Recent Search

    palco_WT

    @tsunapal

    ぱるこさんだよー
    Pixiv https://www.pixiv.net/users/3373730/novels
    お題箱 https://odaibako.net/u/palco87

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 🎵 🍆 🍇 💘
    POIPOI 76

    palco_WT

    MEMO水王ちゃん♀一泊二日フェリーの旅ドラの音は出航の合図ではなく、出航時間が近づいたので船客と乗組員以外は船から降りろという意味だと聞く。聞きなれないその音が響いた数分後、控えめで上品な案内の声が改めて港から経つことを知らせた。
     奮発しただけあって、自分の古びたアパートなどよりも遥かにたっぷりとした広さと居心地の良さで出迎えてくれたスイートルームの客室の設備を確認していた水上は、手首の時計をちらと確認した。予定時間より三分遅れだ。
    「出航だって、みずかみんぐ」
     アナウンスを耳にした王子はぱっと顔を輝かせ、良人たる水上の袖をじゃれる仔猫がひっかくようにくいくいと引いた。
    「どうせなら港を離れるところを外で観ようよ」
    「外がええなら、そこからプライベートバルコニーに出れるで? スイートの特典やで」
    「もう、きみってばそういうんじゃなくてさ! いいからほら、さっさとカードキー持って」
     水上が扉の内側に挿したカードキーを手に取るのを確かめてから王子は、問答無用とばかりにその腕に自らの腕を絡めると、引きずるように船室を出て行った。はしゃぐ王子にこれだけは、と水上は手荷物の中からマフラーを何とか掴んで、その首と頭をぐるぐると巻 1390

    palco_WT

    MAIKING婚姻届けやから大事なひとに一筆もらう小話で、どないなっとん?と大学のラウンジで久々に顔を合わせた隊長に、茶のみ話のように振られ、ぼちぼちでんな、と水上はお約束のフレーズをとりあえず返した。
    「本籍地が大阪《むこう》なんですわ。なんで戸籍謄本を取り寄せ中です。ふたりだけのことなのに、色々とめんどくさいっていうんが正直なところですわ」
    「おまえと王子やったら籍なんてどうせもええと言い出しそうやけどな」
    「同じことをおーじにも言われましたわ。形だけのことならどうでもかまへんですけど、不便なこともようありますからそのあたりは。……どうせだから、ついでに本籍もこっちにしたろ思いまして」
    「ほうほう。とうとう自分もこっちに骨ぇ埋める気になったか」
     そうかそうかとしみじみと、そして嬉しそうに頷く生駒にほろりと笑みをこぼしながら、
    「で、ここで会えたが百年目、というわけちゃいますが、実は今日待ち合わせしてまでイコさんにお願いしたいのが、これなんですわ」
    と水上がさしだしたのは婚姻届けだった。
    「何、おまえ、俺と籍入れたいん?」
    「あんたならそういうボケはさむと思いましたよ。証人、お願いしてええですか」
    「俺でええの?」と彼は自分を指さして 950

    palco_WT

    MAIKING今宵星がきみに降りるから

    高三弓場ちゃ、神田や蔵内、王子たちが二年のまだ旧弓場隊の頃のクリスマス前後。
    弓場が大学進学が内定したあたりで王子は独立する予定。六頴館だからもう決まってるのかな……
    六頴館高校から本部へと、部下の神田と蔵内を共に向かう道の途中、弓場がふと足を止めたのは青果店の前だった。
    「神田、蔵内、おまえら、リンゴ好きか?」
    「……? 好きですよ」
    「ええ。王子がたまに淹れてくれるアップルティーを楽しみにするくらいには」
    「そうか。なら、キャラメリゼして……」
     何事か小さくつぶやいた弓場は少し考えてから、一見梨にも見えそうな薄い黄色の皮の林檎を幾つか買い求めた。
    「煮るんなら紅玉みてェな酸いリンゴのほうが味が際立つんだが、甘みが強いならキャラメルソースにも負けねェだろ」
     星の金貨、と書かれた林檎を掌に納めて、弓場は透明なレンズの奥の天鵞絨《ベルベット》のようなしっとりした夜の色でありながら品の良い光沢を備えた瞳を細めた。
    「星の金貨……? っていうと昔のドラマの?」
    「関係ねェよ。見た目が金貨みたいな淡い色だからそう名付けたって話だ。品種名はあおり15だったかな」
    「弓場さん、農学部にでも行くんですか」
    「ねえだろ、三大《サンダイ》には」
     何言ってんだと弓場は笑いかけた蔵内にひとつ手渡し、もうひとつには軽くキスをしてから、神田へと放り投げた。お手玉をするよ 720

