約束事「かんでください」
「……あのねえ」
今日で一体何度目になるのか、男は自分を見上げてくる子どもの申し出に困ったように頭を掻く。
「ヴィクター、そういうのはあまり元気よく言うものではないよ」
「元気に言ったつもりはありませんが……では、どのように言えばいいのですか?」
首をかしげそのまま考え出す子ども……ヴィクターに、オズワルドはやれやれと彼に気づかれないように小さく溜息をついた。
彼がいたって真剣なことは分かってはいるのだが、いかんせん言葉の意味を捉える方向性がズレているのだ。
「人前で言うものではないってことなんだが……」
「では、次からひとけがないところをねらいます」
「狙わないで欲しいな」
この子はΩだ。研究部に所属するにあたって行った身体検査で判明したその結果は、覆るはずもない。学校の簡易検査とは訳が違う。最高峰、最先端の技術力を誇る研究部が行う検査において、残念ながらこの結果が間違いである可能性は限りなくゼロに近い。
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