にぴったりの小さな足をばたつかせる。ヒロはその左足をうやうやしく包んで爪先からスニーカーを履かせていく。
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    DOODLE過去作

    カケタイ 
    Dom/Sub
    誰かはそれを愛と呼ぶけれど 盲導犬と同じ要領なのか。なるほどそれは合理的だな。天井からぶら下がるスクリーンに映し出された教育ビデオ――実際にはDVDだ――は、なぜダイナミクスにおいて指示に使われる言語が英語なのかを説明していた。それを聞いてそう思った。
     曰く、日本には方言間の発音や男女間の言葉づかいの差異が大きいのでいっそ英語で統一した方が混乱が少ないから。
     曰く、ダイナミクスという概念が西洋から伝播したものだから。
     曰く、普段使用しない言語であった方が都合がいいから。
     前二つは盲導犬に英語で指示する理由と同じだ。最後だけが人間の人間による人間のためだけの理由になる。ビデオでは何にとって「都合がいい」のか言及はされなかったけれど視聴覚室に詰め込まれた者たちのおそらくほとんどがどういう意味であるかは理解していた。すり鉢を縦に半分に切ったようなその部屋は若草色のブレザーで埋まっている。俺は後ろの方でそのようなことを考えながらなんとなく眼下の同級生たちを見渡した。普段の教育ビデオと違って性の匂いを醸し出す今日のプログラムでは舟を漕ぐ輩はいない。ビデオは最後にダイナミクスとは暴力で繋がった支配-被支配関係ではなく、健全な心で繋がる対等な人間関係なのだと説いて終わった。安っぽいBGMとともに文科省のロゴマークがアップになったかと思うと教師がリモコンをむけてスクリーンは闇に閉ざされた。
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    60_chu

    DONEブラッドリーが産まれて育つ話ですがほとんどモブが話してる架空の話なので架空の話が大丈夫な人は読んでください。
    ベイン夫人が言うことには 幌越しに風の音を聞きながら今夜も降り続ける雪のことを思った。馬橇は止まることなく故郷から遠ざかる為に走っていく。どこまでも白い景色の中で私たちは揺られ続けていた。自分でどれだけ息を吹きかけても指先は暖かくならない。私たちは互いに手を擦り合ってここより暖かいであろう目的地のことを話した。誰かが歌おうと声をあげた時、体が浮き上がる感覚がして私たちは宙に放り出された。浮いている時間は一瞬だったはずだけれど空にある大きな白い月が触れそうなほどはっきり見えた。天使みたいに私たちは空を飛んで、そして呻き声をあげたのは私だけだった。
     轟音と断末魔が落下していく。馬橇がクレバスを越えられなかったのだろう。獣みたいな唸り声が自分から出たことが信じられなかった。痛みのせいで流れた涙が、すぐに凍って瞼を閉ざしてしまう。体は動かない。肌の上で融ける雪を感じながら私は自分たちの村を守護してくれていた魔法使いに祈った。それしか祈る相手を知らなかった。私は私を馬橇に乗せた人を憎もうとしてでもできなくてまた泣いた。
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    60_chu

    DONE11/23の賢マナで出す予定のものです。前にアップした「The day before dispersal」を含めて一冊にして出します。前回のブラッドリー視点に続き、ネロ、石になった魔法使い達、賢者の視点から語っていく話です。加筆修正はたぶんめっちゃする。あと、架空の植物が出てくるので前回の話を読んでからの方がわかりやすいかも。
    The day before dispersal 2 オーロラ色の小さな欠片は飲みこむ前に口の中でひとりでに融けていった。ブラッドが撃ち落としたもう一人のマナ石はおそらく吹雪に埋もれてしまった。短い春が来るまで雪の下で眠ることになるだろう。それか誰かに掘り起こされて食われるかだ。
     ブラッドが、とどめを刺した魔法使いの荷物を確認している間に俺は白樺の樹でテントを作ることにした。ここまで吹雪が激しいなら帰ることは難しい。追跡するうちに風に流された影響もあってか位置も掴みづらい。
    「《アドノディス・オムニス》」
     幹が太くて頑丈そうな一本の白樺に狙いを定めて呪文を唱える。落ちたのが白樺の林でよかった。白樺は一晩中、魔法で雪を掃うわけにもいかないような夜に雪から身を守るためのテントになってくれる。選んだ樹の周囲に生えていた樹々が、めりめりと轟音を立ててしなりながら円錐形になるように中心の樹に絡みついていく。吹雪がやまない夜は時折この音がどこかから聞こえてくる。北の国の魔法使いは葉の代わりに雪を茂らせた白樺の中に籠ってどこにも行けない夜を遣り過ごす。
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