    palco_WT

    DONEそれがあなたの願いなら

    遠征といずみんと太刀川隊とさとけんと。
    それが、先輩の心からの望みなら、佐鳥は喜んで銃口を向けられますよ?


    「柚宇さん、サバイバルホラー系のアクションゲームでなんかいいのある?」
    「いっぱいあるよ~。ラスアスとかデッドスペースとかサイレントヒルとか。TPS寄りのほう?」
    「そうだね。……人の形をしたものを無茶苦茶撃ち殺したい」
    「うんうん、そうかそうか。分かった」
    「軽蔑する?」
    「なんでぇ?」
     甘ったるく舌足らずに答えて、国近はにょ、と首を傾げる。
    「ありがと」
    「なんでお礼言われるのか分からないけどどういたしまして~。え~と、バイオでいい? やってないやつがいいよねえ」
    「ナンバリングないやつは殆ど触ってないです」
    「そっか、だったらリベレーションズがいいかな。クリスとジルが出てくるの。4と5の間だったっけな。最初はプレステじゃなくて3DSでリリースされてたからやってない人多いんだよね」
     switchに移植されたけど、と言いながら、国近は棚からPS4本体とソフトを取り出す。何でもあるな、と感心しながら、それを受け取ってケーブルをモニターに接続する。
    「操作方法は分かる?」
    「触ってるうちに覚えられる、かな。チュー 2361

    palco_WT

    DONETricks 199話の弓場隊+王子蔵内の中華ご飯のその後の小話。弓場王の過去がある水王。
    https://twitter.com/palco87/status/1338726343077326848
    「みずかみんぐ、お土産持ってきたよ~、蘿蔔糕と春巻」
    「おう、すまんな。ちょうど腹減っとったところや」
     ご機嫌な様子でドアを開いた王子に、水上は米朝の二階借りの落語のDVDを止めて玄関へと顔を巡らす。
     軽やかな足取りで、王子は美味しい匂いのするドギーバッグを彼が座っている前へと置いた。おおきに、と戻ってきた恋人に水上は軽くキスをする。
     こんなやりとりもいつの間にか日常になってしまっているのだから、人は慣れる生き物だというのが水上の正直な感慨ではある。
    「で、どやった、神田の追い出し会」
    「美味しかったよ~」
    「どんな感想や。せめて、追い出し会じゃなくて打ち上げとか慰労会ってツッコミ返せーや」
     ボケた甲斐がないではないか。明敏な王子ならすぐに打ち返してくると期待しているのだし。
    「だって弓場隊を抜いたぼくが、中位落ちになっちゃったランク戦打ち上げに顔を出しましたっていうのもね。ちょっと無神経っていうか」
    「自分、そういうところは気ぃ使いやのう」
    「尊敬する先輩と古巣には配慮するさ、さしものぼくだって」
    「ほうほう」
     頬に触れる掌に、王子は撫でられた猫みたいな顔で水上を見やる。だ 1264

    palco_WT

    MAIKINGフィルター みんぐと王子と。
    新書メーカーでTwitterにあげたやつ。https://twitter.com/palco87/status/1337402360893587456
    災害や内乱などで壊れ、復興しかけた場所を、ずっと撮って回っているのだと彼は言った。それこそ世界各地を。
     もし行けるなら、近界だっけ、向こうの世界もフィルムに収めてみたいな、と子どもみたいな笑顔で男は笑った。
     壊れかけ、修復のまだただなかにある風景で、そこで生きていく人たちの姿を、一枚の銀塩に写し取る。三門市までやってきた男が、そのモデルに選んだうちのひとりは、意外なことに水上だった。


