3度目の夜は 1度目は、何も考えることができなかった。知的犯罪の申し子と呼ばれたこの頭も、仮面の詐欺師と言われた顔も、わたしの持ちうる武器はことごとく鈍らと化し、ただただ目の前の、情けなくて逞しくて、何も持っていなくて全てを持っている男が、私に愛を囁き伝える声と行為だけに身も心もずくずくに熔かされてしまった。この世の幸せと愛おしさを煮詰めた夜に、このまま混ざり合って一つになってしまうのではないかと、ああ、一つに溶けては手を繋ぐことも、あなたの心音を聞くこともままならない、と少しだけの恐怖。けれど、あなたが手を取り抱き寄せれば、指と指は絡まって繋がり、心音はべつべつの音を重ねていた。あなたと私、べつべつ身体と心がある。だから手を重ね、身体を重ね、心が重なるのだと、安心して目を閉じた。
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