「……、ぐ、っ」
口元を抑えた手に吐き出されたものは、およそ通常では考えられないものだった。
「……はなびら……?」
手のひらいっぱいにこぼれ落ちたのは、深紅に染まった薔薇の花びらだった。
* * * * *
「え……花吐き病? ヴィクが?」
報告するなり素っ頓狂な声を上げるノヴァに、ヴィクターは複雑な心境でじとりと睨む。
先日、薔薇の花びらを吐いた。
正式名称『嘔吐中枢花被性疾患』――通称『花吐き病』。そういう奇病があることは知っていたが、ヴィクターだってその病と自分は縁がないものだと思っていた。
花吐き病に罹患するのは、誰かに恋をしている者、かつ、他の罹患者の花に触れたことがある者のみだと、奇病の類に興味を持ったときに一度読んだ文献には記してあったからだ。
3551