     風が吹き、春の予感をはらんだほのかな温もりをともなった風が、ばさばさと屋上に佇み、警戒区域を見下ろす水上のバッグワームをはためかせる。本来、トリオンではない物理法則の影響を受けないバッグワームが風に揺れるのは、それが換装体ではなく、生身に隊服をまとい、更にバッグワームを模したマントを羽織っているからだった。
    「なんで、彼なんですか」
    「色気かな」
    「色気?」
    「そう。一秒後には自分を害してしまいそうな危うさって言ったらいいのかな。不意に気まぐれで、線路やビルの屋上から飛び降りてしまいそうな」
    「確かに、ぼくたちの防衛任務《しごと》はとてもじゃないが安全というものではありませんが、彼はそこまで捨て 931

    palco_WT

    DONE幸福の条件

    https://twitter.com/palco87/status/1336247005849350144 で蔵っちが一番だったのでつい書いた~
    たまには三人で食事をしないかと、蔵内が王子と水上に打診されたのは一週間ほど前のことだった。
     同隊である王子はともかく、生駒隊の水上とは防衛任務等の兼ね合いもあったが、たまたま週末にスケジュールが空いていたのでその日に王子が予約したというレストランで落ち合った。
     そもそも、王子と水上がわざわざ顔を揃えて尋ねたあたりで、これは何かあるなと察しはしたが、デザートまでたどりついたあたりで「ぼくたち籍を入れようと思うんだ」と言われて、少しばかりは驚くのではないかと思ったけれど、予想していたよりすとんと蔵内の中では腑に落ちた、というのが正直なところだった。というか、むしろ王子みたいな人間がそういう世間のシステムの迎合しようとしていることのほうが、少々意外な気持ちではあった。
    「……おめでとう。幸せになれよ、っていうのは陳腐かな。おまえたちなら誰に言われなくても自力でどうにかするだろうから」
    「そうだね! さすがはクラウチだ、ぼくらをよく分かってる」
     おおきに、と告げる水上の口調がぶっきらぼうなのは照れ隠しだ。対照的に王子は背中に大輪の薔薇とヒマワリとカスミソウを背負っているような爛漫とした笑 1098

    palco_WT

    MAIKINGこの世の涯【https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=14056310】の続き書いてます。ラストシーンだけど、もっともっと煮詰めて書いたら変わるかも。「……嘘つきブロッコリー」
     しぼりだすような王子の声に、隣でコンソールに指を走らせている寺島は彼に悟られない程度に顔をしかめた。
    「最後まで嘘つきだったよ、きみは」
     眼球の裏のほうがかっと熱くなる。あふれ出しそうな涙を、しかし王子の理性は懸命に押しとどめる。
     泣いて、視界を濁らせなどするものか。
     この網膜に、記憶に、彼の晴れ姿を少しでも多く焼きつけて、伝えなければ。
     これから先、もしかしたら長く近界で暮らし、そこで子をなし、育てることになるかもしれないぼくらがしなくはいけないことのひとつだ。
     彼以外、誰をもう愛せるものかと思うけれど。記憶と命を、希望はつないでいかなければ。
     かつて、旧ボーダーが、迅さんや小南ちゃんたちに託したように。
    「……水上先輩のメテオラ、だ」
     喘ぐように元茶野隊の藤沢が呟く。
     次の瞬間、まるで命の輝きのように、眩い光が目を焼く。
     遠征艇という名の箱舟の出立を寿ぐ花火のように。
    「……戻ってくる」
     届きはしないのは分かっていた。それでも王子は叫ばずにはいられなかった。
    「絶対に無事にたどり着いて、戦力を整えて、ぼくたちは戻ってくるから!」
    938

    palco_WT

    MAIKINGよるのひみつ

    みんぐと王子。恋人のようでいて恋人と言い切れもできず、な関係に刺さってるトゲ。
    「ふう……」
     シーツに手をついてゆっくりと身を起こした彼の唇から、熱をたたえた、艶っぽい吐息がこぼれた。
     王子が交情に浮いた汗を拭う為に後ろ髪をかきあげると、ちらりと襟足のあたりに走る古傷が見える。そこに気づいたのは、肌を合わせるようになってから何回目だったろうか。いや、もしかしたらボーダーのシャワー室で見たとか、クラス合同の体育の授業の最中とかだったのかもしれない。
    「王子、その傷、なんでか聞いてええか」
     ついにたまりかねて、というほどではないけれど、その首筋の少年らしいしなやかさと上気した色に誘われるように問うてしまった水上に、あは、と彼は花びらのような唇に蜜のような甘い笑みを含んだ。
    「どうして聞いていけないと思ってたんだい?」
    「そりゃ事情《わけ》ありなんやろなと」
     触れることで、心にある傷をかきむしることになるのではないかと。
    「そこまで無神経と思われとったか」
    「思ってないよ」と王子は水上の赤毛をくしゃくしゃとかきまぜた。
    「ただ、ごめんね、君はぼくにそこまで関心を持ってないと思ってたから」
    「……セックスまでしとる相手に無関心て、俺、そこまでひとでなしだと思われと 1088

    palco_WT

    DONEいっそ恋なら

    弓場×嵐山。原作時間軸より一年~二年くらい前。
    Twitterに新書メーカーで流したやつ。https://twitter.com/palco87/status/1321870729906774016
    知り合った高校の頃から、アポなしで遊びに来る時は、必ずメールなりメッセージアプリなり電話なりで連絡してくる男だった。
     嵐山准という人間は。
     だが今にして思えば、広報部隊という任を背負ったあたりのことだったろう。突然、独り暮らしの弓場の部屋を「少し、いいかな」と訪れて、途中のコンビニやファストフードで買ってきたらしいジャンクフードを手土産にして、その癖自分は全然それに手をつけず、弓場が淹れてくれた紅茶を黙って啜って、空になったら「また」と出ていく。そんなことが何度かあった。
     そして何度目かに気づいた。「突然悪いな」といつものボーダーの顔で見せているものよりもどこか影の薄い笑顔を浮かべて、玄関口に立つ嵐山の、僅かに濡れた襟足や彼が絶対まとわないコロンか、トワレか、とにかく高校生の男子には相応しくない香りに。
    「悪かねェーから、いい加減きっちり事情《ハナシ》聞かせろ。……迅や柿崎《ザキ》も呼ぶか、おい」
     それはよしてくれるかな、とそれでも笑顔を崩さないのは、いっそ立派と言えただろう。
     弓場が嵐山から引き出した「事情」はだいたい想像の通りだった。それだけ、陳腐な話ではあった。あくまで 2907

    palco_WT

    DONE倫《つい》ならず

    弓王の続き。かんゆば・かんとのベースの弓場←外岡。
    すまねェ、遅くなったァ!と弓場が作戦室の扉を勢いよく開くと、案の定、中には隊員三名がすべて防衛巡回任務を控えて待機していた。
     だが、弓場の姿を見て、温かい飲み物が入ってるのか両手で紙コップを包み込んでいた帯島が隊長を迎えるようにすかさず立ち上がる。
    「遅くなんてないッス。いつも通りの三十分前っス」
    「……そうか」と弓場は壁の時計を見やってから、手首の時計を確かめる。十分以上遅れている時計の針はじっと見ていると、時折痙攣するようにその動きを弛ませていた。
     そう言えばここ二日ほど構ってやっていなかったことに気づいて、弓場は針の位置を進めてからリューズを巻いた。
    「今時手巻きか。ソーラー電波にしとけ、ソーラー電波に。壊れねぇ限り生涯駆動するだろーが」
    「貰いものなんだ、あれこれ注文つけるわけにもいかねェんだ、仕方ねェーだろ」
     へえ、とののがそんな弓場の手首を覗き込む。
    「……もしかして高くないか、これ」
    「タグ・ホイヤーとか言ってたが」
    「高ぇやつ!」
     時計に触れるのもおこがましいと言いたげに、後ろに飛びのいたののに、帯島が「高いんスか?」と目をしぱしぱさせながら尋ねる。
    「親父が一 2367

    palco_WT

    DOODLE合コンの頭数合わせに呼ばれてうっかりした弓場ちゃんが神田に回収されるの巻。
    (https://twitter.com/palco87/status/1331039561263181824)
    合鍵を貰っておいて良かった、と居酒屋から何とかか彼の部屋まで連れて帰ってきた弓場をベッドに横たえて、水やタオル、万が一嘔吐した時のことを考えてバケツと新聞紙をその傍らに用意する。
    「すまねェ」
     一度も聞いたことのない弱々しい弓場の声に、神田は眉をひそめながらもベッドの近くに引き寄せた椅子に腰かける。
    「大丈夫ですか?」
    「こんなことなら手ェすべったフリでもしてグラスを倒すほうが利巧だったかもしんねェな」
    「?」
     意味が分からずきょとんとした顔の神田に、店に迷惑かけるしなァと、弓場は言い足し、
    「俺の隣に座ってた女が化粧直しに立った隙に、反対側に座ってた奴が一服盛った気配があってな」
    「は!?」
     話には聞いたことはあるがそれは犯罪では???と神田はまなこが落ちそうなくらいに目を剥いた。
    「胸倉掴んで鼻骨のひとつもへし折ってやっても良かったんだが、幹事の知り合いの諏訪さんたちの顔ォ潰すわけにも行かねェーからな。間違ったフリして俺が呑んじまえばいいやと思って、一気に空けちまったんだが、睡眠導入剤ってやつだっけ? 結構効くもんだな。未成年だってェーのは言ってあったから酒呑むわけにはいかね 966

    palco_WT

    MAIKING折本にするつもりだったけど流し込んだらはみ出て笑うしかなかった……加減……分量の加減……狭い遠征艇での窮屈な環境と、門による跳躍が影響する三半規管だかトリオン臓器に由来する何かの器官に由来するもののせいなのかは分からないが、いわゆる空間識失調《バーディゴ》っていうのはこんなものなのかもしれない。
     シャバの空気を吸って半日以上経つのに、まだ本復しない体にハッパをかけながら、休暇明けには提出しないといけない仕事に手をつけては、もう無理と倒れ、いややらないといけないと起き上がり、しかし少し経ってはちょっと休むを繰り返していた冬島の携帯端末が着信に震えたのは、そろそろ空腹を胃袋が訴えかけた夕暮れ時だった。
    「おう、何だ、勇」
    「隊長、今からそっち行くけど、なんか買ってくもんあっか? どうせ、遠征から戻ってからぶっ倒れたままだろ」
     ありがてえ、とローテーブルを前に床にひっくり返って天井を見上げたまま、冬島は携帯端末に向かって矢継ぎ早に告げる。
    「弁当なんでも、あと甘い菓子パン何個か。ドーナツでもいい。それとチョコレート味の何か」
    「何かって何だよ。ケットーチ上がるぞ。カップ麺は?」
    「ハコでストックしてあるから大丈夫」
    「その分だと缶ビールもいらねえな。煙草《モク》は?」
    「そ 3454

    palco_WT

    DONELA ROSE ROUGE

    みんぐと王子のこれもひとつの未来
    ぱたり、と彼は手にしていた雑誌を閉じて顔を上げた。その表紙には「アマ竜王、プロ編入試験へ」という見出しと、将棋盤の前に座して今まさに駒を指そうとしているスーツ姿の赤っぽい髪の男の姿があった。その表紙を愛おしむように指先で撫で、玄関の呼び出し音に誘われるように腰をあげた。
    「おーじ、俺や、開けてぇな」
     けれど、その足取りはどうしてか、まるで怯えるようにゆっくりで、足音ひとつ大きく立ててしまったのなら、その瞬間に世界すべて壊れてしまうのではないかと思っているかのような。
    「……暗証番号、替えてないよ」
     インターホンへと向けた、震えているかと思った声帯は、存外なめらかに発声できた。
     それは、彼の誕生日だった。20××1205。変えられるわけがない。心と同じく。
     キイ、とドアが開く。
     ああ、と王子は自らの感情のありかも見定められないまま、ただため息のように呟くと、眩しいものを目の当たりにするように目を細めた。こちらに向かって手を差し出した男を見つめて。
    「王子、迎えに来たで」
    「なんで、来たの?」
    「なんでも何も、今言うたやろ、迎えに来たって。それとも結果出るまで待てせてもうた間にこ 1732

    palco_WT

    MAIKINGおサノちゃんと諏訪隊ニキ。

    おサノちゃんが読モやってた雑誌はストニューをモデルにしてます。妻夫木くんとか押切もえちゃんとかいた頃の。ウィキには載ってないけどいしがきゆーま(平成ギャバン)もいたの覚えてる。
    「ほら、ココア呑むか」
    「どしたの珍しい。優しいじゃん」
    「俺は基本的に優しい男だぜ?」
    「うん、知ってる」
    「それに、特に、嫌なことがあったやつには」
     大きく広く、暖かい掌が、小佐野の髪を優しく撫でる。
    「分かっちゃうんだ~、諏訪さん」
    「分かるに決まってっだろ。俺はお前たちの隊長だぜ」


    「とは言ったものの、男の俺には話しづれぇこともあるだろ」
    「?」
    「悪いな、任せた」
    「微力ですが」
     諏訪と入れ替わりに入ってきたのは風間隊のオペレーターの三上だった。
     みかみか~、とおきゃんなおサノにしてはよろけた声で仇名を口にするのを、諏訪は背中だけで伺いながら、作戦室を出て行った。

     諏訪の見るところ、小佐野はここ数日、明らかに様子がおかしかった。それは堤や笹森も同じ見解だった。
     表面上はいつものマイペースでのんびりとして、屈託ない諏訪隊自慢のオペレーターだが、時たまぼーっとしてははっと我に返るとくしゃくしゃと歪めた顔を掌でぴしゃりと叩くように挟んでみたり、ふと気づけばクッションを抱きしめたままベイルアウト用ベッドに転がってじっとしていたり、スマホを眺めているようでいながら空いた 1599

    palco_WT

    DONEオール・ダージュplus5

    二十歳になった弓場ちゃんと王子と記憶の中の神田。
    タイトルに困ったあげく、ブランデーの十五年もの+5で二十年って意味にこじつけた。゚(゚´Д`゚)゚。
    ランク戦と遠征選抜試験の三月が過ぎ、四月を迎え五月を控える、世間ではゴールデンウィークと呼ばれる頃、弓場は二十歳になった。
     一日早く二十歳になった生駒を含めた同輩のみならず、気のいい隊員や、元隊員たちはせっかくだからパーティでもしませんかなどと可愛いことを言ってはくれたが、せっかくのランク戦オフシーズンで任務だけしか決まった予定の入ってない貴重な時期、どうせなのだから巧くスケジュールをやりくりして、授業のない期間にしか出来ないことをしろ、ときっぱり断ったのだった。
    「……って俺は言ったはずだぞ、王子ィ」
    「承知してます。だからこれはぼく個人の用向きです」
     築二十年という、奇しくも弓場と同い年のアパートの玄関の前に立っているのは、かつての部下であり、今では同じB級隊長として競い合う好敵手でもある若者だった。明るい色のトップスにサマーカーディガンを羽織り、タッセルのついたバブーシュという少女めいたコーディネイトが似合う彼は、ひょい、と手にしていた小さめの可愛らしい紙袋を顔の高さまで持ち上げてみせた。
    2645